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『ブラッドブラザーズ』や『D.O.T』など世界的ヒットゲームを運用~DeNAシンガポールを海外で成功させた3ステップアプローチ

タグ : D.O.T, DeNAシンガポール, ゲーム開発, ブラッドブラザーズ, 海外展開, 転職 公開

 

海外に進出した日系ゲーム会社の撤退が相次ぐ中、DeNAシンガポールが好調を続けている。

同拠点は世界市場でヒットした『ブラッドブラザーズ』や『D.O.T(ドット)』など人気ゲームタイトルを北米市場向けに制作・運用、および独自タイトルのプロデュースを担当。業績が急伸していることもあって、この1年で30人以上も採用し、新卒採用まで開始した(※オフィスはシンガポールだが、2014年6月末時点で日本人を含め「外国から採用した社員」が25名以上もいる)。

日本では、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行などを背景に、業界的に下火と思われがちなソーシャルゲーム。なのになぜ、彼らは急成長することができたのか。

その理由について、同社の森徹也社長と開発スタッフに聞いたところ、ポスト・バズドラの時代を見据えて打ってきた「ある施策」が要因だと明かしてくれた。

ヒット狙いよりも、コアコンピタンスを組織に植えつけることから始まった

DeNAシンガポールの立ち上げを担った、Managing Directorの森徹也社長

森社長(以下、肩書き省略) 一般的に「難しい」といわれる海外進出ですが、当社はタイトル、財務状況いずれの観点からも成長を続けています。

こちらの図は、『アングリーバード』と、我々が運用する『マーベル ウォー・オブ・ヒーローズ』のUS市場における売上ランキングの推移を比較したものです(以下参照)。

前者はサービス開始直後に売上が瞬間風速的に上昇し、その後急下降していったことが分かります。一方後者は、開始から19カ月に渡ってUSで不動のトップ10、21カ月目の現在でもトップ10返り咲きをうかがえるポジションを維持しています。ヒットを生んだ後の運用、これがDeNAの強みです。

データ提供:DeNAシンガポール

―― 経営の面ではいかがでしょうか。

 制作運営するタイトルの増加に伴い売上が増加していますが、特筆すべきは利益率の高さです。タイトルごとのユーザーのベースが安定するステージに突入すると、多大なマーケティング費用を投下する必要がなくなりますからね。

もう一つ、我々はベトナムのハノイにあるオフショアの拠点を活用しているため、開発・運用のコストを抑えることができています。それらの相乗効果によって、制作運用ラインを3ラインに拡大、さらに新規タイトルへの投資が可能となっており、開設当初は10名以下だったこの拠点も、およそ1年半で50名規模に拡大しました。

―― さきほど海外進出の話が出ましたが、なぜ、他社が苦戦する中でDeNAシンガポールはうまくいったのですか?

 海外進出で主に失敗しやすいのは、新しい「国」で、新しい「ゲーム」を、新しい「チーム」で、新しい「市場」に出す、この未経験の4乗に挑戦するケースです。

我々は進出当初、シンガポールではあえて新規タイトルではなく「コアコンピタンス(企業の核となる強み)」を日本から移植させることに取り組んできました。いきなりヒットという水物を狙うのではなく、ヒットを作り出す永続的な力の移植が最初だろうと。

―― そのコアコンピタンスとは?

 『怪盗ロワイヤル』に始まり『パズドラ』が出現するまでの過程で日本のゲーム会社が確立してきた、世界で通用する永続的なゲームシステムです。日本のゲーム会社は、ゲーム性とインターネット、モバイルを融合させる事で、ゲームを単品商品からライブサービスに昇華させたわけですが、それを実現する基本要素と言えるものです。

具体的には、(1)Free To Playでプレイする最初のハードルを下げ、(2)キャラクターやユニットの育成とデッキの強化によるステージ進行モデルを提供し、(3)週次イベントなどでゲームの進捗を明示的に誘導する。

そして、(4)ゲームプレイの状況を緻密に係数分析して難易度調整や新規性を随時埋め込み、プレーヤーに感動と共感を与え続け、(5)ソーシャル性を埋め込むことでユーザー獲得を加速させ、ユーザー離脱を抑え、ゲームの経済性と寿命を極大化するのです。

ゲームの仕組みや見た目には流行り廃りがありますが、今お話した5つのポイントは普遍的な概念であり、日本のゲーム会社が培ってきた強みです。

いわば、トヨタが自動車業界で「カンバン方式」を世界中に移植したように、私たちはそれをゲーム業界で行おうとしているわけです。

―― DeNAシンガポールでは、それをどのように移植してきたのでしょうか?

