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GMOペパボの「あんちぽくん」が、悩める作り手に学術書を勧める理由【連載:エンジニアとして錆びないために読む本】

タグ : CTO, GMOペパボ, あんちぽくん, 書籍紹介, 栗林健太郎 公開

 

業界でその名を知られるCTO(最高技術責任者)に、仕事に役立つ名著を紹介してもらうこの連載。第3回は、ネット上で「あんちぽくん」の名で知られるGMOペパボのCTO、栗林健太郎氏の登場だ。

今回、栗林氏に選んでもらったのは、開発体制や組織づくりを考える上でためになる3冊。年間300冊近く読む無類の読書家として知られる栗林氏は、どんな書籍を紹介してくれるのだろうか。

読みやすい100冊より、難しくても定評のある1冊を

幼少のころから本に囲まれて暮らしてきたという栗林氏。社会人となり、CTOになった今も、読書は生活の中に深く根付いている。

「プライベートでは、小説やノンフィクションを読むことも多いのですが、何か新しいことに興味を持った時や、未知の分野のノウハウを吸収する必要が生じた時は、真っ先にその分野の基本書に挙げられる学術書や専門書を探して読むようにしています。読むべき本を見極めるポイントは、専門領域で定評があるかどうか。そういう本はたいてい値段が高く、ページ数が多い。それでも、読むのに苦労しそうな本をあえて選ぶようにしているんです」

読むのに苦労しそうな本をあえて選ぶのには理由がある。それは内容が薄い本を100冊読むくらいなら、難解でも内容に定評がある1冊を熟読したほうが効率的だと考えるからだ。

「どんなに難しそうでも、情報が集約された「濃い」本を選ぶのは、専門家が己の知見を体系的にまとめてくれているからからです。特に学者さんが書かれる学術書は、引用元や参考文献がしっかり記載されているので、特定のテーマを掘り下げたり、関心の赴くまま知識を広げたりするのにも大変都合がいい。だから、読むのに苦労しそうな本を選んで読むようにしているんです。とはいえ、そういう本ばかりではコンテンツとしてつまらないと思うので、今回は少し応用に寄った本を紹介します」

ではここで、栗林氏が選んだ3冊を紹介しよう。

開発体制・組織づくりに役立った3冊

【1】『生産システムの進化論―トヨタ自動車にみる組織能力と創発プロセス』(有斐閣)
藤本隆宏著

優れたシステムや組織がどのようなきっかけで生まれ、どのようなプロセスを経て進化していくのかを5つの類型によって紐解くという内容の本です。

タイトルからもわかる通り、トヨタの生産システムを題材にしているので、自動車産業や製造業に限定された内容に終始していると思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。

僕がエンジニアのマネジメントに関わるようになって約1年。この間、組織や技術マネジメントについて考え続けてきたことが体系的に裏付けられたと思えるほど、ソフトウエア産業の開発にも通じる内容でした。

僕の知る限り、ソフトウエアエンジニアリングの領域で、この本と同じレベルで書かれた本を知りません。

【2】『組織デザイン』(日経文庫)
沼上 幹著

2年ほど前、僕らが組織を挙げてスクラム開発に取り組み始めたころにこの本の存在を知りました。

スクラムはより良くソフトウエアを開発するための方法論であると同時に、マイクロな組織をベースとした組織論的なフレームワークでもあります。

当時、現場エンジニアの一員として、このスクラムをどうやって会社組織に適応させていくべきか考えていた時に、ふと、自分にはそもそも「組織とは何か」という本質的な理解が乏しいことに思い至りました。それで、この本を読んだのです。

『組織デザイン』には、長い歴史の中で培われた数々の組織形態や、その効能に関する知見が体系的にまとめられています。この時に得た知識は、CTOとしてエンジニア組織に全責任を負うようになった今も、大いに役立っています。

【3】『殻―脱じり貧の経営』(ミネルヴァ書房 )
高橋伸夫著

大量生産の礎を築いたT型フォードや、世界初の汎用デジタル電子計算機ENIAC、史上最も成功したコンピュータの一つであるIBMのSystem/360など、一時代を築いたにも関わらず、その後じり貧に陥ってしまった数々の製品を取り上げ、成功体験にしがみ続けることの危険性と打開策を教えてくれた本です。

なぜ人は成功体験にしがみつくのか。それは従来のやり方を踏襲することで、学習コストをかけず、作業効率を高められることを多くの人が体感的に知っているからです。

しかし継続性が本当の強みを発揮するのは、組織がスケールの大きい構想によって描かれるビジョンを目指して走っている時に限られます。この本を読んで、経営者的な視点で大きな目標を掲げ、スタッフを動機付けすることの大切さを強く感じました。

人が絡む組織を「とりあえず変える」ことなどできない

約3年を掛けて、GMOペパボの開発基盤刷新を実現した栗林氏。それを支えた書籍との付き合い方とは?

