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技術は平和活動もアップデートする~原爆証言アーカイブのOSS活用に見る、戦争の記憶を「みんなで遺す」意味

タグ : OSS, オープンソース, デジタル・アーカイブ, ナガサキ・アーカイブ, ヒロシマ・アーカイブ, 平和活動, 渡邉英徳 公開

 
OSSの活用により生まれ変わった『ヒロシマ・アーカイブ』

OSSの活用により生まれ変わった『ヒロシマ・アーカイブ

終戦から70年。平和活動もまた、テクノロジーによってそのカタチを変えている。首都大学東京システムデザイン学部准教授の渡邉英徳氏が中心となって進める両プロジェクト『ヒロシマ・アーカイブ』、『ナガサキ・アーカイブ』は、その代表的な例だ。

これらのデジタル・アーカイブ作品は、原爆のさまざまな歴史資料や被爆者たちの証言データをGoogle Earthの地図上にマッピングして作られてきた。『ヒロシマ・アーカイブ』においては、証言動画のインタビューを地元広島の女子高生たちが行っていることは、昨年の記事で触れた。

>> テクノロジーが作る新たな平和活動のかたち~普通の高校生が語り手になる『ヒロシマ・アーカイブ』

しかし、一連のデジタル・アーカイブ作品はこの1年の間に存続の危機を迎えていたという。Googleが、アーカイブのプラットフォームたるGoogle EarthのAPI公開を2015年12月に終了すると宣言したのだ。

渡邉氏らはこの危機を、オープンソースコミュニティの力を借りることによって乗り切った。そのことが、デジタル・アーカイブによる平和活動を、より強固なものへと成長させたのだという。

オープンソースコミュニティがもたらした光明

GoogleがAPI提供の終了をアナウンスしたのは、昨年12月。実際に終了するまでには1年という猶予期間があったものの、データの全てをGoogle Earthというプラットフォームの上にマッピングしてきた渡邉氏らにとっては、寝耳に水の出来事だった。

「Webブラウザで誰もが簡単に見られるというのは、僕らが作るアーカイブの重要なポイントでした。APIの廃止後もGoogle Earthのクライアントソフト自体は引き続き使えるのですが、ユーザーが毎回データをDLして見るという形では、ずいぶんと不親切なものになってしまう」

善後策を探る中で、今年3月に知ったオープンソースのソフトウエアに光明が見えた。AGIという企業が中心となって推進している、一般にはまだ知名度の低い『Cesium』という名のそのソフトは、JavaScriptでGoogle Earthと同じような機能が使えるという触れ込みだった。

『ヒロシマ・アーカイブ』を移植することになったOSS『Cesium』

『ヒロシマ・アーカイブ』を移植することになったOSS『Cesium』

「最初はGoogle Earthの劣化版のように感じられて、移管するのには抵抗がありました。でも、しばらくして、オープンソースコミュニティの凄みを実感させられることになりました。ものすごいスピードでバージョンアップが重ねられ、どんどんと良いモノへと発展していく。それは、イチ企業によるソフトウエア開発では出せないほどのスピード感でした」

すぐにGoogle Earth用のデータを読み込む機能が実装され、さらには2次元地図の表示やアニメーションなど、Google Earthにはなかった機能も備えていた。

「これであれば代替可能かもしれない」

渡邉氏はその可能性に賭け、急ピッチで各作品の移植作業を進めていった。

代替することで、むしろ理念に忠実になった

当初はGoogle Earthで使っていたXMLのデータをそのまま移植しようとしたが、いかんせん表示速度が遅過ぎる。そこで、CesiumがデフォルトでサポートしているJSONベースの「CZML」というフォーマットで、全てのデータを書き換えることにした。

「新しい技術をイチから学び直すことになりましたが、継続的に活動していく上では、運営側の技術のアップデートも欠かせないことだと思っています。また、書き換えたことによって、スマホのブラウザでもPCと遜色ないクオリティでアーカイブを表示できるようになった。これは一番のブレークスルーポイントだったと思います」

OSSへと移植したことにより、『ヒロシマ・アーカイブ』のインターフェースから「Google」のロゴが消えた。「企業1社に依存しなくなったことの意義は大きい」と渡邉氏は言う。

「普通の人がみんなで支えるというのが、僕らの平和活動の理念。ですが、実際にはこれまではGoogleという企業の傘の下にありました。オープンソースに移し替えたことにより、技術的にも世界中の誰もが関われるプロジェクトになりました。より理念に寄り添う形になったと言えるでしょう」

データをCesiumに読み込むためのライブラリを公開している、Code for Nara大塚恒平氏のQiitaのページ

データをCesiumに読み込むためのライブラリを公開している、Code for Nara大塚恒平氏のQiitaのエントリ

Cesiumに替わったことでGoogleが提供する地図は使えなくなったが、逆に版権フリーの地図であればどんな地図でも取り込めるようになった。生まれ変わった『ヒロシマ・アーカイブ』には、国土地理院が公開している原爆投下後の焼け野原になった広島の地図データが使われている。

