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「1000以上のアプリに触れることは当然」グッドパッチ土屋尚史氏が語る、UIでサービスをグロースさせる方法【特集:1を100にする開発戦略】

タグ : Prott, グッドパッチ, 土屋尚史 公開

 

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2015年5月、マッキンゼー・アンド・カンパニーが、AppleやMicrosoft、Nikeなどをクライアントに持つデザインコンサルファームLUNARを傘下に収めたことを発表した。

また、2014年にも米国の金融会社キャピタル・ワンが、「Ajax」の名付け親ジェシー・ジェームス・ギャレットと「blog」の命名に携わったピーター・メイホールズが共同経営者を務めるデザインコンサルティング会社Adaptive Pathを買収したというニュースがあった。

このように、海外では今、デザインファームの相次ぐM&Aがメディアを賑わせている。この一連の流れから察するに、製品やアプリの機能開発と同等かそれ以上に、デザインが求められる時代が到来しているのかもしれない。

一方、日本はどうだろう。

2013年にDeNAが、2015年にはサイバーエージェントが、コーポレートロゴを変更した。日本国内でも一部では、クリエイティブシフトへの考え方が進んでいるという見方もある。

そんな時代に、デザインの力によってサービスやプロダクトをスケールさせるには何をすべきなのだろうか。その答えを聞くために、UIデザインエージェンシー・グッドパッチのCEO土屋尚史氏を訪ねた。

サラリーマンを辞めてサンフランシスコから帰国後、約4年で同社を60名の規模にまで拡大させた土屋氏が語ったのは、日本のテクノロジー企業がデザインへの関心を高めるべき理由と、デザイナーが良いUIを生み出すために必須と言える思考と行動だった。

スマホ革命後、デザインの重要性がより問われる時代へ

2011年9月に設立したグッドパッチ。2015年4月にはドイツ・ベルリンにオフィスを開設するなど、グローバルでの発展を続けている。海外で相次ぐデザインファームのM&Aについて、土屋氏はこう考えている。

「デザインファームの買収はテクノロジー企業が発端です。2011年ごろから、GoogleやFacebookなどの企業が、デザインファームだけでなくデザインの優れたアプリディベロッパーをM&Aしています」

例えば、メールアプリの『Sparrow』はGoogleが、元AppleのデザイナーでiPhoneのスライドロックをデザインしたマイク・マタスが設立した電子書籍出版の『Push Pop Press』はFacebookが、それぞれを買収。技術だけではなく、今後は優れたデザインが必要だと理解していることの表れだろう。

その後、マイク・マタスはFacebookでiPhone向けアプリ『Paper』や、2015年5月に発表されたばかりの『Instant Articles』のデザイン設計を担い、大きな功績を残していると土屋氏は補足する。

なぜ、テクノロジーベンチャーからコンサルファームまでさまざまな企業が、デザインを重要視し出したのだろうか。土屋氏はスマホの普及が転換期だと捉えている。

「スマホアプリが広がったことで、企業がフリーミアムでマネタイズする考え方に時代がシフトしましたよね? ユーザーがプロダクトを吟味し、検討してから購入する時代から変化したんです。無料化が定着したことで、『とりあえずダウンロードして使ってみよう』という考え方になった。そして使ってみた後に、操作しやすいデザインのモノや好みに合うモノを選ぶわけです」

デザインに力を注がなければ、多くのモノを“試験”できるユーザーから継続して選ばれるプロダクトにはなり得ないという。優れたインターフェイスでなければ、ユーザーが苦痛を感じるためだ。

では、ユーザーに「苦痛」を与えないUI設計はどうすれば実現できるのだろうか。

UIはゼロイチを繰り返す必要がある

「サービスの立ち上げ、つまりゼロイチをやる時には、過去のデータは参考にできないこともある」と前置きした上で、1→100のUI改善についてはデータが重要だと土屋氏は語る。

「既存のデータとユーザーの行動履歴などを掛け合わせて、いかに効率よくサービスをスケールすることを考える。細かいテクニック論が重要になってきます。例えば、会員登録動線や離脱のポイントを改善するなどですね」

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Money Forward』はデザインリニューアル後、金融機関登録11%アップを達成したという(2014年8月時点)

