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なぜメルカリはUS版も日本で作るのか?山田進太郎氏が試みる、海外展開の新常識【特集:1を100にする開発戦略】

タグ : スタートアップ, メルカリ, 山田進太郎, 海外進出 公開

 

大々的なTVCMを展開、サービス提供から約2年で1500万ダウンロードを突破、ヤマト運輸との提携で全国一律価格での配送を実現、東京・六本木ヒルズへ拠点を移して新卒採用も開始etc……。

フルマアプリ『メルカリ』を開発・提供する株式会社メルカリの急成長ぶりは、多くのメディアで取り沙汰されてきた。そして今、同社の目線は海外へと向けられている。

2014年4月、サンフランシスコ市内に米国子会社Mercari, Inc.を設立し、同年9月よりUS版の提供を開始。2015年に入ってからは、代表取締役社長の山田進太郎氏ら会社の中軸を担う面々が、たびたびサンフランシスコに長期滞在して地盤固めを進めている。

『Mercari』US版のWebページ

「USでのサービスローンチから半年が過ぎ、こちらのCtoCマーケットの特徴が少しずつ分かり始めてきたところです」

そう話す山田氏は、昨年を「ユーザー間で起きる詐欺行為への対処や、パンク寸前だったカスタマーサポートの拡充といった喫緊の課題解決に追われた時期だった」と振り返る。翻って2015年はユーザー拡大で勝負の1年になると意気込むが、日本のスタートアップのほとんどが直面してきた海外進出の壁をどう乗り越えようとしているのか?

その戦略を山田氏に尋ねると、これまで日本のベンチャーが海外展開で採ってきた定石を逆手に取るような考えが垣間見えた。

「US進出で大成功した事例が過去にない以上、僕らも正解なんて分からないし、手探りでやっていくしかない。でも、こちらでマーケットを開拓していく上で、日本企業である強みもけっこうあるんじゃないかと思い始めています」

そう語る山田氏に、主に開発と体制づくりの打ち手を聞いた。

「現地のエンジニアでローカライズ」をやらなかった理由

昨年9月、メルカリUS版をリリースした際に話題になったのは、すでに展開していた日本版のアプリデザインを刷新し、世界共通のUIにしたという点。

US版の『Mercari』は、日本版のアプリと同じデザインになっている(2015年6月時点)

双方でフラットデザインを採用した理由は過去記事に譲る(参照記事)が、その決断の一端には同社の開発体制があった。

「US展開にあたり、そもそもどういった開発体制にしていくべきかは今も模索中です。ただ現時点では、デザインのみならず機能開発も、日本のプロダクトチームがUS版と日本版の両方を担当しています。現在行っている日本でのエンジニア採用も、『SFオフィスでも働けるエンジニア大募集!』と謳っていたりします」

USオフィスには現地で採用したデザイナーが若干名いるそうだが、開発エンジニアはゼロ。必要に応じて、日本のエンジニアにサンフランシスコへ長期出張してもらう形で対応しているという。

これまで、日本企業の海外進出では「現地拠点を作り、現地のエンジニアの手でローカライズを進める」のが定石とされてきた。現地のユーザーが好む機能やテイストは、現地の人間が最も分かっているという考えからだ。

しかし、メルカリがこのやり方を踏襲しなかった背景の一つには、採用面での課題がある。

さまざまなメディアが報じている通り、今、サンフランシスコ~シリコンバレー周辺ではエンジニアやデザイナーの採用コスト・人件費が高騰している。Google、Apple、Facebookといったメガカンパニーの活況に加え、UberやDropboxなど新たなグローバルベンチャーも多数台頭。作り手の獲得競争は熾烈を極めている。

日本でもベンチャーブームなどを理由にエンジニアの採用難が叫ばれているが、サンフランシスコは比較にならないと山田氏は明かす。

「日本だと年収1000万円を提示すれば何とか採用できるようなエンジニアが、USだと2000万円を提示しても採用できない。そんな状況で、まだまだアメリカでの知名度が低いメルカリがエンジニアを採用しようとしても、他のテクノロジー企業に勝てないという現実があります」

であれば、まずはムリに現地でエンジニア採用を進めるより、日本のプロダクトチームが日米双方のアプリを“磨き込む”方がいいと判断したわけだ。

マーケットの特徴こそ日米で違えど、「サービスの立ち上げ時はプロダクトを磨き込むことが最重要だという点は変わらない」と山田氏は続ける。良いプロダクトがなければ、どんなに優れた拡大戦略も意味をなさないのは、説明するまでもないだろう。

そしてこの「プロダクトの磨き込み」に関して、日本のエンジニアは世界的に見て非常に高いレベルにある。また、複数拠点に開発が分かれるとコミュニケーション・コストが非常に高くなってしまう。

