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翻訳クラウドソーシング『Gengo』が「パフォーマンスデータ全公開」というグロースハックに着手した理由

タグ : Gengo, オープンデータ, クラウドソーシング, グロースハック, スタートアップ, 翻訳 公開

 
Gengo代表取締役ロバート・ラング氏(右)とCTOマシュー・今井・ロメイン氏

Gengo代表取締役ロバート・ラング氏(右)とCTOマシュー・今井・ロメイン氏

翻訳クラウドソーシングの『Gengo®』を運営する株式会社Gengoが11月26日、『Gengo』のパフォーマンスデータを閲覧できるページ「Open Data」をローンチした。

このページでは、Gengo社内で使用しているのと同じ、顧客満足度、スピード、クオリティ、キャパシティといったパフォーマンスのデータを、グラフ化した形で誰でも閲覧できる。

さらに、ユーザーからのフィードバックコメントや実際に翻訳が行われた原文データを読んで、依頼する際のスピード感やプランを比較検討することも可能。データは毎週水曜日に更新され、常に最新のものが表示されるという。

特徴的なのは、個人情報に関する部分を伏せているほかは、ほぼそのままのデータを掲出していること。例えばユーザーからのフィードバックコメントの中には、数こそ多くないものの、ネガティブな内容のものもある。

こうしたリスクを冒してまでも、すべてのデータをつまびらかにすることに、どのような意義を見いだしているのか。データ公開の先に、Gengoが見据えるものとは? CEOのロバート・ラング氏、CTOのマシュー・今井・ロメイン氏の2人に話を聞いた。

データはテクノロジーの証明にほかならない

翻訳クラウドソーシングの『Gengo』

翻訳クラウドソーシングの『Gengo』

「こう言っては失礼かもしれませんが、翻訳サービスは非常に古い業界で、既存のサービスはテクノロジーと無縁と言っていい状態でした」

ラング氏はそう言って、『Gengo』を立ち上げた当時を振り返る。

『Gengo』は、ラング氏、ロメイン氏の2人が2008年12月に立ち上げ、翌年6月に法人化したクラウドソーシングの人力翻訳サービス。合格率わずか7%の厳しい翻訳テストに合格した翻訳者を、世界37カ国に約1万3000人抱えており、61言語ペアの翻訳に24時間365日対応している。

社員35人の半分以上がエンジニア。サイトのほかに、さまざまなプログラミング言語に対応したAPIを通じても翻訳依頼ができるなど、テクノロジーを前面に打ち出したサービスが大きな特徴の一つだ。

ラング氏はグラフィックデザイナーとして、ロメイン氏はエンジニアとして、それぞれ日本企業で働いていた経験がある。バイリンガルであるがゆえに、社内で業務とは関係のない翻訳を依頼されるなど、それぞれ「言葉の壁」がもたらす不自由さには苦労を強いられてきた。「この問題をテクノロジーの力で何とか解決できないか」と考えたのが、『Gengo』誕生のきっかけだった。

「テクノロジーを前面に押し出した施策は、旧態依然とした業界内で、他サービスとの何よりの差別化になる。データとは、テクノロジーの証明に他なりません」(ラング氏)

既存の翻訳会社がメールベースでやり取りしていたり、FTPサーバのような古い規格を使っていたりするのに対し、『Gengo』のすべてのやり取りはブラウザ内で完結している。そのため、各翻訳者がいつ案件を受け取ったのか、いつ翻訳を終えて提出したのかといったデータはすべて、自動的に蓄積されている。

「せっかくデータがあるのですから、それをきれいな形にまとめて活用しようという話になったのは自然な流れでした」(ロメイン氏)

翻訳スピードが速い、クオリティが高い、信頼性がある――。こうした売り口上は、裏付けがなければ空虚に響くだけ。そこに信憑性と透明性をもたらすのが、今回の「データ公開」施策というわけだ。

6年にわたる地道なシステム改善がもたらした信頼性

『Gengo』のパフォーマンスデータを見ることができる「Open Data」ページ

『Gengo』のパフォーマンスデータをグラフ化した形で見ることができる「Open Data」ページ

「データの公開は今、このタイミングまで待たなければなりませんでした。プラットフォームとして安定し、データに信憑性がある状態までもってくるのに、6年にわたる地道なシステム、フロー改善の積み重ねが不可欠だったからです」(ラング氏)

『Gengo』では、クライアントからの依頼に対して世界中の翻訳者が早い者勝ちで「フラグ」を立てて、仕事に着手する。

着手までにかかる時間は平均5分だが、まれにどの翻訳者からも引き受けられることなく、放置される案件がある。こうした案件も含めて、すべての着手時間を100分以内に抑えることが目標だ。

「しかし、ローンチ後しばらくはそれが難しかった。目標達成のためには、放置される案件をいち早く察知して、原因を究明し、対処する必要がありました」(ラング氏)

