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「人工知能にできないことを知るために研究所を作った」川上量生氏が明かす、一人勝ちするサービスの作り方

タグ : サービス開発, ドワンゴ, ニコニコ, 人工知能, 川上量生 公開

 

KADOKAWAとの経営統合による新会社の設立や、スマホ用ライブ配信サービス『nicocas(ニコキャス)』をリリースからわずか3日で終了・出直し発表するなど、2014年もWeb業界にさまざまな話題を振りまいてきたドワンゴ。

その中の一つとして、11月末に発表した『ドワンゴ人工知能研究所』の設立がある。

人工知能(AI)は、GoogleやEvernoteといったアメリカの先進企業が研究開発を進める一方(参照記事)、テスラモーターズのイーロン・マスク氏や理論物理学者のスティーブン・ホーキング博士が「いずれ人類に対する脅威になる」と話すなど、その扱い方に賛否両論が巻き起こっている。

その渦中において、ドワンゴはなぜ自社内に研究所を発足させる決断を下したのか。

代表取締役会長の川上量生氏に真相を直撃したところ、「この程度の規模の研究所で何か革新的な成果を生み出せるとは思っていない」と語る。それでも研究所の設立に踏み切った理由を深掘りしていくと、川上氏独自のサービス開発手法が浮かび上がってきた。

そのインタビュー内容を紹介しよう。

プロフィール

株式会社ドワンゴ / 株式会社KADOKAWA・DWANGO 代表取締役会長
川上量生氏

1968年生まれ。スタジオジブリ・プロデューサー見習い。京都大学工学部を卒業後、コンピューター・ソフトウエア専門商社を経て、97年にドワンゴを設立。携帯ゲームや着メロのサービスを次々とヒットさせたほか、2006年に子会社のニワンゴで『ニコニコ動画』をスタートさせる。11年よりスタジオジブリに見習いとして入社し、鈴木敏夫氏のもとで修行したことも話題となった。13年1月より、ドワンゴのCTOも兼任

人工知能についての議論は、「問い」の設定が間違っている

ドワンゴ人工知能研究所のWebページには「次世代への贈り物となる人工知能の創造」が使命と書いてあるが…

―― ドワンゴ人工知能研究所の立ち上げについて、このタイミングで人工知能の研究開発を始めることにした理由を教えてください。

Googleをはじめとする海外の大手IT企業は、人工知能をサービスづくり・プロダクトづくりに活かそうと、人数も予算も桁が2つぐらい違う規模で研究開発を進めています。ドワンゴ人工知能研究所の発足は、彼らに比べるとかなりの周回遅れ。企業規模でも数段劣る僕らが、彼らと同じことをやっても勝てるわけなんてありませんよ。

それでも研究所を作ろうと思った理由は、人工知能に「何ができないか」を知りたかったからです。

―― できないことを知る、ですか?

ええ、だから、僕から(ドワンゴ人工知能研究所の所長に就任した)山川宏さんに対して、「こんなアウトプットを出してほしい」というリクエストはしていません。「研究用の部屋を用意するので、ドワンゴに来て自由にやってください」とだけお願いしています。必要に応じて、スタッフも 自由に集めてください、と。

山川さんに僕らと同じ屋根の下に居ていただき、間近で人工知能にまつわる研究をお手伝いしながら何が起こっているのかを見られれば、それでいいんです。

「人工知能研究所」という名前にしたのも、山川さんにお越しいただく際、「肩書きは何がいいですか?」と伺ったところ、「所長がいいです」とおっしゃったので、「じゃあ研究所を作らなきゃダメですね」という単純な理由で。

―― できること・できないことを探ることで、何をやりたいのですか?

人工知能がコモディティとして使われるであろうサービス領域を知っておくことは、これからのサービスを考える上で非常に重要になると考えています。海外の大きなIT企業は、いずれ本格的に人工知能を使ったサービスを出してくるでしょうから、今から「どの領域で、どう使ってくるか」の予想を立てておきたいんですよ。

それに、人工知能研究所を作って、中長期で人工知能の最新動向に触れることで、ウチのエンジニアたちが刺激を受けて何か面白いモノを考えてくれるかもしれませんしね。

―― なるほど。では、なぜ川上さんが人工知能に注目するようになったのか、きっかけを教えてください。

きっかけは、ニコニコでも放送している将棋電王戦です。電王戦でプロ棋士に勝ったAIが、ディープラーニングの汎用的な技術であるオートエンコーダを使った学習方法で動いていると聞いて、ちょっとショックを受けたんです。

