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500Startupsも認めたFlyData藤川幸一氏に聞く「シリコンバレーでスタートアップの生死を分ける5原則」

タグ : 500 Startups, Amazon Redshift, FlyData, Hadoop, シリコンバレー, スタートアップ, ビッグデータ, 藤川幸一 公開

 

FlyDataのシリコンバレーオフィスの模様。写真左端が藤川幸一氏(経歴は記事末尾にて)

長きに渡ってテクノロジーとイノベーションの最先端を生み続け、世界中のエンジニアがその動向を注目する場所、シリコンバレー。

かの地で、累計160万ドルの資金調達に成功したスタートアップを経営する日本人起業家がいる。ビッグデータのクラウドへの転送をサポートするWebサービス『FlyData』を手掛ける藤川幸一氏だ。

同氏は、シリコンバレーで活躍する日本人が少ない理由についてこう語る。

「シリコンバレーで成功する日本人エンジニアや起業家が少ないのは、技術力や発想力が劣っているからではありません。単にチャレンジする数が少ないだけです」

そんな藤川氏に「日本人がシリコンバレーで戦う方法」について取材したところ、以下の5つのポイントが重要であることが分かった。それが

【1】グローバル視点のサービス開発
【2】サービスを素早く成長させるリーンスタートアップ
【3】技術者発でサービスを「周知させる策」も打つ
【4】ビザの取得と英語の習得はしっかり準備
【5】ピボットしてもブレない明確な問題設定を行う

だ。藤川氏にそれぞれのポイントの具体例を聞きながら、シリコンバレーでスタートアップやエンジニアが戦う方法を探ってみよう。

【1】グローバル視点のサービス開発

シリコンバレーで起業するために開発するサービスは、最初からグローバル展開を狙ったものにする必要がある。ただし、それは単に「サービスを英語で展開」するといった類のものでは決してない。

藤川氏が開発していた「ビッグデータ処理を簡略化するシステム」を例に取れば、グローバル展開を狙うものとは、すなわち「国を選ばず必要とされるサービス」ということだ。

藤川 創業当時、わたしが開発していたのは、オープンソースの『Hadoop』というビッグデータ処理ミドルウエアを、簡単に使えるようにするソフトウエアフレームワークでした。Hadoopは世界中で使われていたため、自然とグローバルなサービス設計になった。そこが、シリコンバレーの投資家にも魅力的だったのではないでしょうか。

日本だけに特化したサービスをシリコンバレーで開発する必要はないですから。日本で起業して、サービスの開発を行うと、どうしても日本向けの設計になってしまう。日本で受けないと、日本人投資家の目を引くことはできません。

FlyData』は複雑な設定を省き、『Amazon Redshift』へデータを自動でアップロードするサービス

もちろん、それ自体は間違いではないのですが、グローバルなサービスを目指すのであれば、最初からそれを想定した設計にすべきです。

シリコンバレーには、有力なスタートアップアクセラレータや、最新テクノロジーなど、グローバルなサービスを支援し、成長させてくれる環境がそろっています。

シリコンバレーで起業する最大のメリットは、「真のグローバルサービスを開発できる」ことにあるのです。

【2】サービスを素早く成長させるためのリーンスタートアップ

2011年、シリコンバレーでスタートアップHapyrus(のちに現在の社名FlyDataへ変更)を立ち上げた藤川氏。最初の1年は、リーンスタートアップの手法を取り、サービスをテンポよく成長させることに腐心したという。

藤川 まずはユーザーからフィードバックを得るための最低限の機能、MVP(Minimum Viable Product)でサービスをリリースしました。そして、顧客からの声を取り入れ、修正し、アップデート。それを繰り返すことで、サービスの質を高めていきました。

小さな成果を積み重ねることは楽ではありませんが、一歩一歩前進していることを自分たちも第三者も実感できる。そうしたサービスの成長度合いを、顧客や投資家から知ることができる点が、リーンスタートアップの利点でもあります。

順調にサービスの質を高めた1年目を経て、飛躍の年になるはずだった2年目だったが、苦戦を強いられたという。それは、Hadoopそのものの問題だった。サービスの必要性は顧客に感じてもらいながらも、Hadoop自体がまだあまり顧客の利用シーンにマッチせず、さらにコストも高止まりしていて、導入を断念する企業が多かったのだ。

