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[コラム] 町工場の匠たちが”iPhone的モノづくり”で挑む『江戸っ子1号』が、日本の職人魂に再び火を灯す

タグ : アジャイル, シャトルビークル, ベテラン, メーカー, モノづくり, 下町, 中小企業, 江戸っ子1号, 職人, 開発 公開

 

国内大手メーカーが軒並み赤字となり、半導体大手エルピーダメモリが会社更生法の申請を行うなど、「モノづくり大国」と呼ばれた日本のメーカーは逆境のさなかにある。
 

プロジェクトメンバーは、30代~60代の町工場の匠たちを中心に、産官学の合同プロジェクトとして発足。2012年内の1号機完成を図る。

プロジェクトメンバーは、30代~60代の町工場の匠たちを中心に、産官学の合同プロジェクトとして発足。2012年内の試験機完成を図る。

そんな中、活気を見せる一つのモノづくりプロジェクトがある。それが、「江戸っ子1号プロジェクト」だ。
 
2009年より、東京・下町の中小企業活性化および技術継承を目指し、杉野ゴム化学工業所社長の杉野行雄氏が発起人となり、商業海底探査シャトルビークルを開発するというこのプロジェクト。

2012年内に試験機を海底約8000mに沈め、脊椎魚の3D撮影や、泥の採取、性能の確認を行う計画を立てている。
 
「本業の兼ね合いもあって、プロジェクトメンバー全員で会うのは月に一度くらい。後は、各企業で担当する領域を分けて分科会を開催したり、本業の合間にプロジェクトを進めたりしています。うち以外はみんな東京なんで、移動は大変ですけどね(笑)」
 
そんな風に話すのは、プロジェクトメンバーの一人である、パール技研代表の小嶋大介氏だ。「先代が義理人情に厚い人で、杉野さんの情熱に心を打たれて声を掛けたのが、プロジェクトに参加したきっかけ」という同氏の話を聞くうちに、冒頭で話した「モノづくり大国」日本の底力が垣間見えた。

“iPhone的モノづくり”で、ローコスト・スピード開発を実現

「江戸っ子1号プロジェクト」で開発する海底探査シャトルビークルについて、小嶋氏は「iPhoneの開発に似ている」と話す。
 
「iPhoneの中に組み込まれている技術って、何もすべてが新しいわけじゃありませんよね。iPhoneがジャイロやタッチセンサーといった既存技術を上手く組み合わせて作られているように、『江戸っ子1号』もすべてを内製化するのではなく、民生品の3Dカメラや耐圧ガラスなどを活用しながら開発しています。これはコストを抑える上でとても重要なんです」
 
完全内製化もできないことはないが、それを行うには膨大な時間と費用が掛かる。「江戸っ子1号プロジェクト」が立ち上がった当初も、それを目指して挫折した経験があるという。
 
「われわれが目指すのは、完璧な海底探査機を作るのではなく、海底8000mの泥を採取し、深海魚を撮影すること。原点に立ち帰り、自分たちのなすべきことが明確になったことで、プロジェクトのゴールをイメージできるようになりましたね」

“ワイガヤ”な打ち合わせ雰囲気が、アジャイル開発へと導く

「プロジェクトに参画している企業の性質上、すべてを細かく決めて開発を進めるのが苦手」という小嶋氏。下町気質が出るのか、会議は”ワイガヤ”な雰囲気に包まれる。

右の3つのブロックが現在の完成イメージ模型。プロジェクト発足当初と比較しても、完成イメージは大幅に変わっている。

右の3つのブロックが現在の完成イメージ模型。プロジェクト発足当初と比較しても、完成イメージは大幅に変わっている。

「ワイガヤな雰囲気で打ち合わせをしていることもあって、最終的にできあがる製品のデザインに関する議論は尽きません。

だから、モノコックにしてそれぞれにガラス球を入れようという当初のデザインだったのが、ブロック体をつなげたデザインにしようかと検討したり、理想的なデザインについては、良い意見があれば都度採用しています。

協力してくれている企業さんからは、『もう少ししっかりして下さい』と言われることもありますけどね(笑)」

決められたゴールに向けてウォーターフォール・モデルで開発するのではなく、開発の過程で「こうしたら良いかも」という方向に柔軟に対応していくこの開発スタイル。どこかアジャイル開発に似ている。
 
「わたしたちのような中小企業にとって、江戸っ子1号のような製品をイチから開発した経験があまりないため、自分たちが普段行っているスタイルをこのプロジェクトでもやっているのかもしれません」

大海へ羽ばたくために、過去のやり方を疑ってみる

「本業のかたわらでプロジェクトを進めるのは、大変な一方でむちゃくちゃ楽しいんです」
 
笑いながら話す小嶋氏は、自戒の念を込めるように、こう続けた。
 

先代の故・小嶋一雄氏の後を継ぎ、自社の持つ技術の新しい可能性を貪欲に探す小嶋氏。この姿勢を、日本のモノづくり企業は見習うべきかもしれない

自社技術の新しい可能性を貪欲に探す小嶋大介氏。既存領域にとらわれずに局面を打開しようとする姿勢は、多くの企業が見習うべき姿だ

「金属の精密切削の分野において高精度のプロダクトを製造しているのですが、今までは技術力の高さで勝負しているという自負がありました。

でも、一方で『その技術って一体何なのか』という部分もあったんです。感謝状などはたくさんいただくものの、それは自動車業界内でのことがほとんど。『それ以外の業界では通用するのか?』と考えた時に、もしかしたら認められるというところまで進んでいないのかもしれないなと思ったんです」

従来どおりのモノづくりスタイルでは世界に通用しなくなっている今、職人的に単一技術を探求し続けるスタンスに、限界を感じている企業は少なくないはずだ。

誤解を恐れずに言うと、こうした中小企業の”技術に対する驕り”を打ち崩す意味でも、「江戸っ子1号プロジェクト」は誕生したのかもしれない。
 
「ほかの業界の仕事をするのは勝手が違ってやりにくいところはありますが、うちが成長するには大切なこと。おかげで、今まで経験のなかった製品設計のフェーズを経験できたり、自社の技術力を向上させたり、さらに言えば新人の教育にも非常に効果的だと思っています。もしプロジェクトが成功したら、新しい市場が生まれるかもしれませんしね」
 
すでに、プロジェクトで活用したいくつかの技術については特許を申請するという声も出ているそうだ。30代から60代のベテラン職人たちによって発足されたこのプロジェクトは、今まさに隆盛を極めるITベンチャーの姿に少し似ている。苦境を打開するために未知の領域へ挑戦する匠たちのこの姿勢に、日本のエレクトロニクス産業が輝きを取り戻すためのヒントが眠っているのかもしれない。

取材・文・撮影/小禄卓也(編集部)




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