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『GreenFan』『JetClean』を生んだ家電ベンチャーの雄、バルミューダに秘められたロックな起業マインド【連載:匠たちの視点-寺尾玄】

タグ : BALMUDA, MAKERS, スタートアップ, バルミューダ, 公開

 

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プロフィール
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バルミューダ株式会社 代表取締役社長
寺尾 玄氏 

1973年生まれ。高校を中退し南欧各地を放浪。帰国後、音楽活動を経てモノづくりの道を志す。町工場への飛び込みと独学で、設計、製造の知識を習得し、2003年、有限会社バルミューダデザイン(現バルミューダ株式会社)を創業。ノートPC用冷却台『X-Base』をはじめ、デザイン性に優れたプロダクトで好評を博す。2010年以降は、2重構造の羽根を持つ扇風機『GreenFan』や高性能空気清浄機『JetClean』など、冷暖房および空気にかかわる事業に傾注

「日ごろ、親に対して面と向かってお礼を言う機会ってなかなかないじゃないですか? それと同じで、本当の恩人だからこそ、かえって『あなたたちのおかげでここまで来れました』なんて言えないんですよ。恥ずかしいですしね。だからせめて日々の仕事で思いを示さなければいけないと思ってるんです」

音楽活動に見切りをつけた寺尾玄が、モノづくりを志したのは28歳のころ。当時、一ユーザーとして惚れ込んでいた、アップルのマッキントッシュやハーマンミラーのアーロンチェアの機能美に彼が見いだしたのは、美しさだけではなく彼自身の将来だった。

9年間取り組んだ音楽活動が行き詰まり、ロックスターになるという夢が潰えた時、これらのプロダクトが、彼自身に“メーカー”になるという新たな道を示してくれたのだ。

だが、彼には素材や加工についての知識はなかった。デザイン、設計について専門教育を受けた経験もない。あるのは“つくりたい”という無垢な情熱と貪欲な知識欲だけ。

そんな彼に手を差しのべたのが、東京の小金井市にある小さなアルミ切削工場、春日井製作所の職人たちだった。

「あのころは、削り出しのアルミとか、カーボンファイバーを使って机が作れないかと思って、電話帳を頼りに多摩地区の町工場に片っ端から電話をかけたり飛び込んだりしてたんです。全部で50社くらいは訪ねたとは思いますが、こっちはモノづくりに関してはまったくの素人。大抵は相手にもしてもらえませんでした。そんな生活が4カ月ぐらい経って、ものすごく焦っていた時あの工場に出合ったんです」

その日も、バイトから上がるといつものように電話帳をめくり、目星を付けた工場に電話をかけていた。その中の一つの町工場が、「今から訪ねて来ても構わない」という。それが春日井製作所だった。

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“Make is Rock”を地で行く寺尾の熱意は、職人気質な町工場の先達の心を動かした

工場に駆けつけた彼は、出迎えた職人を相手に自己流で描いたスケッチを示しながら、自分が作りたい机のイメージを熱心に語り始めた。すると、ほかの職人たちも仕事の手を休め、寺尾の話に耳を傾け出す。

「最初は、金髪にヒゲ、ジャージ姿のヘンなヤツが来たと思ったんでしょうけど、話をするうち、職人さんたちとも意気投合して、夕方の7時から11時くらいまでずっと話し込んでいました」

その時、職人の一人が、秋葉原で見つけた小型フライス盤や旋盤を買おとしているという寺尾の言葉を聞きつけてこう言った。

「そんな偽物買ったって、正確な寸法なんて出やしないよ。使い方を教えてやるからうちのを使え」

プロの職人が、アマチュアの情熱にほだされた格好だ。

「それから毎日、工場通いが始まりました。彼らがどうしてわたしを受け入れてくれたのか分かりませんけど、わたしが本気なんだってことを感じ取ってくれたからだと思っています。そんなヤツに真っ正面からぶつかってこられたわけですから、かわすのは忍びなかったんじゃないでしょうか」

「可能性がゼロじゃないなら、やらないわけにはいかない」

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家電ベンチャーとしてのBALMUDAが初期に制作・販売していたプロダクトの数々

「よく大胆だとか行動力があるって言われますけど、本質的に子どもな部分があるんでしょうね。やる前から失敗したらどうしようなんて考えないし、やりたいことを見つけたらやる。ただそれだけなんです」

寺尾にとって、脇目もふらず物事に取り組んだのはこれが最初ではない。高校を中退し、一人でスペインやモロッコを旅した時にミュージシャンとしてロックスターになると心に決め、音楽活動にのめり込んだ時もそうだった。

「人生って何が起こるか分かりません。でも確実に分かっていることが2つだけあります。それはいつか死ぬということと、残された人生は決して長くはないということ。そこから逆算すれば、今日必死に頑張るという以外の結論に辿り着かないじゃないですか。迷っている時間はないんです」

今日を必死に生きる。その大切さに思い至ったのは、14歳の時母親が不慮の事故で亡くしたことがきっかけだった。

「身近な存在がある日突然消えてしまったわけですから、どうしてそんな理不尽なことが起こるのか、とにかく不思議で仕方がありませんでした。母の死をきっかけに、哲学書を読んだり海外を旅したりしながら、人生の意味や生きる目的について考えるようになったんです」

考え抜いてたどり着いたのは、「人間がいくら偉そうなことを言っても、大きな流れの中では、偶然に左右されるだけの無力な動物に過ぎない」という結論だった。

だが、寺尾がその境地に達した時、心をよぎったのは厭世でも達観でもなく、今、生きている状態に対して誠実であろうということだった。

「生きているってことは、確実に変化することが約束されている状態です。明日を生きた人はいない以上、どんなに大きな目標であっても、結果が出るまでは『できない』なんて誰にも言い切れません。やりたいことが目の前にあって、実現する可能性がゼロじゃない。それならやらないわけにはいかないでしょう?」

町工場で修業を始めてからおよそ1年。当初の机を作る計画からスタートした夢が、やがてアルミの削り出しによるノートPC用冷却台に姿を変え、初の製品『X-Base』へと結実する。2003年、ないないづくしの状況から、たった一人のガレージメーカーが産声を上げた瞬間だった。
(次ページへ続く)




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