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21世紀は素材の時代。FabLab Kamakura渡辺ゆうかさんが描く「ファブタウン構想」【連載:みんなのシビックデザイン】

タグ : Fablab, KULUSKA, シビックデザイン, ファブタウン, 江口晋太朗, 渡辺ゆうか, 田中浩也 公開

 
オープンデータやスマートシティ、ソーシャルビジネスなど、昨今では公共/都市開発/政治経済などの幅広い分野で 「サステナビリティ×テクノロジー」を意識した取り組みが始まっている。では、こうした「シビックデザイン」の世界で、自らの知見や技術を活かしながら奮闘する人たちは、何をきっかけに活動を始めて、どんな思いで続けているのか。編集者・ジャーナリストの江口晋太朗氏が人となりに迫る。

2011年に日本で初めてFabLabが設立して3年が経ち、最近では大分や大阪の北加賀屋など全国にFabLabは広がっている。ウェアラブルやIoTといった言葉も広がり、モノづくりのあり方を考える機会も増えてきた。

モノづくりを語る時は技術やプロダクトに目が行きがちだが、「プロダクトそのものではなく、日々の生活や身の回りの物事に対する意識の転換を通じて、わたしたち自身で生活をどのようにデザインしていくかを考えることが大切」だと、FabLab Kamakuraの渡辺ゆうかさんは語る。

「FabLabで仕事が作れますか?」

多摩美術大学の環境デザイン学科を卒業した渡辺さんは、都市計画事務所やデザイン事務所で働いていた。ある時、病院に入院してリハビリ生活を過ごしたことから、自身の体がケガから回復へと至る身体経験や誰かに支えられて生きていることを改めて考えるようになり、生きること・働くことの実感を強く感じるようになったという。

2010年に『世界を変えるデザイン展』で慶應義塾大学の田中浩也氏と出会い、そこからFabLab Kamakuraの立ち上げに参画するようになった。

「世界のFabLabで起きている話を聞いて、FabLabというネットワークが次の時代のインフラになるのではないかと実感しました。同時に、今のクリエイターは、もっと自由にモノづくりができるはずだと考えていました。FabLabのコンセプトが『ほぼなんでもつくる』という考えだとすると、新しい仕事も作れるのではないか。起業とかではなく、もっと身近な仕事を作り、暮らしながら仕事をするような考え方が実現できるのでは、と田中先生に提案したことから、FabLab Kamakuraの立ち上げに携わるようになりました」

世界に広がるグローバルなネットワークとローカルなFabLab

FabLabは、現在では世界50カ国、200ヵ所以上に広がる、デジタルファブリケーション機器を備えた実験的工房のネットワークのラボだ。「Make、Learn、Share」をコンセプトに、個人がデジタル工作機器を使ったり、互いに学び合ったりしながらモノづくりを楽しむ場所である。

FabLab Kamakuraがある「結の蔵」と呼ばれる築年数125年の建物は、秋田県の酒造蔵を移転して建てられた

FabLab Kamakuraは、2011年5月にFabLab Tsukubaと同時期に誕生した、日本で最初のFabLabだ。

人口約17万人の鎌倉市は、緑豊かな場所で伝統文化とデジタルファブリケーションという現代の技術を融合させるのにふさわしい地域として、最初のFabLabの場所に選ばれたという。

「世界を見ても、FabLabがある地域はそれぞれに特色のある場所ばかりです。世界中のラボ同士がつながる、グローバルネットワークが魅力の1つだからこそ、ローカルの場所の個性を活かすことを常に大事にしています」

ケニアでは、FabLabを通じて生活の糧として現地の雇用に貢献したり、オランダでは芸術表現にファブリケーションやデジタル機器を使う場所になっているなど、国や地域によってFabLabが力を入れる分野もさまざまだ。

FabLab は、集う人たちのコミュニティでカタチづくられる

FabLab Kamakuraでは、モデラーやレーザーカッター、3Dプリンタなどを学ぶ講習会を定期的に開催している。各機材の講習を修了した人は「蔵部」というメンバーとなり、予約してFabLab Kamakuraの機材を使うことができる。

「皆さんはじめは、3Dプリンタやレーザーカッターを使って、ハンコや表札を作りたがっていました。表札は、パブリックなものでありながらパーソナルなものだからこそ、オリジナリティを加えたい気持ちが高いんです。今は、データの作り方やデータモデリング、電子回路に挑戦しようとする人も増えてきました」

