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テクノロジーが作る新たな平和活動のかたち~普通の高校生が語り手になる『ヒロシマ・アーカイブ』

タグ : デジタルアーカイブ, ナガサキ・アーカイブ, ヒロシマ・アーカイブ, 台風リアルタイムウォッチャー, 渡邉英徳 公開

 
広島の被爆者の証言映像や資料をGoogle Earth上に落とし込んだ『ヒロシマ・アーカイブ』。被爆者のインタビューは地元広島の高校生らが行った

広島の被爆者の証言映像や資料をGoogle Earth上に落とし込んだ『ヒロシマ・アーカイブ

Google Earthの地図上にさまざまな歴史資料とデータをマッピングし、新しい形の「デジタル・アーカイブ」の制作を進めているのが、首都大学東京システムデザイン学部准教授の渡邉英徳氏だ。

これまで、桜の開花前線を可視化する『さくらマッピング』や、南太平洋の島国ツバルに住む人々と風景の写真を収めた『ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクト』など、さまざまなデータをマッピングしたアーカイブを発表してきたが、

中でも有名なのが、長崎、広島の両被爆地の被爆者証言を集めた取り組みだろう。毎年8月になると、国内外のさまざまなメディアで取り上げられ、そのたびに大きな話題を集めている。

地元紙や資料館の資料をマッピングして作られた2010年発表の『ナガサキ・アーカイブ』に対して、その翌年に制作された『ヒロシマ・アーカイブ』は、マッピングした資料の中に、被爆者の証言を新たに収録した動画コンテンツが含まれているのが特徴。インタビューを行ったのは、地元広島の高校生だ。

特別な技能を持つ存在ではない普通の若者が作り手となり、やがて語り手になる。渡邉氏はここに、テクノロジーを活用した新しい平和活動、そして新しい伝承の可能性を見いだしている。

地元の女子高生だからできた被爆者インタビュー

『ヒロシマ・アーカイブ』を作る過程で、地元の若者とコミュニティを作っていくことの力を実感したという渡邉氏

『ヒロシマ・アーカイブ』を作る過程で、地元の若者とコミュニティを作っていくことの力を実感したという渡邉氏

女子高生が被爆者にインタビューするというアイデアは、「怪我の功名」から生まれたものだった。

『ヒロシマ・アーカイブ』の制作が始まったのは、長崎での取り組みを知った被爆2世のアーティスト石堂めぐむさんから依頼を受けたのがきっかけ。渡邉氏は長崎同様、広島でもすんなり地元の人に喜んでもらえるだろうと考えたが、予想が外れる。

「広島は世界遺産の原爆ドームに象徴されるように、既存の平和活動のコミュニティが世界の中で確固たる地位を築いています。私の取り組みが『よそ者の売名行為』のように受け取られ、なかなか資料提供の協力が得られませんでした」

プロジェクトが手詰まりになりかけた折、広島女学院教諭の矢野一郎氏の協力により、道が開かれた。同校の生徒が被爆者にインタビューをすることで、新たに資料を作るというアイデアが浮上した。

ただ、渡邉氏としては当初、心配が先行していたと告白する。

「ナガサキ・アーカイブは、地元の新聞社が提供するしっかりした資料で成り立っていました。正直なところ、女子高生たちにコンテンツを作ることができるのか、稚拙なインタビューをして被爆者の方々を怒らせてしまうのではないか、と懸念していました」

だが、それは完全に杞憂だったと思い知らされた。実際にやってみると、これまでさまざまなメディアの取材に対して口を閉ざしていた被爆者の方々が、自身の体験を初めて公の場で語るということが次々に起こった。

「僕のような東京の人間やテレビ局のインタビューであったら、答えていただけなかったかもしれません。地元の若者とコミュニティを作っていくことの力を実感しました」

当初は高校生が集めた証言ビデオと、広島女学院の同窓会証言集だけで始まった『ヒロシマ・アーカイブ』。活動を続ける中で理解者は増え、現在では10種の資料がマッピングされるまでになっている。新たなコミュニティは着実に、その輪を広げている。