 我々には、DeNA, ガンホー、グループス、Cygames、NHN、コーエーテクモといった日本企業に加え、Zynga、テンセント、Nexon、Ubisoft、EAなど世界中のゲーム制作大手から集まった11カ国の国籍で構成されたチームがあります。彼らの知見を取り込みながら、3つのステップを踏んで移植を進めてきました。

大前提として必要だった「徹底した目線合わせ」

「成長の礎」となったステップ1を手掛けた滝口氏(左)とジョシュ氏(右)。2名とも他社からの転職組だ

 3つのステップとはローカライズ、テイクオーバー(移管)、新規タイトル制作からなりますが、その具体的な姿については、開発チームのメンバーから説明しましょう。

ジョシュ ステップ1は、日本で制作された北米向けゲームタイトルのアジア市場向けローカライズです。これは去年の4月から始めました。

北米向けタイトルとはいえ、海外メンバーと共同作業することを前提にして開発が行われていないため、すべてのドキュメント、コードのコメントでさえ日本語で書かれていました。それらをシンガポールやハノイのスタッフが理解できるよう環境を整えつつ、日本チームが毎週制作するイベントコードを移植し、アートをローカライズし、遅延することなく毎週リリースする。

コンシューマーゲームだとローカライズは一回やれば完了ですが、ソーシャルゲームでは毎週毎週、継続的に、しかも市場ごとに精緻な統計分析をしてゲームバランスをカスタマイズしていかないといけません。

毎週「次の山」が来るので、初めて経験するチームにとっては恐ろしいプレッシャーでした。一回つまずくと、次の山に押しつぶされそうな。今では普通にやってますが(笑)。

―― 特に難しかったことは?

ジョシュ 当初はイベントリリース直前の時期に作業が押してしまい、最後の行程を担当するハノイのQA(Quality Assurance:品質保証)チームにしわ寄せが行ってしまうことがよくありました。

リリース日を後ろ倒しするわけにはいかず、彼らに協力を仰ぐ必要があったのですが、ハノイは受注開発会社を買収する形で設立された拠点であったため、文化が異なります。彼らと目線をそろえたり、少しでもしわ寄せを減らせるようワークフローを合理化する必要がありました。

QAチームには若い独身女性が多いので、無理をさせるわけにはいきません。その分、企画やエンジニアの前行程で問題を起こさないような工夫が必要でした。

滝口 私もステップ1からかかわってきました。特にこちらのエンジニアに対して、開発上のルールを徹底させることに注力しました。

人によってプログミラングのメソッドやコードの書き方が異なるのですが、先々のことを考えた効率性やコードの美しさといった視点から全員のアウトプットを確認し、フィードバックを行っていました。後には、必要なマインドセットを根付かせるために人事評価制度の抜本的な改定も行いました。

※人事評価制度改定のプロセスについてはこちらの記事《日本人とアジア人で「強いアプリ開発チーム」を作るまで~DeNAシンガポールの軌跡と展望》を参照。

 距離の制約を超える事は経営上の重要なテーマですので、ハノイとの連携は徹底してやりました。滝口の働きは組織を拡大する時、非常に重要な役割を果たすものです。

企画から制作・運用まで、海を越えて丸ごと引き取る

―― では、ステップ2は?

滝口 ステップ2には昨年末から入っています。ステップ1ではオリジナルタイトルのチームが別にいて、彼らが北米向けの制作・運用をしていたわけですが、ステップ2では、このオリジナルタイトルそのものを新オーナーとして丸ごと引き取りました。今度はイベント企画からアートの制作から、何もかも自分たちでやらないといけません。

緻密な工程で、しかもライブで動いているタイトルを移植するのは、けっこう難易度が高いのです。移植期間中はオリジナルタイトルチームとがっちり連携しなければなりませんし、新規企画やアート制作が入ってくるので、シンガポールとハノイとの連携は複雑さの度合いが上がります。

幸い、ステップ1で相互の目線合わせがかなりでき上がったので、助かっています。

ステップ2以降の作業で中軸を担った、(写真左から)関野氏、小室氏、石岡氏、渡辺氏

石岡 私もステップ2を担当していますが、このフェーズの難しさでもあり、醍醐味でもあるのは、リモートのスタッフと英語でコミュニケーションを行わなければならないことです。彼らに自分の伝えたい指示を、まずは自分の中で咀嚼して、丁寧に伝えることに特にケアしています。

私は将来的に世界のどこにいても働けるような人になりたいと考えています。ですから、まさに自分に必要なスキルだと感じています。

 DeNA本社から来た関野には、ビジネスデベロッパーの立場でもステップ2に参加してもらっています。

関野 そうですね。私は、以前Cygamesのタイトル『神撃のバハムート』をローカライズして中国と韓国の「Mobage(モバゲー)」でリリースし、運用するところまで担当したことがありますが、今回はそれよりも難易度の高いチャレンジをしています。

移管すべきタイトルの選定から、移管に伴う事業計画の作成、および両社間での合意形成を担う本社とシンガポールの橋渡しの役割を果たしています。次に始まる移管タイトルではプロデューサーをやる予定です。

―― DeNA本社からシンガポール拠点に赴任してみての感想は?

