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制約は発明の母。F1のレギュレーション変更がもたらした、燃料開発の新境地【連載:世良耕太】

タグ : F1, オイル, ガソリン, 世良耕太, 燃料 公開

 
F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

出版社勤務後、独立し、モータリングライター&エディターとして活動。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『auto sport』(三栄書房)。近編著に『ル・マン/WECのテクノロジー』(三栄書房/1728円)、『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

F1ではかつて、燃料の開発がトリッキーな方向に進んだ反動で、現在は「市販ガソリンと根本的に似た成分」にすることが規則で定められている。となると、「じゃあ、ガソリンでパフォーマンスの差は出ないね」と考えてしまいがちだ。

かくいう筆者もそう思っていた。だが、2014年シーズンに関してはそうでないことが、パワーユニット製造業者や燃料メーカーの証言から明らかになってきた。エンジンオイルの性能もパワーユニットの性能を左右する。

メルセデスAMGペトロナス・フォーミュラワンチーム(MAMG-F1)が搭載するパワーユニットの開発を行う、メルセデスAMGハイパフォーマンスパワートレーンズ(MAMG-HPP)を訪れ、開発に携わるエンジニアから話を聞いた。また、MAMG-F1に燃料と潤滑油を供給するペトロナスの開発エンジニアからもレクチャーを受けたので、両者のコメントをまじえながら話を進めよう。

舞台裏で進んでいた、高効率への挑戦

ペトロナスの テクニカルサポートエンジニアであるAdrian Bell氏(左)とMarco Ciselli氏(右)

2014年のF1は大規模なレギュレーション変更が導入された。その一つがエンジンで、2.4L・V8自然吸気から1.6L・V6直噴ターボに切り替わったことだ。

フォーマットの違いも大きいが、燃料に関する規定も激変した。2.4L・V8時代は燃料の使用量に制限はなかったが、2014年からはレース中に使用できる燃料の量が100kgに制限される。

2013年までは140kg前後の燃料を消費していたので、約28.6%燃費を向上させる必要があるということだ。

一方で、燃料流量も制限された。やはり昨年までは無制限で、およそ140kg/hで使用していたが、2014年からは最大100kg/hに制限される。燃料使用量はタンクの容量、燃料流量は蛇口をひねった時の水の流れに例えることができる。2014年のF1はタンクが小さくなったし、蛇口も細く絞られた格好だ。

厳しい制限を真に受けて開発陣が萎縮していたのでは、エンジンはそれなりのパワーしか発生せず、クルマは遅くなって競争力を失ってしまう。だから、エンジンを高効率にして、限りある燃料から取り出せる力を多くしようと努力する。

つまり、熱効率を高めようと必死になっているのが、F1にパワーユニットを供給するコンストラクターの現在の姿だ。「2.4L・V8の熱効率は29%でしたが、1.6L・V6の熱効率は最大40%に達しています。劇的に向上しました」と、MAMG-HPPのスティーブ・ジョンソン氏は説明する。

ガソリンの「エネルギー密度」を高めるという発想転換

エンジンはエンジンで効率を高める努力をする一方、ガソリンにも目をつけた。前述したようにガソリンは「市販と根本的に似ている」ことが定められており、パワー増強につながる添加剤の使用は禁止されている。

「でも、開発の余地がある」とジョンソン氏は言う。

「成分のブレンドを変えることはできる。市販車の場合、燃料は容量(日欧ではリッター:L)で表現するが、レースの場合は重量(kg)で扱う。揮発性に関する制限は市販ガソリンほど厳しくないし、オクタン価の制限もない」

レースで勝つためのエネルギー密度の研究が進む

レースで勝つためのエネルギー密度の研究が進む

このうち、重要なのは「重量」だ。レース中に100kgの燃料しか使えないことは前述したが、燃料のエネルギー密度を高めることができれば、重量は同じでもパワーを向上させることができる。パワーが同じで良ければ燃費に振ることも可能だ。

「エネルギー密度は非常に重要。1%エネルギー密度を向上させれば、エンジンパワーは1%向上する。つまり、1%のエネルギー密度向上はラップタイムを0.1秒向上させることにつながるのだ」

エネルギー密度向上の使い道はそれだけではない。何も規定いっぱいの100kgを積む必要がなく、95kgで走ったっていいのである。

「燃料のエネルギー密度を高めることができれば、重量が同じでも容積を小さくすることができるので、燃料タンクを小さくすることができる。タンクが小さいと車体がスリムになるので、空力性能にも貢献する。エンジンのパフォーマンスだけでなくクルマのパフォーマンスに良い影響を与えることになるのだ」

まさにいいことずくめ。燃料の開発に血まなこになって取り組むわけだ。

揮発性を向上させると燃料と空気がよく混ざるためモアパワーにつながる。オクタン価はノッキング(点火後の意図しない着火)のしにくさを示す指数だが、数値が高いほど最適なタイミングで点火できるため、やはりモアパワーにつながる。

燃焼室をクリーンに保つような添加剤の配合は認められており、上手に開発することができれば、やはりモアパワーにつながる。

エンジンオイルにもイノベーションの萌芽が

エンジンのパフォーマンスと信頼性を高めるには、エンジン内部の潤滑と冷却に効果を発揮するオイルの開発も重要だ。

これについてジョンソン氏は「エンジンの設計とオイルの設計は密接にリンクして行うべきで、個別に行うべきではない」と強調する。

燃料とオイルを開発するペトロナス・ルブリカンツ・インターナショナルでR&Dの責任者を務めるアンドリュー・ホームズ氏は、「そのエンジンに適したオイルと燃料を作ることが大切。だから、私たちは一つのチームとして開発にあたっている」とジョンソン氏の考えに同調する。

ただし、良い燃料なりオイルを開発すれば、どのエンジンに適用しても同じように性能が出るのではない。そのエンジンに合った特性を作り出していく必要があるということだ。

制限がないことでハードルが上がるエンジンオイルの研究

制限がないことでハードルが上がるエンジンオイルの研究

燃料には細かな規制がある一方で、エンジンオイルはほぼフリーといってよく、開発者の腕の見せどころである。2013年まで、エンジンは年間8基の使用制限があったが、2014年は5基に制限される(2015年は4基になる)。だから、信頼性を確保するのがエンジンオイルに求められる最重要課題だ。

ガソリンに求められる要求が多岐に渡るように、エンジンオイルに求められる要求もさまざま。ホームズ氏が説明を続ける。

「ガソリンのエネルギー密度を高くすると、エンジンは高温になる。だから、オイルはエンジンから熱を奪う性能が重要になる。さらに、フリクションを最小化することが求められる。抵抗を小さくすればするほど、燃費の向上につながるからだ。市販車用のオイルにも同じことが言えるね」

難しいのは、あちらを立てればこちらが立たずで、要求性能がことごとく相反することだという。2014年に投入するスペックにたどり着くのに、燃料は100種類以上、エンジンオイルは50種類以上を開発したという。

燃料やオイルによってエンジンの、いやクルマ全体のパフォーマンスが大きく影響する。そのことに気付かせてくれたのが2014年のF1である。

実は我々が普段接しているクルマも、ガソリンやオイルの性能に影響を受けている。ただ無頓着なだけにすぎない(と、自戒を込めて言っておきます)。

>> 世良耕太氏の連載一覧




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