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24歳のエンジニアが考える、教育イノベーションの未来(前編)【連載:上杉周作②】

タグ : IT業界, Web, Webサービス, イノベーション, イノベーティブ, シリコンバレー, スタートアップ, 上杉周作, 教育業界, 開発 公開

 
上杉周作の「From Silicon Valley」 ~IT最先端の”今”に学ぶ~

エンジニア / デザイナー

1988年生まれ。小学校卒業と同時に渡米し、カーネギーメロン大学でコンピューターサイエンスを学ぶ。米Apple、米Facebookにて、エンジニアとしてインターンを経験した後、実名Q&Aサイト『Quora』のプロダクトデザイナーに。2011年7月に慶應義塾大学で行われた講演が好評を博し、日本のIT・Web業界でも名を知られるように。2012年3月にQuoraを退職。現在はシリコンバレーのとある教育ベンチャーにて、パートタイムでエンジニアとデザイナーを兼任している

革新と革新の間には親子関係がある。

例えば「マイクロブログ」と呼ばれるTwitterの親はブログだ。何しろブロガーという言葉を発明したのはTwitterの創業者である。「写真のSNS」Facebookはスマホ時代にInstagramを産み、養育費800億円で買収した。「プライベートSNS」と叫んだmixiはLINEを身ごもってしまった。

だが親の跡を継げる革新はごく少数だ。「写真SNS」から生まれた「スマホ写真SNS」兄妹を例に取ろう。Instagramの兄貴分Hipstamaticは2009年にデビュー、翌年アプリ大賞を獲ったが失速。社員5人を先月クビにした。そして2012年秋、Facebookへの写真アップロード機能がiOSに付属。スマホ写真SNSの存在意義は半減した。早すぎず遅すぎず生まれたInstagramが跡継ぎというわけだ。

この連載のテーマである教育の革新もまた、ほかの革新から生まれ、熾烈な跡継ぎ争いを繰り広げている。前編の今回は「ソーシャルの革新」、「APIの革新」を継ぐ教育の革新について紹介したい。

ソーシャル×教育の雄、Edmodoの登場

ソーシャルが産んだB2BのYammer
FacebookやTwitterなどのソーシャルの革新は世の中を変えてしまった。例えばB2Bの世界における革新だ。

代表格のYammerは「社内コミュニケーション用のFacebook」と言えよう。ウォールに投稿することが報・連・相になり、「了解しました」メールの代わりに「いいね」するわけだ。そのYammerは400万ユーザーを獲得し、Microsoftが1500億円で買収。B2Bの世界でソーシャルの跡継ぎとなった。

ソーシャルが産んだ教育のEdmodo
一方、教育の分野ではEdmodoという子供が生まれた。前回も紹介したEdmodoは、学校教師と生徒の間のためのFacebookである。下のデモビデオをご覧になれば分かる。

EdmodoもまたFacebookの機能を教育向けに改良している。ニュースフィードがクラスの連絡網になる。先生が「テストの範囲について何か質問ある?」と投稿し、生徒がコメントするわけだ。グループ機能もあり、班ごとのコミュニケーションに使える。写真をアップロードするように課題を提出できる。テストの予定日も、友だちの誕生日のように表示されて忘れない。先生は「今、分数を教えている」とチェックインすれば、分数を教えている世界中の先生と意見交換ができる。

プラットフォーム化するEdmodo
Facebookが開発者のプラットフォームになったように、Edmodoもプラットフォーム化に積極的だ。Edmodo上のアプリストアで開発者は教育アプリを公開できる。「明日の宿題はこの100マス計算アプリ」というのが当たり前になる。

開発プラットフォームとしてもEdmodoは魅力的である。 Edmodoには「こういうアプリが欲しい」と先生が開発者にアイデアを提供する掲示板がある。「100万マス計算アプリを作ったが売れなかった」という失敗を、開発者は避けることができるのだ。

ライバルを寄せ付けないEdmodo
Edmodoは昨年12月に20億円、今年7月に30億円近い調達を行い、LinkedIn創業者のReid Hoffmanが社外取締役となった。先日の発表によると、ユーザーは1000万人を超え、そのうち100万人は教師で、10万校以上の学校に使われている。教育アプリ開発者はこれだけのユーザーにリーチできるわけだ。

アメリカ以外にも、オーストラリア、フィリピン、アルゼンチン、コロンビア、カナダ、メキシコ、イギリス、ウルグアイ、スペインで大人気だ。一分間の新規ユーザーは43人とされ、日本の6-18歳人口1540万人をあと3カ月で抜く計算である。

