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マーケティングから決済まで、人認証技術×ビジネスプロデュースで未来を変えるABEJAの挑戦【連載:NEOジェネ!】

タグ : ABEJA, スタートアップ, マーケティング, 決済, 認証技術 公開

 
世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、センサリングテクノロジーとビジネスプロデュースを組み合わせたサービスで注目を浴びるスタートアップ企業のABEJAだ。未来のイノベーションの根源である基礎技術をビジネスに応用し続ける事で「100年後のあたりまえを創造したい」と語る彼らの真意に迫る。
NEOgen-Ptmind
(左)代表取締役社長CEO 岡田陽介
(右)取締役CTO 緒方貴紀

顔認証技術、人物検出追跡技術、年齢性別認証技術といったセンサリングテクノロジーをコアに、マーケティング戦略立案から実行までのビジネスプロデュースを掛け合わせたサービスを展開して注目を集めているABEJA

現在、メインで行っているのが、実店舗向けのソリューション提供だ。

実店舗の入り口にカメラを設置し、顔認証技術によって顧客の数を、人物検出追跡技術で人物の動きを、年齢性別認証技術で年齢や性別といったデータを集積し、セキュアにクラウド上に転送。

店員が管理画面でその情報をリアルタイムに確認することができるリアルタイムデータを提供するほか、店舗内CRMと連動させることで、実像をつかみにくい顧客の志向や、属性を踏まえた効果的なマーケティング戦略の立案、およびコンサルティングサービスの提供を行っている。

それ以外にも、『フキダシステム』という、独自技術の移動体付随情報表示装置を使ったサービスを提供。歩行者一人一人に個別の広告を表示するインタラクティブサービスで、消費者に対する情報の訴求力が高いため、マーケティング手法として注目を集めている。

アイデアの出発点:センサリングテクノロジーでビジネスを生む

ABEJAは創業当時23歳だった岡田陽介氏(代表取締役CEO)と緒方貴紀氏(取締役CTO)の2人を中心に事業をスタート。きっかけは、2人の出会いにさかのぼる。

小学校時代からコンピュータを触り始め、高校時代はパソコン甲子園で優勝。大学時代に3次元コンピュータグラフィックス関連の研究で培った技術力を活かしてWebサービス開発会社を起業した後、モバイルペイメント事業を行っていたITベンチャーに入社し、事業本部マネジャーとして働いていた岡田氏。

一方、久留米高等専門学校時代に画像認証技術を、編入学した九州大学では無線通信技術を研究し、IPA未踏IT人材発掘・育成事業で「突出した若手人材」にも採択された経歴を持つ緒方氏。同氏も岡田氏と同じITベンチャーで、スマートフォンアプリや、Webアプリケーション、Facebookを利用したサービスの企画・開発していた。

同じ会社で働くものの、職種が異なる2人を結び付けたのは、緒方氏が岡田氏に話したセンサリングテクノロジーの話だった。

「オープンソースの活用はコストダウンにもなります」(緒方氏)

「オフラインの世界、特に実店舗は、現代においてまったく最適化されていない領域の1つだと常々感じていました。ある時には満員、ある時はガラガラであり、多くの機会損失が発生しています。また、圧倒的に質の良いものを提供している店舗があったとしてもオフライン上には検索という概念が存在しない。

そのため、田舎町の素晴らしいサービスを提供する店があってもマーケティングを行っておらず、顧客が集まらないという課題を抱えています。これは店舗も顧客もWin-Winになっていないと考えていました」(緒方氏)

そこで緒方氏は、自身の専門である画像認証技術と無線通信技術を結び付けたセンサリングテクノロジーを用いれば、課題が解決できるのではないかと着想。独自に研究・開発を進めているという話を岡田氏にしたのだ。

