Vol.93

技術より大切な能力をもたらすワークスアプリケーションズの「教えない研修」って何だ?

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ワークスアプリケーションズ (左から)宮下明弘氏、岡田聡氏、村田大地氏

ワークスアプリケーションズ (左から)宮下明弘氏、岡田聡氏、村田大地氏

クラウド技術の進展や利用デバイスの多様化といった環境変化に伴い、エンタープライズアプリケーションを支えるエンジニアに求められる資質は、どう変わってきているのか。逆に、そうした時代の変化にも左右されない本質的な資質とは何だろう。

それを紐解くために今回、ワークスアプリケーションズ(以下、ワークス)に新卒研修の取材を申し入れた。

ワークスは、世界初の分散処理指向ERPシステム『HUE』をいち早く開発するなど、時代の変化に沿う形でその姿を柔軟に変えている。その一方で、ロジカルシンキング、クリエイティブシンキングを兼ね備えた問題解決能力の高い人材を「クリティカルワーカー」と呼んで重用するのは、同社の変わらぬ姿勢だ。

そんなワークスの新卒研修は、大きく分けてStarter Mission(以下、STM)と呼ばれる問題解決能力を培うためのものと、技術を磨くBoot Campの2つで構成されている。

今回特にフォーカスを当てたのは、前者のSTMの方。STMはひと言で言って、「教えない」研修なのだという。研修なのに「教えない」とはどういうことか。そこで鍛えられる問題解決能力とは何か。以下、詳しく見ていこう。

「教えない研修」STMとは何か?

STMを監修しているビジネス・サポート・インフラDept.の岡田氏
STMを監修しているビジネス・サポート・インフラDept.の岡田氏

「我々の仕事はお客さまとなる企業の経営・業務上の問題を解決すること。プログラミングはその手段の一つでしかありません。STMは、この問題解決のための能力を身に付けるための研修であり、業務の中で直面する課題を自力で突破するための、『個』の力を養うことがゴールです。だから、最初に課題を与えた後は、こちらから教えるということはほぼありません」

こう語るのは、STMを監修しているビジネス・サポート・インフラDept.の岡田聡氏。そこで行われるプログラムは、以下の流れで進むという。

「プログラミングは手段」とは言っても、新卒社員の中にはプログラミングの全くの初心者もいる。そこで最初に課されるのは、キャッチアップのためのJavaの技術に関する課題2つ。それらをクリアした上で進む「カタログ」を作る課題に、STMの真髄がある。

同社の言う「カタログ」とは、まさに電気製品などの製品カタログのようなもので、その製品を導入することでもたらされるメリットを記したものだ。

仕様書のような機能ベースではなく、メリットベースで書かれるというのが一つのポイントとなる。

「与えるのは、『こういう業務で使うモノを作りなさい』という課題だけです。STM参加者は、まず業務の内容を想像することからはじめ、そこにどんな問題があり、その問題を解決するためにはどんなメリットがあればいいのかを、全て自分で考えなければならない。それを機能に落とし込み、実装するところまでがSTMの課題です」

研修後に配属される実際の業務においては、顧客の課題を見つけ出すところからがワークスのエンジニアの仕事だ。STMで課される課題もそれに倣ったもの。

研修生は文字通り、ゼロからイチを作り出さなければならない。

STMは4月にスタートし、最長で半年の期間が設定されている。だが、一つの課題を終えた人はどんどん先に進む「突破型」として設計されており、早い人だと4カ月で終わる場合もあるし、逆に言えば課題をクリアできなければ、やり直しが求められる。

よくある「詰め込み型」の研修とは一線を画する徹底ぶりなのだ。

STMでついた“クセ”を矯正するBoot Camp

Boot Campを監修しているアドバンスト テクノロジー&エンジニアリング本部の宮下氏
Boot Campを監修しているアドバンスト テクノロジー&エンジニアリング本部の宮下氏

そして、STMを終えた者は次に、技術研修であるBoot Campへと進む。

同社の業務を遂行する上で核となる問題解決能力は、この時点ですでに、STMを通じて徹底して叩き込まれている。だが、STMでは直面した問題を「自力で」解決することが求められているため、それぞれ自己流の“クセ”が生じている場合がある。

これを適正な方向へと軌道修正するのが、Boot Campの目的だ。

Boot Campを監修しているアドバンスト テクノロジー&エンジニアリング本部の宮下明弘氏は、その位置付けを次のように説明する。

「エンタープライズアプリケーションの特徴は、寿命が長いこと。特に我々の製品は、10年かそれ以上の長期にわたって使われ続けるパッケージソフトウエアです。その間には、お客さまの業務や制度の変更、社会環境の変化などに対応するため、機能追加や仕様変更などのバージョンアップを間違いなく必要とします。