藤川 2年目の2012年は、顧客数が思ったように伸びず、苦しい時期でした。Hadoopを選んだのはわれわれ自身の責任ですが、1企業では解決するのが困難な問題も多かった。また、Hadoopを選んだ競合が、とても多くなったのもこのころでした。

そんな中、2013年2月にAmazonがリリースしたクラウド型データウエアハウス『Amazon Redshift』の登場で、「これ!!」だと思いました。Amazon Redshiftは、Hadoopより優れたデータ処理能力を持ち、かつ10分の1のコストで使用できる、ビッグデータ界に革命をもたらすようなミドルウエアだったからです。

Hadoop向けに開発していたプロダクトを、一転、Amazon Redshift向けのサービスとしてピボットした藤川氏。リーンスタートアップならではの、素早く、柔軟な方向転換により、新サービス 『FlyData for Redshift』リリース以来、売上が毎月40%増という結果を残している。さらに顧客数の増加には、シリコンバレーならではの企業文化も追い風になったようだ。

藤川 アメリカ、特にシリコンバレーの企業は、新しい技術やサービスを導入するスピードがとにかく早いんですね。テクノロジーをベースに、有効な仕組みができたと分かれば、すぐに導入を決断するのです。

一方、日本だと、社内設備に保存してあるビッグデータのクラウド移行という大掛かりなシステム変更に、社内稟議などで1年以上待たされるなんてこともよくにあります。それを待っていたら、スタートアップは潰れてしまう。

日本で、BtoB向けのサービスが必ずしもスタートアップに向かないとは思いませんが、ビジネスがアメリカよりも困難である理由はそこにあるのではないでしょうか。

いずれにせよ、ピボットを素早く行ったことが顧客数の増加につながったことに間違いはありません。シェアを先取りできたという意味でも、有意義な方向転換でした。

【3】技術者発でサービスを「周知させる策」も打つ

従来のHadoop向けサービスを『FlyData for Redshift』という新サービスにリニューアルし、新規顧客の獲得に成功したHapyrus。加えて、それまでのHadoop向けのサービスとの差を、あるセンセーショナルな方法で提示することで、サービスの認知度向上を図った。

藤川氏が公開したHadoopとRedshiftとのベンチマーク資料。わずか13Pのスライドだが、Redshiftの革新性が十二分に伝わる

藤川 Amazon Redshiftがリリースされてから、4日も経たない間にHadoopとのベンチマークをスライドショーで公開したのです。

そして、スライドショーの最後にわれわれへのコンタクトシートが表示されるようにしました。当時、ビッグデータのクラウド処理はHadoopが主流でしたから、それを見た企業や技術者は、衝撃的だったのか問い合わせをしてくる人が多かったです。

そうした反響をあらかじめ狙ってサービスを成長させ、的確な方法で認知させる。デジタルマーケティングの中でも特に、エンジニアによる効果的な手法、いわゆるグロースハックですね。シリコンバレーでは多くのスタートアップが行っている手法です。

エンジニアでもある藤川氏自らがデータ分析を行い、作成したスライドショー。以前弊誌が取材したDropbox育ての親Sean Ellis氏が、「マーケターにも、データ分析の素養が重視されるようになってきている」と語っているが、それを裏付ける事例といえるのではないだろうか。

藤川 ほかにも、アメリカで有名な技術系のニュースサイト『Hacker News』にスライドショーを掲載したり、TechCrunchに働きかけてAmazon Redshiftの記事を書いてもらったりしました。

日本ではそうした動きを開発者ではなく、マーケティング担当者などが行うことが多い。でも、本来は技術を知っている人間がPRした方が、サービスの長所を的確に伝えられるはずなのです。

スタートアップの数が多いシリコンバレーでサービスを埋もれさせないために、創業者であるエンジニア自ら積極的にマーケティングを行う姿勢はとても重要です。また、そうしたマインドは、スタートアップが増えてきている日本でも、今後活きてくるのではないでしょうか。

【4】ビザの取得と英語の習得はしっかり準備

グローバルサービスを開発し、シリコンバレーの投資家やVCに認められることがシリコンバレーへの第一歩。その次に必要になってくるのは、海外で働くために必要な「ビザと語学」である。開発にばかり気を向けていると、ついつい、おろそかにしてしまいがちだ。

藤川 アメリカの就労ビザ取得は時間もかかるし、条件も複雑で本当に難しいです。実は、ここで挫折してしまう人がけっこう多い。

最も可能性の高い方法としては、起業前にアメリカの大学へ、特にコンピュータサイエンス系学部へ留学し、卒業後トレーニング(OPT)ビザを取得、どこかの企業に入ってH1-Bなどのビザサポートをしてもらうこと。ただし、これも時間がかかります。

