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2014年は新パワーユニット元年~量産車開発とモータースポーツのシンクロがもたらすエンジン改革【連載:世良耕太】

タグ : F1, WEC, パワーユニット, 世良耕太 公開

 
F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

出版社勤務後、独立し、モータリングライター&エディターとして活動。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『auto sport』(三栄書房)。近編著に『F1機械工学大全』(三栄書房/1728円)、『モータースポーツのテクノロジー2014-2015』(三栄書房/1728円)など

国内外のレースカテゴリーが同時期に、「エネルギーの効率的な使い方」に着目してレギュレーション(規則)を一新したのは過去に例がない。2014年は主要カテゴリーのパワーユニットが新時代に突入した年として、のちのち思い起こされることになるだろう。

90年以上の歴史を誇るル・マン24時間レースをシリーズの一戦に含む世界耐久選手権(WEC)も、パワーユニットに関するレギュレーションを一新したカテゴリーの一つだ(最上位カテゴリーのLMP1-Hに限る)。

そもそもなぜ、レギュレーションを定めるかといえば、キリがないからである。何のキリがないかといえば、投ずるコストにキリがないし、投じたコストに比例して性能は向上する性質を持っているので、性能向上もキリがない。

コスト、性能ともに歯止めをかける手段として、従来はエンジンの最高回転数に制限を設けたり、エンジンが吸い込む空気量に制限をかけたりするのが主流だった。WECの場合は吸入空気量に制限をかけていた。

激しい運動をした時に空気が足りないと苦しくなるのは人間もエンジンも同じ。吸気リストリクターという細い吸い口の装着を義務付けることによって、エンジンの出力が一定以上にならないようにしていたのである。

量産エンジンへの転換を前提にしたレギュレーション変更の潮流

この特殊な条件が、レーシングエンジンの開発をねじ曲がった状態にしていた。一定量で空気量が頭打ちになるという、量産エンジンではあり得ない条件を前提に開発しなければならなかったからだ。

だから、レーシングエンジンの開発を通じて鍛えた技術は、量産エンジンの開発とダイレクトに結び付かなかった。

それではいけないと、レギュレーションを見直したのだ。新しいレギュレーションは空気量を制限するのではなく、1周あたりに使ってもいい燃料の量を規制した。どちらも制限に違いないが、空気量の方は「これ以上はダメ」と縛り付ける格好なのに対し、燃料の量の方は「これだけあげるから好きに使いなさい」というニュアンスで、根本的にスタンスが違う。

WECのレギュレーション変更は、燃料の量を制限することでエネルギー効率化の技術開発促進を促す

WECのレギュレーション変更は、燃料の量を制限することでエネルギー効率化の技術開発促進を促す

ただし、前年までより約3割使える量が少なくなった。好きに使ってもいいが、月1万円だった小遣いが7000円になったようなものなので、上手に配分しないと1カ月もたない。

しかも、小遣いが少なくなったからといってじっとしているわけにはいかず、全力で運動することが求められる。決められた時間で最も長い距離を走ったクルマが勝つ競技だからだ。

WECのレギュレーションがよくできているのは、燃料の量を制限しただけで、それまで細かく制限されていたエンジンの種類や排気量を自由にしたことだ。

トヨタは3.7L・V8自然吸気ガソリンエンジンを選択した一方で、ポルシェは2L・V4直噴ガソリンターボを選んだ。アウディは4L・V6ディーゼルである。

小遣い、いや、燃料をどう効率良く使い、どう速く走るのか。参戦各メーカーの取り組みが異なっている事実が、最適解の見つかっていない証拠である。

WECのレギュレーションはエンジンに、エネルギー回生システム、すなわちハイブリッドシステムの組み合わせを義務付けている。このシステムもトヨタ、ポルシェ、アウディで互いを意識したかのように異なっている。

完成車メーカーがレーシングカー開発に参加する機運も

耐久レースでの速さ、強さはエンジンやハイブリッドシステムだけではなく、サスペンションや空力を含めた総合性能に左右されるが、シーズンを通して圧倒的な強さを披露し、年間タイトルを獲得したトヨタはやはり、小遣い、いや(しつこいですね)、燃料の使い方が最も上手だったと判断していいだろう。

レースで鍛える技術が量産車にそのまま活かせるレギュレーションになったため、しばらく耐久レースから離れていたメーカーを呼び寄せるきっかけにもなった。レースでしか役に立たない技術に資金を注ぎ込んでいると「何を無駄金使って」とステークホルダーから攻撃されかねないが、レースで鍛えた技術が量産車にダイレクトに役立つとなれば、技術開発にも役立つし、PRにもなって一石二鳥である。

流れに乗るようにして参戦を決めたのが日産で、2015年からトヨタ、ポルシェ、アウディと同じステージに出る。1991年にル・マンを制したマツダも、復帰に向けて動いているようだ。

F1は最高回転数の制限から、WECと同様に燃料の量を制限するレギュレーションに切り換えた。WECでは選択制だが、F1は排気の熱を電気エネルギーに置き換える熱エネルギーの搭載が義務付けになった。

WECのポルシェの車両に搭載されているエネルギー回生システム

From Porsche
WECのポルシェの車両に搭載されているエネルギー回生システム

制動時にブレーキで捨てていたエネルギーを回生する運動エネルギー回生システムと合わせ、ダブルでエネルギー回生システムを積むことになる(WECのポルシェも同様のシステムを選択)。

WECとは異なり、排気量や気筒数は自由に選択できず、1.6L・V6直噴ターボと決まっている。

2014年はフェラーリ、メルセデス・ベンツ、ルノーの3メーカーがそれぞれ独自のパワーユニットを開発し、11のチームに供給したが、メルセデス・ベンツが他を圧倒する速さを見せつけ、技術の優位性を証明した。2015年にはホンダが、この厳しい戦いに割って入る。

ニッポンのレーシングエンジンはどこまでいけるか

日本では、スーパーフォーミュラとSUPER GTのエンジンが切り替わった。どちらも2013年までは3.4L・V8自然吸気エンジンを積んでいたが、2014年からは2L・直4直噴ターボを積む。量産車の世界で世界的なトレンドになっている過給ダウンサイジングの流れに乗った格好だ。

日本の技術力に対する自信と、その技術力を世界に発信したいとする期待を込めて、NRE(Nippon Race Engine)と名付けた。

ニッポンのレーシングエンジンも従来は吸気量や最高回転数を制限していたが、燃料流量制限に切り換えた。WECやF1と同様、これにより、レースでしか役に立たない技術ではなく、レースで鍛えた技術が量産エンジンの開発に役立つようになった。トヨタ(車両はレクサスブランド)、日産(SUPER GTのみ)、ホンダがレースを舞台に、エンジンの効率化競争に取り組んでいる。

SUPER GTは2014年、ドイツのDTMと技術規則を統合したが、エンジンは例外で、日本がNREに切り換えた一方、DTMはそれまでどおり4L・V8自然吸気を積んでいた。そのDTM、2017年にもSUPER GTとエンジンに関する技術も含めて統合する予定。その際、NREにフォーマットを合わせる方向で調整が進んでいる。

限られた燃料を効率良く燃焼させて速さに結び付けるのが、量産車のみならず、レースでも世界的な流れとなった。その転機となったのが2014年だった。2015年はその流れがさらに(少ない燃料で)加速するだろう。

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