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「n個の歴史に対してn+1番目となるものを作りたい」データ解析で不動産投資の常識を覆すリーウェイズCTOの野望

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    「キャリアなんてものを考えたことはないし、そもそもそういう概念がない。人類のn番目の歴史に対してn+1番目となるものをどうすれば作れるのか毎日考え、行動している。そのためには資本、能力、時間が必要で、これらは相互に作用する。ほとんどの人が最初に持っているのは時間だけだということに10代の終わりごろ気が付いた。

    この3要素のうち、多くのエリートはまず資本を獲りにいく。つまりすでに成功した企業に入り、蓄積された資本を利用する立場になろうとする。僕はそうではなく、能力、つまり無から有を生み出すための具体的なスキルにこだわった。近代以降の慣れ親しんだ資本主義から時代がシフトしつつあることを感じていたので」

    昨年10月、不動産投資テックのベンチャーであるリーウェイズのCTOに就任した大塚一輝氏は、自らの仕事観についてこう話す。

     「不動産テック」を標榜し、テクノロジーで不動産投資の世界を変えようとしているスタートアップのリーウェイズ

    テクノロジーの力で不動産投資の世界を変えようとしているリーウェイズ

    「社会の中で生産財があまりに洗練されてきて、モノを作るための財を得るのに、大資本がなくても作れるような状況になっている。むしろ大資本よりも個人のクリエイティビティが大資本に勝つ時代にシフトしている。

    何かプロジェクトを立ち上げる時、最初は人を集めるところから始めるじゃないですか。僕も最初、何かを作りたい時に人を集めることを考えたんですが、突出した個人がないとダメだということに気が付いた。

    どこかから(Apple共同創業者のスティーブ・)ウォズ二アックのような人を見つけてこれればいいのかもしれませんが、その確率、めちゃめちゃ低いし、完全にウォズニアックに依存することになる。答えとしては、自分をウォズニアックにするしかない。そうすれば誰にも依存せず大資本にも勝てる。それ以外に答えはないと思いました。

    そんなことを、大学に入ったころから考えていて。それから独りで籠り始めたんです。要するに時間を能力に変えることをずっとやってきた」

    大塚氏は大学在学中にフランス国営音響音楽研究所(IRCAM)の学会員としてアルゴリズムによる作曲法を研究、卒業後は企業に就職をせずにそのまま独立し個人で仕事を始めた。人口の上位2%の知能指数を有する者たちの国際交流団体『Mensa』(メンサ)の会員でもある。30歳ながら、テクノロジーだけでなく、科学や芸術にも通じている異色の人物だ。

    現在も、その中の一つとして、「趣向学習AI」という人工知能を駆使したコンテンツディスカバリーネットワーク『Ilrsa(イルザ)』の開発を続けている。そんな彼が、なぜ不動産分野のリーウェイズに参画することになったのか。

    そこには、IT化の進んでいない不動産投資のビジネス慣習を、「データ解析や機械学習を駆使して一変させる」という野望があった。

    膨大なデータと機械学習を使い、投資用物件の「将来価値」を予測

    リーウェイズCTO・技術顧問の大塚一輝氏

    リーウェイズCTO・技術顧問の大塚一輝氏(写真提供:リーウェイズ)

    フランスから帰国後、自身の研究を続けながら、個人事業主としてさまざまな開発案件に携わっていた大塚氏。

    当時、大塚氏は独自のレコメンドシステムを用いた『Ilrsa』を事業化するべく、シリコンバレーの投資家のもとを頻繁に訪れていた。そのため、リーウェイズの事業に協力するとしても、おそらくエンジニア採用や技術的なアドバイスの提供に留まるだろうと予想していた。

    「アメリカは自由に表現する場だと思って活動していた。世界中のアントレプレナーと交流し、プレゼン大会にも何度か出た。自分のやりたいことを提示してフィードバックをもらったり。向こうで資金調達をしたかったから。なので、向こうに行っていろいろプロトタイプを作って投資家に見せて……みたいなことをやったり。

    その一つが、音声から感情を読み取るソフトウエアの開発。音楽史のメインストリームは西洋が作ってきたが、20世紀の半ばにシェーンベルクという人が12音技法と言うものを編み出して全てやり尽くされてしまった。調性というシステムでできることは全てやり尽くされて、その先に新しいシステム体系を作ろうと思ったら、それはコンピュータによって作られるんだろうなと。

    フランスには、音響スペクトルを使って作曲をする『スペクトル楽派』というのがあるんですけど、僕はその影響を受けていて、後は自動作曲みたいなものを研究したりしていた。それでスペクトルを扱ってる時、これで人間の感情が読み取れるんじゃないかと考えて、そういう論文を読み漁りながらもっと改良して高度化したらソフトウエアとして成立するだろうと。

    もともとは違う会社、シックスセンスという会社をやっているんですが、そこでは知能システムみたいなものを研究開発していて、知人から『そういうエンジニアを探している会社があるからどうか』と言われてリーウェイズに会いに来た。その時に事業説明を20分ぐらいかけてしてもらって、これは面白そうだなと。最初はレンタルCTOとして参加する予定だったが、徐々にハマっていった」

    リーウェイズは全国2000万件超の物件データを持っており、機械学習を駆使してそのデータを解析すれば、投資不動産の将来キャッシュフローを予測・分析することも可能になる。さらに、そこへ集客、内見、売買契約など不動産売買の過程で発生するプロセスごとに最適な業者を選定・発注できる機能を加えることで、データを軸としたマッチング・プラットフォームが誕生するわけだ。