だが、1→100のフェーズだとしても、UI設計ではゼロイチを行っているケースもあるという。

例えばグッドパッチが『Money Forward』のUIデザインを担当した際は、アプリをゼロから作り直している。事業全体から見れば1→100の改善だとしても、プロジェクト単位だと、ゼロイチが繰り返されることもあるということだ。

「サービスのリリース後、継続して改善をするわけですが、その中でゼロイチをやるフェーズは必ずあります。サービスを大きくスケールさせるタイミングですね。小さな改善だけでは、1→100はなし得ないと思いますよ」

デザイナーとして、悪い意味で肥えた目になっていないか

UIデザイナーが持つ細やかなテクニックとデータを駆使して、UI改善は行われる。最近では、グッドパッチにもアプリをグロースさせるUI改善の仕事依頼が増えてきたそうだ。

「グロースの仕事では、定性調査と定量調査を両方担っています。ユーザーインタビューもやりますし、アンケート調査もやります。そこで出た課題を抽出して、改善点を書き出す。そして、優先付けして改善対応をする。UIを大きく変更しなくても、ユーザーの直帰率が10%以上下がるなど、大きな改善はできるんです」

なぜ、グッドパッチのチームがジョインしただけで、数字が大きく変わるのか。土屋氏の所感として、インハウスのデザイナーは、自社のサービスが抱えているUIの課題が見えなくなっていることが多いという。

「UI改善のプロジェクトを外から見てみると、当たり前に考えれば何が課題なのか分かることが多いんですね。これは、内部のデザイナーが、サービスに対してユーザー目線が抜け落ちているということです。どう考えても使いにくいことが、長い間サービスに携わっていることで、分からなくなっている。固定概念を捨てて、ファーストユーザーの目線になって使ってみれば、きっと分かると思いますよ。『これ、使いづらい!』って」

だが、クリエイターとして「ユーザー目線」を持ち続けることは非常に難しい。「このテーマはグッドパッチでも議論になったことがある。前提として、デザイナーがゆえの発想やモノの見方が、ユーザーとかけ離れすぎてはいけない」と振り返った上で、2つ重要なポイントがあると続ける。

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マスな情報に触れ続ける意義を土屋氏は説う

「1つはユーザーと対話すること。ユーザーがプロダクトのどこに課題を感じているのかを、定期的に聞く。ウチが出しているプロトタイピングツールの『Prott』が、ユーザーミートアップを開いているのもこのためです。物理的に触れ合う機会を増やすことが大事ということですね。

次に、常にニュートラルな視点を持つこと。どんなアプリを使っていても、自分はユーザーなわけです。アプリを使っていて、操作性で疑問を感じる瞬間って必ずあると思います。

ちなみに僕の場合、iPhoneの中にアプリが700以上入っています。累計で見ると1000以上はダウンロードしてますね。常に新しいモノに触れ続ける。そして、何が良いのか? 悪いのか? を自分の目と体で理解することが大事だと思いますよ」

UIデザイナーはユーザー側から見ると「マイノリティ」だ。当然、モノの見方、感じ方が異なる。感性豊かな少数派が、自信を持って世に出したUIが、一般ユーザーに受け入れられないケースの1つに、この理由が存在している。

「また、IT業界に身を置いていると、情報が偏ってしまう人が多いわけですよ。僕は、めっちゃTV見ますし、ドラマもすごく見てます。マスな情報に触れることが大事なんですね。ヤフーニュースもそう。そういった情報にもリーチしていくことに意味があると思うんです」

この業界の動向や新しい技術、ツールにアンテナを立てるのは当然のこととして、あえてマスに身を置き、同じ感覚を持ち続けることも大事だと土屋氏は提言する。

「最近は、スタートアップが大型の資金調達を行った後にマス広告を打つケースが増えてますよね? TVCMを使ったりしながら、一気にアプリのダウンロード数を伸ばすわけです。それだけ、マス広告を見ている人は多いんですね。

この業界に居ると『誰がTVを見ているのか』なんて話をしたりしますが、やはり業界外の方々はドラマやバラエティ番組を見ています。結局お金を使ってくれるのは、そうしたマス側の人たち。その人たちがどういうモノを見て、何を感じているのか? この点をちゃんとキャッチアップするって、すごく重要なことなんです」

