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EC激変の中、『Gumroad』が日本展開を強化。創業者いわく「事業拡大のカギはtelling story」

タグ : EC, Gumroad, シリコンバレー, スタートアップ, ビデオ, プロモーション, 改善 公開

 

10月7日、Yahoo! JAPANが『Yahoo!ショッピング』と『ヤフオク!』のストア出店料無料化を発表し、EC業界に激震が走った。

ほかにも、7月にはC2Cフリマアプリの『メルカリ』が誕生し、昨年は『STORES.jp』や『BASE』のような無料で開設できるネットショップが業界を賑わすなど、この領域では近年急激な変化が起こり始めている。

これらの動きに先駆けて、昨年2月にシリコンバレーで生まれた直後から「革新的なECサービス」として話題になっていたのが『Gumroad』だ。

Gumroad』はすでに日本語版サイトも

主にミュージシャンやクリエイター、エンジニアが作成する各種コンテンツを、URLリンクを貼るだけで販売できるという手軽さや、TwitterやFacebookといったSNS経由で自らのフォロワーに直接販売できるというアイデアが好評の理由だが、創業者のプロフィールも注目を集めた。

その人、サヒール・ラヴィンギア氏は当時19歳。

『Pinterest』の元デザイナーで、『Turntable.fm』のiPhoneアプリ開発者としても知られていた若き起業家は、「オンラインのコンテンツ販売技術を民主化する」という謳い文句で瞬く間に総額810万ドル(約7.8億円)もの資金調達に成功した。

今回、同社が日本での銀行振込を開始したということで(これまで『Gumroad』の決済方法はPayPalのみだった)、ラヴィンギア氏に創業からこれまでの事業展開と、C2Cでのコンテンツ販売という新ビジネスをどのように普及させてきたのかを聞いた。

日本市場を重視するのは、ローンチ直後の反響から

『Gumroad』創業者のサヒール・ラヴィンギア氏

―― 『Gumroad』誕生から約1年半が経ちました。日本でもリリース当初から話題となりましたが、現在のユーザー動向はどうですか?

『Gumroad』はローンチ後の1カ月間で世界中のいろんなメディアに取り上げられ、これ以上ないスタートを切ることができた。現時点でのユーザー分布は、USが約65%で、海外からのアクセスが35%くらいになっているよ。

中でも日本は反響の大きな国の一つで、最初のうちは、トランザクションがUSと日本で半々くらいだったんだ。

サイトを日本語対応したのもローンチ直後の2月16日だったんだけど、これは熱狂的なユーザーから「日本語に翻訳したい」という打診が来て、2日くらいで翻訳版を作ってもらった。

こうやって支持してくれるユーザーがたくさんいたのは、日本独特のカルチャー、特に同人誌マーケットに『Gumroad』のコンセプトがフィットしたからだと思っている。

―― 日本は今も2番目にユーザーが多い国?

いや、USの次にユーザーが多いのはUKなんだ。『Gumroad』はPayPalを通じたクレジットカード決済を採用していて、UKはPayPal利用者が多い国だからね。

ただ、さっきも話したように、日本にもUKに負けないくらい僕らのサービスを使っているユーザーがいるので、今年9月から銀行振込による決済もできるようにしたんだ。

銀行振込にも対応しているのはUS国内だけだったから、日本は世界で2番目の対応国ということになる。

―― では、現時点のユーザー数や取引総額は?

数値は非公開だから明かせないけど、順調に伸びているよ。『Gumroad』はこれまでにまったくなかった形のECサービスだから、ユーザーにコンセプトを理解してもらうまでにけっこう時間がかかったけどね。

―― サヒールさんが言うとおり、URLリンクだけでコンテンツを販売できるという点や、C2CでECを行うという感覚は、まだ一般化していません。そんな中で、どうやって『Gumroad』の魅力を伝えてきたのですか?