山川さんは人間の脳を人工知能で再現することを目指した『全能アーキテクチャ勉強会』の主催メンバーの1人で、つまりは、SFの世界などでよく言われているシンギュラリティ(技術的特異点。コンピュータの知性が人類を超える転換点を示す)を自分の手で起こすことを目指しているわけです。

それは意外と近いかもしれないとも思ったんですが、それ以前に、たとえシンギュラリティが遠い未来だとしても、現在の人工知能で達成できていることの延長線だけでも十分に世の中は激変するなと思ったんです。

―― 人工知能はよく、「AIの進化が人間の仕事を奪う」、「人類の脅威となる」といった文脈で語られがちですが、川上さんはどう見ていますか?

すでにいろんな人が予想しているように、これまで人間がやってきた仕事の多くは人工知能に奪われるでしょうね。でも、全部じゃないし、一度には奪われない。

だから、どんな仕事が、どういう形で奪われるかを正確に知ることができれば、先に手が打てるじゃないですか。「できないことを探る」というのは、そういう意味もあります。

それに、人工知能にまつわる議論の歴史を見ると、人間は「知性」とは何かをまだまだよく分かっていなかったと言えますよね。

例えば「チューリングテスト」は知性の判断基準を人間に押し付けたわけですけど、わりと原始的な人工知能でもクリアできることが分かってきた。有名な「フレーム問題」にしても、これまでって、《コンピュータは特定のテーマを与えられれば人間より高速に処理ができるけど、現実社会で起こり得るあらゆるシチュエーションには対処できない》、《人工知能の学習方法そのものは人間が設定しているから、人間の方が上だ》という論説が多かったじゃないですか。

ただ、よくよく考えてみると、これらの議論で出てくる「人間」とはいったい誰を示しているのか、と。

電王戦を例に取れば、そもそもプロ棋士って、全人類の中でもごくわずかな、超優れた知能を持つ人たちなわけです。その選ばれた人間と、人工知能が接戦の勝負をしているということは、一般人レベルの「人間」はすでに追い越されてるとも言えます。

AIの学習方法の話にしても、そもそも人間だって社会でいろいろなルールを教えられて学ぶわけじゃないですか。 それほど汎用的な知能を人間が持っていると言えるのかどうか怪しい気がします。

現時点で、人間と人工知能は【社会的な役割】、【身体性】、【インターフェース】の3つが決定的な差別化要因になっているに過ぎなくて、「知性」の部分は実はもうかなり負けているんじゃないですか。 少なくとも、人類を代表するほど優秀じゃないほとんどの「一般的な人間」は、すでに人工知能に凌駕されつつあると思いますよ。

最終的には人間が負けるとして、これから当面の間は「コンピュータと人間それぞれの強み・弱みを理解した上で、どう共存していくか?」という問いについて考えるべきだと思うんですよ。

そういう前提条件からスタートして、今後、人間とコンピュータがどう付き合っていったら楽しそうかを考えてみたいんです。

これからは「生き急がないためのサービスづくり」が面白い

話は次第に「人工知能研究」から「サービス開発のやり方」へと展開していった

―― 人間が勝てないところを知っておくことが、共存への第一歩になると?

そうだと思いますよ。人間が中心の世紀は、21世紀が最後になると思うんですね。長い目で見て、人間は地球にとっての“盲腸”みたいになるんじゃないかと。なくても問題ないけれど、何となく滅びてはいないという存在として残るだけというか。

これからの数十年は、いわば人間中心の世紀を終えるための過渡期になる。僕はその過渡期を、過渡期なりにゆっくり楽しみたいんですよ。

―― 「ゆっくり楽しむ」ことと人工知能は、どんな相関性があるのですか?

そう遠くない未来に「世界はこう変わっているだろう」という予測を立てる上で、人工知能の存在は欠かせないと思うんですよ。だから、できること・できないことを知ることが、逆に人間が生き残る場所を知るためには必要なんです。

それに、これまでの人間社会って何事も進化することが善しとされてきましたけど、何でもかんでも技術革新を求めることが、本当に善なのかと思うんです。

ゲーム機とか、ファミコンからスーパーファミコン、プレイステーションと代替わりしていく間隔が短過ぎて、「親子で同じゲーム機の思い出を語る」みたいな楽しみ方ができないじゃないですか。

通信機器もそう。20年前にポケベルが流行って、その後すぐにPHS、ガラケーへと進化し、今はもうスマートフォンが主流になっていますよね。スマホが便利なのは分かりますし、実際僕も使ってますけど、仮にポケベルのままだったとしても人間は生きていける。「ポケベルの時代」をもっと楽しむような世界でもよかったんじゃないかと思うわけです。

これからは、そういう「先を急がない楽しみ方」が、選択肢としてもっとあってもいいはずだと考えています。企業にも、無理やり時代を先に進ませないやり方でサービスを提供する、という発想があってもいいと思いませんか?

