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フォーミュラEが示す「金の鉱脈」と、残念すぎる日本企業の重い腰【連載:世良耕太】

タグ : フォーミュラE, レース, 世良耕太, 電気自動車 公開

 
F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

出版社勤務後、独立し、モータリングライター&エディターとして活動。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『auto sport』(三栄書房)。近編著に『F1機械工学大全』(三栄書房/1728円)、『ル・マン/WECのテクノロジー2015』(三栄書房/1728円)など

2つの意味で画期的だった六本木デモ走行

8月23日日曜日、東京の六本木けやき坂通りをフォーミュラEが走った。約5000人の観衆を集めたこのイベントが画期的だった点を要約すると次の2点になる。

1. ナンバープレートを付けないレース専用車両が公道を走ったこと
2. 世界各地を転戦した電気自動車のレース専用車両が日本で走ったこと

F1モナコGPやル・マン24時間など、海外では公道を一定期間封鎖して行うレースが珍しくない。だが、日本では「あり得ない」とされてきた。あり得ないという表現が言い過ぎなら、「極めてハードルが高い」とされてきた。

8月23日に六本木けやき坂通りで行われたフォーミュラEのデモ走行イベント。熱心なファン5000人が詰め掛けた

8月23日に六本木けやき坂通りで行われたフォーミュラEのデモ走行イベント。熱心なファン5000人が詰め掛けた

最大の壁は警察から道路使用許可を得ることだが、この壁はもうじき取り払われることになりそうだ。政権与党である自民党は6月22日、「自動車モータースポーツの振興に関する法律案」を承認し、今国会(~9月27日)での成立を目指しているからだ。

この法案が成立すれば、公道レースは国のお墨付きを得たようなものである。手順にのっとって手続きを進めれば、道路使用許可は下りる。これまで数々のプランが持ち上がっては挫折してきたが、今後は許可を求めて警察と押し問答をする必要はなくなる。

では、それで万事めでたしかというと、そうはいかない。

「公道を使ってレースをしていい」という環境が整うだけで、開催地周辺の施設管理人や住民の理解が得られなければ、開催は難しいだろう。

それに、法案が成立したからといって、イベントを国がお膳立てしてくれるわけでもない。集客力のあるイベントになる保証がなければ、プロモーターは腰を上げにくい。それなりの予算を費やしてイベントを開催したはいいが、閑古鳥が鳴くような状況ではビジネス的に成立しないからだ。

電気自動車ならではの特性が「市街地レース」を可能にする

市街地の公道を封鎖してレースイベントを行うには、画期的だった点の2点目が関係する。公道を使ってレースをする車両が、電気自動車だということだ。

レースという見世物が始まった黎明期(19世紀の話である)は電気自動車もその技術力とスピードを競っていたが、20世紀から21世紀にかけての人類は、レースといえば内燃機関(すなわち化石燃料が持つエネルギーを運動エネルギーに変換する機関=エンジン)が爆音を発しながら駆け抜けていくもの、という概念に慣らされてきた。

そうではない新しい姿を提示するのがフォーミュラEだ。

100年以上を費やして構築された、エンジンによってスピードを競うレーシングカーは、エネルギー変換を行う際に発する音が特色であり、魅力でもあったのだが、市街地にそれを持ち込んだ途端、暴力になる。

「うちの近所でそんなバカでかい音を出されちゃ困るよ」というわけだ。

もっともである。だが、フォーミュラEは爆音を発しない。20台が目の前でバトルを繰り広げていても、隣の友人と苦もなく会話を楽しむことができる。

道路使用許可とは別の側面での公道レース開催のハードルは、フォーミュラEを走らせることによってクリアできる。

駆け足程度のスピードでも面白いと言える2つの理由

「そんな静かなクルマが走るのを見て面白いの?」という疑問が湧くかもしれないが、答えは六本木けやき坂に集まった5000人が証明してくれている。実際、新シーズンを走るマシンは音に個性がある(理由は後述)。

六本木けやき坂では、レースをするわけでもなく、レーシングスピードで疾走するわけでもなく、ちょっと駆け足をすれば追い付きそうなスピードで片道250mを3往復しただけ。

それを見るためだけに5000人が集まったのだから、六本木とは言わないまでも、日本のどこか市街地でレースが開催されたら……と期待せずにはいられない。

フォーミュラEの「シーズン1」は2014年9月の北京戦を手始めに、2015年6月のロンドン戦まで、10カ所の開催地で11レースが行われた。すべて市街地で、うち8カ所が公道である。

