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ドラえもんの「ひみつ道具」を作り出した男たちに学ぶ、異業種コラボの可能性【特集:New Order】

タグ : aircord, TASKO, ひみつ道具, ドラえもん, 協業, 四次元ポケットPROJECT, 富士ゼロックス, 木村匡孝, 橋本俊行 公開

 

「協業」。それはエンジニアにとって、実に魅力的な場だ。異なる強みを持つ人と手を組むことで、それぞれの実力が掛け算され、大きな成果を上げることが可能。また、他業界で活躍するプロの働きぶりを見て刺激を得られるなど、異業界コラボならではの楽しさを味わうこともできるからだ。今回紹介する「四次元ポケットPROJECT」は、富士ゼロックスが企画した協働プロジェクト。複数の中堅・中小企業が結集し、ドラえもんの「ひみつ道具」である「セルフ将棋」の制作に挑戦するプロジェクトだ。このプロジェクトに参画し、中心的な役割を演じた2人にその流れ、協業の楽しさと苦労した点などを聞いた
プロフィール

株式会社TASKO 設計製作事業部 工場長
木村匡孝氏

1981年生まれ。明和電機を経て独立後、「いわゆるバカ機械や誰に頼んでいいか分からない機械」の制作を手掛ける。2012年、TASKOの立ち上げに参加。ももいろクローバーZの紅白歌合戦用ステージ衣装、Perfumeのカンヌ国際広告賞衣装の一部、『Z-MACHINES』なども担当した

プロフィール

株式会社aircord チーフプロデューサー/テクニカルスーパーバイザー
橋本俊行氏

1980年生まれ。aircordとして、インタラクティブ映像システムの開発、映像演出、アプリケーション開発などを手掛ける。ADFESTグランプリ、カンヌシルバー、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品などを受賞している

―― 橋本さんと木村さんが参加した「四次元ポケットPROJECT」は、富士ゼロックスが旗振り役だったそうですね。同社が提供する企業同士のコミュニケーションを促進し、ドキュメント共有を支援するITソリューションを活用することで、中小・中堅企業の力を結集して「面白いこと」ができないかと考えたのがプロジェクトのきっかけだったと聞いています。

木村 そうなんです。

―― お2人は、富士ゼロックス側から「ドラえもんのひみつ道具づくりに挑戦しましょう」という話を耳にした時、どう感じられましたか?

木村 何しろ、子供の頃から読んでいた『ドラえもん』ですからね。その「ひみつ道具」を作れると聞いて、それはワクワクしましたよ。

橋本 僕も興奮しましたね。僕も木村さんも、『ドラえもん』を通ってきた世代ですから。ただ、どこにもなかったモノをゼロから作ることは、簡単ではないだろうとも思ってました。

木村 何しろ、参考資料は2枚の画像だけでしたからね(笑)。

富士ゼロックスの特設ページにある『セルフ将棋』の図

富士ゼロックスの特設ページにある『セルフ将棋』の図

橋本 そうでしたね(笑)。僕らが挑戦した「セルフ将棋」は、『ドラえもん』の本編ではなく、『ひみつ道具大図鑑』だけに掲載されてるんです。だから、そこで紹介されていた2枚の絵だけを元に作るしかなかった。

木村 それで最初のころは、富士ゼロックスや橋本さんなどと一緒に「この部分はこんな機能に違いない」なんて話し合いながら、案を煮詰めていきました。

―― プロジェクトの中で、橋本さんと木村さんは、それぞれどのような役割を果たされていたんですか?

橋本 aircordではプログラム開発を担当しました。取り組んだのは、大きく分けて4つ。「ロボットアームを動かすプログラムの開発」「将棋の駒を解析する画像解析の開発」「将棋エンジンプログラムの開発」「モニターに表示される映像のプログラム開発」です。

モニターに表示される映像のデザインはspfdesign Inc.の鎌田さんに、将棋駒の制作は将棋駒メーカーである中島清吉商店の中島さんにお願いをしました。

木村 わたしが担当したのは、筐体の設計・開発です。まずは全作業の起点となる設計図面を作成。それを仕様書に落とし込んで、堀越精機の佐藤さんにロボットアーム部品を、島田工作所の嶋田さんに筐体板金製作をお願いしました。

―― 6社の間でさまざまなやりとりをされたと思うのですが、どんな方法を使いましたか?

