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「エンジン」から「エンタメ」へ。老舗エンジンビルダーの意外な方向転換【連載:世良耕太】

タグ : アプリ, エンジン, コスワース, 世良耕太 公開

 
F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

出版社勤務後、独立し、モータリングライター&エディターとして活動。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『auto sport』(三栄書房)。近編著に『モータースポーツのテクノロジー 2013-2014』(三栄書房/1680円)、『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

イギリスにコスワース(Cosworth)という会社がある。レースファンならなじみのある名称だろう。1967年にF1に投入した「DFV」という名の3L・V8自然吸気エンジンは多くのチームに供給され、1985年までの19年間に155勝を記録した。名機と言っていい。

コスワースがかつて供給していたF1エンジン

コスワースがかつて供給していたF1エンジン

そんな輝かしい実績があるものだから、コスワースといえばレーシングエンジンコンストラクターのイメージが定着している。ところが、コスワースの事業分野は「エンジン」に限らない。

対をなすのがエレクトロニクス系だ。コスワースは1987年にパイ・リサーチ(Pi Research)のブランド名でエレクトロニクス部門を立ち上げた。

各種車両情報を表示するダッシュディスプレイや、車両が搭載する各種センサーが計測・収集したデータを保存するデータロガー、オルタネーターで発電した電気をECU(Engine Control Unit)の指令に従って機器ごとに制御するPCU(Power Control Unit)などの開発・製造も手掛ける。ECUやGCU(Gearbox Control Unit)もコスワースの主力製品だ。

F1からは2013年限りで撤退してしまったし、かつて参戦していたアメリカンオープンホイールの最高峰、インディカーシリーズ(かつてのCART)にもエンジンは供給していない。

だが、WEC(世界耐久選手権)の一部プロトタイプやGTEクラスに参戦するポルシェのワークスマシン、911RSRなどはコスワースのダッシュディスプレイやPCUを搭載している。国内フォーミュラの最高峰、スーパーフォーミュラは2014年に新型車両に切り換えたが、カラーディスプレイを組み込んだステアリングホイールは全車コスワース製だ。

再浮上の切り札は娯楽性への転換

エレクトロニクス系のコスワースとしてレース業界では確固たる地位を築いているが、エンジンを幅広く供給していた時代のように、エンドユーザーがコスワースの名を意識することは少なくなっている。

しかし、その流れが変わりそうだ。アメリカン高性能スポーツカーの代名詞的存在であるシボレー・コルベット・スティングレイは、2013年に7代目となる新型に移行した。その2015年モデル(デリバリーは2014年)は、コスワースが開発した「パフォーマンス・データ・レコーダー(PDR)」を搭載する。

コスワースは2000年からコルベット・レーシングにデータ収集およびテレメトリーシステム(走行中の車両データをピット側に無線送信するシステム)を供給している。これらの活動で培った技術を量産向けに転用しようというわけだ。娯楽性を加味しつつ。

PDRはサーキット走行で真価を発揮する(もちろん、公道でも使用可能)。タッチパネル式のインフォテイメントシステム(液晶モニター)に表示されるアイコンをタッチしてメニュー画面を表示し、赤いレコードボタンを押すと「記録」が始まる。

PDRを構成する主要コンポーネントは3種類に分類できる。

1つ目は高解像度のカメラとマイクだ。ルームミラーの裏側に設置されたカメラでドライバー目線の走行映像を記録。室内のマイクで音を拾う。

2つ目のコンポーネントはGPSレシーバーを組み込んだデータレコーダーである。このレコーダーは一般的なナビシステムの5倍の頻度(5Hz)で自車位置を測位し、車両の走行軌跡を正確に記録。同時に、車載ネットワーク(CAN)を通じてエンジン回転数やシフトポジション、ステアリング舵角や加速度情報などにアクセスする。

3つ目はグローブボックス内のSDカードスロットだ。記録したデータは車載ディスプレイで確認することも可能だが、SDカードにコピーし、自宅のPCなどでじっくり眺めることも可能である。

レビューする方法は複数を用意するが、ビデオモードはまるでレース中継のオンボードカメラ映像を見るかような臨場感である。ドライバー目線の風景にエンジン回転数やステアリング舵角、シフトポジションや加速・減速・旋回の各種Gフォース、コースのどこを走っているかといった情報が重ねて表示される。

走行データを重ねて表示すると、まるでレースゲームの2Pプレイのような画面に

走行データを重ねて表示すると、まるでレースゲームの2Pプレイのような画面に

走行データをグラフで確認することも可能だし、リファレンスとなるプロの走行映像やデータと自分のデータを重ねて表示することも可能。自分のドライビングのどこに改善の余地があるのか、ひと目で分かる仕組みだ。

PDRはレースで進化した技術をエンドユーザー向けに落とし込んだ好例と言える。

インディカーを媒介にして開けたBtoCビジネスへの道

2014年中にもアメリカでサービスを開始する「コスワース・ライブ・オン・エア(Cosworth Live on Air)」は、もっと間口の広いサービスだ。

アメリカンオープンホイールの最高峰カテゴリーへのエンジン供給は途絶えて久しいが、エレクトロニクス系での貢献は続いている。

ライブ・オン・エアはインディカーシリーズのタイトルスポンサーを務める大手電気通信事業者「ベライゾン(Verizon)」とインディカーシリーズ、そしてコスワースの3社共同で開発したサービスで、専用アプリを利用する。

インディカーに参戦する車両はもともと大容量のデータを高速でやりとりするため、WiMAX規格に準拠した無線機器を車載し、走行中に収集した各種車両データをリアルタイムでオーガナイザーやピットに送信していた。このデータの一部を、アプリを通じて一般に提供する。

PDRの発展形と考えられる『コスワース・ライブ・オン・エア』は、ハイスペックな無線機器を搭載するインディカーと非常に相性がいい

PDRの発展形と考えられる『コスワース・ライブ・オン・エア』は、高速通信機器を搭載するインディカーと相性がいい

閲覧できるデータの内容は明らかになっていないが、PDRプラスアルファの内容だろう。

コスワースの担当者は筆者の質問に対し、「ゆくゆくはインタラクティブなサービスを提供したい」と語った。インタラクティブな機能は2014年秋に立ち上がるフォーミュラEでも導入を企画しているが、インディカーやコスワースも同様の考えを温めているようである。

コスワースのビジネスはこれまでBtoBが中心だったが、エレクトロニクス系を中心にC(カスタマー)を意識し始めたようだ。

といって、2大事業分野の一方である高性能エンジンの開発・製造に関して興味を失ったわけではない。

でも、F1には興味がない模様。「エンジン供給の対象として魅力があるのはインディカーシリーズ」と語ったのは、2013年10月にCEOに就任したH・レイシガー氏。新規事業の取り組みがどちらもアメリカを舞台にしているのは、プライベートでもビジネスでも、キャリアの多くをアメリカで過ごした人物が舵取りをしているからだろうか。

>> 世良耕太氏の連載一覧




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