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元トリンプ日本法人代表・吉越浩一郎氏が提言する「勝てる会社の方程式」

タグ : Evernote, トリンプ, 吉越浩一郎 公開

 

Evernoteが日経新聞社との資本業務提携を発表した11月10日、記者会見に続いて行われた一般ビジネスマン向けイベント『Evernote Work Day』(渋谷ヒカリエ)の中で、トリンプインターナショナル元日本法人代表の吉越浩一郎氏が「勝てる会社の方程式」と題した講演を行った。

経営術、仕事術に関する著書も多い吉越氏は、ドイツのコーヒー機器メーカー・メリダ勤務を経て、1992年にトリンプ日本法人代表に就任。革新的な経営手法を次々に取り入れて、98年当時100億円程度だった売上高を最終的に500億円超まで引き上げた。

日本を代表する経営者である吉越氏は現在、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長とともに、日本発の仕事実践術を取りまとめ、世界に発信する計画を進めているという。今回の講演は、そのたたき台となる内容を惜しみなく公開したものだ。

「合理的に物事を進めるためには、仕事のやり方そのものを変えていかないといけない。とっくにそういう時代が来ているが、日本ではそうなっていない」

講演の中で吉越氏はそう問題提起して、業務をスピードアップするためのいくつかのヒントを提示した。それは、Evernoteのようなテクノロジーが直接的に絡んだ話ではない。しかし、時代が要求する働き方や仕事の質を問い直すという意味で、すべてのビジネスパーソンにとって示唆深い内容のはずだ。

プロフィール
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吉越事務所 代表
吉越浩一郎氏

1947年生まれ。ドイツ・ハイデルベルク大学留学後、72年に上智大学卒業。設立に参画したメリタ・ジャパン並びに香港での勤務を経て、83年にトリンプ(香港)に入社。86年末よりトリンプ・ジャパンに代表取締役副社長として異動、92年に社長に就任し、19年連続増収増益を達成。06年末に退任し、現在は吉越事務所代表として講演、執筆活動を行っている。最新刊に『社長の掟

「つるはし仕事術」は疑問。業務効率化は「残業ゼロ」から

土台にある「体力」に頼った日本式の仕事の仕方は危険。土台が崩れたとたん、一番上の「能力」を発揮することはままならなくなってしまう

土台にある「体力」に頼った日本式の仕事の仕方は危険。土台が崩れたとたん、一番上の「能力」を発揮することはままならなくなってしまう

日本の会社はプロセスを重視するように思います。私はそうした日本企業のスタイルを「つるはし仕事術」と呼んで、疑問を呈しています。果たして“つるはし”を24時間振り回すのが良い仕事の仕方なのか、と。

会社は社員の「能力」に対して給料を払っているわけですが、「能力」には「気力・意欲・やる気」、そのさらに下には土台となる「体力」がある。だから、一番下の「体力」が崩れてしまうと、上に乗っている「能力」を発揮することはできなくなってしまうのです。

日本人に「仕事」の対極にあるものは? と尋ねると、「休み」という答えが返ってきます。これは「体力」を削って仕事をしていることの何よりの証拠。ヨーロッパ人が同じ質問に対して「遊び」と答えるのとは対照的です。

「体力」に頼った仕事の仕方をやめて、まず、1日8時間寝ることに最大限の努力をしてほしいと思います。そしてそこから逆算していけば、仕事は時間内に終えるものであるということが分かるはずです。

普段の1時間前に出社してみたら思いのほか仕事がはかどったという経験が、皆さんにもあるのではないでしょうか。オフィスは静かだし、頭の状態はフレッシュ。始業時間までにやっている仕事を終えなければならないという「締め切り効果」も働いているかもしれません。

しかし、本来仕事とは、この状態と同じ効率のまま8時間働き続けることが求められるものです。こういう密度の濃い仕事の仕方をしていたら、夕方の5時を過ぎてなお、頭が回ると思いますか? もし回ると答える人がいたら、それはおそらく仕事の仕方がまずいということです。

すべての仕事にデッドラインを引き、前倒しでスピードアップ

個人の仕事のプライオリティーは緊急度を基準に決められがち。上司は緊急度が低い仕事にも意図的にデッドラインを引く必要がある

個人の仕事のプライオリティーは緊急度を基準に決められがち。上司は緊急度が低い仕事にも意図的にデッドラインを引く必要がある

次に取り組むべきは、会社挙げてすべての仕事にデッドラインを設けること。デッドラインとは、「何を/誰が/いつまでに」終えるのかを明確化することです。

デッドラインを引くと、各人のその日に終えなければならない仕事が明確化し、必死になって効率を上げるよう自主的に時間の使い方を考え、努力するようになります。

仕事を緊急度と重要度の2軸で分類すると、

【1】緊急度が高い、重要度が高い
【2】緊急度が高い、重要度が低い
【3】緊急度が低い、重要度が高い
【4】緊急度が低い、重要度が低い

の4つに分けられます。人は放っておくと、緊急度の高い【1】と【2】の仕事ばかりをして手一杯になってしまうので、上司がデッドラインを引く必要があるのは【3】と【4】です。

なぜ重要度の低い【4】にまでデッドラインを引くのか。例えば、ある家庭のレベルを測るのに、トイレや玄関のきれいさは指標になります。玄関だけがきれいなんてことはあり得ないので、そこまで掃除できているということは、すべてができているということを意味するからです。