木村 設計図や仕様書は、富士ゼロックスのクラウドサービス『Working Folder』を使い、各社で共有していました。外出先でもファイルを確認できるようになったため、他社とのやりとりは劇的に便利になりましたね。中でも、島田工作所とはFAXでやりとりすることが多かったのですが、先方からいただいたFAXのイメージが共有フォルダ上で確認できるのは、本当に大きかったです。

橋本 ほかにもメリットはありましたね。クラウド上に図面や仕様書などのデータを置いておけば、開発中に必要になった情報をいつでも参照できます。それに、ファイルがアップロードされるとメールで通知が来ますから、他社の皆さんの作業状況が何となく伝わってきます。それで、こちらとしてもスケジュールを立てやすくなるんです。

木村 セキュリティーの面からみても、安心して活用できるインフラが整備されてきたことは、他社と協業する上でずいぶん助けになっていると思います。

手を動かして、「イメージを強くつかむ」ことから出発した

――できあがった「セルフ将棋」は、原作に忠実な仕上がりですね。これは、富士ゼロックス側からの依頼だったのでしょうか?

木村 いや、特にそうした話はなかったですね。ただ、皆で相談しているうちに、どうせなら本物そっくりに作りたいという気持ちが盛りあがっちゃって(笑)。

橋本 そうなんですよ。例えば、本体の上部から出ている大きな目玉の「やじうまアイ」。これって、将棋盤を見るために存在していると考えるのが自然ですよね。だから、あえてカメラを内蔵させ、将棋盤を画像解析する仕組みにしました。

解析にはロボットビジョンなどにも持ちいられる『HALCON』という産業用の画像解析エンジンを使っています。 例えば、駒にICチップを埋め込み、位置を把握する方が楽だと思います。

でも、それじゃ面白くない。やっぱり、『ドラえもん』の原作にこだわりたかったんです。

―― これまで世の中になかったモノを現実化するため、何から手を付けたんですか?

木村 僕が最初にやったのは、“100円均一ショップ”で買ってきたマジックハンドで将棋を指すことでした。弊社の技術主任と2人で、ロボットアームの気分になってみようじゃないかって(笑)。

――意外とアナログなことから始めるんですね。

木村 ええ。ロボットアームで将棋を指す時、どのくらいのトルクが必要で、動きにどんな制約が加わるのか分からないじゃないですか。こういう時は、考えるよりやってみる方が早い。一局指してみて、問題点を洗い出そうと思ったんです。

――考えてみれば、将棋の駒は横の部分が斜めです。いかにもつかみづらそうな形ですよね。

木村 そうなんですよ。実際にマジックハンドを使ってみたことで、いろいろなことが分かってきました。そこで途中に、駒をつかんでいる時のトルクを計ったり、「機械で作ったら構造はこうなるよなあ」なんて考えながらマジックハンドを改造してみたりもしました。そのうち将棋も白熱しちゃって、結局、6時間くらい指したんですけどね(笑)。

橋本 でも、モノづくりでは「実際にやってみること」って、大事ですよね。

手動のロボットアームで将棋を指してみて、実現可能性や設計のメドを探ったという木村氏

手動のロボットアームで将棋を指してみて、実現可能性や設計のメドを探ったという木村氏

木村 ホントにそうですよね。新しいモノを作る時は、イメージを強くつかむことが不可欠だと思うんですよ。実際に手を動かして、「これならできそう」って感じられれば、あとは何とかなるものです。だから僕は、いきなり図面を引くのではなく、まずは「本気で遊んでみる」ようにしています。

橋本 作っている間に新しいアイデアが浮かび、途中で盛り込んだことも多かったですね。持ち時間を計測するタイマーも途中で入れることを決めましたし、「やじうまアイ」を光らせる案も途中で生まれましたよね。

木村 これって、いかにも光りそうな感じじゃないですか。別に会議をしたわけじゃないですが、僕も橋本さんも、「これって光らせた方がいいよね」って思ってた。そこで、僕が中に基盤を入れて光るようにしたんです。

橋本 で、われわれは内蔵カメラに影響しないように、盤面を読み取る間だけ光を出さないようにプログラムを修正しました。

―― 美しい共同作業ですね(笑)。

ゼロからのモノづくりには、トライアンドエラーが不可欠だ

―― 作業を進める中で、皆さんが顔を合わせる機会はどのくらいあったのでしょうか?

