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「断る勇気がスムーズな開発を生む」キリンデジタルマーケティング室に学ぶコラボ開発成功の鍵

タグ : キリン, デジタルマーケティング, リコー, 一番搾り 公開

 
旬なデジタルマーケティングの裏側にある最新技術や、それを支えるエンジニアにスポットを当てる連載「デジタルマーケの未来学」。マーケティングとテクノロジーが掛け合わさった時、ビジネスはどう動き、そしてエンジニアは何をすればいいのか。その変化の胎動を解説していく。

2014年4月、キリンビール株式会社は、自社の主力商品である『一番搾り』のPRを目的としたビアガーデン「キリン一番搾りガーデンBrewery Experience」を全国各地にオープンした。

各店、連日行列ができるほどの盛況ぶりだが、店舗では実飲での商品訴求だけでなく、あるデジタル施策が行われていることも話題となっている。

それが、乾杯の瞬間を360度自動で撮影する機器『一番搾リング』を用いたキャンペーンだ(以下の動画参照)。撮影した写真はSNSで共有され、特設サイトでの閲覧も可能となっている。

搭載されているカメラは株式会社リコーの『RICOH THEATA』。アプリやWebサイトは制作会社のオグルヴィ・ワン・ジャパン株式会社によって手掛けられた。リコーの技術協力を得て開発された一番搾リングは、わずか1カ月で完成したという。

今回、企画を担当したキリン㈱デジタルマーケティング室の土谷友理恵さんに大企業が行うデジタルマーケティングの実情や開発会社とのコラボについて取材を行った。

大手企業とのコラボで自社の技術力を活用したいと考えている経営者、エンジニアにとってヒントがあるはずだ。

「できない」という勇気がスピーディーな開発を生む

土谷さんが所属するデジタルマーケティング室は2014年1月に新設されたばかり。ブランド毎に局地展開されていたデジタル施策の集約を目的として設立された部署だ。

自社のマーケティングノウハウを集約させ、効率化を計る狙いがあると語る土谷さん

「デジタルマーケティング室では、コンテンツ制作、Webを活用した情報配信、SNS施策、データを活用したマーケティング活動などが主な業務になります。それまではブランド毎にそうした施策を行ってきたのですが、ノウハウが分散して効率的ではないことも多かった。ノウハウを集約し、従来のテレビを中心としたマーケティングへの依存から脱却するために専門部署を立ち上げたのです」

本格的なデジタルマーケティングへの取り組みの第1弾として企画された一番搾リング。その発想のきっかけは何だったのだろうか?

「『一番搾リング』におけるメリットは、SNSを活用し、ファン同士のコミュニケーションにより情報が広がること。『一番搾り』を持って、一番気分の盛り上がる乾杯の瞬間を写真でシェアしてもらうことで、ブランドの好感度向上だけでなく、ファンからファンへの情報波及を狙えるのでは、と企画を考えました」

グループ全員が写真に入れるようにと、360度撮影可能なカメラ『RICOH THETA』の使用を考案した。製造元であるリコーにはキリン側から声を掛けたことから開発がスタートした。

最初の壁はバッテリー問題だったという。

「店内で電源コードに接続して使用するのは、テーブル移動に不便だったり、お客さんがコードに引っかかったりと安全性でのデメリットが多かった。とはいえ、10時間近い営業時間中RICOH THETAのバッテリーを持続させるのはスペック上不可能でした。そこで、筐体の中に充電装置を組み込み、アプリ側での負荷もなるべく減らす、などの工夫を凝らしたのです」

バッテリー以外にも、Webに公開されるまでのタイムラグを減らすバックエンド処理やアプリのUIなどに注力して開発が進行。驚くことに、企画立ち上げから店舗導入まで1カ月で行ったという。

一番搾リング』本体。アプリを操作して撮影を行う

スピード開発成功の鍵は開発会社とのコミュニケーションの円滑化だったという。

「それぞれの開発会社から上げられてくる情報にあいまいな点が一切なかったので、コミュニケーションがスムーズにいきました。できるか、できないか、白黒ハッキリさせた状態で情報を共有してくれたので、こちらも迷うことなく判断できた。その結果、スピーディーな開発につながったと思います」

とはいえ、開発側からすればクライアントへ「できない」と伝えるのは勇気がいるはず。

デジタルマーケティング室が設立される前は、Webマスターとして多くの開発会社とデジタル系コンテンツを作ってきた土谷さんはそうした開発者側の心理を熟知していた。

「過去にわれわれの要望を伝えたときに、グレーな返事をする開発会社さんも多くいました。結局、期日ギリギリになってやっぱりできないと返答されて困ることも。そうした経験から、明確に要望を伝えるので、様々な制約の中でどのようなことなら実現が可能なのか、明確にしてほしいと伝えました。特に今回の開発会社の方はできない場合、その理由を検証結果と一緒に報告してくれたので、お互いが十分納得いった状態で開発ができました」

あいまいな返答はトラブルの素と分かっていても、クライアント相手となるとついつい背伸びをしてしまうこともあるはず。

しかし、クライアント側からすればグレーな返答は不安の種であることが土谷さんの言葉から分かる。

「炎上案件」にならないためには、できることできないことをハッキリと伝えることを今一度キモに命じることが大切だ。

コラボ開発をうまく進めるための2つのポイント

一番搾リング』特設Webサイト

「一番搾リングに続くデジタルを活用したお客さまに楽しんでいただけるコンテンツ展開の事例を増やしていくことが当面の目標になります」

他の開発会社やエンジニアが、『一番搾リング』に続くコラボ開発を実現するにはどうすればいいのか気になるところ。土谷さんによると、「ファン同士のコミュニケーションの醸成」と「技術の掛けあわせによる提案」がキーになるという。

「企画を考える時は、お客さま自身に参加してみたいと思っていただけるかどうかというポイントで、デジタルマーケティングの強みであるインタラクティブ性を活かしたものを意識します。企業からの一方向性的な情報発信でなく、ファン同士のコミュニケーションから情報が伝わることでブランドへの好感度アップにつながりますからね。そういった企画、コンテンツを今後も作っていきたいと考えています」

そうして生まれた企画を形にするための技術を選ぶポイントは何だろうか。

「最新技術を掛けあわせることで驚きのある何か新しいことができるかどうかで判断します。事例になってしまった時点で、新しい驚きのあるものではなくなってしまうという点では、好ましくない。自社が持つ技術を新しい形で活かせるアイデアの提案を望んでいます」

次はいつ、『一番搾リング』に続くコラボ開発が生まれるのか。大企業も本格的に取り組みを始めたデジタルマーケティングの世界に着目すれば、ビッグチャンスを見つけることができるかもしれない。

取材・文・撮影/長瀬光弘(東京ピストル




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