より利用者の間口を広げ、地域の実験工房を皆で作り上げていくための取り組みとして、毎週月曜9時に「結の蔵」の掃除や草むしりをしてからデジタル機器を使う「朝ファブ」という取り組みも行っている。

みんなのアイデアでつくった朝ファブ憲章も、レーザーカッターで刻印されたものが壁に掛けられていた

「FabLabの理念や考え方を明文化した『FabLab憲章』があるんですが、それを真似て『朝ファブ憲章』を作り、自分たちでファブラボコミュニティを作り上げる動きがあります。誰かが決めた規則を守るのではなく、みんなで作り上げながら新しいモノを生み出すFabLabの理念を踏まえながら、地域の人たちによるコミュニティが生まれているんです」

誰もがモノづくりに関与できる“余地”が生まれている

鎌倉から生まれた取り組みの1つに、革職人の藤本直紀さんとデザイナーの藤本彩さんによるユニット「KULUSKA」による「旅するデザイン」がある。この取り組みは、ファブラボネットワークとオープンソースを通じて新しいモノづくりのあり方を提示したという。

「レーザーカッターであらかじめパーツを切り抜いて、接着や縫製を人が行うことで誰でも本格的な革製品を作ることができる仕組みです。さらに、革スリッパのデータをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを採用してオープンにし、誰でもカスタマイズして自分に合ったスリッパをデザインできるようにしたんです。この取り組みが海を越えて、ケニアのFabLabではスリッパのデータをもとに製造・販売することで運営の収益源になったりと、オープンデザインによるグローバルな動きが起き始めています」

「KULUSKA」のスリッパ。デザインの共有、改良、制作による「オープンデザイン」の取り組みの1つだ

誰もがモノづくりに取り組める環境ができたことで、既成品をただ購入するのではなく、既成品に少しのオリジナリティを加えることで自分だけのストーリーを持ったものを作ることができるという。

データの共有とデジタルファブリケーションによるカスタマイズを通じて、誰がモノづくりに関与できる”余地”が生まれている。

渡辺さんは、21世紀を誰もがモノづくりに関与できる余地がある「素材の時代」だと語る。

「20世紀は、いわば消費の時代、製品の時代でした。一般の人たちの多くは、作られたものに対して関与できず、ある一定の選択肢の中から選ぶことしかできませんでした。その結果、どのように作られたのかを考えることはなく、いくらで買えるのか、どこで買えるのかだけが重要な要素でした。21世紀は、つくることを前提にした上で『何でつくるか』、『どう作るか』、『どこで作るか』を選ぶことができます。製品よりも前段階の素材から考えながら、自身の身の回りのものをデザインすることができる時代になってきたんです」

モノづくりで人とつながるソーシャルファブリケーション

モノを通じた新しいコミュニケーションのあり方が生まれていることを実感しているという

デジタルファブリケーションは、インターネットの発展とリンクして語られることも多い。インターネットとコンピュータの発展によって、ゼロから新しいモノを誰でも簡単に作ったり、誰もが情報発信ができたりするようになった。

わたしたちが普段SNSによるつながりができているように、モノづくりもこれから他者とのつながりが生まれてくると渡辺さんは語る。

「パーソナルファブリケーションの先に、モノづくりを介してつながりが生まれるソーシャルファブリケーションが起きてきます。何かをつくる環境や時間を共有することで、知識を共有したり、新しい発想が生まれてくるようになるんです」

実際に、ネット黎明期時代にシステムを作っていた70歳のエンジニアの方が、小学生に対してプログラミングを教えるような関係が生まれている。モノづくりを通じて、世代や分野を超えたつながりが生まれているのだ。

世界のFabLabでも、言葉ではなく、それぞれが作ったモノを通してその人のアイデンティティや考えを相手に伝えることができる。言語を超えた非言語コミュニケーションの1つとして、モノづくりをとらえることができるかもしれない。

街ぐるみでモノづくりを行う「ファブタウン」構想

ファブラボは、ただデジタル機器が使える工房ではなく、ローカルに根付きながらグローバルにつながる、コミュニティラボ、リサーチラボ、インキュベーションラボとして機能しながらモノづくりを行う場でもある。

