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2015年、製品開発を仕様から考えるのをやめてみませんか?【連載:えふしん】

タグ : UX, えふしん, イノベーション 公開

 
えふしんのWebサービスサバイバル術

藤川真一(えふしん)

FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にGMOペパボへ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社を設立し、2012年4月30日まで代表取締役社長を務める。その後、想創社(version2)を設立しiPhoneアプリ『ShopCard.me』を開発。2014年8月1日からBASE(ベイス)株式会社のCTOに就任

皆さん、あけましておめでとうございます。本年も連載を続けさせていただくことになりまして、このように記事を書かせていただいております。本年も、地味だけどジワジワ来る記事を目標に書かせていただきたいと思います。

さて、毎年年初には未来予測の記事が出てきますが、今回は未来予測の種になる概念について書いてみたいと思います。

ここ数年、ユーザー体験=User Experience(UX)という言葉が叫ばれています。そもそもWindows XPの「XP」は「eXPerience」から付いた名前でして、言葉自体は10年以上も前からユーザビリティの専門家の間で語られていました。

近年では、スマートフォンアプリが機能と画面サイズの間でトレードオフを求められ、UIにこだわったアプリが成功するようになったため、「良いUIは良いスマホアプリである」という定説が生まれています。そして、その観点から「UI/UX」というバズワードが生まれたりもしました。

UI/UXがなぜバズワードなのか? は今回は書きませんが、UXデザインを仕事で語る時には「良い企画を作ること」と言い換えてもよいのでは? と思っています。つまり、良いUXを実現したいのであれば、良い企画から考えよ、ということです。

議論を尽くして製品開発することの限界

2015年以降は、今まで語られていた「UI/UX」の枠を超え、本格的にUXドリブンな製品開発が広まる時代になってほしいと思っています。そのカギを握るのは、モバイル向けのソフトウエア開発はもちろん、ウエアラブルコンピュータやIoTデバイス、スマートガジェットを作りたいという欲求の高まりでしょう。

例えば今年は、「スマートロック」と呼ばれるスマートフォンのBluetoothで家の鍵を解錠・施錠できる製品が、何社からか発売される予定です。

スマートロックについては、「電源が切れたらどうなるの?」、「スマートフォンのバッテリーが切れたら開かないから、鍵は結局持って行くことになるよね?」という批判論がある一方で、かばんやポケットから鍵を出さずに扉を開け閉めできるというユーザー体験の面で快適性は存在しそうです。

鍵を出さずとも扉が開け閉め可能になることが、どれだけ「あたりまえの体験」になるかで、商品の成否は変わってくることでしょう。

UXドリブンな製品開発における重要な部分は、利用者に、初めて製品を触った瞬間から「あぁもう、これがない世界は考えられない」と言うような非論理的な感情を持ってもらうことです。そのため、少なくとも企画の段階では、「なぜこの製品が良いのか?」ということを論理的に説明できません。単純な機能比較表の○×では比較できないのです。

結果として、多くの人に賛同され、売れているという事実でしか、経済的な成否を判断できないということになります。

これを裏返して考えると、「論理的に議論を尽くして製品を開発する」という手法では、UXドリブンな製品開発ができないことになります。

From David Wall
「合議制」で物事を決めるのには、良し悪しがある

大体のケースにおいて、議論の過程で非論理的なアイデアは潰されしまうからです。いくらでも、「それがダメな理由」を言えてしまう。

組織が成熟している企業であればあるほど、議論を尽くして製品開発をすることになるので、論理的に通用しやすい他社のパクリ製品しか作れないか、他部署の既得権益を阻害しないイロモノ製品に走るかのどちらかになりやすい。

これは、そういう組織で働く作り手が、一度は経験するジレンマでしょう。

「あれもないこれもない」ことを有識者が受け入れられるか

次に、上に書いたような類の「議論」とは無縁な状態から生まれたであろうiPhoneについて考えてみます。

iPhoneが出てきた当時は、ガラケーと比べて、あれもない、これもないから成功するハズがないと言われていました。しかし、iPhoneの成功要因は、あれもない、これもないことを選択したことにあるのではないかと思っています。

