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「シャドーイング」で聞く・話すを鍛えよう~DeNAシンガポール森徹也氏の英語習得術

タグ : DeNAシンガポール, アジア, シリコンバレー, 英語, 転職 公開

 

エンジニアが仕事で使える英語のtipsをご紹介する本連載。これまではコラム形式でお届けしてきたが、今回からリニューアル。英語を使って仕事をしている経営者やエンジニアへの「インタビュー」を通じて、彼らの貴重な体験談を交えながら、これまでにも増して使えるノウハウをご紹介していきたい。

リニューアル後、初公開となる今回は、DeNAの東南アジア統括拠点にあたる「DeNAシンガポール」の森徹也マネージングダイレクター(以下、森氏)に話を聞いた。

三菱電機勤務時代のMBA留学やマッキンゼー勤務時代のシリコンバレー赴任、現地での転職、そしてDeNAシンガポールへの移籍など、海外との接点が非常に豊富で自由自在に英語を操る森氏が、エンジニアに勧める学習術とは――。

多国籍なスタッフが集うDeNAのベトナム・ハノイ拠点

プロフィール

DeNAシンガポール マネージングダイレクター
森 徹也氏

大学卒業後、三菱電機に入社。米IBMとの共同プロジェクトに携わり、社内留学制度でエール大学にMBA留学。その後、日本でマッキンゼーに移籍。同社シリコンバレー支社勤務を経て、現地で3次元グラフィクスの老舗シリコングラフィックスに転職。サン・マイクロシステムズに移籍し、同社でJava2MEの創業メンバーとして携帯電話向けJavaプラットフォームをゼロから企画し、世界標準化を実現。日本に帰国しベンチャーキャピタルで勤務。その時アジアを舞台にしたビジネスの面白さに目覚め、DeNAシンガポールを立ち上げそのまま移籍。平行してベトナムのゲーム制作会社を買収し、最終的にDeNAシンガポールのゲーム制作事業の一部として統合。ビジネスパーソンとしての時間の半分以上を海外で過ごしてきた

≪日本にいた時の英語力のレベル≫
学生時代の英語との接点は、英語教育と大学時代のロッククライミング活動での海外遠征。三菱電機に入社後、海外事業部に配属されるも、はじめのころはほとんど英語を話せない状態。仕事を通して徐々に学んだ。

≪現在の英語力のレベル≫
ビジネスの場でも英語を自由自在に操る(以下は英語で講演する森氏の動画)。周囲に「森さんはアメリカ人のようだ」と言われるほど、立ち振る舞いにおいてもネイティブスピーカーと遜色ない。さまざまな英語の訛りがあるシンガポールでもそれぞれの音を聞き分け、現地採用スタッフと流暢にコミュニケーションを図る。

≪一番利いた勉強法≫
マッキンゼーシリコンバレー支社勤務時代に独自で見出した「シャドーイング」。通勤中のクルマでラジオから聞こえてくる英語を自分の口で繰り返すことで耳と口を鍛えた。

≪ダメだと感じた勉強法≫
惰性で通う英語学校。言葉を学ぶには意思と、「読む」「書く」「聞く」「話す」に要素分解した効果的なアプローチと計画が必要。

きっかけは、無謀な海外部署への配属

1万人以上の聴衆の前でJava2MEの講演

―― 森さんは海外経験が豊富ですが、英語に触れ、そして学ぶことになったきっかけは何だったのでしょうか。

私は父親が普通のサラリーマンの家に生まれ、普通の公立学校で教育を受けてきましたから、幼少期における海外との接点は皆無だったと思います。初めて英語に触れたきっかけは大学時代のロッククライミング活動(※1)です。

国内でトレーニングを積み、大学3年生の時に3カ月間、大学4年生の時に就職活動を始める前に1カ月間、ヨーロッパに遠征に行きました。

向こうに行けば、当然日本語は使えません。あれが、初めて英語というか「海外」に触れた瞬間だったと思います。刺激的でした。

(※1)森氏は、実は当時ロッククライミング界の第一人者。山岳雑誌の出版社として知られる山と渓谷社が販売している図表には、森氏が初踏破した山岳ルートが紹介されるほど。Wikipediaの「フリークライミング」(ロッククライミングの一種)の項目にも名前が掲載されている。

