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モノづくりを通して社会を変える。パーソナルモビリティ『gp1』が目指すもの【連載:匠たちの視点-磯村歩】

タグ : gp1, モビリティ, 業界有名人, 転職 公開

 

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プロフィール
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株式会社グラディエ 代表取締役
磯村 歩氏 

1966年、愛知県出身。金沢美術工芸大学を卒業後、プロダクトデザイナーとして富士フイルムに入社。在職中はビデオカメラ、デジタルカメラ、医療用機器のデザインで、日刊工業新聞社機械工業デザイン賞、グッドデザイン賞選定などを受賞。顔検出技術を応用した写真サービスの企画や、研究所向けイノベーション促進プログラムなどにも取り組む。自著『感じるプレゼン』執筆後は、講演活動も行うように。2009年、グラディエを設立。念願だったデンマーク留学も果たす

人目を引くデザインと、特殊な機械を納めるかのような形状。折りたたんだ状態で、これを乗り物と確信する人は少ないだろう。

gp1』は2012年10月、東京デザイナーズウィークで発表された、折りたたみができる1人乗りモビリティのコンセプトモデルだ。

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パーソナルモビリティ『gp1』のコンセプトモデル(ほかの形状は『gp1』ティザーページでご覧ください)

障がい者や高齢者が外出先での移動に使えるほか、広大な敷地を持つショッピングセンターやアミューズメントパークなどでの利用を想定している。

今のところモックアップであるため、動力装置こそ持たないものの、市販時には24V 150-200Wの電動モーターを搭載して最高速度は6km/h、1回の充電で17.7kmの走行可能なバッテリーを備え、重量は12kg程度になる予定。量産化のあかつきには、25万円ほどで販売する計画だ。

この不思議な形状をしたパーソナルモビリティ『gp1』の企画とデザインを行ったグラディエの磯村歩は、長年にわたって、富士フイルムの医療機器やビデオカメラ、デジカメなどプロダクトデザイナーとして活躍した人物。

しかし、これまでモビリティにかかわるデザインを行った経験はなかったという。にもかかわらず、なぜあえて独立後に実績のない分野に取り組んだのか。

そう尋ねると、磯村は富士フイルム退職の経緯と、その後に向かった北欧での体験について語り出した。

ある学生の死を通して理解した、自己決定権を尊重する文化

磯村が富士フイルムを退職したのは、入社20年目を迎えた2009年。入社から定年退職までの期間を40年とすると、すでにその半分を恵まれた大企業の中で過ごしたことになる。

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富士フイルムのプロダクトデザイナーとして業界内で名の知れた存在だった磯村氏

では残りの20年をどう過ごすべきか。立ち止まって考えた磯村は、その後の人生を自分の力で切り拓くことを決めたのだという。

「退職直前の3年間、ユーザビリティデザイングループのグループ長としてもっとも力を注いだのが、ユニバーサルデザインの啓発活動でした。この活動を通じて、高齢化社会のあり方や障がい者の自立支援について自分なりに考えるようになり、もっと深く追求してみたくなったこと。それに加え、自分で何かを始めるには、体力のある40代のうちにという思いもありました。それが入社20年目という節目で退職した理由です」

退職後、磯村が目指したのは北欧の福祉国家デンマーク。この国には「フォルケホイスコーレ」という生涯教育の伝統がある。この教育システムにはいくつか種類があり、磯村はまず「エグモントホイスコーレン」という、障がい者と健常者が24時間生活をともにしながら学ぶ学校を留学先に選んだ。会社員時代に関心を持った、高齢者や障がい者福祉への見識を高めるためだ。

「留学先は、日本語にすると『国民高等学校』。別名『スクールフォーライフ』と呼ばれる学校です。主に成人を対象とした生涯学習の場であり、人生を考える学びの場という位置付けになります」

その後、世界から学生が集まる「クロゴップホイスコーレン」や、多世代が同居しコミュニティを形成するエコビレッジにも滞在し、文化的バックグラウンドの異なる人々や多世代共生の実態を体験。この間、福祉関係のイベントに足を運んだり、現地の幼稚園、小学校、介護施設を視察もした。

こうした経験を通じて磯村は、この国の文化や国民性に根差している特別な原則に気が付いたという。

「それが自己決定権の尊重でした。留学したてのころ、学校の先生に『この学校が目指すものは?』と尋ねたことがありました。すると先生は意外そうな顔をしてこう答えたんです。『それは学生であるあなたが決めることでしょ?』と」

磯村は不意打ちを食らったような衝撃を覚えた。衝撃の理由は先生の答えではなく、自分の問いの中に、捨てたはずの“会社員的”な匂いを嗅ぎ取ったからだ。

「クセというのはなかなかなか抜けないものですね(笑)。あの時は与えられた文脈を解釈するという意識が働いたんでしょう。これは明らかに会社員時代のクセみたいなもの。しょっぱなから意識改革を迫られることになりました」

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40代を迎えた「オトナ」が、異国の地デンマークで受けた衝撃とは?

これ以降、磯村は生活のあらゆる場面で自己決定を迫るデンマーク流のコミュニケーションとともに暮らすことになる。

「『わたしはこう思うけどあなたは?』とか『あなたはどうしたいの?』と、常に意思表示することが求められました。相手が幼稚園生であろうが、障がい者であろうが、わたしのような外国人でも関係ありません。そしてその答えがどんなものであれ、できる限り尊重しようとするんです。最初はとても驚きましたが、新鮮でもありましたね」

しかし、それでもまだ、自己決定権の尊重がどれほど重い意味を持つか理解したとは言い難かった。それをもたらしたのは、同じ寮に住んでいたある学生の死がきっかけだった。

「その彼は深夜に深刻な発作を起こすことがあるため、学校側はその対策として彼が就寝する際には必ず介護者をつけていたそうです。でもある日を境に彼は付き添い介助を拒否し、一人で寝たいと希望するようになりました。話し合いの結果、彼の希望は受け入れられましたが、結果的にその決断が彼の命を奪うことになったわけです」

本人の望みとはいえ、もし日本で同じことが起きれば、管理者責任が問われかねない事態だ。だが、この出来事に関連して誰かが責任を問われるようなことにはならなかったという。

「彼を知る人は『本人がリスクを承知の上で決めたこと。彼の死は悲しいけど受け入れるほかはない』と自分を納得させていましたが、それを聞いて自己決定権の尊重という原則は、ここまで徹底しているのかと思わざるを得ませんでしたね。幼いうちから自分で考え、決めることをうながしている理由が、この時初めて理解できた気がします」
(次ページへ続く)


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