Vol.63

話題のゲームアプリ『【18】』を生んだ、モブキャスト「6つの仕込み」

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モブキャスト取締役CCOの福元健之氏と、人事本部長の井上貴弥氏

(写真左から)モブキャスト取締役CCOの福元健之氏と、人事本部長の井上貴弥氏

『モバプロ』、『モバサカ』といったソーシャルゲームのヒットで知られるモブキャストが、ネイティブアプリへと主戦場を移そうとしている。直近では、テレビCMも始まったパズルゲーム『【18】(エイティーン) キミト ツナガル パズル』(以下、【18】)が好調だ。

ミステリアスパズルRPG 『【18】 キミト ツナガル パズル』
ミステリアスパズルRPG 『【18】 キミト ツナガル パズル

この『【18】』は、モブキャストとして初めてネイティブゲームへの大型投資を敢行したタイトル。企画立案時からプロデューサーを務める取締役CCOの福元健之氏は、「これまでに知見のないネイティブゲーム、かつ競合の多いパズルゲームということでチャレンジの要素は強かったが、絶対に外せないタイトルだった」と当時を振り返る。

栄枯盛衰の速いゲーム業界で生き残り、世界70億人にゲームを届けられる体制づくりとして、モブキャストでは2013年末ごろから「ゲーム開発力」と「人事評価制度」の両面でそれぞれ3つの大きな改革を準備してきた。『【18】』の開発は、その最初の運用例ということになるという。

中長期的視点に立ったモブキャストの打ち手とはどういったものなのか。順に見ていこう。

開発力向上のための3つの施策

まず、開発力向上の取り組みとしては、3つのモブキャスト独自の概念が挙げられるという。新しいゲームの企画は、「SVS」、「MSGD」、「D3」という概念に基づいて作られている。

これらは、「ゲーム開発にヒットの法則はないけれど、失敗を減らす法則はあるはず」(福元氏)という考えの下、その法則の中でヒット率を高めるために設けた基準だという。

【1】SVS(social victory space)

『【18】』のみならず、界隈で期待の高まっている新ルミネスの開発もプロデュースしている福元氏
『【18】』のみならず、界隈で期待の高まっている新ルミネスの開発もプロデュースしている福元氏

SVSとは、負けず嫌いなユーザーがゲームに勝ってライバルに「ほめられたい」、「尊敬されたい」という欲求に直接的に応えるゲームやコミュニティを提供するという、同社独自のコンセプトだ。

モブキャストが昨年3月にリリースした新しいゲームプラットフォームサービスにも同じ名が付いている。各ゲームでの勝敗を元にユーザー同士の人間関係を表現し、“負けず嫌いの30代男性”をターゲットに、新たな価値を提供することを目指したものだ。

ユーザーに対してプラットフォームを提供するだけでなく、開発においても「SVSの文脈に沿ったゲーム設計になっているかどうか」が基準として明文化された。

「これまでモブキャストが作ってヒットしてきたゲームは結果的に、勝つ喜び、名誉を得る喜びに訴えかける作りになっていた。そういうゲーム設計が得意な企業であるということだと考えて、その方向性を明確にしました」(福元氏)

【2】MSGD(Mobcast Style Game Development)

大ヒット作が1本出れば企業の業績は急浮上、逆に出なければあっという間に危機に瀕するとされるのがゲーム業界。必ずヒット作が出る保証はどこにもなく、“打率”は3割程度で良しとされる世界でもある。

であれば、打席数を多くしようという発想から生まれたのが、短期開発を是とする2つ目の施策「MSGD」だ。

「ゲームの市場は1年も経てば大きく変わってしまう。だが、それが半年だったらどうか。同じモノを作るのだったら1年かけるより半年の方が絶対にいい。そのため、大人数を投入してでも短期で完成までこぎ着けるというものです」(福元氏)

具体的には、

・タイトルの枠を越えて使い回せる機能はモジュール化しておく
・開発期間を延ばす原因になる仕様変更は一切許さず、企画段階で決め切る

などの決め事を徹底している。

【3】D3

上記した「開発途中の仕様変更NG」といった決め事は、実際に高品質のゲームを作り込んでいく上で足枷になってしまう感もあるが、それを防ぐ意味でも設定されているのがこの「D3」になる。

D3の「D」はデザインの頭文字。モブキャストが大切にしている「ゲーム」、「SVS」、「サウンド」の3つのデザインを意味しており、それぞれ基準に達しているかどうかで企画を評価する。

中でも特徴的なのは、サウンドデザインに対する考え方で、例えば『【18】』では、一つのステージを進んでいくに従って楽器の数が増えていき、クライマックスに差し掛かるところでボーカルまでがそろって曲も最高潮に達するというもの。

