Vol.64

保守対応の常識を変え7年連続で社内表彰された男が語る「技術より大切な3つのこと」

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富士フイルム メディカル・静岡サービスセンターでセンター長を務める岡本康弘氏

富士フイルム メディカル・静岡サービスセンターでセンター長を務める岡本康弘氏

法人向けに自社製品を提供する企業にとって、ビジネスの生命線を握るのが導入後の保守・運用だ。顧客との信頼関係を築き、長期間お付き合いをしていく中で買い替え提案などを行うことは、事業を継続的に発展させる上で新規の導入以上に重要な仕事になる。

だが、保守やメンテナンス業務はともすると顧客要望に応える「御用聞き」をこなすので精一杯になってしまい、能動的に成果を挙げるのが難しい仕事でもある。

そんな保守・運用作業を、受け身ではなく攻めの姿勢で行うことで、目に見える成果を出し続けてきたエンジニアがいる。2002年に富士フイルム メディカルに転職し、今年で在籍14年目となる岡本康弘氏だ。

岡本氏は、同社が病院などの医療機関向けに提供している製品群のフィールドサービスエンジニア(以下、FSE)として埼玉、群馬、静岡と各地域で実績を上げ、現在は静岡サービスセンターのセンター長を務めている。「目に見える成果」とは、入社1年目から保守契約件数で全国トップクラスの成績を上げ、以後7年連続で社内表彰を受けたという実績だ。上記のように受け身になりがちな業務内容にもかかわらず、である。

彼はどんな仕事術で「攻めの保守・運用」を実現してきたのか? そこには、旧来の概念をくつがえすような仕事術がいくつか隠されていた。

専門的な技術知識がない転職直後からやってきた3つの取り組み

富士フイルムグループ内の主力事業に成長している富士フイルム メディカル
富士フイルムグループ内の主力事業に成長している富士フイルム メディカル

よく知られていることだが、富士フイルムグループが医療機器分野に注力し出した背景には、かつて銀塩写真用フィルム開発で培った技術力をX線フィルムの自動現像機などにも応用し、V字回復を期すという狙いがあった。

岡本氏が転職する2002年以前はまだX線フィルムの販売が中心で、システムの保守・メンテナンスにはそれほど注力していなかったという。

が、その後間もなくしてグループ内の主力に成長した富士フイルム メディカルは、デジタル化と製品の多角化を強力に推し進める。その過程で、FSEには製品導入先の医療機関に保守契約を進言し、より継続的なシステムサポートを実現することが求められるようになっていく。

岡本氏は、転職後すぐに活躍できた裏側に、こうしたビジネスモデルの変化があったと語る。

「当時の私の主な役割は、レントゲンシステムを中心とした自社製品のアフターメンテナンス全般でした。転職組ゆえ、製品知識に関しては社内の諸先輩方より劣っていましたが、お客さまが困っていることを丁寧に拾い上げながらサポートしていくのは私にもすぐできることだったのです」

一般家電と同じように、医療機器も導入(購入)から一定期間は無償の保守・メンテナンスに応じるケースが多い。富士フイルム メディカルのFSEのミッションは、「その後」を見据えた動きができるかどうかになる。具体的には、長期間の保守契約を結び、買い換え時にもまた同社の最新機器を導入してもらう「生涯顧客」を増やすことだ。

そのために岡本氏が力を入れてきたことをまとめると、次の3点になるという。

【1】 顧客の「期待度」に合わせたコミュニケーション
【2】 各種機器を「最も使う人」を見極める
【3】 関係部署のスタッフを積極的に巻き込むこと

有事対応よりも大切なのは「凡事徹底」

何度か転職経験がある岡本氏が、FSEの仕事にも応用している仕事術とは

何度か転職経験がある岡本氏が、FSEの仕事にも応用している仕事術とは

順を追って、それぞれの取り組みを紐解いていこう。

【1】 顧客の「期待度」に合わせたコミュニケーション

一般的に、製品導入後の保守・メンテナンスでは「有事対応」が優先されがちだ。医療機器は人命にかかわるモノも多く、不具合や故障が起こった際にどれだけ素早く対応するかが仕事の肝とされる。

だが、FSEがアフターサービスを提供する医療機関は、個人の開業医も含めると膨大な数になる。不具合が発生してから対応するのでは、時間がどれだけあっても足りなくなってしまう。

そこで岡本氏は、製品導入直後の機能説明や導入段階での保守契約提案など、「凡事」のコミュニケーションを積極的に行ってきた。顧客の期待度が一番高まっている時、すなわち製品導入直後こそ手厚くサポートすることで、「予防保守」につながるという考えからだ

