Vol.35

従来型SIが抱える5つの弊害を、ウォーターフォールのままクリアした新興受託開発会社のプロジェクト進行

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品質管理・品質保証を重視したプロジェクト進行でSIビジネスの抱える課題克服に挑むマイクロネットワークテクノロジーズ

品質管理・品質保証を重視したプロジェクト進行でSIビジネスの抱える課題克服に挑むマイクロネットワークテクノロジーズ

従来型のSIビジネス、受託開発の手法は限界を迎えている――。そんな業界の未来を危惧する声が聞こえるようになって久しい。

この問題を正面から扱った『システムインテグレーション崩壊』の著者・斎藤昌義氏は、出版記念イベントで「ユーザー企業とSIerとの間には、ゴールの不一致に起因して相互不信を生む構造的不幸がある」と指摘した(参照記事)。

創業2年弱のシステム開発会社マイクロネットワークテクノロジーズ(以下、MNT)の代表取締役社長である藤方裕伸氏も、創業以前に主に企画職の立場から、多くの優秀なエンジニアがこの「構造的不幸」の被害者となり、「潰れていく」のを目にしてきたという。

しかし、それでもSIビジネスに背を向けず、あえて火中の栗を拾いにいくように受託開発会社を自ら立ち上げた。しかも、金融系など大手から受注する案件の多くは「むしろ古典的なウォーターフォール型」で進めているという。

にもかかわらず、「業界のスタンダードを変えることで、エンジニアにとって良い会社が作りたかった」と話す藤方氏の真意はどこにあるのか。MNTは「限界を迎えた」従来のSIビジネスとどこが違うのか。

その答えを探るカギは「フェーズに応じてPMが入れ替わるプロジェクト進行」。中でも肝になるのは、「品質保証・品質管理のスペシャリストの重用」だ。

属人化した従来型プロジェクト進行が抱える5つの弊害

通常の受託開発では、一度アサインするPMやPLが決まれば、そのプロジェクトが終了するまでチーム編成が大きく変わるケースはそうそうない。良く言えばプロジェクトを熟知したメンバーが一つの業務に専念できる体制といえるが、「属人化してしまうことのデメリットは多く、そして大きい」と藤方氏は言う。

藤方氏が問題視する属人化の弊害は、ざっと挙げただけでも次の5つがある。

弊害1:担当者が病欠などの理由で不在にしただけで、作業が止まってしまう
弊害2:プロジェクトに必要な人材はフェーズごとに異なるのに、最適化できない
弊害3:一つのプロジェクトにかかり切りになり、他案件を受注できる人材が不足する
弊害4:エンジニア個人にとってのその後のキャリアが限定されてしまう
弊害5:ユーザー企業は仕事ぶりに不満があっても、受託会社に依存せざるを得ない

MNTではフェーズに応じてPMを入れ替えるプロジェクト進行を採用している。「最適なチーム編成のためには現場エンジニアとの密なコミュニケーションが欠かせない」と中野氏
MNTではフェーズに応じてPMを入れ替えるプロジェクト進行を採用している。「最適なチーム編成のためには現場エンジニアとの密なコミュニケーションが欠かせない」と中野氏

そこでMNTでは、プロジェクトのフェーズごとにPMが交代し、チーム編成も逐次見直しながら開発を進めていく方式を採っている。

開発トップだけでなく、品質保証・品質管理、データ分析など、さまざまな分野の専門家が必要に応じてPMを務め、それぞれのスキルを発揮しながらチームを指揮する。

「どんなチーム編成、どの分野をどれくらい重視するかは、プロジェクトの規模、相手企業の顔ぶれなどから見て、総合的に判断します。必要な情報がなかなか出てこなそうな現場なら、積極的に情報を取りに行かなければなりませんし、お客さまと供給側の関係が3社間になっていてコミュニケーションが複雑になりそうなら、それをうまくまとめられる人材を送り込む、といった感じです」(開発トップの中野智裕氏)

チーム編成はプロジェクトがスタートした後も、週2回の全社的なミーティングの場で情報を共有し、逐次見直していく。

このミーティングでは単なる進ちょくだけでなく、エンジニア個人の状況を、時にはプライベートも含めて共有する。MNTが、エンジニア個人の働きやすさがプロジェクトをうまく運ぶ上で非常に重要と考えていることの表れといえる。

「管理・営業部門のスタッフが頻繁に現場へ足を運び、食事中の雑談などを通じて、エンジニアとのコミュニケーションを普段から行うようにしています」(中野氏)

品質保証・品質管理の専門家が最上流で果たす役割

品質管理・品質保証のプロとして新たに加わった井川氏(右)
品質管理・品質保証のプロとして新たに加わった井川氏(右)

このプロジェクト進行の「肝」となるのが、品質保証・品質管理のスペシャリストの存在だ。

MNTには今年から、トレンドマイクロ、シトリックス、ALSIなどで内部品質保証および第三者品質保証を手掛けてきた井川正昭氏が新たに加わった。今後のプロジェクト進行では多くの場合、この品質保証の専門家が、基本設計前の要求分析段階からPMとして入ることになる。

よくある受託開発において、工数ばかりがかさみ、「ユーザー企業の不満」と「現場エンジニアの疲弊」が蓄積していく要因は、プロジェクトの最上流にあると井川氏は指摘する。

