Vol.126

「日本がIoTで世界をリードする」世界初のカメラ付きケータイ開発者が、京セラ新研究所の設立に賭ける思い

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ファインセラミック部品や電子デバイス、携帯電話など、さまざまな製品を提供しているグローバルメーカー、京セラ。

同社は2015年10月、東京・東品川にソフトウエアの研究開発拠点を新設する。その名は『ソフトウエアラボ』。メインミッションとして、「広大な製品分野におけるハードとソフトの融合」、「IoT領域でのイノベーション」を掲げるという。

その初代所長を務めるのが、ソフトウエア研究開発統括部長の佐分利和充(さぶり・かずみ)氏。世界初のカメラ付き携帯電話『ビジュアルホン』を世に生み出したエンジニアである。

佐分利和充(さぶり・かずみ)氏

京セラの歴史に名を残すエンジニアである佐分利和充(さぶり・かずみ)氏

「なぜ今、京セラがソフトウエアの研究所を新設するのか?」

この素朴な疑問に対し、佐分利氏は「京セラは部品やデバイスで競争力を培ってきたが、これからのIoT時代、それだけでは生きていけない。ソフトウエアが付加価値を生む時代である」と語る。

一方で、ここ数年の日本のソフト開発競争力に疑問を持っているとも。「世界初とか最先端技術を生み出してきた時代からの変化を感じている」と言うのだ。

そんな同氏の話に耳を傾けると、日本のメーカー、そして日本のエンジニアが、世界で勝負するために必要なものが見えてきた。そのカギは、「組込みソフトの開発力と、ハードとソフトの融合部分」にあった。

豊富なハードの技術とソフトの融合で、新しい社会貢献を

―― まずは京セラで初となるソフトウエア専門研究所が設立された経緯を教えてください。

ご存知の通り、京セラは素材を中心にしたハードのメーカーです。自動車部品、電子部品、半導体部品、エネルギー関連、通信事業など、非常に広範な分野をカバーしていて、さまざまな要素技術も多く保持しています。

これらの既存技術にソフトウエアの力を融合させることで、京セラにしかできない新しい形で社会に還元し、人類や社会の進歩発展に貢献するために、この研究所を立ち上げました。

今年の10月から東京の東品川にて本格稼働します。来春には50名規模まで拡充する予定です。

―― 「京セラにしかできない新しい形」とは、具体的にどのような研究を進める予定なのでしょう?

短い言葉で表現すれば、「京セラにしか実現できないIoT」です。

我々は素材、デバイス、モジュール、機器と、モノづくりにまつわる一連のプロセス技術を持っていますので、それぞれの分野にソフトウエアを融合させることによって、京セラならではのイノベーションを起こせると考えています。

研究開発には、アカデミックなアプローチと、ビジネス的アプローチの2つがありますが、企業の研究所ではどちらも欠かすことのできないものになります。双方を大切な両輪として柔軟に取り組んでいきたいと思っています。

―― なぜ「双方を両輪にする」ことを重視されるのですか?

50年、100年先を見据えて研究開発を行うのは大事なことです。しかし、その成果を社会に還元できないと意味がない。逆に目の前のニーズにばかり囚われてしまうと、この研究所を設立した意義が薄れてしまいます。

京セラという会社は、どちらかというと目の前のニーズへのビジネス的アプローチを得意としてきましたが、今回の組織では、よりアカデミックなアプローチを取り入れるために、著名な大学教授の方々にもプロジェクトに参画していただくことにしています。

―― 佐分利さんが『ソフトウエアラボ』の所長に任命された理由とは?