「お客さまに当社製品をより良くご利用いただき、効率的に診療業務を進めていただく上でも、導入段階やその直後のコミュニケーションは必要不可欠なものだと考えています」

FSEは多忙な医師・看護師を相手にする仕事ゆえ、長時間かけてコミュニケーションを取ることが難しい場合もある。そういった際は、製品導入先に“診断ノート”を置くなどして使い方の疑問を書き込んでもらうように工夫しながら、ユーザーの声を拾い上げているそう。

こうした能動的なサポートが、信頼を獲得する第一歩になるわけだ。

【2】 各種機器を「最も使う人」を見極める

もう一つ岡本氏が日々実践してきたのが、「誰が導入した機器を使うのか?」をつぶさに観察すること。

高価な医療システムを導入する際、購入を「決める」のは院長であったりオーナーであったりするものの、実際の診療現場で「使う」のは専任の技師や看護師になることが多い。

そこで彼ら・彼女らを見つけ出して密にコミュニケーションを取り、使い方やメンテナンスについてのサポートを続けることで、長期的な保守契約を獲得することにつなげていった。

【3】 関係部署のスタッフを積極的に巻き込むこと

そして、【1】や【2】を前提に、不具合や故障が発生した際なるべく早く解決するのに必要なのが、この巻き込み力になる。

今は一口に医療システムといっても、画像処理技術から超音波技術、ネットワーク、クラウド、データベースの技術など、関連するテクノロジーは多岐にわたる。それらすべてを1人のFSEが事細かにキャッチアップするのは、現実的に難しい。だからこそ、保守対応時は設計・開発を含めた関連部署との連携が必要不可欠になるという。

また、同社のFSEは、顧客の声を各種製品の設計・開発部署にフィードバックし、品質向上や新機能開発にも貢献することが求められており、この力は本質的な“攻めの保守”を行う重要な要素となっている。

「ただし、私としては大仰なことはやってきたつもりはありません。基本的なことを、丁寧にやる。これが一番だと思っています」

例えば、頻繁に行われるという入社後の製品研修で講師役を務めた社員に質問をし、説明をしてもらったらキチンと感謝を伝えて顔を覚えてもらう。修理の際に設計部署のエンジニアから助言をもらった際には、必ず最後は岡本氏が送る御礼メールでやり取りを終えるようにする。

そんな小さな気配りの積み重ねが、岡本氏が転職直後から周囲の力を借りることのできた礎となっている。

「提案型の保守対応」ができれば、ワークライフバランスも改善できる

現在はFSEのリーダーとして、自身の経験をチームに還元している

現在はFSEのリーダーとして、自身の経験をチームに還元している

ちなみに、【1】や【2】で挙げた、医療機器を使う側の気持ちを的確に汲み取るやり方には、前職での経験が活きていると岡本氏は話す。

「富士フイルム メディカルに入社する前は、ある工場で施設管理を担当していました。その時は工場の各種機器をメンテナンスしてもらう側にいたわけですが、故障発生時に安心して作業をお任せできたのは、『黙々と作業して1時間で修理してくれるサービスマン』ではなく、『現状を都度フィードバックしながら1時間半掛けて修理してくれるサービスマン』だったのです」

なぜ、修理に多少長い時間が掛かっても「現状を都度フィードバックしながら修理してくれるサービスマン」の方が信頼できたのか。当時の心境を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「どこに故障の原因があって、あと何分で直るのか……といった情報を逐一報告してくれる担当者だと、こちら側は機器が稼働していない間に作業フローを変更するなど、さまざまな手を打つことができるからです。FSEの仕事も同じで、医師や看護師の方々が業務を進める上で困ることは何か?を常に確認し続けながら、先手を打って解決に向けたご提案をしていくことが、信頼につながるのだと思います」

現在は関係会社を含め15人のメンバーを統括しながら、自身が貫いてきたスタイルを若い世代へ伝える立場になっている岡本氏。その際によく話しているのが、「作業員になるのではなく、提案型のFSEとしてプロフェッショナルなサービスマンを目指せ」ということ。

「不具合や故障の連絡を受けてから対応するだけの『作業員』だと、お叱りを受けることも増えるし、目先の対応に忙殺されてしまいます。でも、凡時徹底で前もって的確なコミュニケーションを取るようにしていれば、緊急対応だけに追われることは減り、保守契約のご提案にもご納得いただける場合が多くなるのです」

20代前半で結婚し、家庭を持った岡本氏は、プライベートの時間を増やすためにも「プロの仕事」を追求して自分の裁量で働ける立場を目指していたと語る。結果的に仕事の効率化に成功し、転職後から今までそれほど残業をせずに業務を回すことができていると言う。従来のやり方を見直し、結果を出していくことで、理想のワークライフバランスまで手に入れた格好だ。

その仕事術は、富士フイルム メディカル社内の模範としてだけでなく、広く保守・運用業務に携わるエンジニアの参考になるだろう。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/赤松洋太

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