今は世界中にたくさんのECサービスがあるけど、『Gumroad』を始めてみて、やっぱり「モノを売る」という行為はフィジカルなものであるという社会通念が強いんだと気付かされた。だから、最初は「そもそもデジタルコンテンツってそんなに売れるの?」とか、いろんな声が寄せられたよ。

この考えを変えていくには、論より証拠で示した方が早いと思ったので、僕自身が(自ら執筆した)本をチャプターごとに切り売りしたりしながら、「デジタルコンテンツを売る体験」をユーザーに伝えていくようにしていたね。

もう一つ多かったのが、「C2Cで販売できるのに、なぜGumroadに5%の決済手数料を払わなきゃダメなのか?」という声。

これに関しては、ユーザー自身が販売サイトを作って、さらに決済システムまで構築するコストを考えれば、『Gumroad』を使った方が楽だというメッセージングを意識的に行ってきた。そうやって、徐々に僕らのサービスを使うメリットを伝達してきたんだ。

新しいコンセプトのビジネスほど、プロモビデオは大事

―― そのやり方だと、アーリーアダプターはまだしも、たくさんいるであろう潜在ユーザーにコンセプトを広めるまで時間が掛かり過ぎませんか? ほかに注力してきたことは?

ユーザー獲得のためのメッセージングで一番腐心したのは、プロモーションビデオの作成かもしれない。

C2Cでコンテンツ販売ができる『Gumroad』は、今までになかった新しいコンセプトのECサービスだ。こういうサービスの場合、今までのECとどう違っていて、何を変えているのかを言葉で説明するより、実際に観てもらった方が理解してもらいやすいからね。

どんなフレーズを使い、どういうアプローチでコンセプトを説明すればより刺さるのか、すごく考えたよ。

ビデオを見てもらえば分かるけど、「今までのECはどこが不便だったか?」、「Gumroadはこの不便さをどう解決しているのか?」を簡潔かつ丁寧に“語る”ようにしたんだ。

―― 機能や特徴を説明するのではないと?

そう。『Gumroad』が生み出す新しい「ストーリー」を伝えることが大事だと思っているからね。

例えば、これまで道端で弾き語りをしてCDを販売していたミュージシャンは、『Gumroad』を使うことでより多くのファンに音源を売ることが可能になるかもしれない。それも、レコード会社と契約せずに売れるから、売り上げは全部自分のものにできる。

マージンを取られないということは、製作にかけられる資金が増えるってことだから、より質の高いコンテンツが生まれるかもしれない。そうなれば、ミュージシャンやクリエイターのファンにとっても、楽しみが増えるしうれしいはずだ。

こうやって、“telling story”を意識しながら『Gumroad』の特徴をメッセージングしていくことで、僕らはクリエイターと買い手の関係を近付けるハブなんだということを伝えてきた。

これが、ユーザー数の拡大に奏功したと実感しているよ。

先日も、Twitterのフォロワーが1000人くらいだったあるデザイナーが、ファンとSNSで直接交流しながら『Gumroad』で作品を販売し、今では自力で食べていけるくらいの収入を得ているという「ストーリー」を聞いたんだ。

好きなことで食べていけるのは、とても幸せなことだよね? こういう物語を伝えていくのが大事なのさ。

スタートアップには「実験」が必要。失敗は改善の種になる

『Gumroad』の複数購入用ページ。このインターフェース設計の裏側には多くの試行錯誤があった

―― 今回はエンジニアtypeの取材ということで、サービスの開発・改善についても伺わせてください。創業から1年半ほどの間で、重要視してきたことは?

技術面については、とにかく他社の事例などを参考にしながら、『Gumroad』の開発に有効だと思ったものはどんどん取り入れるようにしてきたよ。

それと、サービス改善では「実験」を重要視している。良いと思った機能を実装しては、どのくらい使われているかを徹底的に調べ、「なぜユーザーはこの機能を多く使うのか?」、「逆に使われない機能はなぜダメなのか?」を分析するんだ。

試すことで情報が集まり、それを検証していくことでしか、『Gumroad』の発展に本質的に必要なファクターは見つからないと考えているからね。だから実験が大切なんだ。

―― その「実験」で、成功したものと失敗したものを教えてください。

最近の成功例は、ユーザーエクスペリエンスを高めるために導入したインターフェース設計手法だ。僕らはこれを「Modalフィーチャー」と呼んでいる。

今までのECって、商品やコンテンツを紹介するブログなどのWebページと、実際に購入決済を行う際のページが別々だったよね。そのため、決済ページへのコンバージョンは低くなり、離脱率も高くなっていた。

