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東大法学部卒(31歳・無職)が半年でプログラマーになれたのは生存本能のおかげ~『freee』開発者・平栗遵宜さん

タグ : freee, IT教育, クラウド, プログラミング, 会計, 元Google, 元ソニー, 言語学習 公開

 

専任の経理担当者を置くことができない中小零細企業の経営者やフリーランスにとって、業務の合間を縫って行う簿記・帳簿作業は手間以外の何物でもない。

この手間と負担を解消する会計サービスとして脚光を集めているのが、全自動のクラウド会計ソフト『freee(フリー)』である。

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会計全般をサポートするクラウド型ソフトとして、青色申告や会社法に対応した決算書にも対応している『freee

最大の魅力は、入力作業を最大限に省力化できる点。あらかじめ銀行口座の出入金履歴やクレジットカードの使用履歴をWebアカウント経由で同期しておくと、『freee』が明細情報を解析。金額や摘要に準じた適切な勘定科目を、帳簿上に自動で割り振ってくれる。

ユーザーは、基本的にその内容を承認するだけ。“仕訳”や“勘定科目”を意識することなく、ほとんどの作業をクリックベースで完結できると評判だ。

同サービスは2012年11月に行われた『TechCrunch Tokyo』でお披露目されるとたちまち話題を呼び、2013年3月に正式リリース。同年5月には、ベンチャーの祭典『Infinity Ventures Summit 2013 Spring』のLaunch Padで優勝を飾り、現在までに1万を超えるビジネスアカウントを獲得している。

こうして同サービスが注目を集める理由には、サービスの出来の良さ以外に、『freee』を開発・運営するfreee株式会社(旧・CFO株式会社)の共同創業者の存在も見逃せない。

1人はGoogleで中小企業向けのマーケティングを統括していた現代表の佐々木大輔氏。もう1人が、慶應義塾大学大学院でコンピュータサイエンスを修め、ソニーでソフトウェアエンジニアとして活躍していた開発責任者の横路隆氏だ。

ともに世界的なテクノロジー企業で経験を積んできた人物だけに、その起業話がメディアに取り上げられることも少なくなかった。

だが、彼らに続く「社員第1号」のエンジニアこそ、異色の経歴の持ち主だということはあまり知られていない。現在、同社でソフトウェアエンジニアを務める平栗遵宜(ひらぐりのぶよし)さんその人だ。

3度臨んだ司法試験に失敗……崖っぷちからの再出発

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freee株式会社のソフトウェアエンジニア・平栗遵宜さん

「何しろ人生崖っぷちすれすれ。周りはみんな働いて立派にやっているのに、自分には仕事もキャリアもない。だから僕はこの会社に入って、もう一度チャレンジをしたかったんです」

平栗さんはfreeeに入社するまで、無職で職歴もなし。当然、プログラミングは一度もやったことがなかった。父親の仕事である弁護士を目指し、司法試験を受験していたからだ。

2007年に一浪二留でぎりぎり東京大学法学部を卒業した後、千葉大学の法科大学院に進んで司法試験の合格を目指していたが、3度の試験に失敗。弁護士への道が絶たれたその時、平栗さんは31歳になっていた。

「子ども心に自分が家業を継いだら父親も喜ぶだろうと思ったのが、弁護士を志望した理由です。法科大学院ではわりと真面目に法律を学びましたが、最後までなじめないものを感じながら勉強していました」

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将来の職場になるかもしれなかった法曹界だが、平栗さんは「性に合わなかった」とのこと

学生時代から、国語より、正解が出る数学や物理が得意な理系学生だった。そんな平栗さんにとって、一つの事案に人それぞれの解釈が入り交じる法律の世界は、なじみにくかったという。

自ら決めた道とはいえ、振り返れば「勉強にのめり込むことができず、もどかしい毎日」。ここで踏ん張らないと、ずるずると落ちていってしまうという危機感を持っていた。

「そこで、とにかく就職をという思いから、就職サイトで『31歳・職歴なし』でも応募できる仕事を片っ端から当たろうと思っていました」

目に入ったのは、駅員募集や飲食店の店員、タクシー運転手など。仕事の中身は何でもよかったと当時を振り返る。ただその一方で、「もう何も失うものがないのだから、最後に自分が本当に好きになれる仕事をやりたい」という思いも持っていた。

そんな矛盾した思いを友人に明かしたところ、紹介してもらったのがfreeeだったのだ。

「知人がベンチャーを立ち上げたから、仕事がないか聞いてみようか? と言ってくれたんです。彼は代表の佐々木と親しい間柄でした」

平栗さんはその友人の紹介で、佐々木氏と横路氏に会う機会を得る。しかし佐々木氏から、「設立間もないベンチャーなので、給料を払う余裕がない」と言われてしまう。

そこで平栗さんは食い下がった。「無給で構わないから開発の仕事を手伝いたい」と頼み込んだのだ。

そうまでしてfreeeへの入社にこだわった理由を聞くと、「ベンチャーで働くのは面白そうだし、最後のチャレンジにぴったりだと思ったから」とのこと。

「それに、エンジニアの仕事は“手に職”。ここで成長して技術を身に付ければ食べていけるかなと。今思えば、そもそもfreeeのプロダクトが何なのかも最初はよく分かっていませんでした(笑)」

プロダクトが何かより、とにかく面白そうなものに飛びついたというのが本音だろう。人生の瀬戸際から抜け出すきっかけを得て、闘志に燃えていたに違いない。

(編集部注:無給を条件に入社した平栗さんだったが、すぐに給料が支給されるように)

プログラミング学習の要領は「海外へ転校した子ども」と同じ?