「私自身もキャリアのスタートはエンジニアでして、バリバリとコードを書いていた時期がありましたが、設計書通りに書いているのに品質が悪いと指摘され、不可解に思った経験があります。そういうケースをよくよく見てみれば、お客さまの要望が要件定義書に落とし込まれた時点で、すでにひずみが出てしまっていることが多い」

ここで井川氏が参照するのは、要求工学の世界で古くから言われる、「1:5:10:50:200」の法則だ。要求分析→設計→製造→試験→保守へと下っていくほどに、ソフトウエアの誤りを修正するために必要なコストが雪だるま式に膨れ上がることを端的に示している。MNTが「伝言ゲームが始まる前」の最上流に品質保証のプロを配置するのは、この考えに基づいている。

もちろん、いわゆる「伝言ゲーム」をやってみれば分かるように、情報の劣化を100%未然に防ぐことはできない。そのため、要求分析を終えてPMのポジションをエンジニアサイドに譲った品質保証担当者は、その後はPMを補佐する立場に回り、フェーズごとに細かくレビューを繰り返すことで劣化した情報を元に戻す役割を担う。

「分析やレビューを丁寧にする分、短期的には従来のやり方より時間が掛かりますが、手戻りが発生しない分、最終的なコストは基本的に安くなります」(井川氏)

こうしたプロジェクト進行のノウハウと体制が評価され、MNTは形式上は孫請けにあたる案件でも、実質的にはプロジェクトの最上流から任されるケースが多いという。

本来、プログラマーとPMの間に「縦の序列」は存在しない

「プログラマーとSEの間には本来、縦の関係はない」と持論を展開する藤方氏
「プログラマーとSEの間には本来、縦の関係はない」と持論を展開する藤方氏

「日本のエンジニアはこれまで、なんちゃってPMのような人に振り回されて、最後のところでしわ寄せを食らい、人海戦術で『24時間戦えますか』みたいな働き方を強いられてきた」(藤方氏)

業界が抱えるこうした「不幸」の背景に、藤方氏は「職人的な年功序列のキャリアパス」の問題をみる。

「プログラマーを何年やったからSEに、SEを何年やったからPL、その次はPMに……というキャリアパスが一般的ですが、本来はそうではないでしょう。プログラマーにはプログラマーとしての、SEにはSEとしての職務がある。もちろん、その中にはさらに細かくいろいろな種類があるわけです。言葉に騙されて縦の序列がついてしまっているけれども、これらは実際には横の関係にあるんです」

MNTが専門に特化したPM人材を多く抱え、フェーズに応じて適材適所を心掛けるのもそのためで、「それぞれの人にそれぞれの使命を分けて与える。そうすれば後は、誰をどこにアサインするかを間違えなければいいだけです。プログラマーを何年もやって上達したなら、その人はPMではなく、上級プログラマーになればいい。その際は会社も『この人は3人分の仕事ができるので3人分の単金をください』とちゃんと主張することです」。

一方で、品質保証・品質管理の考え方はPMに限らず、個々のエンジニアも学ばなければならないと考えている。井川氏は言う。

「MNTと同規模の日本のソフトウエア会社で、ここまで品質保証に取り組んでいるところはあまりない。一方で大手SIerには品質保証を極めた人たちがたくさんいます。大手企業を相手に仕事をしようとしたら、そういった品質保証の精鋭と渡り合って議論できる必要があるはず。これはPMに限らず、エンジニア個人についても同様です。効率よく開発するには、品質保証の考えが重要なことは目に見えているわけですから」

井川氏は開発現場での業務と並行して、社内の品質保証・品質管理教育の講義も担当する。対象者は手始めにPMとしつつ、将来的には全エンジニアに広げていく予定という。

技術があるからこその「オフショアジャパン」

MNTが井川氏を勧誘したのは、実は約1年前にさかのぼる。

当時から品質保証・品質管理の重要性は十二分に意識していたものの、まだエンジニアが10人しかおらず、専門家の活躍の場がない小規模のプロジェクトしか受注できていなかったため、井川氏を迎え入れることができなかった。

現在では60人弱まで会社規模が拡大、井川氏の加入により、いよいよ大型案件を受注できるフェーズに入ったというわけだ。社員エンジニアも、年内に150人規模で採用する計画で進めている。

そうしてMNTが見据えるのは、将来的に「世界に通用するソフトウエアハウス」になることだという。

「日本のソフトウエアハウスで世界に通用する会社はいまだ現れていない。ただ、USのVCなどと話してみると分かりますが、日本のエンジニア個人の技術力は高く評価されているし、現地で活躍している人もいっぱいいるんです。私の隠れ標語は『オフショア・ジャパン』。システムの基幹部分の開発はむしろ、日本はアジアへ発注する立場ではなく、USなどの最先端から信頼を得て、受注する立場にあると思っています」(藤方氏)

従来型のプロジェクト進行、品質保証の仕組みを見直し、エンジニアが力を発揮しやすい環境を整えているのも、その先駆者となるための布石だ。

「OracleにしてもMicrosoftにしてもSAPにしても、世界規模のところというのは品質保証・品質管理をずっと気にしてやっている。国内の他の会社に先駆けて力を入れることで、そこ(世界からの受注)を取りに行こうと思っています」

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴

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