私自身、中途入社で京セラに入りました。1986年に半導体装置のメーカーからジョインして、当初の担当は、光ディスクドライブの研究開発。その後は、画像通信の信号処理の研究に携わりました。

MPEG4に代表される、ものすごく低い通信レートでの画像通信の研究開発をしていたのですが、それが転機となりました。

当時の上司が、世界で初めて実用開発された小型CMOSカメラのサンプルを入手してきて、「このCMOSカメラと組み合わせて好きなことをやってみろ」と言ってくれました。そこから携帯電話に搭載することを考えました。この一言が、『ビジュアルホン』という、世界初のカメラ付き携帯電話の実用化につながります。1999年のことでした。

実現するまでに、それはもう、多くの失敗がありましたが、「次に活かせればいいじゃないか。ダメだった理由を徹底的に考えることが大事なんだ」と励ましていただき、伸び伸びとやらせてもらえたからこそ、製品化できたのだと思います。

ベンチャー精神を尊重する京セラの社風には今も感謝しています。『ビジュアルホン』開発の後、携帯電話のソフトウエア開発リーダーを務め、その後に海外向け携帯電話の開発責任者を務めました。これらの経験を新しい分野、特にIoTの研究開発で活かそうと、今回の『ソフトウエアラボ』設立に際して、初代所長に就任いたしました。

他分野の研究所や、海外拠点との連携も視野に

IoTでイノベーションを起こせそうな領域について、私見を交えて解説する佐分利氏

IoTでイノベーションを起こせそうな領域について、私見を交えて解説する佐分利氏

―― 直近で手掛けたいことは?

まずは京セラの得意とする画像認識やセンシング技術を用いて、クルマの自動運転をはじめとする新しい価値を具現化していきたいと考えています。

また、ビッグデータ解析とセンシング技術を融合させることや、工場の生産設備の最適化なども有望なテーマとして挙がっています。先ほど述べたビジネス的なアプローチですね。

このようなテーマに取り組むとともに、アカデミックな手法、つまり要素技術からアプローチし、ニーズ自体を作り出すことも重要だと考えています。

こういった手法によって、新しい事業分野へのアプローチもできるものと期待をしていますし、その取り組みのために、組織を【1】研究企画、【2】組込みソフト、【3】ユーザエクスペリエンス、【4】画像処理・認識技術、【5】統計処理・数理計算と5つのグループで構成することにしました。

これらソフト領域の技術と、京セラの持つ広大なハードの製品分野、例えば自動車・電子・半導体部品、携帯通信、機械工具、プリンティングデバイス、エネルギー関連などの技術を掛け合わせ、イノベーションを生み出していくことが、我々『ソフトウエアラボ』の直近のミッションです。

―― 京セラ内の他の研究所との連携はありますか?

もちろん考えています。部品、デバイス、素材、通信、システム技術、生産技術など、京セラには多くの研究所が設置されています。これらの研究所で長年にわたり培ってきた要素技術は、京セラの財産といえるものです。さらに付加価値を高めるため、共同研究の話はすでに持ち上がっています。

加えて、グローバルに30を超える拠点がありますので、国内にとどまらず、世界に向けたイノベーションを起こしていきたい。現在、京セラの海外売上げ比率は50%を超えていますが、さらに高めたいと思っています。

私自身、ここ数年は北米向けの携帯電話の開発にどっぷり浸かっていたので、「世界」を強く意識しなければならないと思っています。

日本の組込みソフトを開発する力は、世界を未来に導く

『ソフトウエアラボ』が入る予定の京セラ東京事業所
『ソフトウエアラボ』が入る予定の京セラ東京事業所

―― IoTについて、今はまだデファクトとなるような製品やソリューションが生まれていません。この領域で、日本企業が世界と勝負するには何が必要でしょう?

おっしゃるとおり、IoTの世界にはまだ「勝ち組」がいないと思っています。だからこそ、フラットにいろいろなことを試すチャンスがある。

特に、ハード側からのアプローチを行っている企業は、まだあまりありません。京セラの勝ち目も十分あると思っています。

イノベーションの種となる技術はすでにそろっています。それらを製品として形にする工場や、世界中の人たちに届けるための販売網も持っています。

そして最後に重要になるのは、「人」です。特に、1人1人のエンジニアがどのような思いを持って研究開発を行うのか、ということが大切になると思っています。

―― 具体的に、エンジニアに求めることは?