つまり、会社は徹底度で決まります。

トリンプでもデッドラインを導入しようとしたところ、最初は現場からはすごい反発がありました。それでも導入すると、今度は「デッドラインを1カ月後に設定してください」と言う。でも、結局そうした人が押っ取り刀でその仕事に着手するのは、デッドライン直前の29日目です。

退任直前には、デッドラインを引くのは基本的に翌日、最長でも1週間以内ということになっていました。しっかりとやりきることで、これだけの効率の差が生じるのです。

単に「早くやれ」というだけではダメ。デッドラインを意識的に前倒しすることが、業務の効率をどんどん向上させます。

「教育」ではなく、「習育」で人は育つ

知識の大半は「教育」できない暗黙知。人を育てるには場を与えて自ら成長してもらうしかないと吉越氏は言う

知識の大半は「教育」できない暗黙知。人を育てるには場を与えて自ら成長してもらうしかないと吉越氏は言う

会社を支えるのは人です。しかし、人は「教育」できないものだと私は思っています。

なぜなら、知識には形式知と暗黙知があり、教えられるのはほんの一部の形式知だけだからです。IT化やマニュアル化で対応できない暗黙知というのは、「匠」とか「技」とか言われるものに近いので、場や肩書きを与えることで、自ら身に付けてもらうほかありません。

つまり、教えられて育つ「教育」ではなく、自ら習って育つ「習育」なのです。こうした側面からも、仕事を任せることがいかに重要かが分かると思います。

しかし、日本では仕事の与え方がうまくできていないように思います。

例えば私が昔いたドイツの会社では、1人1人に仕事をするための個室が与えられています。一人で仕事が完結するからこそ、個室での仕事が成り立つのです。

対して、日本でも同じように個室で仕事ができるかといえば、答えはNOです。なぜなら、すべての仕事がいろんな人と絡み合っているからです。

人を育てるためには、明確な仕事の分担、責任の明確化が必要なのです。

「会議が多すぎる会社はダメ」のウソ

トリンプの19期連続増収増益を支えた「早朝会議」。部下への権限委譲、情報共有を前提とした即断即決が基本だ

トリンプの19期連続増収増益を支えた「早朝会議」。部下への権限委譲、情報共有を前提とした即断即決が基本だ

日本では、「会議が多過ぎるからこの会社はダメなんだ」といった言われ方をします。私から言わせれば、【トップダウン=判断】と【ボトムアップ=権限委譲】がミックスする会議ほど有効なものはありません。やり方に問題があるのです。

トリンプでは、毎朝始業1時間前から全社的な「早朝会議」をやっていました。課長以上は全員参加。重要なことはすべてこの場に持ち込み、各課題に対して緊急対策、再発防止策などが決まります。1議案にかける時間は2分です。

トップである私が議長を務めます。担当者は、任された課題をデッドラインにあわせて解決するのが役目。対して私がやるのは、担当者が持ってきた結論に対して「判断」を下し、納得がいけば決定、いかなければ突き返すだけです。

その際に重要なのは情報共有です。私は普段から秘書に対して、私宛てのメールや手紙はすべて読み、発表前の資料と給料関係以外は、すべて聞かれたら答えていいと話していました。

情報は現場の担当者も私も同じレベルにあります。その上でディスカッションを重ね、一緒に会社を良い方向へと持っていくのです。

正しい判断は6割程度で十分

スピードアップのためなら正しい判断は6割程度で十分と主張する吉越氏

スピードアップのためなら正しい判断は6割程度で十分と主張する吉越氏

「決断」をしているような会社はダメです。トップに立つ人間は、どんどん「判断」していかなければなりません。

テクノロジー企業の開発の現場も、まず導入する、その上でバグがあれば直していくという進め方がトレンドでしょう。一般的な会社の業務の進め方も、それでいいのではないでしょうか。

日本の会社はバグを100%なくそうとする。だから、いつまでたっても判断が出てこない。これが、物事を遅らせていると思います。

正しい判断は6割程度で十分です。

コストや時間、労力を縦軸に、完成度を横軸にしたモデルで考えてみます。完成度5、25、75、100%のところで毎回サイコロを5個振るとすると、100%正しい判断を下すには、5×5×5×5で625分の1の確率を正確に当てる必要があります。

しかし、ここで縦軸と横軸を入れ替えてみます。すると、60%の完成度であればコストや時間をほとんどかけずに実現できることが分かります。

つまり、判断は走りながら下せるということです。進んだ先で間違いに気付いたら、その都度修正すればいい。スピードというのは、こういったところでついてくるのです。

これは、トップに立つ人に限った話ではありません。実行部隊にも判断できる能力や権限がないと、上司の判断を仰ぐロスが生じるため、結局完成は遅れてしまいます。

キーワードは「TTP」。徹底的にパクれ

私はよく「TTP」という言葉を冗談で使います。「徹底的にパクる」という意味です。きょうお話したことも、基本的にはどこかで言われていることをまとめただけのものです。

では、他の会社と私とではどこが違うのか。それは、最後まで徹底してやり抜いたということです。

アイデアは世の中にたくさんあります。重要なのはそれを実践することです。

柳井さんとも、よく言われる「PDCA」の「A」は「あきらめる」なんじゃないかと話していました。だいたいの人は途中であきらめてしまうもの。最後までやりきる人が、最終的に成功するのです。

取材・文・写真/鈴木陸夫(編集部)




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