このような大規模かつメンテナンスビリティを重要とするシステムの開発においては、分割や抽象化の技術が不可欠です。個人の“クセ”を伴ったやり方で開発するのではなく、開発のセオリーを伝授し、足並みをそろえるのが、Boot Campということになります」

このBoot Campには、BasicコースとIntermediateコースの2段階がある。

各研修生がSTMの中で自ら調べて身に付けた技術というのは、目の前の課題を解決するために必要な最低限のものだけだ。それに付け加える形で、Javaの文法やプログラムの分割の基礎、Webアプリケーションの仕組みといった基礎的な技術を補足するのが、Basicである。

この研修内容は、『15時間でわかるJava集中講座』として書籍化もされている。

続くIntermediateコースは、同社の主力製品である『HUE』を開発するにあたって必要な、根底にある開発の考え方と、逆に一番表層にあるライブラリの使い方などのテクニックを学ぶ。

何度も繰り返しているように、同社が最も重視しているのはその中間にある問題解決能力であり、そこを培うのはSTMの役目だ。

そこさえ抑えておけば、必要なテクニックは現場に配属された後でもいくらでも身に付くというのが、同社の考え方。だから、STMが半年にわたって「突破型」で行われるのに対し、Boot CampはBasicとIntermediateの各コースそれぞれ、約1カ月という短期間の「詰め込み型」で行われる。

ただし、詰め込まれる知識というのは、コンピュータサイエンス専攻の学生が4年間で学ぶ専門知識に相当するというから、現場でいち早く活躍するために同社が求めるハードルの高さがうかがい知れるだろう。

来年以降の研修では、新製品の企画力や開発力、プロジェクトマネジメント力までを養うAdbancedコースの設置も検討されている。

あらためて、ワークスが考える問題解決能力とは?

では、同社がSTMを通じて培おうとしている問題解決能力とは、あらためてどういった能力を指すのだろうか。宮下氏は次のように話す。

「弊社が考える問題解決能力の根本には、理想から考えるという思考法があります。そもそもの問題は何であるのか。それがどういう状態になっていれば理想なのか。それを徹底して考え抜いた先に、それをどう機能に落とし込むのがいいのか、という段階があります。理想を考える上では、エンジニアの都合はいっさい関係ありません。技術の有無は抜きで考えないといけない。だからこそ、Boot Campの先にSTMがないといけないんです」

ざっくりと言ってしまえば、同社が考える理想とは、顧客となる企業で働く人たちが「判断」だけに専念できる状態のこと。それ以外の全ては、システムがサポートできなければならない。

もはや情報は、「収集」して「入力」するものではなく、選択するものへと変わっていく。そう考えて作られたのが、看板製品である『HUE』ということになる。だから各機能についても、こうした理想の状態をどう実現するのかというところから考えて作られたものでなければならない。

逆に言えば、そうやってたどり着いた理想を実現するのに、技術力の不足が足かせになるという事態があってはならない。

「技術がボトルネックにならないようサポートすることこそが、Boot Campの真の目的と言えるでしょう」(宮下氏)

研修生は当然のことながら、現場を知らない。だから真剣に考え抜いた末にたどり着いた理想は、顧客からの要求からかけ離れたものであるかもしれない。しかし、「それで構わない」というのが同社のスタンスだ。

「弊社でよく言うのは、お客さまの『欲求』に応えるのが問題解決であって、『要求』に応えるわけではないということです。お客さまが抱えた問題に、お客さま自身が気付いているとは限らない。完成したものを見たお客さまから『(自分でも気付いていなかったけれど)ああ、それがほしかったんだ』と言ってもらうのが、理想的な問題解決の仕事です」(宮下氏)

研修生にも、教える側にも求められる「なぜなぜ思考」

同社の行動指針『Works Way』
同社の行動指針『Works Way』

「カタログには答えがあるわけではありませんから、STMはこれをジャッジする側も難しい。だから弊社では、この役目を現場のトップエンジニアが担うことにしています」(岡田氏)

各部門のトップエンジニアが1人あたり10人ほどの研修生を担当し、サポートおよび評価を行う。Boot Campを監修する宮下氏も、STMの評価者を務める1人だ。

通常業務に加えて研修生1人1人と半年にわたって向き合うのだから、その負担は大きい。だが、「現場に配属されても、チームの枠を超えて会社の仲間を支えてくれるような人材になってもらいたいと思っていますし、工数を惜しむところではないと考えています」と宮下氏は言う。

