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トクバイ開発チームが、クックパッドから分社化して変えたこと、変えないこと~小規模チームでアプリとWeb版を運営するコツ

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    あの企業の開発環境を徹底調査!Hack the Team

    エンジニアが働く上で気になる【開発環境】に焦点を当てた、チーム紹介コーナー。言語やツール類を紹介するだけではなく、チーム運営や開発を進める上での不文律など、ハード・ソフト面双方の「環境づくり」について深掘りしていく。

    トクバイ』は全国のスーパーの6割以上を網羅した、無料で閲覧できるチラシ・特売情報掲載サービス。もともとはクックパッドの一事業として始まったが、2016年7月に分社化し、独立したサービスとなった。

    iOS版、Android版に続き、今年12月にリリースされた『トクバイ』Web版

    iOS版、Android版に続き、今年12月にリリースされた『トクバイ』Web版

    独立した時点でエンジニアは7人。クックパッド本体と比べればかなり小規模な組織だ。iOS、Android、そしてこの12月にリリースしたWeb版を並行して開発するのには、独自の工夫が必要だった。

    一方ではクックパッドの開発文化も脈々と受け継がれているという。分社化したことで何を変え、何を変えずに守っているのか。開発をけん引する3人に話を聞いた。

    クックパッド社内でも屈指の開発スピードを保っていた理由

    (写真左から)トクバイの八木俊広氏、三浦慶樹氏、そしてCTOの前田卓俊氏

    (写真左から)トクバイの八木俊広氏、三浦慶樹氏、そしてCTOの前田卓俊氏

    CTOの前田卓俊氏、Android、iOS両アプリのプロダクトオーナーである八木俊広氏、三浦慶樹氏はいずれも、トクバイがクックパッドの一事業だった時からの中心メンバー。基本的な開発の進め方は分社化以前から変わっていないが、それをもって「クックパッド・ウェイ」と呼ぶのは少し違うと前田氏は言う。

    「クックパッドでは、チームの運営方法や開発の進め方について、各事業部に裁量権がありました。だからクックパッドとしてのやり方というより、トクバイを開発していた買物情報事業部のやり方を引き継いでいると言った方が正しいです」(前田氏)

    では、買物情報事業部のやり方はどこが特徴的なのか。それは「クックパッド内でも屈指の開発・改善スピードにある」と前田氏は続ける。

    「買物情報事業はゼロからのスタートでしたから、試して改善して……を素早く繰り返すことが求められました。体感で2、3倍は開発スピードが違ったのではないかと思います」(前田氏)

    クックパッドの開発の迅速さを伝える象徴的な話として、2014年に行われたJAWS DAYSで発表された「1日10回のデプロイ」というものが有名だ。

    >> クックパッドのデプロイとオートスケール、1日10回デプロイする大規模サイトの裏側(前編)。JAWS DAYS 2014(Publickey)

    だが、そのクックパッド社内を見渡しても、買物情報事業部の改善の素早さは一目瞭然だったという。

    「GitHub上の圧倒的な更新量を見た他の部署の人からはよく『もう少し休んだ方がいいんじゃないの?』と心配されていました(笑)」(八木氏)

    高速開発の源泉は、自律性とユーザーファーストの意識統一

    特筆すべき開発スピードは、個々のエンジニアの能力が非常に高いことにも支えられている

    特筆すべき開発スピードは、個々のエンジニアの能力が非常に高いことにも支えられている

    高速開発の源泉をより具体的に見ていくと、リーン、アジャイルでやるのはスタートアップとしては一般的な開発手法であるものの、その計画プロセスに特徴があるという。

    「3スプリント(1か月半)先までの計画を、常にプロダクトオーナー間で共有するようにしています。それより先のことについては、市場動向やユーザーの反応を見て柔軟に動きを変える必要がある。でも、そうした柔軟性を保つためには、短中期をどう見据えているかを、チーム内ですり合わせておくことが不可欠だからです」(前田氏)