―― 例えば「生き急がない人生」をサポートし、楽しんでもらうような?

そう、そうです。医療とかいくつかの分野を除けば、テクノロジーの進化って、実はヘビーユーザーしか望んでないんじゃないの? と。僕は、もっとたくさんの人が世代を超えて楽しめるモノ、親子が共通の話題に盛り上がれるようなモノづくりがやりたいんですよ。

なのに、モノやサービスを作る側の人たちは、イノベーションの名の下に、どんどん新しいモノを作り、新しい商材を消費させようとしている。

そういう現状にアンチテーゼを投げかけるには、逆説的ではありますが最新のテクノロジーを知っておく必要があるんですよ。

―― 興味深い考え方です。

人工知能に話を戻すと、今後、ビッグデータ解析や画像認識などの分野ではどんどんディープラーニングが活用されていくでしょう。いずれは人工知能も“枯れた技術”として誰もが使える汎用的なモノになっていくと思います。

それを僕らはいち早く活用したいとも思っています。別に進化から逃げてばかりいるつもりもありません。そして、他社がすぐにはマネできないような基盤を用意することで、「ドワンゴがあるからこんなビジネスも成立するんだね」と思ってもらえるようなサービスを作りたい。

そのための布石として、僕らなりに人工知能についての知見は持っていなければならない。会社が生きていくには、そういう考え方が大事だと思うんです。

競争しないためにテクノロジーを駆使する、という発想

川上氏の根底にある「モノづくりの原理原則」について取材が進む

―― 差別化を図るために、“未来の前提条件”を知っておきたいと?

まぁ、そんな感じです。人と同じ条件で戦うのって、スポーツなんですよ。スポーツって、競争しなきゃならないじゃないですか。競争って、つらいじゃないですか。僕は競争したくないんですよ。

―― 人工知能に対するアプローチしかり、その考え方が川上さんのサービス開発の原点なんですね。

ええ。汎用化された基盤の上で提供されるサービスではできないことを知り、ユーザーが欲しがりそうな「そうじゃない」モノを探す。これが、戦わずして勝つための原理原則だと思いますよ。

だから、例えば最近のWebサービスのほとんどがAWSなどのクラウドサービスを利用しているのを見ると、「それってどうなのよ」と思うんです。

処理スピードや各種の細かなチューニングで、最終的にAWSの性能に左右されるという意味では、みんなが「Amazonが作った土俵」に上がって戦っているわけで。 そこの部分での差別化はできませんよね。

究極的にユニークなサービスを作ろうと思うなら、AWSを使うとできないことで、かつユーザーが欲しがるモノを考え、開発するべきなんです。

―― ただ、多くの企業は、それをやるのが難しいから汎用サービスを利用します。

エンジニアリングを軸にしてサービスを作っている会社が、競争に巻き込まれずにいたいなら、その難しいところに挑戦した方がいいと思いますよ。みんなと同じ土俵で戦っていたら、自分たちだけが得をするサービスって作り得ないですもん。

ドワンゴが着メロビジネスを始めた時も、実はNTTドコモさんが各ベンダーに提供していた着メロ作成ツールを使わず、独自開発した専用ツールで着メロを制作するようにしていました。そうすることで、携帯電話の音源チップには搭載されているけど、ドコモさんのツールでは鳴らせない音を僕らだけ使えたんです。

知恵と工夫だけの差別化って続かないですから。こうやって、土俵から差別化するのが大事なんです。

最近も、ニコニコ事業でハードウエア開発エンジニアの募集を始めたんですね。その狙いは、自社でハードウエアを開発したり、データセンターまで作れるようになれれば、代替不可能なサービスを作れる可能性があると思っているからです。

競争しないで勝つために、テクノロジーを最大限に使うんです。

―― なるほど。刺激的なお話をありがとうございました。

取材・文/伊藤健吾(編集部) 撮影/小林 正




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