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ミスターGT-Rが挑み続けた“インナースケール”の壁。そして知ったモノづくりの本質【連載:匠たちの視点-水野和敏】

タグ : GT-R, モノづくり, レース, 日産, 自動車 公開

 

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プロフィール
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元・日産自動車『GT-R』開発責任者

水野和敏氏

長野高専を卒業後、1972年に日産自動車に入社。プリメーラ(P10)やスカイライン(R32)の車両パッケージングに携わった後、89年NISMOに出向してグループCカーレースに参戦。92年にはデイトナ24時間レースで優勝を収める。93年日産に復帰。スカイライン(V35)やフェアレディZ(Z33)、FX(FX35)の開発に携わった後、GT-R(R35)開発のプロジェクトリーダーに就任。2013年3月を以って日産を正式退社。個人サイトでは仕事の相談のほか、若きエンジニアからの質問も受け付けている

もし、世界をリードするモノづくりをしたいなら今すぐ“決心”せよ

「“決定”と“決心”ってどう違うか分かる?」

しばしの談笑の後、“ミスターGT-R”はこう切り出した。

「大きな組織が調和や安定を求めて下すのが“決定”。個人や小規模なチームが勇気を振り絞って腹をくくるのが“決心”。誰も足を踏み入れたことがない世界に入るには、誰かの下した決定に寄り添うんじゃなく、一人一人がきちんと決心することが大事なんだよ」

水野和敏。

彼こそ2001年に日産のCEOに就任したばかりのカルロス・ゴーン氏から全権を委任され、世界最高水準の動力性能を持つ国産スーパーカー『GT-R(R35)』を、わずか50名のメンバーと3年足らずの開発期間で作り上げた伝説のプロジェクトリーダー。世界中のモータファンからその動静に注目が集まる数少ない日本人エンジニアの一人だ。

R35-GTR

From NISSAN
水野氏が開発総指揮を執り、「日産復権」の象徴の一つとして話題になったGT-R(R35)

「エンジニアにも2種類いる。仕事を生活の糧を得るための手段と考える者と、エンジニアリングこそ自分のライフワークだと信じて疑わない者。もし自分が前者だと思うなら、会社の決定に忠実な社員として生きていけばいいし、俺はそういう生き方があるのを否定しない。皆が皆、クリエーターとして生きられる訳ではないからね」

こう話した後、水野は語気を強める。

「でも、もし世界をリードするモノづくりがしたいと思うなら、顧客とちゃんと向き合って仕事をするんだって決めなきゃいけない。つまり、それが“決心”だ。組織の決定やルールばかりを追い続けるようでは、革新なんて起こせないよ」

プロなら自分の時間と金を使うのを惜しむべきじゃない

水野は、世間の人々や顧客が漠然と抱いている夢や願望を「アウタースケール」と呼び、車両開発や仕事の指針として大切にする一方、身内にしか通用しない内輪の論理を「インナースケール」と蔑み、時に厳しい言葉で斬り捨ててきた。

それは、彼のエンジニア人生の大部分が、こうした組織にはびこる「インナースケール」と、それに依存する人々との闘いに費やされてきたことと無縁ではない。

「何しろ『水野のやろうとしていることは時流に合わない』、『無駄だ』、『バカだ』と長年言われ続けてきたからね(笑)。NISMOから日産に戻って提案した『FMパッケージ』でスカイラインやZを作った時も、『PMパッケージ』でGT-Rの開発に取り組んだ時もそうだった。でも俺には、お客さまの将来を見据えてアウタースケールに則った仕事をしているって想いと、決心ができている自負があったから、気にもしなかったよ。これまでも、結果的には皆を納得させるだけの実績を残してきたしね」

この徹底した顧客志向こそ、水野の信念を支えてきた骨格そのもの。しかしこの“顧客志向”という言葉にさえ危うさが潜んでいると水野は言う。

「俺が顧客志向の大切さを訴えると、大抵のエンジニアはこう言うんだ。『僕も調査会社が出した市場データや販売店の意見をよく聞いてモノづくりをしています』って。でも会社の色がついてしまった情報には、顧客の本当の思いなんてどこにもないんだよ。そこにあるのは、依頼した会社が気分を害さないよう、上手にまとめた調査結果と売り手の論理だけ。もし本当にお客さまが望んでいるものを知りたかったら、やるべきことはたった一つ。会社のバッジを外して自分で情報を取りにいくしかないんだ」

それは、プロ野球選手が自主トレに時間と金をつぎ込むようなものだと水野は考えている。

「自分の時間やお金を使うのがどうしても惜しくて『上司に理解がない』とか『会社がケチでお金を出さない』って言うヤツもいる。でも、そんな言葉を吐く時点で、自分自身を会社の所有物だって認めることになるんだよ」

自分で自分を貶めているのに、そのことに気付かないのは実に悲しい話。

「自腹を切って得た情報は、会社のものではなく自分のもの。転職したって使える大事なノウハウなのに、その投資をイヤがるなんて自分がプロじゃないって言っているのと同じだと思う。プロならもっと自分を大切にすべきだよ」

スーパーカーオーナーが発した本音がGT-Rのヒントに

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歯に衣着せぬ発言で知られる水野氏だが、その言動にはすべて体験で得た知恵が宿る

実際、水野はGT-Rの基本コンセプトを練るにあたって、自らの素性を隠し、真冬のロングアイランドに赴いている。

これまでアメリカ市場の特性とされていた、ある定説に疑問を抱いたからだ。

「冬のアメリカにはスーパーカー市場は存在しない。なぜなら道路が凍結する季節になるとスーパーカーオーナーたちはSUVに乗り替えるから」

それが今までの定説だった。だが、水野が一エンジニアとしてアメリカに渡り、東海岸に住むスーパーカーオーナーたちに話を聞いてまわったら、その定説からはうかがいしれない本質が見えたという。
(次ページに続く)




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