ユーザー数で勝るEdmodoには誰も太刀打ちできないかもしれない。教育システムは変化が遅いため、学校が一度採用したシステムは変えにくいからだ。

“中の人”からもそんな自信が窺える。先月Edmodoのシリコンバレー本社でランチをする機会をいただき、まだ20代の社長や幹部らと話してきた。就活中だったわたしは、「Edmodoも良いけど、シリコンバレーならKhan Academyもエンジニアに人気だよね」と茶化してみた。すると「Khan Academyは、われわれのプラットフォーム上で動くアプリの一つにすぎない」と幹部に一蹴された。

いつの世も儲かるのは地主である。どちらの会社もわたしのアパートから運転して20分以内だが、立ち位置はかなり違うようだ。

というわけで、わたし個人はEdmodoが教育におけるソーシャル革新の跡継ぎだと思っている。ソーシャル×教育で新規参入するのはもう手遅れかもしれない。ではまだ可能性がある分野はあるのか。APIの革新を次に見てみよう。

ソーシャル×API、革命の鍵を握る2サービス

前回の連載記事がエンジニアだけでなく教育業界に従事する方にも多く読まれたそうなので、まずその方々向けにAPI (Application Programming Interface) について簡単に説明しておこう。APIとは、「プログラムがサービスを使いたい場合の手法」である。

例えばTwitterでは、わたしのツイートを見たければhttps://twitter.com/chibicodeに行けば良いが、Ruby言語のプログラムなら「require ‘twitter'; puts Twitter.user_timeline(“chibicode”)」と書けばわたしのツイートを取得できる。

初めからRubyにこの機能が備わっているわけではなく、require ‘twitter’の部分がTwitterのAPIを読み込んでいるから可能なのである。APIが提供されていれば、プログラムも人間と同じようにそのサービスを使えるということだ。

・APIの革新とは「古いサービス」のAPIを作ること

では、APIの革新とは何なのか。そもそもプログラムが使いたい「サービス」は、「Webサービス以前のサービス」でも構わない。例えば電話はWebサービス以前に登場したサービスであり、最近まで「人間に代わりプログラムが電話を掛かけること」はとても難しかった。

APIの革新とは、そういった古いサービスもプログラムが使えるようにすることである。

2009年にローンチしたTwilioが電話のAPIを提供したことにより、プログラムが簡単に電話を掛けられるようになった。例えば世論調査で何千人規模の電話アンケートを取りたいとする。質問が3つあり、それぞれ数択の答えがあるとしよう。

人をたくさん雇ってもいいが、今なら人件費をまったく使わないで済む。 Twilioを使って下記のようなプログラムを書けば、XXX-XXXX-XXXXという番号に電話を掛け、録音していた質問のメッセージを流し、質問のあとにユーザーがキーパッドで押した番号を記録できるのだ。

何千人どころか何千万人にアンケートを取ってもコストは増えない。このようにプログラムが古いサービスを使えるようになると、それまでに不可能だった規模のことができる。このスケールメリットこそがAPIの革新による可能性である。後にこの点に戻るので覚えておいてほしい。

・ APIの革新が産んだ教育のCleverとLearnSprout

Twilioは去年までに40億円を調達し、電話以外の古いサービスに新たな革新を産んだ。人力翻訳のAPIを提供するGengoやクレジットカード決済のAPIを提供するStripeなどである。

そしてAPIの革新は教育にも影響を及ぼした。その跡継ぎを争うのがCleverLearnSproutといった「学校データのAPI」である。どういうものか説明しよう。

アメリカの学校のほとんどは生徒、先生、授業などの情報をデータベース化している。生徒が履修する授業や成績はもちろん、肌の色から持病まで多様なデータが記録されている。

しかしアメリカは広い。データの管理方法は地域ごとに異なる。マイクロソフトの最新ソフトを使っている学校もあれば、オープンソースのソフトでやりくりしている学校もあるだろう。実に100種類以上のシステムが全米で運用されているという。

つまり、学校のデータベースを利用したアプリを開発者が作りたい場合、それぞれのシステムにアプリがいちいち対応しないといけない。それを肩代わりしてくれるのが「学校データのAPI」CleverとLearnSproutである。

両者の違いは少ないのでCleverを例にしよう。Cleverが対応している学校に暗証番号をもらえば(DEMO_KEY)、次のコードでその学校生徒全員の誕生日、性別、学年、人種、住所、写真、履修している授業の情報を取得できる。

 