橋本 いや、少なかったですよ。6社が全員で顔を合わせたのは、「セルフ将棋」が完成して、CM撮影やポスター撮りをした時だけ。わたしと木村さんが直接会って打ち合わせをしたのも、ほんの数回でした。

木村 そうでしたね。基本的には、メールと電話、そしてクラウド上でやりとりしていました。

中島清吉商店特注の将棋駒。フォント・インク・駒の大きさなど、すべてにこだわって作られている

中島清吉商店特注の将棋駒。フォント・インク・駒の大きさなど、すべてにこだわって作られている

橋本 駒メーカーの中島清吉商店(本社・山形県天童市)とも、クラウド上で仕様書をやりとりして仕事を進めました。

例えば、歩が成った「と金」のフォントは、通常の崩し字だと「やじうまアイ」には読み取りづらいんです。 そこで、画像認識しやすい書体に変えてもらいました。

また、駒を手彫りにすると一つ一つの駒の文字の精度が微妙に変わってしまうので、あえて機械彫りにしてもらっています。

木村 通常、駒は王将などが大きく、歩が小さいものです。でも、それではロボットアームが扱いづらい。そこで、全ての駒を同じ大きさで作ってもらいました。

橋本 一般の駒に比べ、いろいろと要望を出させてもらいましたね。ですから、駒メーカーを選ぶ際には柔軟性が高く、ITへの理解もある中島清吉商店と協業させていただいたのです。

―― 「セルフ将棋」の中で最も難しかったのは、ロボットアームを動かすことだったと思います。一番苦労された点はどこですか?

橋本 すべての関節をコントロールし、駒を意図通りに動かすためには、トライアンドエラーを繰り返すよりほかありませんでした。何しろ、ロボットアームで将棋を指すために動かすプログラムなんて、どこにもありません。ゼロからコードを書き、ロボットアームを動かしては修正する。時間がない中、これを繰り返すのは大変でしたね。

木村 ロボットアームは9軸、つまり9つの関節でできています。それぞれを動かすプログラムを、全部作らなければいけませんでしたからね。

橋本 はい。さらに、ロボットアームの動作を微修正するための「ティーチング」では、関節ごとに細かく、手作業で調整をしました。時間があったら、例えばロボットアームの先端にカメラを装着して駒の置き位置を自動解析するなどもっと違うやり方を考えられるのですが、今回は制作期間3カ月という限られた時間での作業でしたので、地道なやり方で進めましたね。

木村 これでも、関節の数は抑えたんですよ。実は、「セルフ将棋」のロボットアームは、成った駒を裏返すことはできるのですが、相手の駒を取って自分の駒にした時、方向を変えることができないんです。もし、方向を変えられるようにしたかったら、さらに関節を増やさなきゃいけない。

橋本 そうなると、ロボットアームの制御はもっと難しくなったでしょうね。

木村 そこで、取った駒を置く「手駒置き」を、ターンテーブル仕様にしたんです。この工夫により、関節をこれ以上増やさずに済みました。

――そうした設計については、どの段階でメドを付けていたんですか?

木村 マジックハンドで将棋を6時間指した時に、だいたい考えていました。

――そんなに早い段階でですか!

木村 ははは、遊んでいるようで、実は遊んでるだけじゃないんですよ(笑)。

協業は仕事の可能性を大きく広げてくれるチャンス

―― 他社と協業する時に、心掛けたことはありますか?

木村 今回に限ったことではないのですが、他社に制作をお願いする時は仕様書だけではなく、ラフスケッチなどもお渡しするようにしています。そうして完成イメージを伝えておけば、仕様書にミスがあっても、「ここの設計、間違ってるんじゃない?」と指摘してもらえる可能性が高くなります。

橋本 それに、完成イメージが相手に伝わっている方が、協力していただく皆さんに仕事を楽しんでもらえますよね。

木村 そう。僕はモノが完成すると、できるだけ協力会社の方々に見せるようにしています。皆さん、本当に喜んでくれますよ。やっぱり、自分が手掛けた部品がどんな風に仕上がったか知りたいでしょうからね。

――なるほど、モノづくりは関係者全員で楽しむ方が、良いモノができそうな気がします。お2人は、今後も他社との協業をしたいですか?

