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[連載:匠たちの視点-牧野一憲] 堀江貴文と宇宙を目指すロケットマン「No.1じゃない技術屋」としての生き方を語る

タグ : PC, SNS, SNS株式会社, なつのロケット団, クリエイティブ, ビクター, ホリエモン, レコード会社, ロケット, 堀江貴文, 転職, 開発 公開

 
プロフィール

SNS株式会社 なつのロケット団 開発部 チーフエンジニア
牧野一憲氏

1971年生まれ。富山大学大学院工学研究科博士課程を中退した後、ビクターエンタテインメントに入社し、レコチョク事業の立ち上げに従事。2006年に退社し、独力でロケットエンジンの開発をスタート。2007年から堀江貴文氏がファウンダーの「なつのロケット団」へ合流し、現在に至る

2004年6月、カリフォルニア州のモハベ砂漠。米スケールド・コンポジッツ社の開発したスペースシップワンの打ち上げを世界中が注目していた。成功すれば、民間初の有人弾道宇宙飛行の実現となる。

そのニュースを知った牧野は、急遽、会社に休暇を申請し、「人生初の海外旅行」で米国に渡った。そこで歴史的な快挙を目の当たりにし、「カチッとスイッチが入ってしまった」という。

「CEO(当時)のバート・ルータンが、よく『個人の力をなめるなよ』みたいなことを言ってたんですが、正直僕は半信半疑だったんですよ。さすがに民間でロケット開発は無理なんじゃないの、と。でも、実際に見た彼は普通の人の良いおっちゃんという感じで、社屋だってただの格納庫(笑)。そこで実際に有人宇宙船が作られて、飛んでいくところまで目にしたものだから、『あ、これならオレにもできるな』と思ったんです」

当時の牧野は、ビクターエンタテインメントに勤務。「自分の一部」、「人生の支え」というほど愛する音楽にかかわる仕事に就き、日本初の着うた配信事業であるレコチョクの立ち上げにも従事して、充実した日々を過ごしていた。

それでも、一度火が点いた宇宙への夢は大きくなるばかり。仕事の傍ら猛勉強を開始し、当座の資金を貯めて円満退社を果たすと、2006年夏、富士山麓に居を構え、たった一人でロケットの心臓部ともいえるエンジン開発を開始した。

やがて宇宙開発に投資する堀江貴文氏を紹介され、小型ロケットの開発を目指す「なつのロケット団」に参加。現在はチーフエンジニアとして、北海道でロケットエンジンの開発に専念する毎日だ。

どのジャンルでもNo.1じゃない。それはコンプレックスとしてある

「ITを使ってクリエイティブなことをしたかった」と話す牧野

「堀江さんを最初に紹介されたとき、会ってから1時間くらい経つまで、それが世間を騒がせたあのIT長者だって気付かなかったんです(笑)」

子どものころから「理系小僧」だった。小学校3年生でワンボードマイコンに触りはじめ、技術職だった父親の工具を勝手に引っ張り出して、物作りを楽しんだ。高校時代には早くも仕事として、博物館などの展示物の製作を請け負っていたという。

大学の専攻は数値流体力学。幼少時から親しんだコンピュータの知識を活かせて、以前から興味のあった「空を飛ぶもの」に関わる分野として選んだ。

地元大学の工学部に入り、博士後期課程までコンピュータシミュレーションの手法を研究していたが、「何となく煮詰まってしまった」ことから、心機一転、東京に出ようと2000年、大学院を中退してWeb制作会社に就職。7月には、知人の紹介でビクターエンタテインメントに入社することになった。

「レコード会社もITの波にさらされ始める時期だったので、音楽が好きでITの分かる人材が必要だったんでしょうね。契約社員として情報システム部に入ったのに、入社1カ月後には今のレコチョク、携帯サイトの着メロ配信という新事業の立ち上げメンバーに入っていました」

まだレコード会社にITの知識を持つ人間は少なく、一方、IT業界のエンジニアの技量も玉石混淆。ここで牧野は、レコード会社の細かな要望を技術的に実現し、かつ運用可能なレベルで実用化するための調整役として奔走した。

「僕は技術者だから、どうすればそれを実現できるかが分かる。いわば、技術と感性を結びつける通訳のような存在でしたね。僕は昔からコンピュータをいじっていて便利な道具だと分かっていたし、一方でずっとバンドをやっていてクリエイティブな世界にも触れていた。そもそも大学院を辞めて仕事に就いたのも、クリエイティブな人たちが、ITという道具を使って何かを作る手助けをしたいという思いが根っこにあったんです」

これは、論理的な思考を追求してきた理系小僧であると同時に、音符の連なりに身を委ねるナイーブな音楽少年だった牧野ならではの率直な思いだろう。一方で、葛藤も感じているという。