ロッククライマーとして活躍。モンブラン山群フー針峰で壁にぶら下がって夜明けを迎えた

―― 幼少期や学生のころから英語が話せたわけではなかったのですね。ということは、英語の学習に本腰を入れたのは社会人になってからでしょうか。

そうです。大学を卒業して三菱電機に入社し、すぐに海外事業に携わる部署に配属されました。そこで初めて、英語の必要性に気づかされました。

―― そのような部署に配属されるということは、やはりある程度、元から英語が話せたということでしょうか。

いいえ、そうではありません。その部署への配属希望者が募られ、そこに手を挙げたのですが、社内選考では英語力のチェックなどはなく、そのまま配属されたのです。

―― そして英語を使ってお仕事をされることになったのですね。

はい。三菱電機とアメリカのIBMが共同でPCに世界最初の3.5インチのフロッピーディスクを開発するプロジェクトに、ビジネス分野の担当としてアサインされました。

―― それはまたすごいプロジェクトに……

当時のIBMとの主な連絡手段はFAXでした。若い人はご存じないかもしれませんが、FAXはプリントする紙が切れると、それが送信元に伝わり、向こう(アメリカ)から電話がかかってくるんです。

―― 英語が話せない人にとって、電話はつらいですね。

ええ。紙切れで鳴っているFAXの受話器にたまたま私が出たら、それが外人からの電話で。瞬間的にパニックになり電話を一方的に切ってしまったんです。「お前なあ」と「お前もか」という、いろいろな思いの混ざった視線を浴びましたよ。

―― 初めは誰もがそうですよね。

そうはいっても、IBMとの共同プロジェクトですから、常にアメリカ人とコミュニケーションをとらなくてはなりません。またIBMの担当者(アメリカ人)が、おそらく私と同世代だったの思うのですが、大きな責任を任されてバリバリ仕事をしているわけです。彼の存在に触発されて英語の勉強を始めました。

エリートの中で苦しんだMBA留学経験がバネに

From Pascal Walschots 森氏が通った米エール大学

―― その甲斐あって、英語を克服したのですね。

いいえ、まだです。その後しばらくして、社内の留学制度を使ってアメリカのエール大学にMBA留学に行きました。

IBMとのプロジェクトで英語を使う機会は多かったとはいえ、いい加減なものでした。一昔前の海外要員の英語は今にして思うと実にひどいもので、留学して初めて事の重大さに直面しました。

MBAのクラスでは発言することはもちろんのこと、チームで課題をクリアすることが求められます。

また、日本の大学とは違って平気で落第させられてしまうので、毎日夜遅くまで英語と経営の勉強をし、最初の一年は平均睡眠時間は4時間という日々を繰り返しました。留学させてもらったのに落第なんてことになったら、恥ずかしくて生きて行けないですよ。

―― 過酷ですね。

さらに当時は「ジャパンバッシング」の時代。アメリカ国内では日本が経済的に強くなることへの反発が高まっていました。

多国籍化が進んだカリフォルニアのような西海岸であればそのようなこともなかったのかもしれませんが、選民意識が強烈な東海岸では、少なからず不愉快な扱いを受けることもありました。

―― 例えばどんなことがありましたか?

クラスメイトに話しかけても、みな知的な人たちですから丁寧に返答はしてくれるものの、部外者、あるいは2級市民を見る冷ややかな目が常にそこにありました。

しかし、そんな中でアメリカ人ってすごいなと思わされる出来事が。あるクラスに、トヨタのかんばん方式の生みの親と言われる大野耐一氏が講演に来られた時のこと。クラス一同、どんな偉人が来るのかとドキドキして待っていたのですが、そこに現れたのは風采の上がらない小柄な老人。その口から、とつとつと日本訛りの英語が流れ始めた時、クラス全体が落胆でどよめきました。

しかし、その数十秒後には水を打ったように静まり、クラス全体が耳になりました。本物の真実を持った人だけが奏でる言葉というものはあるのですね。

普段はスノッブな学生たちが、最後に限りない拍手で大野氏に敬意を示しました。今思い出しても目頭が熱くなります。

―― だとすると、英語はあまり上手でなくても良いようにも聞こえますが。

いえ、それは違います。やはり言葉は絶対に上手いにこしたことはありません。大野耐一氏は、世界に1人しかいないのですから。

言葉が下手であるが故の機会損失は計り知れないものがあります。さらに、言葉の価値は組織の上に行けば行くほど大きくなります。昇進するほど、その組織、社会、国のメインストリームに位置する人たちが大勢集まる世界に近づくからです。

言葉だけでなく思考法や接し方にいたるまで、「仲間に入れて良い人間か」と無言の評価を受けることになります。

―― 厳しい現実ですね。

欧米には外国人ビジネスパーソンを対象とした「アクセント・リダクション」と呼ばれるプログラムがあります。これは、出身国ならではの英語や身振り手振りの癖をなくすための訓練です。外国人が自分の癖によってビジネスで不利にならないために受けるのです。