わたしの場合は、投資を受けた金額を示すことで、起業した会社からのビザサポートが可能になりました。ただ、なかなか難しい方法でもあるので、それが通ったのは運がよかった面もあります。

さらに、IPA未踏人材育成事業に採択された、最初のプロダクトの基盤となるシステムによるプロトタイプで、シリコンバレーのスタートアップアクセラレータ『500 Startups』の投資家デイブ・マクルーアが注目してくれ、シリコンバレーへの誘いを受けたのです。

『500 Startups』は、育成に定評があるシリコンバレーで注目されている「Micro VC(またはスーパーエンジェル)」と呼ばれる投資会社。パートナー企業にGoogleやMicrosoft、Amazonが名を連ね、YouTubeやFacebookなどに在籍する一流のメンターがそろっている。藤川氏が招待を受けた当時は完全招待制(現在は応募を受け付けている)で、シリコンバレーでも選りすぐりのスタートアップしか参加できない状況だった。

500 Startups』に参加した企業は、増資に成功したり、Googleに買収されるなど成果を残している

藤川 『500 Startups』への参加は、成功の確率を格段に飛躍させます。そうした将来性を見込んだ日本の投資家たちが行ってくれた投資によって、ビザの取得を行うことができました。

語学に関しては、日常会話程度の英語ならネイティブと話すことが一番の上達法。ただ、ビジネスに必要な交渉などの英語となると、かなり高いレベルが必要です。

わたしも渡米最初の1年は英語での交渉に失敗し、大きなビジネスチャンスを逃したこともありました。ビジネス英語の必要性を感じ、その後コミュニティスクールのESLに通い、ビジネス交渉レベルに必要な英語を習得したんです。

ビザも英語も、早い段階でしっかりと準備するに越したことはないでしょう。

【5】ピボットしてもブレない明確な問題設定を行う

エンジニア、起業家、グロースハッカーなど、その時々で多様な役割をこなす藤川氏。それぞれの活動の根幹にあるものは、「明確な問題設定とその解決」だ。

藤川 エンジニアは常に「問題を解決するために作業を行う職種」だとわたしは考えています。エンジニアリングと問題解決は切っても切れない関係にある。

そのため、エンジニアは、問題設定・解決のスキルが高い職業でもあるとも思っています。そして、そのスキルを活かせば、サービスを、ひいては会社を素早く成長させることができる。

例えば、われわれの場合は「クラウド上でのビッグデータ処理は煩雑で利用しづらい」ということを問題に設定し、それを解決するためにサービスの開発を行っています。だから、顧客からのフィードバックに対してプロダクトを修正する際や、大きなピボットの必要性に迫られた場合でも、「問題を解決できるかできないか」を基準に考えるので軸がブレないし、判断スピードも早い。

起業家、経営者に求められる「判断力」も、問題設定を自分の中に持っているかどうかにかかわってくることが大きい。実は、エンジニアは起業家に向いているし、シリコンバレーではエンジニアが創業者にいないチームには投資は集まりません。

日本のエンジニアのスキルはシリコンバレーでも通用します。事実、FacebookやTwitterにも、日本人エンジニアはわずかながら在籍しているんです。数が少ないのは、単純にチャレンジーの数が少ないからだと思っています。

わたしの経験談から、シリコンバレーを「あこがれの地」としてではなく、もっと身近な活動拠点として感じてくれたらうれしいです。そして、シリコンバレーで活躍する日本人エンジニアやスタートアップが増えることを望んでいます。

【プロフィール】
FlyData Inc. ファウンダー 藤川幸一氏

電脳隊、PIMなど日本のネット黎明期のスタートアップでエンジニアとしてキャリアをスタート。Yahoo!Japanやアジャイルコンサル会社、金融系SIerを経て、入社したシリウステクノロジーズ在籍中に『FlyData』の基盤となるシステムを開発し、それを基に起業。同社がシリコンバレーのスタートアップアクセラレーター『500 Startups』に採択されたことを契機に渡米。2011年にスタートアップHapyrusを立ち上げる。現在まで160万ドルを調達し、顧客数も増やした同社は、2014年1月にFlyDataに社名を変更,日本での市場獲得を狙うべく、日本法人を立ち上げた。

取材・文/長瀬 光弘(東京ピストル




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