「緒方の話を聞く中で、緒方が開発した技術に、わたしのビジネスサイドの知見を掛け合わせれば、実店舗のビジネスプロデュースを行い、多くの人を幸せにできるのではないか? そう閃いたのです。そのアイデアを持って、緒方に新会社設立の話を持ちかけました」(岡田氏)

日常の不便さを解消するために技術を開発した緒方氏と、その技術をビジネスモデルに組み込む岡田氏。偶然にも同じ会社に居合わせた2人の邂逅により、ABEJAは誕生した。

開発のポイント:エンジニアは基礎研究とオープンソースを活用すべき

とはいえ、起業当初、緒方氏が個人で開発したセンサリングテクノロジーは、製品として実装できるレベルではなく、認証の正確性やインフラ構築のためのアーキテクチャを実用的な領域まで落とし込む必要があった。

そのために彼は積極的に、専門家の知見を求めたという。

「いかにみんなが幸せになるサービスを作れるかに一番興味がある」(緒方氏)

「関連分野のスペシャリストである大学教授の方々に、アドバイスを求めました。時には直接会社に足を運んでいただいて、厳しいダメ出しをしていただくということもありました。

大学教授やその教え子たちの未来を切り拓くための基礎研究・応用研究をできるだけスピーディにビジネスに活かし続けることで、お世話になった方々に恩返しをしていきたいです。だからABEJAの開発スタンスは、『自分でひと通り考え切った上で悩んだら、すぐに特定分野に知見の深い専門家に意見を求める』ですね」(緒方氏)

この言葉からは、独学で時間をかけて技術開発するという職人気質な考えとは異なる、「最短スピードで最高のサービスを開発したい」という緒方氏の志向が窺える。

「また、より速い技術開発のために、インターネット上で読める世界中の論文から技術を習得しています。わざわざ時間と労力をかけて『車輪の再発明』をしなくても、MITやスタンフォードに代表される研究者が挙げた成果を活用させていただく方が、事業を創るという点では効率的です。技術習得は非常に大事なことですが、それにばかり時間を取られていては目標にいつまで経ってもたどり着くことができません」(緒方氏)

最短経路での技術習得により、小規模な開発体制ながら大企業に勝るセンサリングテクノロジーの開発が可能となった。こういったフットワークの軽さは、小規模なベンチャー企業の最大の利点だ。それらを技術開発につなげる緒方氏からも、エンジニアとしての技量の高さが垣間見える。

不遇な日本の基礎研究に光を当て、Win-Winの関係を築きたい

岡田氏には、緒方氏との出会いとは別に、ITベンチャーを辞めて自分で会社を立ち上げたいと思うに至った大きなきっかけがあった。それは前職時代、見識を広めるために行ったシリコンバレーでの体験だ。

「僕の役割は市場にかかわるプレーヤーのすべてをつなぐこと」(岡田氏)

「シリコンバレーでGoogle本社の社員や著名スタートアップ企業の経営者と直接話す機会があり、彼らの新しい技術を生み出そうとする意気込みに衝撃を受けました。数十年後の技術の進歩を見据えているから、大学の基礎研究への投資もいとわない。だからどんどん新しい技術が生まれ続けるのです」(岡田氏)

しかし、日本の場合、企業と大学の研究は結び付きが非常に弱く、投資も少ないので新技術が生まれにくい。また、大手企業ではビジネスのための研究ではなく、研究のための研究を行っていることが多いのが現状だ。

「このままでは日本は世界の技術進歩からどんどん置いて行かれる、という非常に強い危機感を覚えました」(岡田氏)

シリコンバレーの熱気に感化された岡田氏は、帰国してすぐに退職。同時期に緒方氏にも声をかけ、ABEJAを起業した。しかし、この選択肢はあくまで最初の一歩であり、岡田氏にはさらに先の構想があるという。

「スタンフォード大学計算機科学の博士課程に在籍していたラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンが意気投合して共同創業したGoogle。同社が生み出したオンライン上のレコメンドエンジンのように、ABEJAはオフライン世界のレコメンドエンジンを構築したいと考えています。Googleは優秀な研究者や学生を集めて、オープンソースを積極的に活用し、世界最先端の技術を開発した。ABEJAも若くて優秀な研究者や学生を世界中から集めて、世界を変えるシステムを創り出していくのを目指しています」(岡田氏)

では、そのために具体的にどのような働きかけを行っているのか?