―― 自分の国籍を消さないといけないのですね。

そういう場合もあります。これはアメリカに限ったことではありません。日本で成功しようとしているアジアの他の国の人たちはみんな、意識的、あるいは無意識的にアクセント・リダクションをやっていると思いますよ。

―― 今でも日本人もしくはアジア人であるがゆえのハンディキャップを感じることはありますか。

あまりないですね。相手に合わせて相手が納得出来る話し方を出来ますし、必要とあればちゃんと英語で喧嘩できますよ(笑)。相手が知識人ならば然るべき単語を使って同じ立場に置きますし、相手が不安を感じているようならばあえて自分をオープンにして楽にしてあげます。

アジアで英語を使うのは本当に楽ですね。皆、英語は母国語でないですから、互いにハンディがあります。それに日本人というだけで、少なからずリスペクトされることも。ただ、シンガポールが長くなり、この国独特の強い訛りがつき始めて、困ったなと思ったりすることはあります

「シャドーイング」で口と耳を鍛えよ

―― さて、その後MBAを卒業されて日本に戻り、一度は英語と距離を置くことになりますね。

はい、日本に戻ってマッキンゼーに移り、英語と日本語のチャンポンの世界になり、それがかえって逆に良かったと思います。

―― といいますと。

アメリカで頭の中に詰め込んだ知識が一度整理されたのです。それがあったので、シリコンバレーに赴任することになった時には、英語の会話力が前よりも上がっていました。しかし今度は、会話の相手が教授や学生ではなく、顧客です。その時ようやく、自分なりの英語学習法を確立したように思います。

シリコンバレー時代 サンフランシスコを見下ろす

―― ぜひその学習法を教えてください。

日本人は「読む」「書く」「聞く」「話す」の中でも、「聞く」「話す」が苦手です。そこでなぜ自分でもこんなことを始めたのかは覚えていないのですが、クルマで通勤中にラジオから聞こえてくる英語を自分の口で繰り返して発音するようにしたのです。

―― 今でいう「シャドーイング」ですね。

そうしていると、自分が話したいはずの英語の音と、実際に耳に聞こえてくる自分の声との間には差分があり、自分の思うようには舌が回っていないことに気づきます。その差分を埋めようと続けていると、これまで日本語を話しているときには使っていなかった顔の筋肉が鍛えられ、そして舌が動き始めます。

と同時に、音を聞き分けようとするため、耳ももっと聞こえるようになっていきました。

ポイントは、この時、聞こえてくる英語の意味を考えないということです。聞こえてくる音を自分の口で再現することだけに集中するのです。

―― 英語の発音が綺麗になりそうですね。

発音だけではありません。文章を話す時の正しいリズムも身に付きます。実は会話というものは、発音だけでなく、リズムも正確でないと伝わらないことがあるのです。言葉には論理という側面と、音楽という側面があります。「聞く」「話す」の基本は音楽を学ぶつもりでやると効果的です。

―― 「読む」「書く」はどうやって鍛えられたのでしょうか。

私の場合は、MBA留学時代に大量の読書量で強制的に鍛えられました。しかし「読む」「書く」については、日本の英語教育を受けていれば、専門用語が出てくる場合を除いて基本的に問題ないと思っています。

―― 英語の学習に関して、自分の中でブレイクスルーを感じた瞬間はありましたか。

最初は英語で夢を見るようになったときでしょうか。他には、シリコンバレーで勤務していたころに、タイに出張に行くことがあり、移動中の機内で英語版の小説『ジュラシック・パーク』を読んで面白い!と一気に読み切れたときですね。

本当に突き抜けたと思ったのは、サン・マイクロ時代の社内イベントで数百人の社員を前にステージに上がり、まるで指揮者のように聴衆の気持ちを自由に操れた時です。自分でも「嘘だろう」と思いながら、聴衆と一体になって行きました。

ステージに上がる前、不安げにこちらを見ていたイベント企画者が、終わった瞬間飛び上がって喜んでいた姿は忘れられません。

エンジニアにはアドバンテージがある。自信をつけたらジャンプしよう

現在Google本社として知られる建物は、もともとシリコングラフィクスの本社。1996年にこのビルで勤務していた

―― いろんな国籍の人が集まるシンガポールならではの英語の難しさは何かありますか。

中華系シンガポール人の人が話す英語は「シングリッシュ」などと呼ばれますが、中国語の訛りがあります。中国語を話す時のリズムで英語を話したり、日本人が英語を話すときに語尾に「ネ」とつけるのと一緒で「ラ」を付けたりします。