「生徒のプライバシーは?」と叫ぶ必要はない。もともと、学校が許可さえすればこうしたデータに開発者はアクセスできたのだから。暗証番号があるのはそのためだ。開発者にとってCleverとそれ以前の違いは「多様なデータシステムに対応を迫られるか、Clever一つに対応すれば良いか」の一点だけである。

今のところ誕生日、性別、学年、人種、住所、写真、履修している授業のIDとその先生のIDを取得できる。成績などのデータはもうすぐ対応するようだ。

一番の利点は、アドレス中のIDを変えるだけで別な学校のデータを取得できることだ。例え違うシステムで運用していても、Cleverに対応していれば良い。現在Cleverは全米の学校で使われている60%以上のシステムに対応しているという。

学校データのAPIとスケールメリットで解決できる、大学受験の仕組み
では「学校データのAPI」のおかげで解決できる問題はどんなものか。先ほど述べたような「スケールメリット」で解決できる問題を紹介しよう。

アメリカは大学入試が筆記試験ではなく書類選考で決まる。わたしもアメリカの大学を出たが、受験では大いに悩まされた。

学校によって異なるが、アメリカのトップ大学の書類選考の基準はだいたい1/4が学校の成績、1/4が統一テストの成績、そして1/4がリーダーシップの経験/特殊技能の持ち主かどうか(スポーツ、音楽、芸術系が多い)、そして1/4が生まれである(両親と同じ大学を受けたり、ヒスパニック系の移民だと受かりやすい)。もちろん大学は基準を公開していないため、これは自分の経験に基づく推測である。

つまり1/4は全国均一だが、3/4はそうではない。だから日本と違い、偏差値や全国模試などで受験生は自分のレベルを測ることができない。

例えば「◯高に通う1年生で、人種は◯で、学校の成績は◯で、統一テストは◯点で、◯部で一軍入りした」ジョン君がいたとする。ジョン君が「僕がハーバード大学に受かる確率は?」と言っても、「分からない」としか答えようがないのだ。

だが仮にジョン君と同じような環境、成績、経験を持つ「過去の」高校生を探し出し、その中の何割がハーバード大に合格したかを調べれば、この問題を解決できる。

このためには、ジョン君の学校だけでなくアメリカ中の学校のデータを解析する必要がある。そこでCleverやLearnSproutの出番だ。学校からデータへのアクセス権をもらえば、開発者はすぐさまビッグデータ解析を始められる。

限られた地域の学校だけでなく、全米中の学校のデータを使った解析アプリを作りやすくなる。これが「学校データのAPI」の底力である。

APIの革新の跡継ぎはもすうぐ決まる
CleverとLearnSproutはまだローンチしたばかりだが、両チームにはシリコンバレー屈指の人材がそろっている。ハーバード大卒3人+エール大卒1人、そのうち2人が中学校で教師をしていたCleverチーム。Facebookのディレクター、Microsoftのディレクター、Googleのエンジニアが立ち上げたLearnSproutチームの競争は激しい。どちらかがAPI革新の跡継ぎになるのは時間の問題だろう。

まとめると、APIの革新により古いサービスをプログラムが使えるようになれば、スケールメリットが効くアプリが活きてくる。学校データを均一に扱えるような試みもその一つで、CleverとLearnSproutのどちらかが革新のカギとなるだろう。

理想論者は不要。弱肉強食の教育ベンチャー

イノベーションとはイス取りゲームである。教育の世界でもそうだ。空席は刻々と少なくなっている。ソーシャルのイスはEdmodoが掴んで離さないし、APIのイスではCleverとLearnSproutが押し合っている。

「教育を何とかしたい」という方に、日本でたくさん出会った。だがイス取りゲームの音楽が止まったことに気付かず、理想論を語る人がほとんどだった。音楽が止まってからどのイスを狙うかを考えようとする、平和ボケした人がほとんどだった。

だが音楽は止まってしまい、シリコンバレーの雄たちにスタートダッシュを切られたのが現状なのである。わたしも半年前、仕事を辞め教育での起業を考えた。だがしばらくして、自分が狙っていたイスはもうないことに気付いた。

何とか見返したいと思い、わたしは今シリコンバレーの教育ベンチャーで見習いをしている。そこで学んだ経験をもとに、次回の連載記事では「教育を何とかしたい人に、まだ残っているイス」を紹介したい。

ただし、生半可な覚悟でメモは取らないでほしい。シリコンバレーでは家賃を減らすため車に住んで起業する人がいる。教育での起業も同じ。それだけのストイックさがないと生き残れない。「子供の未来を考えよう」といった綺麗事を、語る余裕はないのだ。

(後編はコチラからお読みいただけます)




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