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4.2億円の資金調達と「絞り込みの美学」で世界制覇を目論む『FxCamera』のこれから【連載:NEOジェネ!】

タグ : Android, FxCamera, NEOジェネ!, アプリ, スタートアップ, チームワーク, ビットセラー, ミログ, 起業, 開発 公開

 
世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回登場するのは、今年4月、有名カメラアプリ『FxCamera』買収で話題を集めたビットセラーだ。すでに多くのスマホユーザーに支持されるアプリを、どう進化させるのか? その開発思想に迫る。
株式会社ビットセラー
(左)取締役 澤田 翔氏

(中央)代表取締役社長 川村亮介氏

(右)取締役 山下盛史氏

FxCamera』は、現在世界201の国と地域で利用されているAndroid向けカメラアプリだ。かつて、パナソニック モバイルコミュニケーションズで携帯電話開発に携わっていた技術者であり、ミログで開発責任者を務めていたこともある山下盛史氏が、帰宅後の時間や休日を費やし私的に開発したものだ。

この世界的に有名なカメラアプリを、今年4月にビットセラーが買収したことが業界で話題を呼んだ。

人気の秘密は、多様なエフェクトを掛けた写真が手軽に撮影でき、撮った写真をすぐさまSNSに投稿もできること。だが、理由はそれだけではない。ハードウエア構成の違いやOSのカスタマイズによって挙動が安定しないことも多いAndroidアプリにおいて、アプリの動作率が抜群に高いという点も、全世界での総ダウンロード数1500万突破(2012年4月時点)という人気の一因だ。

ビットセラーは、この『FxCamera』のさらなる進化と、近日公開予定のクラウドフォトストレージサービス『Cellar』の開発で、フォトコミュニケーションの世界を席巻しようと画策している。

山下氏がAndroidアプリを開発するようになったのは2009年初頭のこと。GoogleがAndroid開発者向けに提供し始めた開発者専用端末『Android Dev Phone 1』を入手したことがきかっけだった。

『FxCamera』開発者で、ビットセラーにジョインするまでミログに勤めていた山下氏

『FxCamera』開発者で、ビットセラーにジョインするまでミログに勤めていた山下氏

手始めに、ホーム画面用ユーティリティーアプリや、シンメトリックな写真が撮影できるカメラアプリなどを開発。これらをAndroid Market(現Google Play)で公開したところ、世界中から反応が返ってきたことに強い感動を覚えた山下氏は、Androidアプリ開発に熱中していく。

そして、ビットセラーにジョインした山下氏が、同社の川村亮介氏や取締役・澤田翔氏とともに取り組み始めたのが、『FxCamera 2.0』の開発だ。

「誰でも簡単に使える」をメインテーマにしていた1.0バージョンから、今後は「Makes You Creative(ユーザーをクリエイティブに!)」を実現するカメラアプリを目指すという。

「これまで山下個人が運営してきた『FxCamera』を進化させるべく、個人運営では難しい大きな投資や優秀な開発チームの編成など、会社として取り組むことで可能になることは多いはず」と、川村氏は説明する。

その準備のために実施したのが、今年4月27日、ジャフコ・スーパーV3 共有投資事業有限責任組合からの4.2億円もの第三者割当増資だ。

それを元手に、「これから1年をかけて30人ほどのエンジニアを採用しながら、経営資源を『FxCamera』の拡張に集中させるつもり」と澤田氏も続ける。すでにIPAの未踏出身エンジニアなどがジョインしており、UI研究で有名な慶應義塾大学の増井俊之教授を開発アドバイザーに迎えてもいるそうだ。

「実は、今年4月に予定していた写真保管サービス『Cellar』のリリースを直前で延期したのも、『FxCamera』の強化に注力するためです。将来、この2つのプロダクトを連携させることを考えると、早い段階で『FxCamera』をジャンルNo.1にする必要がありました。つまり『Cellar』の入口となる『FxCamera』を “鉄板アプリ化”することを優先したわけです」(澤田氏)

そのための開発戦略として、『FxCamera 2.0』では多機能さの追求とミニマイズのバランスを意識しているという。その全貌とは?