    同社はこのプラットフォームを『Gate.(ゲイト)』と名付け、今年3月にリリースしている。

    『Gate.』の投資シミュレーション画面。左側の「売却時期」と「購入価格」のパラメータを調整すると、物件ごとの予想売却価格と最終的な総リターンの予測値が即座に算出される

    『Gate.』の投資シミュレーション画面。左側の「売却時期」と「購入価格」のパラメータを調整すると物件ごとの予想売却価格と総リターンの予測値が即座に算出される

    「不動産投資を株式や他の投資活動と同じぐらいインテリジェントな活動にしたい。不動産投資って何だか泥臭かったり主観的な要因が大きくて、前時代的なところがかなり残っているなって思うんですよ。そこにもっとテクニカルな力を使って、洗練された活動にしたいという意図がある。不動産業界は見ている限り超アナログ。全然改良の余地がある。そこをもっとスマートにできるなと思っている」

    仲間集めの基準は「Nerd」であること

    『Gate.』の開発にあたっては、チーム編成にもこだわった。採用基準を一言で表すなら「Nerd(ナード)であることだ」と大塚氏は言う。

    Nerdとは、特定分野の知識を異常なほどの熱量で追求する人物を揶揄する英語のスラングで、日本語ならさしずめ「オタク」に相当する言葉だ。

    「実際に開発者として採用しているのは、素粒子論や、複数動体の行動予測シミュレーションの研究者だったり、いわゆる科学オタクのような人たち。僕自身もSF好きの科学オタクなので、たまたま似た志向を持った人が採用されている面はあると思う。もちろんスキルは前提ですが、面接していて科学や宇宙の話をしたりしているうちに『この人欲しいな』と思っちゃって、採るみたいな感じです」

    ただ、それだけが理由ではないと大塚氏は続ける。

    「日本のヒーローとアメリカのヒーローの違いって何だと思います? 個人的に思っているのは、ハリウッド映画のヒーローはほぼNerdだということ。

    例えばダース・ベイダーって、アナキン・スカイウォーカーの時はバリバリの機械オタク。アイアンマンも科学者。スパイダーマンもバットマンも自分で作る。基本的にみんな自分の道具を自分で作る人たち、つまりはエンジニアだと。

    ハリウッド映画におけるヒーローのエンジニア率ってかなり高いと思って。アメリカという社会は、科学オタクみたいなNerdにすごく期待している風潮があるんじゃないかなと思っている。

    一方、日本はそうじゃない。日本でオタクというと、サブカルチャーのイメージが強いけど、本来オタクは何かを突き詰めてのめり込むような人たち。僕はそういう人たちは好きだし、活躍して欲しいと思っている」

    Nerdが活躍できる環境こそイノベーションを起こせる環境であり、彼らの力を信じることがリーウェイズの開発カルチャーなのだと大塚氏は考えている。

    「カルチャーって、『じゃあこういうカルチャーでいきましょう』と言って、それに合ったような人だけを採用して文化が作られるのかといったら、そうじゃないじゃないですか。ただ『文化』と言っているだけで、別にみんな気にしていない、みたいなことってよくあると思うんですよ。

    本来、カルチャーはそういうものじゃないと思っていて、結局誰かが熱烈に信じる、宗教に近いものだと思っている。鎌倉文化は仏教文化の影響が大きいですが、頼朝が仏教芸術を作らせたから栄えたわけではなくて、禅の思想がちょうど武士の自己啓発のマインドに合っていたから、彼らに受け入れられて、お寺にお金が回ったから文化になった。

    最初は信仰から始まっていて、仏教信奉するリーダーがいて周りも信じ、信じられた人たちもがんばった。それが文化を作るということではないかと思っている。

    科学オタクのような人たちを僕は信じているので、彼らを信じて採用して、また信じるところからカルチャーのようなものが生まれると思っています。別に上から押し付けようというわけでもなく、たまたまそういう人を採用しただけだし、ただ彼らの力を信じるということを大事にしていこうとしています」

    エンジニアやデザイナーという言葉は「遺物」になり始めている

    では、そうしたNerdたちと共に、大塚氏はこれからどのようなチームを作っていく予定なのか。

    「僕は開発者としていわゆるフルスタックデベロッパーで、同時に設計からマネジメントを含む全ての工程をこなしますが、アート寄りの研究をしていたこともあるのでビジュアルも作るし、マーケティングも考える。

    テクノロジーはあらゆる領域と複雑に絡み合い、エンジニアはコードを書きデザイナーはデザインをする、といった従来の労働集約的分業体制はもはや正しく機能しないと思っている。エンジニア、デザイナーという言葉自体が変わる必要があると。今は言葉が時代に追い付いていない感がある」

    もしかしたら、「開発者」や「デザイナー」という呼び名から変えるべきなのかもしれないと大塚氏は熱弁する。

    「多くの先端的学術研究機関がよりゼネラルで創造的な方向にシフトしつつあるように、一つの分野を突き詰めるよりも、越境的なデザインから革新的な製品は生まれるのではないかと思っている。ちょうど西洋の神格化された規範をルーツとする現代芸術が、アジアの美的感覚や商業的と言われてきたコンテクストを取り込み始めているみたいに」

    もちろん、『Gate.』もこうした考えに基づいて開発が進んでいる。個性豊かなNerdを束ね、『Gate.』をどこまでイノベーティブなサービスにできるか。大塚氏の奮闘はこれからも続く。

    取材/武田敏則(グレタケ) 文/編集部

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