だからこそ、メルカリは「ローカライズ(地域化)」ではなく、日本を拠点とした「インターナショナライゼーション(世界中のユーザーを想定した開発)」の道を選んだのである。

VPクラスを現地で口説く際は、日本での成長を武器に

サンフランシスコ市内にあるMercari,Inc.のオフィスを取材で訪れた際のワンショット

とはいえ、メルカリはUSならではのマーケット特性を無視してユーザ獲得を進めているわけではない。

米国子会社のかじ取り役に、USでゲーム関連事業を展開するRock You Inc.の創業メンバーだった石塚亮氏を送り込んだのは、同氏の「肌感覚」を頼ったから。山田氏や同社のエンジニアがたびたびサンフランシスコへ長期滞在しているのは、ユーザビリティテストを頻繁に行うなどUSならではのニーズを把握しながら開発を進めていくためだ。

上記で「難しい」と書いた現地採用でも、開発エンジニアを採用していない代わりに、事業推進を担うプロダクトマネジャーやVP(バイスプレジデント)クラスの人材は積極的に口説いているという。

これまた、過去に少なくない日本企業が行ってきた「日本から現地法人の要職に就く人を派遣する」パターンと異なるやり方に挑戦しているのは、2つの理由がある。

一つは、やはりと言うべきか「US展開はUSオフィス主導で進めるべきだから」で、もう一つは「日本では採用できない人材を確保するため」だ。

注目したいのは後者について。USは、日本よりも事業を動かすスキルに長けた人が多いと山田氏は言う。

「例えば日本でエンジニアリングとプロダクトマネジメントの両方に精通した人を探すとなると、一気に採用候補者の数が減ります。一方、USだとプロダクトマネジャークラスでも『エンジニア経験に加えて多国籍なチームのマネジメント経験もあって……』という人材がいたりして、候補者を見つけやすいんです。意識的にそういう経験を積もうと考えて動く人が多いからでしょうね」

では、エンジニアの現地採用すら難しい状況下で、より上位職種の人材をどうやって採用しようとしているのか?

「アプリビジネスのグローバル展開を手掛ける機会を求めている人にとって、メルカリは悪くないポジションにいると伝えています。『CtoCビジネス×モバイル』というまだまだ未開拓な領域を攻めているベンチャーはUSにもそうないという点に加えて、日本での事業基盤が安定し始めたタイミングなので日米で大胆な施策を打っていくことも可能で、特にUSにおいては権限移譲を進めるのであなたの裁量が大きいと。

一般論として、日本企業は海外展開時の現地採用が難しいと言われてきましたが、強みと弱みをきちんと認識してアピールポイントをひねり出せば、何とか戦えるんじゃないかと感じています」

「価値観」を妥協した瞬間に拡大戦略は失敗する

こうしてファンクションごとに採用戦略を変えながら体制づくりを進めるメルカリも、現時点ではUSマーケットにおけるチャレンジャーの域を出ていない。同社のやり方が、日本からグローバル展開する際の新たなスタンダードとなるか否かを判断するには、今後の動向を見守る必要がある。

山田氏もそれは承知の上。「グローバル展開のロードマップはあるけれど、結局は状況に応じて優先順位を変えながら動くことが重要」と何度も口にする。

ただ、そんな中でも確信を持って貫いていることが一つある。今後の事業拡大の中で、日本オフィスとUSオフィスで“2つのメルカリ”に分かれていったとしても、採用する人材のカルチャーフィットだけは共通の基準で見極めるという考えだ。

「この軸を大事にしているのは、(メルカリを起業する前に務めていた)Zynga Japanのジェネラルマネジャー時代に学んだことが大きく影響しています」

「学んだこと」とは、日本とUSにおける働く人の価値観の違い。USでは、プロフェッショナルたちが専門職として仕事をこなすことが時に分業化を進めてしまい、組織的な機能不全に陥ってしまう局面が日本に比べて多いという。

「そうならないためにも、メルカリが掲げているバリューの一つである『All for One – 全ては成功のために』を理解してくれる人かどうかは採用の時も最重要視しています」

日本的な「和」の考えを尊ぶ人はUSにもいる。マーケットに適応すべきところはしながら、過度に現地化を意識せずメルカリらしい体制を作っていくというスタンスは、複数拠点を持ちながらも柔軟な意思決定を行う際にも役立つだろう。

USオフィスを訪れた際、入り口付近を通り掛かった社員がすかさず「Would you like something to drink?」と声を掛けてくれたのは、山田氏の言う価値観が浸透している表れだったのかもしれない。

取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)

>>特集:1を100にする開発戦略




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