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Appleに見る「すでに革新的な商品を作った会社で働くこと」のつまらなさ【連載:村上福之③】

タグ : Android, Apple, iOS, iPad, iPhone, MacBook, WWDC, アップル, アンドロイド, イノベーション, エンジニア, 村上福之, 開発 公開

 
村上福之のキャラ立ちエンジニアへの道

株式会社クレイジーワークス 代表取締役 総裁
村上福之(@fukuyuki

ケータイを中心としたソリューションとシステム開発会社を運営。歯に衣着せぬ物言いで、インターネットというバーチャル空間で注目を集める。時々、マジなのかネタなのかが紙一重な発言でネットの住民たちを驚かせてくれるプログラマーだ

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From ivisualme

2012年6月12日(火)、日本時間の午前2時に開催された「WWDC2012」。日本でも、リアルタイムで見た人は多い

Appleの「WWDC2012」で思ったことは、「あぁ、イノベーションのジレンマを地で行ってるなぁ」と強烈に感じました。イノベーションのジレンマというのは、「革新的な商品を作った大企業がショボい改良の繰り返ししかできない状況に陥ること」です。

iOS6は3DマップやPassbook、Siriの多機能化など、素晴らしいいろんな機能が盛り込まれましたが、iOS5からのメジャーバージョンアップというには、あまりにパンチが足りません。よく言って、iOS5.3くらいに見えます。

MacBook Proはマイナーバージョンアップして、価格を下げたモノのように思います。Retina対応のMacBook Proはまだ実機に触っていないので、ヘタな評価は避けますが、15インチで2キロなので、触手が伸びない人も少なくないでしょう。ただ、新しいiPadのアプリ開発者や、デザイナーや編集をしている人には良いのかもしれません。

一度、革新的な製品を作った会社が一年掛けても革新的なモノを作りにくい状況になるのはどこの会社でもあることなのです。残念ながら、そのような会社や部署はすでに複雑なしがらみだらけで、働くのがつらいことがあります。すでに革新的な商品を作った会社は実は面白くないのです。むしろ、ゼロから何か生み出そうと頑張っている会社や部署の方が65536倍面白いと思います。

おそらく、僕がここで言いたいことは、スーパーマリオを作った任天堂の宮本茂さんの「もっと小さいチームの開発現場に戻りたい」という言葉に凝縮されていると思います。

商品大ヒットの裏側で、得られる「名誉」、失う「時間」

特に日本の企業ではよくあるケースについて話します。例えば、あなたが手塩に掛けた商品が大ヒットしたとします。

一年掛けて、わずか5人程度のプロジェクトのメンバーでケンケンガクガクを繰り返し、ゴリゴリとコードを書き、仕事が終わっても、居酒屋で仲間たちとビール片手に仕様の話を熱く語り、思わずすごいアイデアが思い付いて赤い顔をしたまま職場に戻ってコードを書き始めたりするような夜もあったりなかったりです。

プロジェクトの危機を何度も何度も乗り越え、プロジェクト内外の人々に、助けられたり、助けたりする毎日を過ごすわけですよ。「動かねぇ」と机に突っ伏してたら、社内リリースの30分前に出張中のメンバーから「新幹線の中で修正した。動いた」とメールが来たりするわけですよ。ガチで男泣きですよ。

そんな濃い開発生活数年を過ごしたとします。苦労が実り、商品が世に出て、最終的に何百万人のお客様がオカネを払うような商品になったとします。社内であなたの知名度や評価が急激に上がります。

さぁ、その後、どうなるでしょう? めでたしめでたしでしょうか?

まず、あなたはエンジニアとして社内で非常に有名なので、ものすごく関係ない案件の会議に出席する機会が増えます。時には全然関係ないプロジェクトの定例会議に毎回出席するという拷問も待っています。プロジェクト一個につき1~2時間の無駄な会議に時間を浪費します。

日本の法定労働時間は1日8時間しかないのにかかわらず、出なくてもいい2時間もの会議に人生を浪費するのです。

From the_moment<br />
ヒットしたは良いが、自分の好きな開発する時間が阻害されていく...。そこには、ヒット商品を生み出した者にしか分からないジレンマが多く存在する

From the_moment

ヒットしたは良いが、自分の好きな開発する時間が阻害されていく…。そこには、ヒット商品を生み出した者にしか分からないジレンマが多く存在する

もちろん、自分が作った商品の企画や営業と話も増えるのですが、変に社内で有名になった商品だと、お客様センターからも膨大な意見が上がってるわけで、ものすごくいろんな意見が出るんですよ。既出が多すぎて笑うんですけど。さらには他の部署の全然関係ない商品との連携とかも提案されたり、その可能性を検討したりするんですよ。

特に社内政治上、声が大きい人が提案してくると非常に面倒くさいし、対応に時間を使います。ユーザーの利便性と社内政治を天秤にかける機会も増えます。ヒット商品になったため残念ながら社内政治を優先せざるを得ない機会も増え、それがイノベーションを殺すこともしばしばです。