魅力を5秒で説明できるか? アプリ開発のキモは”引き算”にある

起業の経験が豊富で、若い世代で構成されるスタートアップからも尊敬の念を集めている川村氏

起業の経験が豊富で、若い世代で構成されるスタートアップからも尊敬の念を集めている川村氏

川村氏と澤田氏は、ともに広告配信システムを手掛けるアトランティス(グリーへ売却済)の創業メンバーで、事業戦略や営業面を担っていた川村氏と、大規模な広告配信システムのバックエンド開発を行ってきた澤田氏のコンビに、『FxCamera』を世界的なアプリに育て上げた山下氏が加わった。

強力なコアメンバーによるチームに潤沢な資金が加われば、次期『FxCamera』は非常に贅沢な機能を備えたプロダクトになるのではないかとも思えるが、必ずしもそうではないと澤田氏。「開発に必要なのは足し算よりも引き算。やるべきことより、やらないことをいかに決めるかが重要だ」と話す。

「目の前に新しい技術があれば、それを取り入れたくなるのがエンジニアというもの。しかし、『FxCamera』が目指しているのは特定の層にだけ支持されるアプリではなく、幅広い層にリーチするアプリです。ユーザーに、『このカメラアプリの魅力は?』と尋ねられ、5秒の説明でご理解いただけるくらいのシンプルさが必要だと考えています」(澤田氏)

「それが製品コンセプトに忠実な機能だけに絞り込む”ミニマイズ”という考え方であり、開発の難しいところ」と山下氏も口をそろえる。

「『FxCamera 2.0』がどんな機能を備えるか、現段階で具体的にお話しできることはあまりありません。ですが、これから僕らが作ろうとしているのは、少なくともエフェクト機能満載の『ポラロイド・シミュレータ』でないことは確か。『FxCamera 2.0』を『誰でもクリエイティブに撮れる』ようにするには、やはりミニマイズが大切なんです」(山下氏)

技術屋が「できない」と思う部分にこそブレークスルーがある

オフィス内の壁一面に書き殴られたブレストの模様。ポイントは「ニーズの抽象化」だという

オフィス内の壁一面に書き殴られたブレストの模様。ポイントは「ニーズの抽象化」だという

このミニマイズを重視した開発を行うため、同社が力を入れているのは徹底したブレストだ。そこに経営者やエンジニアの壁は存在しない。

「まずは好き勝手な希望を述べて、議論の口火を切るのが自分の役目。多少荒々しいくらいの意見をたたき台にした方が意見も活発になるからです。そこから知識に長けたエンジニアがブラッシュしていき、再び全員でやるべきか否かを再検討するのです」(川村氏)

「エンジニアというのは、自分が実装できないことは無意識のうちに提案しないもの。自分の首を絞めることになるかもしれませんからね。でも、その『できないこと』にこそブレークスルーのヒントがある。ですから、制約を持たない人の意見って、実はとても大事なんだと思っています」(山下氏)

一通り検討を尽くし、搭載する機能の取捨選択を行う。これがビットセラーの考え方であり、開発アプローチの基本だ。その上で、最も大切にしている判断軸は「自分たちの追求するバリューと顧客の意見」(澤田氏)だという。

「技術屋は『できること』に執着しがちだが、そこから離れて発想するのが肝」(澤田氏)

「技術屋は『できること』に執着しがちだが、そこから離れて発想するのが肝」(澤田氏)

「アプリのバリューをコロコロ変えるのは迷走の始まりですが、そのバリューに対するアプローチについては、ユーザーの要望に応えながら柔軟に変えるべきだという考えです」(澤田氏)

先述のとおり、『FxCamera 1.0』のバリューとは、誰でも簡単に、クールでカッコいい写真を撮れるというもの。「うまくアプリを使いこなせば良い写真が撮影できる」というレベルの使用感では、これ以上の普及は見込めないため、「誰でも簡単に、という1.0のバリューを変えるような変更は行わない」(川村氏)と周知徹底しているそうだ。

が、『FxCamera 2.0』が目指すクリエイティブさをユーザーにもたらすためは、撮影したものをどう”お化粧”させたいのか、どう加工できればもっと人に見せたくなるのかを改めて考え直し、機能の追加という形で応えていかなければならない。

その取捨選択の軸を決めるのは、「あくまでユーザーの声」(川村氏)になるわけだ。

「ですから、最近搭載したソーシャルポスト機能の反応や、そこからSNSにポストされた写真の内容、Google Playに載る評価内容などを日々チェックし、どんな傾向があるかを分析するのもエンジニアの仕事になります。自分たちが作ったプロダクトがどんな評価がされているかを知ることで、より良いアプリを作っていくわけです」(澤田氏)

競争の熾烈なカメラアプリの世界で、『FxCamera』が名実ともにNo.1の称号を獲得するには、開発と経営の両面で絶妙な舵取りが要求されるだろう。ただ、資金調達や度重なるブレストによって「すでにベースはでき上がっていると思っている。あとは『よりすばらしくなる何か』さえ見つかれば、No.1カメラアプリになれるはず」(澤田氏)とのこと。

そのOne More Thingをつかむため、今日も腕利きのエンジニアたちが知恵を絞っている。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

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