一人一人の可能性を拡張し、新しい仕事やライフスタイルへとつなげていく。モノづくりが他者とのつながりへと移り変わることで、地域や都市のあり方をどのようにデザインしていくか、という考えへと広げることができる。

スペインでは、市民が自分たちでソーラーハウスを作り、自家発電でデジタル機器を動かす「グリーンファブラボ」プロジェクトや、市民自らで作ったセンサーを家に取り付けてCO2濃度を計測したり、蜂の巣箱のデータをオープンにし、3Dプリンタで誰でも巣箱を作って養蜂を支援したりする取り組みが行われている。

バルセロナからスタートした「スマートシティズン」の動きは、世界にも広がり始めている

「スペインやオランダのFabLabでは、『スマートシティズン』プロジェクトという取り組みを通じて、市民一人一人が自分たちの身の回りの環境を測定し、データを集約して街全体のエネルギー消費や環境を見える化する取り組みを行っています。

プロジェクトに必要なデバイスキットをFabLabで作り、市民に配って能動的な参加を呼びかけ、街全体のデザインを自分たちで考える取り組みを推進しているのです。自分たちの暮らしを、少しずつ見える化したり作り上げる動きが、FabLabと地域コミュニティから生まれてきているんです」

こうした諸外国の動きを学ぼうと、横浜市はバルセロナと連携協定を結び、エネルギーマネジメントやオープンデータ、オープンガバメント、シティプロモーションなどの情報交換を行っている。

それと同じように、FabLabを通じて身の回りの暮らしをデザインする動きを鎌倉市全体に広げようとする構想を、渡辺さんはFabLab Kamakura設立時から考えていたと語る。

「FabLab Kamakuraの大きなビジョンは、街ぐるみでモノづくりを行う『ファブタウン』構想です。鎌倉には、彫刻や、木工、染色などさまざまなスキルを持ったクリエイターや素材を扱うお店があります。年間1000万人以上の観光客が訪れる鎌倉を、ただの観光地ではなく体験やスキルアップができる街にしたいんです。

地域性とITやデジタル技術などのハイテクを融合させ、地域全体をFabLabと見立てて、そこに住む人や国内外から訪れる人たちと一緒にものづくりができる環境を作っていきたいと思っています」

モノづくりを通して「暮らしながらつくる」時代へ

暮らしながらつくる、をコンセプトに、仕事のあり方、生き方を見つめ直す時代が来ると語る

Webとリアルの融合が進み、かつローカルで生まれたものをグローバルにシェアすることで、新しい地域の発信や魅力の再構築ができてくる。東京から1時間弱離れた鎌倉には、都心のめまぐるしさから少し離れた場所で自分らしい暮らしや生き方を模索する人も多い。

デジタルのテクノロジーの使い、遠隔でも仕事ができるからこそ、働き方や暮らし方を自分自身でデザインすることもできやすくなる。

FabLabを日本に持ち込んだ慶應義塾大学の田中浩也氏は、モノづくりを通して「暮らしながらつくる」ことの大切さについて日々語っているという。渡辺さんも、自分の身近な環境を自分の手でつくり出すことで、ストーリーが生まれ、自分らしいマネジメントを行うことができる時代が来ると語る。

「誰もが自分の生き方をデザインするようになることで、生活がより三次元的な考えになってきます。参加する余地、手を加える余地があるからこそ、愛着も生まれます。自分の生活、その延長線として街のあり方を考え、みんなでアイデアをブラッシュアップし、みんなで作り上げていくようになってほしいですね」

FabLabを作る時に考えていたことが、3年を経て少しつづ形になってきた。モノづくりを通して自分の身近な暮らしや働き方、生き方を考える新しいデザインのあり方を、誰もが考える時代になってくるのを予感させる。

Interviewer

編集者・ジャーナリスト
江口 晋太朗(@eshintaro

1984年生まれ。福岡県出身。情報・環境・アート・デザイン・テクノロジーなど、ジャンルを超えたさまざまな分野を横断しながら「未来をつくる編集者」としてプロデュース活動を行う。ネット選挙解禁に向けて活動したOne Voice Capmaign発起人、オープンデータやオープンガバメントを推進するOpen Knowledge Foundation JapanCode for Japanのメンバーとして活動。著書に『パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治』など

撮影/赤松洋太




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