「モブキャストのサウンドデザインへのこだわりは、良い音楽を使うというだけではなく、音楽でもユーザーを驚かせる工夫をするということを意味しています」(福元氏)

実際に、『【18】』は音楽への評価も高く、ユーザーからはサウンドトラックのリリースを望む声も多く届いているという。

人事評価・採用に関する3つの施策

こうした開発体制を支えるために、モブキャストでは人事評価制度や採用方法に関しても大きな変更を行っている。1つ1つのタイトル開発に多くの人員とお金が投じられる昨今、チーム力の向上は必須といえる課題だ。

以下に紹介する3つの施策は、チーム力を高めると同時に、際立ったエンジニア・クリエイターの能力も正当に評価することで、「組織と個」の両面で世界基準のゲーム開発をしていくための土台づくりとなっている。

今後は中途採用でもこれらの施策を徹底していくという。

【4】「モブキャストらしさ」を評価

現在『【18】』の開発に従事している約30人の開発メンバーのうち、7割がこの1年以内に入社している。やり方によっては、会社としての方向性がブレかねない急拡大といえるだろう。

そこで、能力評価と同じ重みづけで、会社の価値観と一致しているかどうかや個人としての仕事へのスタンスを評価するよう、評価基準を改めた。

モブキャストが掲げる「社員三箇条」
モブキャストが掲げる「社員三箇条」

同社が掲げる「社員三箇条」をベースに、ユーザーに対するおもてなしの精神や、チームのメンバーに思いやりをもって仕事に取り組めているか、はては挨拶ができるかどうか、時間通りに出社しているかといったことまでが重要な評価対象になる。

これに伴い、新入社員だけでなく、中途入社やベテラン社員も含めて、挨拶の仕方やお礼の仕方といった“モブキャストらしさ”の研修を課すようにした。

こうした施策は、「1人のスーパークリエイターに依存するよりも、誰が欠けてもチームとしてまずまず良いゲームが作れる体制の方が良い」(福元氏)と考えるモブキャストの姿勢の表れだ。

【5】プロ契約制度の導入

井上氏によれば、新人事評価制度ではその人を市場価値に近い形で評価できるよう、会社の業績とは連動させないものになっているという
井上氏によれば、新人事評価制度ではその人を市場価値に近い形で評価できるよう、会社の業績とは連動させないものになっているという

とはいえ、前述のように「良いプロダクト」を作るためには優秀な人材を幅広く採用したいというのも本音。そこでこの11月から、新たにプロ契約制度を設けた。

新たな制度の下では、週2日勤務や完全な成果報酬など、その人に合った条件での契約が可能になる。

人事本部長の井上貴弥氏は、新制度のメリットを「当然だが優秀な人は引く手数多。従来の採用手法だけだと力を借りることができなかったトップクリエイターにも、新たな制度であれば参画してもらえる可能性が生まれる」と説明する。

【6】業界最高水準の給与に向けて

「優秀な人が働く場所を決めるのは、必ずしも報酬だけではないでしょう。やりがい、誇り、その仕事が持つ意義かもしれない。ただ、それに甘えずに正当な利益還元をしたいとも思っています」と井上氏。モブキャストでは業界最高水準の給与を公言し、それを実現するという。

従来の制度では、個人として成果を出していても会社の業績が悪いと給与を上げることが難しかった。新制度ではその人を市場価値に近い形で評価できるよう、会社の業績とは連動させず、独立して評価するという。

正当な評価を下すための仕組みとして、従来は上長が担っていたメンバーの評価を、プログラマーの評価はプログラマー職のトップが行うというように、同じ職種の人が行う形に改めた。

基準はあくまで基準。制度のブラッシュアップは今後も続く

どちらの制度も今年が運用初年度。優秀な人を公平かつ公正に評価すべく、今後も継続的にブラッシュアップしていくという。

福元氏は、「『【18】』の開発では細々とした失敗がたくさんあった。開発の際の優先順位をどう考えるかなど、こうした失敗を通じて得た学びも多い1年だったと思う」と振り返る。

実際のところ、開発面で上記のような基準を設けることの意義は、「誰がやっても同様のモノが作れる体制づくり」にあるのと同時に、基準があって初めて、良い悪いを判断したり、そこをあえて外したりといった動きが取りやすくなることにもある。

モブキャストではすでに、グローバル向けタイトルであるスマホ版『ルミネス』のプロジェクトが進行中だ。福元氏は「『【18】』で得た学びをどう活かすかが、モブキャストの今後を左右することになる」と気を引き締めている。

取材/伊藤健吾 文/鈴木陸夫(ともに編集部) 撮影/小林 正

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