他社との協業により、自身の専門外の分野の知識も深まったと話す橋本氏。これにより仕事の幅も大きく広がったという

他社との協業により、自身の専門外の分野の知識も深まったと話す橋本氏。これにより仕事の幅も大きく広がったという

橋本 ぜひ、したいです。他社と協力すれば、自社だけでは実現できない大きなモノが作れます。それに、他社の凄い人と出会えることで、刺激も受けられますから。僕はいっそのこと、毎回新しい人と仕事をしたいと思ってるくらい(笑)。

木村 僕は1、2年くらい前まで、デジタル的な制御技術がまったく分からなかったんです。でも、橋本さんのようなデジタル畑の方と働いたのがきっかけで、プログラミングの勉強を始めました。

デジタルを使うとどんなことができるのか分かってきて、世界はかなり広がりましたね。

橋本 僕も同じです。木村さんみたいな「モノづくりのエキスパート」から学ばせていただくことは多いですね。

木村 他分野のプロと触れあうと、その分、自分の幅が広がると実感しますよね。

―― 今回は、「四次元ポケットPROJECT」の第一弾と位置づけられています。もしかすると、第二弾、第三弾にお2人が関わるチャンスがあるかもしれませんね。それを含め、お二人が今後挑戦してみたいことはなんでしょうか?

橋本 僕はとにかく、大きいモノを作ってみたいですね。例えば、巨大ロボットなんかどうかな? 子どもが乗れるような、でかいヤツ(笑)。

木村 僕もやってみたいことはあるんですが、内緒で(笑)。

―― あと6年ほどで、東京オリンピックがやってきますね。この目標を目指すお気持ちはあるんでしょうか?

木村 目指しているというより、何らかの形でかかわることになるんじゃないかな。おそらく、同世代の人たちの多くは、内心そんな風に考えていると思いますよ。

橋本 2020年、僕らは40歳手前くらい。ちょうどいい時期ですよね。いい仕事ができる時期。

木村 よっぽどヘマをしなければ、呼んでもらえるんじゃないかなと思ってる。

橋本 携わりたいですよね。

木村 携わりたいですね。

―― デジタル派の橋本さんと、モノづくり派の木村さんがタッグを組めば、すごいことができそうですね。

木村 ただ、最近モノづくりは、若い人から不人気なんですよ。デジタルファブリケーションは増えてるんだけど、ウチみたいに金属を削るようなところは泥臭いって敬遠されがち。この前ウチで人材募集した時なんか、事務系と技術系の応募数が9対1だったんですよ。そういう時代なのかなって。

橋本 ウチみたいなところがプログラマーを募集すると、かなり集まるんですけどね。

自分達の仕事で次世代のモノづくりの未来を拓いてあげたい、と木村氏は語る

自分達の仕事で次世代のモノづくりの未来を拓いてあげたい、と木村氏は語る

木村 モノづくりに触れ、勘所が分かっている人って、これからどんどん減っていくんじゃないかと危惧してます。このままでは、日本のモノづくりは終わってしまうかもしれません。

その点、この「四次元ポケットPROJECT」が素晴らしいと思うのは、モノづくりの企業間連携を盛り上げてくれるところですね。

橋本 このプロジェクト、子どもからの反応も良いですよね。ここから、何か新しい動きにつながるといいですよね。

木村 このプロジェクトが10年続いたら、小学生の時に「セルフ将棋」を楽しんだ人が、大人になって作り手に回るかもしれないじゃないですか。それが実現したら、すごく素敵だと思うんですよね。

橋本 ない話じゃないですよね。

木村 今は、たった10年でものすごく技術が進化します。今の子どもが大きくなるころは、もっとすごいことが実現できるんじゃないかと。

橋本 楽しみですね。

――富士ゼロックスさんには、このプロジェクトをあと10年続けてくれるよう、みんなでお願いしておきましょう(笑)。今日はどうもありがとうございました。

取材・文/白谷輝英 撮影/小林 正

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