あらゆるものを捨てまくって、キーボードも捨ててしまった。それが「モバイルにおける新しいUXの実現」につながりました。

現在もスマートフォンにキーボードがないことを嫌い、ガラケーを使い続ける人がたくさんいるのは事実です。その半面、スマートフォンは市場的には成功し、ガラケーの代替品としての地位は日々高まっています。また、LINEスタンプによる非言語コミュニケーションや、ツイキャスのようにあらゆる場所で動画生中継ができる新しい世界も広がりました。

まだスマートフォンがなかったころにキーボードを捨てるという選択は、常識的な有識者にはできない判断だったと思います。せいぜい頑張って、いかに小さなボタンで優れたキーボードを実現するか? を工夫するのが常識的な判断だったでしょう。

From Karlis Dambrans
かつてはBlackBerry(写真右)のような端末を「スマートフォン」と呼んだが、iPhoneの登場でその概念は変わった

iPhoneは、キーボードを捨てることによるトレードオフを、アップルの高い技術力やデザインセンスによるソフトウエアの完成度でカバーしたわけですが、それ以前に有識者にとっての「あたりまえ」を捨てたことが勝因だったのではないかと思うわけです。

よく「引き算のデザイン」と言われますが、それだと少し格好よすぎます。新たなUXを作り出す人をプロの作り手と呼ぶならば、プロにとって必要なのは、「あれもない、これもないことを我慢して受け入れる」ことだったのです。

この考え方は、特に企画を承認する立場にある上司にこそ必要でしょう。自分の経験をあえて無視し、それを捨てた結果に広がっている新しい世界を見つけ、新しい世界を総取りしに行くことが大切です。

仕様ドリブンの開発をやめてみよう!

あらゆる製品開発において、企画や仕様を考える人は、自分たちがかつて考えた仕様が足かせとなり、“ガラケー”を作ってしまっていることに気が付かないものです。

大体のケースでは、「この機能は、ウチの製品にとっては最低限必要なことだ!」と主張し、同時に「頑張って、それを良いモノにデザインするのがデザイナーの仕事だろ!」と主張します。

このシチュエーションにおけるデザイナーは、すでに仕様の決定が終わった後なので、それを否定する言葉も権限も持っていません。そもそも異議申立てすることを期待もされていません。

そういう経験から、「より良いUXを実現するには組織論が大事だよね」と言われてしまったりしますが、本当は、単純に後工程からの悲鳴だと理解すべきです。

この悲鳴を解消する方法は、プロがプロの論理でのみ仕様を考えるのをやめることです。「自分の仕事は仕様を考えることだ!」と一生懸命考えたあげく、うまく実装できないものを作ってしまうくらいなら、いっそ考えない方が得策です。

だからと言って、まったく企画のできない人がUXをデザインしてもうまくいかないでしょう。「顧客は自分が何をほしいのかを分かっていない」という原則がある以上は、やっぱり製品デザイン自体はプロが設計する必要があります。

つまるところ、UXドリブンの製品開発はすごく難しく、リーダーシップの取り方を間違えると後戻りできない制約を作ってしまうということなのです。

今年も多産多死は続く

今年も1年、ソフト・ハードにかかわらずいろんな製品が出てきては死に、うまくいく製品、短命で消えていく製品もたくさん出てくるでしょう。

イノベーションが起きる時は、多産多死は免れないと言われています。単純な確率論であるならば、多産は必要だし、多死も成功の踏み台のために必要だということになります。それが市場を形成するという意味なのかもしれません。iPodだって、多産多死のMP3プレーヤー市場があったからこそで生まれた製品であることを忘れてはいけません。

誰もが自分がやる事業について「これは失敗するだろう」と思いながらはやらないでしょう。が、ここで書いたような仕様ドリブンの製品開発は、ことモバイル関連の開発においては失敗を招く要因として無視できないと思っています。

それを解決する方法論は、すでに山ほど世の中に提案されています。デザイン思考などがその1つです。

問題は、方法論はあっても「自分たちのあたりまえ」が邪魔をして実行できない、ということなのだと思います。これはものすごく無意識に行われています。

だから、自分たちのあたりまえを壊すために、いろんな勉強が必要なのです。

勉強に臨む上で1つの大切な要素として、「あれもない、これもないことを一度受け入れてみませんか?」ということを書いて、この記事の締めとさせていただきます。

本年もよろしくお願い致します。

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