フィードバックを受けることを習慣化する

では、デザイナーが優れたUIを生み出すために実用的な手法とは何か。

グッドパッチでは、週に1度スタッフ全員でプロジェクトのレビューを行っている。プロダクトを磨くためのポイントとして、フィードバックを受けることが重要だという。

「プロジェクトの進行中に、フィードバックやレビューのポイントをたくさん作る。これがやっぱり重要でしょう。まず、そうした文化を作ることが大切です」

文化を作ることは口で言うほど簡単なことではない。その点を理解した上で、土屋氏はプロトタイピングの重要性を説いた。

「なるべく早く作ったモノを動かして、触れる状態にする。つまり、プロトタイピングを行う必要があります。触れる状態になれば、チームメンバーや周囲のスタッフからフィードバックのポイントが出てきます。『ここが良い、でもここがイマイチ』などですね。結局、動くモノができていない紙の状態だと、ディスカッションの意味がないんですよ」

プロトタイピングの文化を作ることは、既存のデザインプロセスを変革する必要があるため、高いハードルとなるケースもある。ただし、乗り越えた先に良いモノができる体制が生まれると土屋氏は考えている。

旧態依然とした意思決定者は席を譲るべき

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プロダクトオーナーがデザインを理解すべき理由は歴史が証明しているという

公表できるプロダクトだけでも、『Flat』や『SoftBank Corp.』、『キャリアトレック』など、認知度の高いアプリのUI開発に携わってきたグッドパッチ。だが、同社に依頼すれば、全てのサービスがグロースするワケでない。

失敗する確率が高いケースは、ある程度決まっているという。

「良いデザインやサービスは多様性から生まれます。1つのモノを作るために、多くの意見を交換しながら作るということですね。ウチがチームでプロジェクトに臨むのもそのためです。逆に旧態依然とした組織や意思決定者がデザインの価値を『コスト』と考えているケースや、サービスに理解を示す姿勢がない場合は、非常に残念ですが成功するのが難しくなる傾向があります」

顧客目線を忘れ、デザインが持つ意図にも気付けないリーダーは、すぐに予算と意思決定権をデザインが理解できる人材に明け渡すべきだと土屋氏は考えている。

「AppleやGoogle、Facebook、Microsoftなど、時代を変えてきた企業は、全て20代の起業家の手によって生まれているんです。若い時の感覚で世の中に求められるものを作り、イノベーションが起こりました。テクノロジーだけでは差別化を図ることが難しい今、『デザイン』を投資であり、価値のあることだと理解していることが重要なんです」

B向けのプロダクトにも楽しさが必要

最後に、忘れてはいけないことがもう1つだけあると土屋氏は明かす。優れたデザイナーは遊びゴコロを持っているということだ。

「僕は2014年の1月から『Slack』を使っているのですが、数分で分かりました。『これは良いプロダクトだ』と。満遍ない機能もそうですが、デザインもすごく使いやすい。また、B向けのプロダクトですが、C向けの要素である『楽しさ』を含んでいたことが、ヒットにつながったと思います」

これまでB向けのプロダクトに、楽しさは求められていなかった。だが、『Slack』がビジネスツールにも楽しさを提供したように、時代はさらに変化してきたのかもしれない。

優れたプロダクトにはファンが付くもの。そして、ファンを獲得するためには、やはりデザイナー自身がデザインを楽しむべき、と土屋氏は眼を細め、笑顔を浮かべた。

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Prott』のキャラクターtimとrobo。細部にこだわるデザイナーのセンスが表現されている一部だ

「当社のプロトタイピングツール『Prott』には隠しコマンドがある(参照記事)のですが、実は他のところにも仕掛けを入れています。プロジェクトが上限に達していて、アップグレードをする際、『プランを詳しく見る』のボタンの上にマウスを置くと、キャラクターが喜ぶでしょ? メッチャあからさまですが(笑)。

こうした細部での楽しさを忘れないことって、デザイン性だけでなくデザイナーの考え方としても、やっぱり大事なんですよ」

取材・文/川野優希(編集部) 撮影/赤松洋太

>>特集:1を100にする開発戦略




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