僕はどんなジャンルにおいても、ナンバー1ではないんですよ。大学院時代の恩師から『何にでも手を出すのもいいが、何かひとつに絞ればひとかどのことができるはずだ』と言われたこともあって、実はそれを気にしていた時期もありました。コーディネーションは楽しいし、自信もあるけれど、一方でエンジニアでありたいという自分もいる。その葛藤は、正直今でもあります」

ロケット初号機は3秒で燃え尽きた…でも自分でも作れることが分かった

会社を辞めて、独力でロケットエンジンの開発を始めたのは、エンジニア魂が再燃したからかもしれない。力みはまったくなかった。むしろ子ども時代の工作を楽しむような、純粋なもの作りの喜びがあったという。

「まず考えたのは、ロケットエンジンの燃焼を見せたいということ。打ち上げに立ち会っても、ほんの十数秒で空へと飛んでいってしまいますから。ロケットエンジンは見た目もいいけど、何より音がいいんですよ。最初にドンと一発衝撃波が来て、ごおーっという空気の振動がお腹に伝わってくる。生で聞くと、ものすごく迫力があるんです。小さくてもいい。目の前で連続的に燃えているものを、子どもたちとか学生とか、夢を感じる人たちに見せられるものを作りたいと思いました」

もちろん、ロケットエンジン開発ではまったくの素人である。ならばやってみるのが早道とばかり、書物やネットから知識を得てイチから設計に着手。試行錯誤を繰り返して様々な材料を試し、不慣れな金属加工のコツをつかんでいった。

何らかの形あるものを作ろうと考えていた1年後、完成させたのは、推力わずか3kgfの小さなロケットエンジン。しかも3秒で燃え尽きた。それでも、きちんと設計すれば自分の力で作れるのだと分かったことは、大きな自信になった。

次の展開を模索していたころ、堀江氏と知り合い、なつのロケット団に参加。一日でも早く宇宙に近づきたいという思いが高じて、やがて北海道に拠点を移し、プロジェクトを牽引する日々が現在も続いている。

なつのロケット団は、2011年春、100kgf級液体燃料ロケットエンジンを使用する「はるいちばん」の打上げ実験を実施。現在は、満を持して牧野が1から設計した500kgfロケットエンジンの開発が進行中だ。将来的には、低価格で宇宙飛行ができる小型ロケットシステムの実現を目指している。

「今はまだ基礎研究に近い。やはりロケットは、飛んで、道具として使えて初めて実用価値が出てくる。これを実用レベルに持っていくことが今の目標です」

自分の手さえ動けばどうとだってなる。そんな自信はあります

なつのロケット団に集まったメンバーは、漫画家、SF作家、イラストレーターなど、ほとんどがロケット開発の素人だ。それでも、「本気で宇宙に行こうと信じている」メンバーばかりである。ここで牧野は、クリエイティビティの実現を技術面からサポートする役割を再び担うことになった。

技術を身につけることを「手に職」というが、牧野の場合「手が職」といった方が当てはまるかもしれない

技術を身につけることを「手に職」というが、牧野の場合「手が職」といった方が当てはまるかもしれない。レコチョクも数々のロケットエンジンも、この手が作り上げてきた

「ロケットシステムはいろいろなジャンルが絡む分野で、この先さらなる精度が求められますから、現実的に自分自身が手を動かすことは減っていくはず。でも自分が携わる以上、各分野のトップエンジニアの知識が100だとしたら、その半分、50%くらいは理解した上で専門家の力を借りたい。そうしないと、自信を持って仕事ができないんです」

牧野は、「自分の手が動く限り、何とでもなる」と言い放つ。ITの知識があったから、好きな音楽に関わる仕事を得た。小さくてもロケットエンジンを作り上げれば、同じように道は開けると思っていた。そして、実際にそうなった。

「漠然と」、「何となく」とは、インタビューの中で牧野が頻発するフレーズである。人によっては無謀だと言うかもしれない牧野の足跡だが、恐らくその根底にあるのは「手に職」への信念。エンジニアとしての矜恃であろう。

一流の数学者は、面倒な計算でも当然のように手を動かすという。理系小僧の心のままに、面白いと思った分野に飛びつき、手を動かすのを厭わない。その成果が自分の武器となり、自ずと道は開けるのだと信じていたからこそ、牧野の今がある。

「創造力豊かな人たちを理解しなければ、その人たちが作りたいと思っているものを、具体的な形に落とし込むことができない。彼らのモチベーションをいかに形にするか。それが今の僕の存在価値だと思う」

いち早く興味を持ったコンピュータも、いつしか便利な道具に過ぎないと思うようになった。肩書きなど何でもいい。煮詰まればサックスを吹き鳴らし、人類の宇宙へのロマンを実現すべく、今日も牧野は歩を進める。

[匠たちの視点] Another View 動画をご覧になれない方はコチラ(YouTube)よりご覧ください

取材・文/瀬戸友子 撮影/竹井俊晴




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