他にも、インド系の人の英語は巻き舌気味だったりします。そうした彼らの強烈な癖が、たまに自分に移ってしまうのは面白いです。

また、シンガポールは英語が中国語に続く第二言語であるため、外国人が話す片言の英語に対して寛容であることもこの国の特徴でしょう。

―― 英語学習の難しさの一つは、モチベーションの維持だと思います。どうすればコントロールできるでしょうか。

最も簡単な方法は、英語を話せないとサバイバルできない環境を作ることでしょう。

しかし、誰もがそのような環境に身を置けるわけではありません。そのような場合には、英語と趣味を連動させるのがよいと思います。

どうしてもこれがほしい、やりたいから手段として言語を学ぶというアプローチです。

私は実はミリタリーオタクで、なにかについてもっと知りたいと思ったら、外国語の資料を探したり、軍出身の知人や関係者を開拓したりするのです。例えば、第二次世界大戦時代のタイガー戦車とパンター戦車の操車マニュアルや詳細な設計図を求めて、イギリスの王立戦車博物館ドイツ陸軍軍事技術博物館の付属図書館に行き、資料を集め写真を撮り続けました。

その一部は10数年後に、グランドパワーという専門誌に何回かにわたって掲載され、同好の士の役に立ちました。そういう執着とか欲は大事ですね。

集めた資料の公開記事

―― 学習するモチベーションが湧いても、自信を持てないがために、英語を話したり外国人と対面することにためらいを感じてしまったりする人がほとんどだと思います。そのような人はどうすればよいでしょうか。

日本人、特に男性は自信がないと人前に出たがらないという癖があります。とすると、最初はあまり自分を晒さずに基礎を作るということが必要ですね。

幸い、やれる方法はたくさんあります。「聞く」「話す」の基本はロゼッタストーンが効果的ですし、時間に縛られないので自分のペースで出来ます。ある程度慣れたら、英語のカラオケでリズムの感覚をつかむ。

「聞く」能力の確認には英語字幕で映画を見る。「読む」「書く」の数をこなすには、自分の趣味の分野で海外のコミュニティサイトに参加する。TOEICのテストを受け続けるのも良いでしょう。

結果を出すことよりも、テストを受ける準備を続けることで、半強制的に英語に触れ、考える時間が増えます。

これらに共通しているのは、やったことに対する意識的なフィードバックループを必ず持つことです。「聞くだけ」とか「目を通してみた」というのでは結局何も残りません。

―― ある程度自信がついたら?

ここまでできたら、英会話教室に行く価値が出てきます。漫然と行くのでなく、また頻繁に行けば良いと言うものでもなく、行く度に一定の視点から自分の進歩が見えるようなやり方を作るのが重要です。

絶対に少人数が良く、できればマンツーマン。例えば、次回までに見た映画、あるいは旅行についての感想、自分なりの評価をパワーポイントにまとめてプレゼンするのもよいでしょう。プレゼンすると言う行為には、「読む」「書く」「聞く」「話す」すべての要素が統合されて入って来るので、実に効果的です。

「エンジニアにとってこれから英語は本当に大事」と森氏

―― エンジニアへのアドバイスは何でしょうか。

まず最初に言いたいのは、エンジニアはすでに大きなアドバンテージを持っていると言うこと。プログラミングとは、英語を書くと言う行為に他ならないのです。

単に単語に慣れるだけでなく、頭の中に自然に英語的ロジックが組み込まれるのですね。前述の言語の論理的側面の問題はないのです。

要は音楽的側面をどう身に付けるか、そして、自分を晒して会話をするための最初の一歩をどうつくるか、ということに尽きます。

まずは海外に出てみること。旅行というのは実によいです。行けば否が応でも話さねばならない、いわばプチサバイバル環境に楽しく身を置けます。外人の彼女をつくるのも良いですが、もっとも効果的なのは、海外で仕事をすることですね。

その際、英語をネイティブとしている場所よりも、英語が第2言語である場所の方が臆さずにやれるので良い。DeNAシンガポールでも、英語は後から鍛えられるという結論に立ち、これから入ってくる新入社員を1カ月間フィリピンへの語学研修に送ることを検討しています。

―― 本日は貴重なお話ありがとうございました。

取材・文・撮影/岡 徳之(Noriyuki Oka Tokyo




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