人気の秘密の一つには、レース展開が極めて面白いことにある。よくできた推理小説のように、最後まで結末が読めないのだ。もちろん、フォーミュラEには筋書きなど存在しないので、本当に結末が読めない。予選結果などアテにならない。

シーズン1は車両が全車共通で性能の差がないこと。それに、操るドライバーが元F1ドライバーであったり、現役WEC(ル・マン24時間をシリーズの一戦に含む耐久シリーズ)ドライバーであったりで、粒ぞろいであることが大きい。

人気を集めるもう一つの要因は、新しいモノ見たさの好奇心だろう。六本木に集まった人たちも、シーズン1の情報にテレビなりネットなりを通じて触れ、自分の目で確かめてみたくなった、というところではないだろうか。

シーズン1で全車共通の車両を採用したのは、新しいシリーズをスムーズに立ち上げるためだ。シーズン2以降はチームが独自に開発できる領域を段階的に広げ、最終的にはF1のように、1台まるごと独自開発できるロードマップを描いている。

10月17日の北京戦で開幕を迎えるシーズン2は、モーター/インバーター/トランスミッションで構成されるパワートレーンの独自開発が可能。2016/2017年のシーズン3はバッテリーが自社開発できるようになり、2018/2019のシーズン5には、レース中に1ドライバーあたりが使用できる車両の数を2台から1台に減らす予定だ。

欧州の主要メーカーが続々参戦する一方、日本は……

まだまだ発展途上で未成熟な電気自動車の技術。だからこそ、そこには「金の鉱脈」が眠っていると言える

まだまだ発展途上で未成熟な電気自動車の技術。だからこそ、そこには「金の鉱脈」が眠っていると言える

内燃機関にもまだ伸び代は残っているが、サチュレートした領域で「もうひと押し」の開発をしているのに比べたら、電気自動車にまつわる技術は未成熟かつ発展途上であり、伸びシロは山ほど残っている。

なにしろ、レースの途中で充電済みの別の車両に乗り換えなければ、1時間を走りきれないのが現状なのだから。ゆっくり走れば走り切れるだろうが、それではスピードの魅力に欠けるし、容量を確保しようと巨大なバッテリーを積めば重くなり、やはりスピードや俊敏性を奪ってしまう。

バッテリー一つ取り上げても課題は山積しているが、山積している課題に取り組んでいるのはモータやインバータも同様である。

シーズン2以降に独自開発が許されることになれば、レースで鍛えた技術を量産にフィードバックする道筋ができる。競争の場で成果を挙げることができれば、各種媒体を通じた露出によってブランド価値の引き上げにもつながる。

という狙いで、欧米ではメーカーやサプライヤーもフォーミュラEに注目している。

「ABTシェフラー・アウディ・スポーツ」などは、ドイツの自動車メーカーとメガサプライヤーが強力なタッグを組んだチームであることが、チーム名から一目瞭然だ。シェフラーはシーズン2に向け、「信頼性が高く、高効率なモーターを開発した」とアナウンスし、技術力のアピールに余念がない。

「ルノー・ eダムス」はルノーの息が掛かったチーム。「DSヴァージン・レーシング」にはシトロエンがついている。「ヴェンチュリ」は電気自動車の速度記録(495km/h)を保持するモナコのベンチャー企業で、こうしたベンチャー企業が大企業相手に真っ向勝負できるのも、伸びシロを抱えたカテゴリーならではの構図だろう。

BMWはセーフティカーとメディカルカーに電動車両のi8とi3を供給。クアルコムは非接触充電技術でフォーミュラEとの関わりを持ち続けている。現状はセーフティカー&メディカルカーにのみ非接触充電を対応させているが、ゆくゆくは、競技車両が走行しながら非接触充電できる技術を確立したいと意気込んでいる。

電動車両にまつわるさまざまな技術がシーズンを重ねるにつれどのように進化していくのか、非常に楽しみである。残念なのは、日本の企業の参入が皆無なことだ。

そこに「金の鉱脈がありそう」なだけでは重い腰を上げることはできず、地表にごろごろ転がっており、誰が見てもオイシイ状況にならないと手を伸ばせないのだろうか。なんともさびしい限りである。

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