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仕事はもちろん、趣味レベルでもプログラミングをやったことがなかった平栗さん。入社後はとにかく必死だった

とはいえ、「学生時代にサークルのホームページを作ったことくらいしか経験がなかった」と話す平栗さんにとって、freeeへの就職はゼロからプログラミングを習得する過酷な日々の始まりでもあった。

「入社2日目に佐々木からRSpecのファイルを渡され、一言『これ(テストケース)増やしといて』と言われたのがプログラマーとしての始まりでした」

当時のfreeeは、平栗さんを入れても3人しかいないベンチャーである。2人の上司=創業者の佐々木氏と横路氏にも、彼の教育に時間を割く余裕はなかった。自分で何とかする以外に、選択肢はない。

そこで彼が選んだのは、すでに佐々木氏と横路氏が書いていたコードを、ただひたすらに読み込むという学習法だった。

「普通、ゼロからプログラミングを覚えるなら入門書を読んだり、人に教わったりするのが普通なのかもしれません。しかし、そんな悠長なことはしていられませんでした。無給とはいえ、何かしらの価値を出さなければベンチャーにはいられない。『分からない』なんて言える状況ではなかったんです」

テストケース作成の傍ら、GitHubにあるfreeeのコードをpullしては気になった部分を書き換え、何がどうなって動いているのかをひたすら確認。寸暇を惜しんでコードの解読に没頭していった。

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From chiaki hayash
プログラミングの知識を増やすために、勉強会やスクールに通う道もあるはあるが、平栗さんは別のやり方を選んだ

その結果、1カ月ほどでRailsのCRUDにも慣れ、3カ月目には複雑な固定資産やユーザー権限管理などの機能を作れるようになる。半年が経つころには、銀行やクレジットカードの明細データの自動解析アルゴリズムや、300を超える口座との同期機能をほぼ独力で作れるまでになった。

入社するまでいっさいプログラミングに触れたことがなかったことを思えば、目を見張る成長ぶりだ。

「RailsやBackbone.jsの複雑なモデル構造や、広い知識が必要になるインフラ周りについては、横路のほか、自分の後から入社してきた経験豊富なエンジニアたちにずいぶん助けてもらった」と謙遜するが、大企業のように教育体制が完備された環境ではない以上、彼の成長は彼自身の努力によるものが大きいことは想像に難くない。何が平栗さんの成長を加速させたのか?

いわく、「とにかくこの環境の中で生存しなければならないという意識が、学習のスピードを早めた」とのこと。

「例えば、親の都合で海外に引っ越した子どもが現地の学校に入ると、その国の言葉を覚えようと必死になりますよね? それって、この言葉を身に付けないとこの社会で生きていけない、と死にもの狂いになるからこそできることだと思うんです。僕にとって、プログラミングもこれと同じでした。31歳にもなって無職で職歴なしだった僕の場合、『こいつを習得できなければ俺は死ぬ』という思いがあったので、生き残るために必死に身に付けられたんだと思っています」

では、長年挑んでいた法律の勉強がうまくいかなかったのと比べて、何が違いとなったのか。

「やはり、自分で書いたコードでモノが動くのは純粋に楽しかったからでしょうね。エラーが起きたら、100%自分が悪いと分かる点も、法律と違って分かりやすくて好きです(笑)。ユーザーからすぐに反応が来ることも、やりがいを感じますね」

目指すは「頼られるエンジニア」。30代の挑戦は続く

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最近はエンジニアとしてのやれることの幅も広がり、取材時にも笑みがこぼれる

今年3月の正式リリースを無事終えてからも、ほとんど休みを取らず、つい先日まで睡眠時間も4~5時間程度に抑えて開発に没頭してきた。この1年間で25万行をcommitしたという。最近になってようやく、週末に休みを取るようにした。

今では社内にエンジニアも増えたことで、幅広い知見を得られるようになった。これからは仕事のコーディングだけでなく、興味ある分野の学習にも時間を割いて、技術力の幅を広げていきたいと語る。

「これまで期待を裏切り続けてしまった親に『頑張れよ』と応援してもらっていることが一番うれしいですね。何よりこうした状態にまでたどり着けたのは、偶然とはいえ、心から取り組みたいと思える仕事に出会えたからだと思います」

平栗さんが目指すのは、幅広い知見を備え、勘所を押さえた“仕事ができるエンジニア”。わずか1年足らずのエンジニア経験でここまで到達できたことを思えば、彼の中にはいまだ大きな伸びしろが隠されているはずだ。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/伊藤健吾(編集部)


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