関野 シンガポールにかかわるようになって半年ですが、拠点が立ち上がっていくエネルギーや熱を実感します。シンガポール拠点は本社と連動しながらも自立しているという良いバランスを持っています。それゆえ、ここで作ってきた実績から、DeNA全社の中でも何か新しい事業を始めたい時には「シンガポールに任せれば何とかなる」というように持っていければ良いなと思います。

シンガポールが「ポスト・パズドラ時代」のヒントになる理由

―― なるほど。では、最後の3ステップとは?

 ここシンガポールから、独自の新規タイトルを生み出すことです。

これは大きなステップですので、ステップ2と平行して準備を始めました。いきなり内製ではなく、社外のスタジオとの共同開発で進めています。

作るタイトルは、当然ながらアプリで、ソーシャルゲームには限定していません。このステップを担当する人は、1人1人がゲーム会社の社長のような役割を担います。

―― ゲームのプロデュースだけでなく、人員確保や事業の損益計算まで任せるということですか?

小室 まぁ、そんなところです。新規タイトルを企画し、会社から予算をもらい、稼ぐところまですべてを行っています。企画に合う能力を持った開発スタジオを探して共同開発プロジェクトを立ち上げるのですが、私の場合、最初は韓国、現在ではオーストラリア、ブラジルなどのパートナーと一緒にやっています。

―― 日本でのご経験と比べて、今の仕事は何が違いますか?

小室 私は日本のゲーム会社のプロデューサーとして、日本とアメリカで仕事をしたことがありますが、普通の日本の会社だとドメスティック(国内)の市場が大きいため、海外向けの仕事はそれに差し障りのない範囲で行うというアプローチになりがちです。

しかし我々は、ビジネスになるのであれば世界中どこの市場を相手にすることもできます。また、国ごとにゲームの歴史が異なるため、日本の常識や経験にとらわれずモノづくりを行うフレキシビリティーを培えているように思います。

今後のゲーム開発でカギを握るという「East Meets West」戦略とは?

―― では最後に、DeNAシンガポールの展望をお聞かせください。

 私は、これからのゲームづくりで重要になってくるキーワードを「East Meets West」だと考えています。

今のゲーム業界には、ポスト・パズドラ、ポスト・クラッシュオブクランを見据えてゲームプレイの斬新さを求める傾向があります。これらグラフィックやCGのクオリティが高いゲームの開発を得意とするのが、日本でコンソール向けのタイトルを手掛けてきたゲーム会社に加え、ウェスタンのゲーム会社、つまり欧米のトリプルAやインディー系のゲーム企業です。

彼らは、冒頭で私が説明した普遍の5原則によるマネタイズの仕組みを我々から学んでいます。「West Meets East」ですね。逆に我々は、「East Meets West」で彼らからゲームプレイや見た目など、ゲームの“顔”にあたる部分を豊かにする発想を学ばなければなりません。

ポスト・パズドラの成功モデルは誰もが模索していますが、「East Meets West」なモノづくりプロセスを持っておくことは、成功確率を高めることにつながると思うのです。それを実践する上で必要な刺激を見つけやすいのが、ここシンガポールだと考えています。

ちなみにこのキーワードは、シンガポールにあるヨーロッパ系ゲーム会社の社長の言葉のパクリなんです(笑)。

Nonstop Gamesという会社で、弊社のそばにオフィスがあるのですが、ここの社長Juha PaananenはSupercell(クラッシュオブクランの開発会社)の創立者の弟。彼に、「何でシンガポールに来たのか」と聞いた時、「アジアの企業が持っている世界の先端を走るゲームシステムを身に付けるために来た」と。だからWest Meets Eastなんだ、と言ってました。

―― その目標を達成するには、人材面でも多国籍なチーム編成にしておく必要がありそうです。今回取材を受けてくださった皆さんは「シンガポール移住組」ですが、生活する場所としてはどのような点が魅力的でしょうか。

同社が日本人を含め多国籍な人材を採用できる背景には、独自の採用基準があるという

渡辺 一番の魅力は、海外を身近に感じられることです。東南アジアの周辺国なら往復2万円以下で行けることもあります。一年中気候が暖かいことや日本と比べて税金が安いことも気に入っています。

関野 日本人が多く住んでいるので、海外経験が初めての方や居住年数が短い方も安心です。また、教育や医療が高度化しており、現地では英語・中国語も使われることから子どもを育てる環境としても適していると思います。

渡辺 また、当社は福利厚生も充実しています(※詳しくは同社リクルーティング情報にて)。夜8時以降の食事や夜10時以降のタクシー利用、英会話やスポーツジムの入会、IT関連の書籍購入など自己研鑽などには手当が支給されます。ビザの発行もサポートされますので安心です。

―― 分かりました。貴重な経験談をいろいろとありがとうございました。

取材・文・撮影/岡 徳之(Noriyuki Oka Tokyo




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