コミュニティを広げたのは、デジタルの持つ意外な力

台風被害の情報をマッピングする『台風リアルタイムウォッチャー』。ウェザーニューズ会員がリアルタイムで自主的に送るデータに支えられている

台風被害の情報をマッピングする『台風リアルタイムウォッチャー』。ウェザーニューズ会員がリアルタイムで自主的に送るデータに支えられている

従来の被爆継承活動は、活動の重要さを分かってはいても、その社会的責任の重さゆえに普通の女子高生が参加するにはハードルが高かった。また、使命感が強い一部の若者にしか担えず、結果として活動の寿命が短くなってしまうという点もあった。

しかし、『ヒロシマ・アーカイブ』はリリースした2011年以来、今も証言をインタビューする学生が出続けており、アーカイブの数も増え続けている。

「彼らが参加してくれる動機の多くは、『アーカイブのビジュアルがかっこいい』、『(活動に参加したことを)誇りにできる』といった、若者らしい理由のようです。ここに、デジタルのパワーがあったのかと私自身も驚きました」

Google Earthを土台にした渡邉氏の一連の仕事は、デザインが非常に洗練されており、昔の写真が現在の写真とピタリと重なったり、ARを利用して実際の街並みを見ながら資料を重層表示できたりと、テクノロジーが若者の心をくすぐる形で活用されている。

「自分たちの活動がこんなにかっこいいコンテンツになるんだ、というのが分かりやすく伝わり、ゴールイメージを共有できた。それが、プロジェクトが駆動していくための力になったと思います」

渡邉氏はこうした活動を、自身の出自である建築学になぞらえて、“アーキテクチャ”と表現する。

「建造物は単体では成り立たず、そこにさまざまな立場の人間が絡み合うことで、初めて意味をなします。アーカイブの制作も同じで、人間関係によって発展していくコミュニティ的な営みなのです。そのため、みんながコミュニティの将来像=ゴールイメージを共有することが大事になると考えています」

最近の渡邉氏の制作物である『台風リアルタイムウォッチャー』にも、この“アーキテクチャ”の考え方が分かりやすい形で表れている。台風被害の広がりをネット上でリアルタイムに可視化するという試みは、ウェザーニューズとの提携により全国各地にいる同社会員がリアルタイムで自主的に送るデータに支えられている。

「ヒロシマ・アーカイブでは過去の証言だったデータが、リアルタイムに置き換わっただけ。そこにある思想は同じです。ユーザー1人1人が情報の享受者にとどまらず、どこかの誰かの利益になると考えて行動に出る。良い形で実った例だと思っています」

次は2つの五輪をつなぎ、「東京」を正面から見つめ直す

そして、渡邉氏が現在、今年10月の正式発表に向けて準備を進めている最新のプロジェクトが、1964年東京オリンピックのアーカイブだ。

朝日新聞社と東京都公文書館が提供する計4万4000枚の資料写真と、当時の選手や関係者の証言をコンテンツとしてGoogle Earth上に落とし込む。

証言は広島の時と同様、都内の高校生らとともにインタビューして集める予定という。

表向きの狙いは、1964年と2020年の東京の街並みを比較することで、社会や文化の移り変わりを知るエンターテインメントコンテンツにすること。しかし、その裏側には、渡邉氏の明確な意思のこもった、社会批評の視点も見え隠れする。

「例えば、前回の東京オリンピックで男子マラソン代表だった円谷幸吉選手の写真は、現代社会にもある闇を考えるきっかけを与えてくれます。ゴール直前で追い抜かれ、金メダルを逃した円谷選手は、その後自衛隊の上司や日本社会全体からのバッシングを受け、自ら命を絶ちました。それと同じようなことは、私たちが生きる現代でも起きているのではないでしょうか」

このアーカイブを通じて、「過去を参照しない街・東京の都市生活や歴史の暗い面を、正面から見るきっかけになれば」と渡邉氏は考えている。その時に重要になってくるのはやはり、作り手を高校生が担うということだ。

「2020年オリンピックが開かれる6年後に、彼らは社会に出ます。その時に、このアーカイブを作ることを通じて得た記憶を、必ず誰かに伝承してくれるでしょう。こうして、また新たな“コミュニティ”が生まれていくのです」

テクノロジーが生み出す、新しい人間関係がここにはある。

取材・文/鈴木陸夫 撮影/伊藤健吾(ともに編集部)




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