    こうした一応の開発計画はあっても、一方では個人の判断に基づいて優先順位を変更する場合もある。

    「例えばSlackでクラッシュの情報や対応が必要なユーザーレビューが流れてきた場合、担当などに関係なく、できる人が自分で判断して対応します。こうした個人の裁量が大きいのもトクバイの特徴で、だから開発にスピードが出せるんです」(三浦氏)

    「開発環境の見直しについても同じ。自分たちがやりやすいやり方でCIを導入したり、ビルドの方法を改善したりといったことがすぐに実現できる。このスピード感は、他社さんと比べてエンジニアに裁量が大きく与えられてるトクバイならではの醍醐味ではないでしょうか」(八木氏)

    トクバイのチームにこうした動き方が可能なのには、2つの理由があるだろう。

    1つは、メンバーの一人一人が自律的に動けるエキスパートだということ。八木氏はAndroidに関する著書が複数あり、コミュニティでの活動も目立つ。三浦氏もiPhone普及の黎明期からiOSアプリ開発に携わってきた実践経験豊かなエンジニアだ。

    そしてもう1つは、プロダクトの枠を超えて「ユーザーにどういう体験をしてもらうか」という観点で意識が統一されていること。集客や流入は八木氏、UXは三浦氏と、それぞれが得意な領域を見ていることもあって、改善や機能追加の施策を「どのように実装していくか」はOSを問わず統一されている。

    サービス立ち上げの張本人が広めた「プロダクトドリブンの文化」

    築いてきた「開発文化」を、人員が増えても継続していけるか?この命題について、トクバイの答えとは?

    築いてきた「開発文化」を、人員が増えても継続していけるか?この命題について、トクバイの答えとは?

    課題を挙げるならば、今後新たなメンバーが加わり、チームがさらに拡大しても、同じ動き方ができるかどうか。トクバイではエンジニア採用を拡大しているが、そこでは何を重視しているのか。

    「トクバイは幸いにして滑り出しは順調ですが、もちろんこれで安泰とは思っていません。むしろ、半年先をシビアに問い続けなければならない。そう考えると新しく加わってもらう人も、サービスとして正しい姿へ変化させていけることにコミットできる人である必要があると思います」(前田氏)

    その点は、八木氏、三浦氏の見解とも一致している。

    「例えば、開発者は極論すれば数字を見ないで開発することもできますが、DL数やレビューをみて、それを開発に生かすということが、今のメンバーは自然とやれている。出したプロダクトに対してどれだけ意識を持てるかというところが重要だと思います」(三浦氏)

    現状、こうした意識を全員が統一して持てているのは、トクバイの基となるクックパッド特売情報を立ち上げたメンバーの1人であり、現在も開発の中心にいる、根岸義輝氏の存在が大きいという。

    「スーパーで商品情報を投稿する人、それをみる消費者、そして開発者のそれぞれの視点で見てどうかということを徹底して突き詰める根岸の姿勢には、いまだにハッとさせられることが多い。自分もそうありたいと思わせてくれる人だし、そうしたことを今後も現場レベルで継承していきたいと思っています」(八木氏)

    根岸氏は慶應大学在学中にインターンとしてクックパッドに加わり、アドシステムエンジニアとして、広告商品企画開発から運用まで幅広い業務を担当してきた人物。彼に象徴される、このプロダクトドリブンの文化こそが、クックパッドから引き継がれた最大の財産であると前田氏は言う。

    「トクバイにもそうした文化が根付いているのは、プロダクトベースで議論ができる人しか採用していないから。チームの価値観の主軸にプロダクトを据えていないと、サービス開発チームとして機能しません。大きなうねり、変化を起こせる新しい発想や技術力ももちろん大事ですが、大きな成果をなし得るためにはプロダクトをどう良くしていくかにこだわる姿勢が大前提になると考えています。今後もその主従を間違えないようにしたいですね」(前田氏)

    取材・文/鈴木陸夫 撮影/竹井俊晴

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