日本の法定労働時間は1日8時間しかないのにかかわらず、どうでもいい意見にいちいち回答するわけですよ。

「その対応、必要ですか?」がたくさん降りかかる悲劇

別の部署からご意見お伺いメールも増えます。「コレコレのコレをアレしようと思うのですが、いかがでしょうか?」みたいなご意見メールが増えます。すごい増えます。「ググれカス」と書きたいのもヤマヤマなのですが、案外、社内でエラい人からのメールなので、テキトーに扱えません。文面を丁寧に丁寧に考えて出すと1時間くらいすぐ経ちます。

日本の法定労働時間は1日8時間しかないのにもかかわらず、どうでもいいメールをクソ丁寧に書いて時間を浪費するのです。

そうして、あなたが作った商品の後継機種なり、次期バージョンの話が出ます。往々にして、伝統的日本企業の場合、大ヒット商品の次期バージョンは、そんなに機能が増えていないのに、なぜか爆発的にプロジェクトの人数が増えることがあります。最初のバージョンは5人くらいのプログラマでつくったのに、次のバージョンは60人くらいいたりするケースもあったりなかったりです。

そしてそして、当然のごとく、あなたの下に部下がつき、外部の協力会社がつきます。部下は四半期ごとに、評価しないといけませんし、一人一人面談をしなくてはいけません。そして、この業界によくあるのですが、若い部下がメンタル的に疲れてしまうこともあったりで、「僕、プログラム書くとか向いてない」とか言い出すんですね。僕も言いますけど。

From Earis37a<br />
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From Earis37a

時間はすべての人に平等。とは言え、売れっ子になればなるほど自分で時間をコントロールできなくなってしまう

それで、心配なので、サシで2時間くらい話をとうとうと聞いたりするわけです。

日本の法定労働時間は1日 8 時間しかないのにかかわらず、サシで2時間くらい話をとうとうと聞いたりするわけですよ。時には、そのままサシ飲みに行ったりするわけです。メンバーのメンタルケアは大事だと思ってますが、時々、優秀で優しい中堅リーダーエンジニアの時間を浪費することがあるのは否めません。

外部の協力会社との折衝もすごい増えます。この計画じゃ無理だとか、もっと人をアサインしたいので予算をくれとか、機材や開発ツールがいるからどうとか技術的な話よりもカネと時間の話が出てきます。

どうせ協力会社のクソ営業トークで、あんまりそんなに期間も予算もいらないんじゃないかと思ったりすることもあるんですけど、ある程度は通さないと作ってくれないので条件を飲んだりするわけですよ。

そうなると、本当にいるのかどうか分からん予算の稟議とか書いて、もっともらしい理由をひねりだ出して、稟議書のスタンプラリーの旅に出掛けるわけですよ。何時間も掛けて。

日本の法定労働時間は1日8時間しかないのにかかわらず、本当はいらないんじゃないかと思う予算に何時間も奔走するわけですよ。

革新的な新機能の提案があったとします。しかし、大ヒット商品ですし、社内で有名なプロダクトですから、無駄にクチを出す人が増えます。ネットの世界同様、クチを出すのが好きな人が多いのです。まぁ、僕も人のことを言えませんが。そんな文句言う奴一億人に一人しかいねーよ!という仮想のクレームの相手をします。

日本の法定労働時間は1日 8 時間しかないのにかかわらず、一億人に一人しかいないような仮想のクレームの相手をするわけですよ。

増加する「かつての敏腕エンジニア」たちに何を思う

そんなこんなの濃いのか薄いのか分からん一年をすごして、新バージョンの後継商品なりサービスが出ます。新機能は20%くらいしか増えてないのに、人も予算もすごいパワーアップ。広告費や販売促進予算もパワーアップ。苦労も256倍くらいパワーアップです。

この一年、日本の法定労働時間は1日8時間しかないのにもかかわらず、どうでもいい時間を何時間過ごしただろう。

そんなこんなで毎年、その商品の後継機種を作り、かかわる人も毎年、雪だるま式に増えていくわけです。人や予算は増えているのに、商品の新機能のインパクトは毎年減っていきます。そう、今のAppleのようにです。あなたは、いつの間にか、コードを書くよりも、上手いメールや稟議書を書くのが上達したり、予算の根回しスキルが身に付いていたりします。

社内政治上の判断を加味して動けるようになります。あなたは具体的な話をする機会がどんどん減っていくわけです。一方で、だんだん現場のエンジニアの話の単語がよく分からなくなってきます。

何十人もの人が出席するプロジェクトの全体会議の中で、あなたは思い出します。

「そうだよなぁ、最初は5人で作って、居酒屋で思いついた機能を、次の日の朝にプロト作ってたよなぁ。稟議も予算も外部協力会社もなかったよなぁ。仮想クレームも少なかったよなぁ。連携の提案以前に、社内で知ってる人もいないから提案も文句も少なかったよなぁ。社内政治に巻き込まれることも少なかったよなぁ。そういえば、最後にコードを書いたのはいつだったかなぁ…」

今夜もExcelと格闘している、すべての「かつての敏腕エンジニア」に乾杯。


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