技術スキルや能力ももちろん大切な要素ですが、エンジニアとして最も大切なのは、思いを描き、どうしてもそれを実現するんだという強い気持ちと、あきらめない心だと信じています。

自分自身が技術を通じて実現したいことを、しっかりと掲げているエンジニアはやはり強い。自らが渦の中心となり、信念を持って自走する原動力になりますし、そのビジョンに関係各所のスタッフが共鳴することで、イノベーションは一気に現実のものになっていきます。

特に京セラはトップとの距離感が近く、ベンチャー魂が奨励される社風があります。「まずは、やってみろ」と言われる中で、やりたいことをやらないのはエンジニアとして損だとも思います。

―― 日本のエンジニアが、世界で通用するようなイノベーションを起こすために必要なものは何でしょうか?

基礎研究をリードするアメリカ企業、そこに追随する中国や韓国のメーカー、開発者を量産するインドなど、世界を見渡せば、脅威となる国が増えています。

ただ、日本にも、得意な分野があります。モノづくりにおける熱意や、ソフトとハードをすり合わせる技術など、日本のエンジニアが生き残る道は確実にあると思っています。

特に、組込みソフト開発の力は世界有数だと確信しています。私は、携帯電話などの研究開発を通じてそれを実感してきました。先ほど申し上げました、車載画像処理やセンシング技術も、その最たる例だと思います。

消費材だけではなく生産材においても、モノづくりに立脚したソフトウエアの技術は、まだまだ世界に負けないものがあります。

他には、評価の領域も強いと思います。普通に使っていたら起きないような事象も検討し、きめ細かく品質の良いものを作る能力が長けている。これはそのままソフトウエアの領域にも活かすことができると確信しています。

良い意味で、「他人への踏み込み」がIoTをネクストレベルにする

長年エンジニアとして実績を積んできた佐分利氏が持つ「哲学」とは?
長年エンジニアとして実績を積んできた佐分利氏が持つ「哲学」とは?

―― 最後に、佐分利さんご本人が、一エンジニアとして『ソフトウエアラボ』を通じて成し遂げたいことを聞かせてください。

未来においても、日本人のエンジニアが活躍できる領域を残していきたいですね。それは、IoTのようにソフトとハードが融合するところに答えがあると、私は信じています。

自分の役割を限定し、その役割を全うするだけではなく、「ここは、どうなっているのだろう?」、「もっとこうした方が良いのでは?」と、あえて相手の管轄にまで踏み込んで議論する。このスタンスは、日本人のモノづくりの良さの一つだと思うのです。

ソフトとハードが融合する部分ではより顕著に発揮できるはず。デバイス制御、相互通信、システム、セキュリティなどの世界だからこそ、IoTで世界と勝負したいと思うのです。

もう一つは、チームでのモノづくりですね。私自身も、世界初のカメラ付き携帯電話を開発しましたが、そのプロセスで多くの失敗を経験しました。何度もあきらめそうになりながらも、上司やチームのみんなと励ましあい、協力し合ってきたからこそ、世に新しい価値を問うことができました。

一つの目標に対して、分け隔てなく熱くなれて、失敗をカバーし合い、一丸になって向かっていく。そして、それぞれの高い品質意識がぶつかり合い、既存にないモノができあがる。これも日本人らしい開発スタイルだと思います。

だからこそ、この『ソフトウエアラボ』ではスタートが大事だと思っています。私1人では難しいことも、同じ思いを持つ者たちが集まればきっと実現できる。

京セラが持つハードの強みと、『ソフトウエアラボ』が生み出す新しい技術、そしてメンバー全員の熱い思いが融合すれば、新しい日本の未来が、きっと見えてくるはず。そう信じています。

取材・文/佐藤タカトシ(core words) 撮影/佐久間 孝宙(クマ フォトオフィス

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