では、研修生と接する時に心掛けているのはどんなことだろうか。宮下氏は次のように続ける。

「複雑な問題はそのままぶつかると砕けることが多い。いかに小さく分割するかが、問題解決の本質だと思っています。分割してみてそれでも分からなかったら、それをさらに小さく分割する。

そうやって繰り返していけば、数こそ多くなるものの、最終的には全て自力で解ける小さな問題になっています。この問題解決の本質はエンジニアに限ったことではなく、営業であろうとコンサルであろうと変わらない。いかにしてこうした思考に導くかということを考えています」

その際に絶対にしてはならないのが、「答え」を教えるということだ。レビューや対話を通じて、研修生が「自力で」気付くことを促すのが評価者の役目。

非常に難しいプロセスのように聞こえるが、同社の「Works Way」と呼ばれる行動指針にある、「なぜなぜ思考」がそれを可能にするという。

「ここに問題はなかったの?」。思考のプロセスのどこに問題があったのかを浮き彫りにすべく、評価者は研修生に質問をする。質問を受けた研修生は自分と向き合い、考え、回答する。評価者はさらに質問する。研修生がまた答える……。

これを繰り返すことで問題をどんどんと深堀りしていき、評価者は研修生が自ら答えを作り出すまで、辛抱強く待つ。

「人によって思考プロセスはさまざまで、どうアプローチすれば気付いてもらえるかは試行錯誤です。彼らがどこで引っかかっているのか、どこに気付いてもらえばそこを脱出できるのか、そのためにはどう方向修正すればいいのか……というように、我々の側も『なぜなぜ思考』で探っていくのです」(宮下氏)

教わらなかったからこそ身に付いた

「STMで学んだ『理想から考える』という思考法が、配属後にすごい力になっている」と語る村田氏
「STMで学んだ『理想から考える』という思考法が、配属後にすごい力になっている」と語る村田氏

最後に、研修を経て現場で活躍している若手社員に、STMで学んだことが現在にどう活かされているのかを聞いた。

「STMで学んだ『理想から考える』という思考法が、配属後にすごい力になっています」。そう話すのは、『HUE』ACシリーズの開発を担当するHUE Divの村田大地氏。

その考え方は、彼の率いるチームが発案して『HUE』に実装した機能、『高速エンタープライズサーチ』にも活かされているという。

「エンタープライズアプリケーションにおいて検索機能をより便利にすると考えた時に、会計担当者が検索をするのは、例えば前月の未入金一覧が欲しい場合。従来のシステムでは、担当者がシステムに合わせて検索項目を指定し、検索結果を並び替えた上で、欲しいリストを作成していました。

そこで例えば、『前月度未入金一覧』という検索ワードを解釈し、絞り込み条件だけでなく並び替えなどの条件も反映させることで、欲しい情報をダイレクトに提供し、これまでのような一連の作業を不要とする機能を考えました。

また、この機能を考えると同時に起こるのが、『なぜそのリストを作成するのか?』という問いです。こういった『なぜなぜ』を続けることで、『営業担当に確認を取るためには、このリストをシェアできるようにしよう』、『このリストは毎月作成するものだから、自動的に出力するようにしよう』という具合に、製品の構想はどんどん広がりました。

『検索する』という機能ベースで考えてしまうと、例えば『すごく速く検索できる』といった機能改善で思考が止まってしまう。機能から離れて、『ビジネスパーソンの理想の仕事のあり方とは何か』、『どうすれば快適に仕事ができるようになるか』というところまで『なぜなぜ』ができたのが良かったと思います」

そういう思考ができたのはSTMがあったからだと村田氏は続ける。また、そこで身に付けた思考法の普遍性も、日々の仕事の中で実感しているという。

「研修後の最初の配属先だったEC・通販シリーズの製品開発で求められる前提知識というのは、今のACシリーズの製品開発で求められるそれとは異なります。でも、そうしたことに関係なく、周囲の人とも同じように仕事ができています。これは、普遍的に通じる考え方のベースができているからで、この先、営業などの別の仕事に移ったとしても、同じように対応できると実感できています」

もちろん、そうした思考法を取得するのには大きな苦労を伴ったと村田氏は振り返る。

「頭では分かっていても、常識や固定観念にとらわれてしまって、ゼロから問題を問い直すことが難しかった。研修の中で5回、6回とつまずき、その度に一つ前に立ち返って考え直してみることを繰り返す中で、ようやくできるようになった気がします」

自ら考え、苦しんで身に付けたからこそ、生きた力として自分のものになったと感じる今がある。

やはり「教えない」ことにこそ、ワークスアプリケーションズを支える「クリティカルな問題解決能力」の源泉があるのだ。

取材/伊藤健吾 文/鈴木陸夫(ともに編集部) 撮影/竹井俊晴

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