「これまでお世話になった教授陣とのご縁を活かして基礎研究に積極的に投資し、応用研究を活性化させる。そうすることで生まれる技術開発により、企業を発展させ資金を獲得する。その資金をまた、基礎研究に回す――。こうした『基礎研究>応用研究>技術開発>資金獲得』のスパイラルを構築しています。日本でも、100年後を見据えた技術開発を行えるようにすることで、市場にかかわるプレイヤーすべてがWin-Winになる全体最適化を実現したいのです」(岡田氏)

そのための最初のイノベーションが、オンラインとオフラインを融合したビジネスプロデュースだったというわけだ。

これから必要なのは分野横断的に技術を駆使できるエンジニア

「技術もビジネスも『全体最適化』のためのツール」と主張する岡田氏。その言葉からは、構想実現に対する、並々ならぬ熱情を感じる。緒方氏も思いは同じだ。

「もちろん技術は好きですし、自分だけの持つ高度な技術、という響きにもあこがれます。でも、それよりも岡田の言う基礎研究をもとにしたスパイラルの実現に興味がある。僕も岡田と同じように、技術は世界を変えるためのツールとしてとらえています」(緒方氏)

ツールとしてとらえることで、一つの技術に固執する必要がなくなる。その代わり、常に情報に敏感になり、有望な研究に目を光らせておくことが必要となる。

「画像認証技術に限るのなら、もし今後新たな研究が進めば、今行われている一部の画像処理の研究を行う必要がなくなる可能性があります。例えば、マイクロソフトのKinectに搭載されているセンサーデバイスによって、安価で高精度な人物検出をできるようになりました。新しい研究と新しいデバイスにいかに早く目をつけるかを大切にしています」(緒方氏)

「イノベーションでインフラに革命を起こすことがABEJAの使命」と語る二人

将来性のある研究をいち早く見つけた後は、実用レベルにまで育てる必要がある。有望な基礎研究を既存の技術と正確に組み合わせるために、エンジニアとしてのビジネスプロデュース力も問われるところだ。

「より多くの知識を得るために、エンジニアは外の世界に積極的に触れるべきです。新しい技術はすぐに最新論文として読めるし、海外の有名な学会にも参加することができる。また、インターネットを介せば世界中の人たちとも意見交換ができる。そうやって集めた技術をもとにビジネスを生み出すビジネスプロデューサーとしての働きこそ、これからのエンジニアに求められる役割だと思います」(緒方氏)

次々に誕生する技術を研究機関やオープンソースから収集し、そこで得た技術的知見をビジネス的な視点から新たに価値を創造する人材が、これからの時代に求められるエンジニアであると確信する2人。

「『センサリングテクノロジーをはじめとした情報革命で、100年後にはあたりまえとなる技術を創造する』ことがわれわれのビジョンであり、目標です。現在は主にここまでに得た研究開発のノウハウを活かしてビジネスを生み出すところに注力していますが、それはあくまで入り口。今後は生み出した事業で得た資金やノウハウを元に、顔パスで電車に乗れたり、人物認証で決済に乗り込んだりといった、従来では実現不可能と言われていた領域を直近2~3年で実現することでインフラの革命を起こしたいと構想しています」(緒方氏)

現代こそ、年齢に関係なく世界を変えることができる時代と確信した若者たちが描く未来構想。世界を変えるために驚くべきスピードで動き始めている彼らから目が離せない。

取材・構成/桜井祐(東京ピストル) 文/長瀬光弘(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴

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