そこで開発したのが、案件を見たにもかかわらず翻訳に着手しない人が10人続いたら、自動的にアラートを発するシステム。アラートを受け取ったサポート部隊がすぐにフォローアップできるフローを作ることで、着手時間100分以内のスピードを実現できるようになった。

クオリティの担保にも機能追加が大きく寄与した。

翻訳者への厳しいテストや、シニアトランスレーターによる抜き打ちチェックなど、『Gengo』はサービスローンチ当初から、クオリティ担保のための数々の施策を実施してきた。しかし、案件が増えてくるにしたがい、翻訳者個人による得手不得手などの理由で、スピードや質が低下するケースも生じてきた。

翻訳者が8時間以上作業を続けていて、なおかつ品質が下がってきた際に、休憩を促すメッセージを自動的に送る機能は、この問題を解決するべく追加された。

前述の通り『Gengo』の作業はすべてブラウザ内で完結しているので、翻訳者はこうした新機能をソフトをインストールすることなく、すぐに利用することができる。

ほかにも、通算100万件以上の翻訳実績を活かした機械学習やUX改善を通した翻訳作業の簡易化などにより、プラットフォームとしての安定性が増したからこそ、今回のデータ公開を実現することができたという。

ドッグフーディングで得た自信がデータ公開を後押し

しかし、ユーザーからのフィードバックコメントにはネガティブなものも含まれる。数値データが低下するような事態が起これば、新たなユーザーを獲得する上で不利に働くことも考えられる。すべてをつまびらかにすることのリスクをどう考えているのだろうか。

「なぜ食べログやトリップアドバイザーに人気があるのか。ポジティブなコメントだけ載っていても、信憑性は得られません。利用を検討しているユーザーは、ポジティブ/ネガティブなコメントが混在しているからこそ、サービスやプロダクトについて詳細に把握できるのです」(ラング氏)

リスクを懸念することなくデータ公開に踏み切れた背景には、今春から続けているドッグフーディングの効果もあった。

第1段階は、社員全員が毎月1000円分程度の翻訳を『Gengo』で依頼するという形、第2段階は同じ文章を他社サービスにも依頼することで、時間やクオリティ、値段を比較するという目的で行った。

「その結果、私たちは『Gengo』というサービスに大きな自信を持つことができました。ですから、データを公開することにためらいは生じませんでした」(ロメイン氏)

公開するデータを、日ごろ社内で使っているものと同じ内容にしたのも、ドッグフーディングを行う中で、顧客目線で必要な情報を感じ取ることができた結果だという。

「テクノロジー第一」を象徴する6週間に1度のハッカソン

鎌倉・建長寺など変わったロケーションで6週に1度開催される社内ハッカソン。ここで生まれたアイデアがそのままサービスに持ち込まれることも少なくない

鎌倉・建長寺など変わったロケーションで6週に1度開催される社内ハッカソン

「テクノロジーファースト」な企業であることを強く打ち出すGengoだが、その象徴の一つに、プログラミング言語「Google Go」による開発がある。

個人レベルではともかく、プロダクトを生み出す現場で利用している企業はまだ多くないとされる「Go」。GengoはもともとPHPで開発されていたが、Pythonに書き換え、さらにGoへと移行している。

そのきっかけとなったのは、6週間に1度開催している社内ハッカソンだ。自由な発想を促す目的で、鎌倉・建長寺など毎回変わったロケーションで行っているというこのハッカソンで、1人のエンジニアがGoを使って新機能を作ったことが、社内全体でGoを使うトリガーになった。

「全ては、エンジニアが楽しくやれないといいモノは作れないという考え方に基づいています。エンジニアの意欲を活かすため、ハッカソンで生まれたアイデアをそのままサービスに持ち込むことも少なくありません」(ロメイン氏)

プロダクトをリリースするための社内ツールや今回のオープンデータのマップも、ハッカソンで開発されたものという。『Gengo』のサービスには隅々まで、このハッカソンで生まれたアイデアが散りばめられているようだ。

将来的には言語に関連したあらゆるサービスを扱う構想も

「わたしたちの最終的なミッションは『コミュニケーションのバリアを崩す』こと。これだけ多くの優秀な翻訳者を抱えているわけですから、将来的には文書作成やタグづくりなど、言語に関連したあらゆるサービスを追加し得ると思っています」と構想を話すロメイン氏。だが、当面は翻訳に専念して、品質の向上と事業のスケールに注力するという。

前述の通り、『Gengo』は現在1万3000人の翻訳者を抱えているが、公表されているデータによれば、そのアクティブ率は1割程度。つまり、『Gengo』のキャパシティーからすれば、現状でもより多くの翻訳依頼をこなすことが可能だ。

今回のデータの公表によりサービスの信頼性や透明性を高めることができれば、利用のハードルは低くなり、より多くのクライアントを集客することにもつながる。ラング氏は「コアのサービスである翻訳を慎重に伸ばしていった上で、2015年内には新たなサービスにも挑戦したい」と話している。

取材・文・撮影/鈴木陸夫(編集部)




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