書籍には、長年にわたって人間が積み上げた叡智が集積されている。しかしその一方で、今はネットにも毎日膨大な情報が集まり、世界中で共有されているという現実もある。

ネット上にある、あふれんばかりの情報を活用すれば、あえて書籍など読まなくても成果は出せるのではないかという思いも湧いてくるが、必ずしもその考えは正しくないと栗林氏は言う。

「非常に新しい先端分野の情報に限って言えば、ネットに分があるのは事実ですし、こまめに見直しを図ってより良い物を生み出すという考えが悪いわけではありません。ただ、組織論のように歴史ある分野では、書籍に優位性があるのは事実です。また、スタッフの人生に深く関わる組織を『とりあえず変える』というのでは、責任者として不誠実だと僕は思います。ゆくゆくは改善するにしても、事前によく勉強して『一発で決める』くらいの覚悟で取り組むべきです」

だから栗林氏は、CTOとして决断を迫られた時、その道のエキスパートが心血を注いで書き上げた書籍を重んじるのだ。

「新しいプログラミング言語を修得する時もそうですが、まったくの初心者でない限り、まずはドキュメントを読んだり、言語の仕様をある程度調べたりしてから、実践に入るのが普通でしょう。なぜならそれが効率的だし合理的だから。

ネットと書籍の対比で言うなら、最新情報はネットから得るにしても、古くから多くの人が関心を持ち続けているテーマに関しては、歴史的な蓄積がある書籍から知見を得たほうが理に叶っていると思います」

ビジネス書が役に立たないのは誰のせい?

栗林氏が「技術書以外」も意識して読む理由とは?

しかし、目の前にある古い本を手当たり次第に読めばいいという話ではない。書籍から吸収した知識を現実世界で活かすには、相応の応用力が必要になる。

優れた書籍は読み手の能力や、やる気を試すものでもあるのだ。

「ビジネス書は役に立たないと言う話をよく耳にするのですが、これには2つの側面があると思っています。1つは冒頭でも申し上げたように、そもそも本の内容が薄い場合。そしてもう1つが、読み手の経験や能力が乏しい場合です。

書籍がいくら示唆に富んだ知見を提供していたとしても、読み手に我が事としてとらえるだけの能力が備わっていなければ、おそらくその本を読んで良かったとは思えないでしょう。前者はより良い本を選ぶ術を知るだけですぐ解決できる問題ですが、後者は読み手の努力や研鑽を強いるものなので、『頑張って』としか言いようがない。

そこが心苦しい部分もありますが、知識を応用する力を身に付ければ、本から得られるメリットはさらに大きくなるので、努力のしがいはあると思いますよ」

この境地に達するためには、定評のある本を注意深く選び、現実と照らし合わせながら読み込むことが前提になる。とは言え、最初は難しく考えなくていいと栗林氏は諭す。

「関心のあるテーマがあるなら、『分野名』と『基本書』でググってみれば、どんな本を読むべきかだいたいのアタリが付けられます。その中でなるべく濃い目の本を選び、同じ著者の別の著作や彼らが勧める書籍を読み継いでいくだけでも、知識と一緒に応用力も付いてくるはずです」

何か事を成すには、正しい選択をし続ける必要があるが、1人の人間が体験できることには限りがある。だからこそ、他人の経験が蓄積されている本を読む価値があるのだと栗林氏は言う。

「読書の効能は、他人の経験を自分の人生に活かせることにあります。趣味なら別ですが、仕事においては本を読めば済むようなことを自分の頭で考えたり、自ら経験によって実感したりしようとするのは時間の無駄。

もちろん、だからといって、本を読みさえすればそれでいいわけではありません。大切なのは、本当に自らが解決するべき本質的で新しい問題に全力で打ち込むことです。その余裕を作るために、本を読むのです」

もし目の前の課題を然るべき手段で解決したいのであれば、手っ取り早く済ませようとするのでなく、栗林氏のように、テーマを定め、腰を据えて読むべき1冊を見つけるところから始めてみるのがいいのかもしれない。

>> 「エンジニアとして錆びないために読む本」連載一覧

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/桑原美樹




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