『Gumroad』はこの問題を何とか解消しようといろいろ試行錯誤してきた結果、コンテンツ紹介ページの上にもう一つのレイヤーを表示して決済ができるようにしてみた。自分のブログでコンテンツ紹介をしている場合、そのページ上に『Gumroad』の決済ページが乗っかってくるイメージだ。

この改善によって、購入者は紹介ページから決済ページへ飛ばなくてもよくなった。今では全売り上げの3割近くが、このスタイルで販売されるようになっているよ。

一方の失敗例は……。「実験」には失敗が付き物だし、そこから得た情報で改善を加えていくわけだから、失敗と言いたくないんだけど、複数購入のページ遷移には苦労したね。

もともと『Gumroad』は「1つのコンテンツを売り買いする」のを前提に設計していたから、まとめ買いをするための機能は用意していなかったんだ。僕らの提供したいユーザー体験とは違ったものになってしまうから、ショッピングカートのような機能は付けなくなかった。

でも、ユーザーからは「まとめて売りたい」、「まとめ買いしやすい機能が欲しい」という声がたくさん出てきて。どうすれば僕らの設計ポリシーを崩さずに複数購入を実現できるか、ずっと悩んできた。

そこで、今は1つ1つのコンテンツを横スクロールで閲覧できるように遷移を変えて(参考ページ)、複数購入にも対応できるようにしているよ。

この対応に決めるまでのプロセスで、自分たちの設計ポリシーとユーザーニーズとのバランスをどう取っていくか、考え抜くことが大事だと痛感させられたよ。

―― 設計ポリシーのお話がありましたが、そもそもサヒールさんがアントレプレナーとして大事にしていることは?

『Gumroad』は日本語での利用ガイドも充実している

たいていの起業家が「世界はこうあるべきだ」という信念を持ってビジネスを始めると思うんだけど、いざサービスを開発し、運営するようになると、多くの人が陥るミステイクがある。

それは、「自分たちのサービスが世界を変える」という考え方だ。

本来は、「世の中がこう変わっていくから、こういうサービスが必要になるよね」と考えるべきなんだけど、自ら手掛けるサービスへの愛着から、どうしても物事を考えるスタート地点がずれていってしまうんだよ。

『Gumroad』に関しても、僕は「Gumroadがあるから世の中がこう変わるはず」というアプローチでは物事を判断しないようにしている。大切なのは、「世の中がこう変わっていくはずだから、Gumroadが必要なんだ」というスタンスだ。

今の世の中は、SNSを通じてクリエイターとファンが直接つながりを持てるよね。ならばSNSはコンテンツの流通基盤にもなっていくはずだし、そうなればクリエイターは中間業者を介さず自分でプライシングやマーケティングを行えるようになる。だから、『Gumroad』のようなECサービスが必要なんだ!ってね。

繰り返すけど、『Gumroad』が世界を変えるんじゃない。変わっていく世界で必要とされるだろうサービスとして、『Gumroad』を作り、改善しているんだよ。

一見似たようなことだと思うかもしれないけど、この違いはとても重要なんだ。

―― ただ、“マイクロブログ”として生まれたTwitterなどもそうですが、サービスというのはユーザーが「作り手の想定しなかったような使い方」をすることで大きく成長していくケースもあると思うのですが。

そうだね。ただ、僕がさっき話した「世界はこうあるべき」というのは、事業のビジョンであってサービスのユースケースじゃない。

「ユーザーはGumroadをこう使うべき」というのはエゴの押し付け。「世界がこう変わっていくから、Gumroadはこうあるべき」という姿勢で創造と改善を重ねていくのさ。

だから、たとえプロセスがうまくいかなくても、それは失敗じゃない。改善の種でしかないんだ。自分の信じた未来像を実現する情熱がなくなった時こそが、起業家にとっての失敗なんだと思うよ。

―― なるほど。ありがとうございました。

取材・文/伊藤健吾(編集部) 通訳/野口勝也




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