このデータの使用を提案したのは、業界では知られたギークである国土地理院の藤村英範氏。データをCesiumに読み込むためのライブラリを提供したのは、Code for Naraの大塚恒平氏。いずれも、渡邉氏の理念に共感し、協力を申し出た技術者だ。

「海外発のソフトとそれを支えるコミュニティ、国内の技術者の存在があって初めて、今回の移管はなし得た。誰もが主体的に参加できるオープンなプロジェクトにしていくという意味では、将来的には『ヒロシマ・アーカイブ』自体をオープンソース化することも考えています」

リアルなコミュニティにもさらなる広がり

この1年の間には、リアルな平和活動の方でも一歩進んだ動きがあった。象徴的なのは、広島と長崎それぞれで開催したワークショップだ。

広島では昨年も、高校生がアーカイブに被爆者の証言資料を追加する技術を学ぶワークショップを開催していたが、今年のテーマはさらに進んで、でき上がったアーカイブをいかに平和活動に活用するか。地元の高校生が渡邉研究室の院生らとともにアイデアを出し合う、いわば授業のアイデアソンを行った。

「ARアプリを使いながら街を歩くモデルコースを高校生が発案し、翌日にはそのコースに沿って実際に街を歩いてみたりもしました。すると、これまでは何気なく目にしていた時計店が、原爆投下前も変わらない姿で立っていたということが分かったりする。多くの発見が、生徒のさらなる意欲をかき立てている様子でした」

長崎でのワークショップ開催にあたっては、クラウドファンディングサイト『Makuake』で開催費用を募ったところ、1週間という速さで目標金額の30万円を突破した。参加者は地元の学生・生徒のみならず、東京などの遠方から来た人や、地元の被爆者の姿もあった。

長崎で行われたワークショップの様子。10代から80代までが横並びでPCを覗き込む姿は、活動の象徴的な光景と渡邉氏は言う

長崎で行われたワークショップの様子。10代から80代までが横並びでPCを覗き込む姿は、活動の象徴的な光景と渡邉氏は言う

「10代から80代までが一緒になってアイデア出しをする場が作れたのは、すごいことだと思っています。印象的だったのは、世代の違いを超えてみんながPCを覗き込む光景。正面から重い証言を聞くのは大変ですが、媒介になるものがあると隣り合って議論ができるということを知りました」

持続的な平和活動のためには、何よりこうしたコミュニティの存在が不可欠であると渡邉氏は考えている。昨年は証言する被爆者と、それを聞く女子高生という関係だったが、コミュニティの輪は確実に広がっている。ワークショップは今後も継続的に開催していく意向という。

グローバル、そしてユニバーサルに

アーカイブに収録されている証言集の一部は、この1年で英訳も完了した。ちょうど1年前のTV報道を見てアーカイブの存在を知った人たちが自ら協力を名乗り出て、本業の合間にボランティアで翻訳作業を進めた。

その結果、活動はグローバルな展開も見せている。

つい先日はオーストラリア公共放送で特集番組が組まれたほか、AP通信からも取材があった。渡邉研究室には新たにインドネシアから自費留学の院生が加わり、インド洋大津波被災地のアーカイブを作るプロジェクトも立ち上がった。

広島のワークショップには視覚障害をもつ学生も参加。ヒロシマ・アーカイブのユニバーサルな在り方についてもアイデアを出し合った

広島のワークショップには視覚障害を持つ学生も参加。ヒロシマ・アーカイブのユニバーサルな在り方についてもアイデアを出し合った

また、渡邉氏が受け持つ学部の授業の受講生には、視覚障害の学生がいた。彼が中心となって、「視覚障害者のためのヒロシマ・アーカイブ」を作る取り組みも始まっている。

「広島でのワークショップの際には彼も同行し、高校生たちとともに街を歩いて可能性を探りました。音声ナビゲーションを使ったり、被爆地との距離や向きに応じてバイブレーションを起こしたりといったアイデアも、首都大の学生たち、そして高校生たちから上がってきました。ハンデキャップのある人にいかにデジタル・アーカイブを使ってもらうかは今年以降のテーマです」

テクノロジーがリアルな平和活動の形を変え、リアルなコミュニティがテクノロジーの活用の幅を広げる。そしてその輪はグローバルに、さらにはユニバーサルに広がっていく――。

「オープンソース化の取り組みと軌を一にしてリアルな輪が広がったということに意味を感じずにはいられません。当初作品として閉じていたものが、より広い意味でいろいろな人が参加できる場所になった。アーカイブはいまや、人と人とをつなぐハブになったと言えるのかもしれません」

取材/伊藤健吾 文/鈴木陸夫(ともに編集部) 写真提供/首都大学東京 渡邉英徳研究室




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