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災害時の新たな救世主!?シンガポールの日本人研究者が取り組む「カブトムシ・ドローン」とは

タグ : カブトムシ・ドローン, シンガポール, ドローン, 佐藤裕崇, 研究者, 超領域 公開

 

最近何かと話題のドローン。空撮、レスキュー、物流インフラなどさまざまな用途が考えられており、インターネットが登場して以来の社会を変革するテクノロジーとして捉える人もいるほどだ。

そんな中、2015年3月19日にシンガポール紙ストレーツ・タイムズで同国の南洋工科大学(以下、NTU)が「カブトムシ・ドローン」を研究しているという記事が掲載された(参考記事)。この研究を行っているのは、NTUの日本人研究者・佐藤裕崇助教授だ。

佐藤氏の研究は、カブトムシなどの甲虫にマイクロプロセッサを装着し、無線で遠隔操作を行えるようにするというもの。災害やビル倒壊現場で生存者の捜索・救出に役立つ可能性があり注目されている。まだ課題はあるが、着実に実用化に向けて研究は進んでいる。

昆虫にマイクロプロセッサを装着し、遠隔捜査するという研究は、2007年当時佐藤氏が所属していた米ミシガン大学のほか、米コーネル大学、マサチューセッツ工科大(MIT)の3校が競っていたテーマだったが、この研究で実際に昆虫を飛ばし、コントロールできたのは佐藤氏だけだった。

そうそうたる大学の研究者らが取り組んでいる分野であるが、なぜ佐藤氏が最初に成功したのか。この背景には、日本人的な感覚のほか、自分の領域を一つに定めず超領域で知識・技術を習得しようとする努力がある。

佐藤氏にパーソナルヒストリーを交え、研究でぶつかった壁、その時感じたこと、そしてなぜ成功につながったのかを聞いた。

お話を伺った方

シンガポール南洋工科大学 機械・航空工学学科 助教授
佐藤裕崇氏

早稲田大学理工学部応用化学科にて博士号を取得。2007年に米ミシガン大学アナーバー校で昆虫の飛行制御に関するポスドク研究を始め、2008年にカリフォルニア大学バークレー校に移り、研究を続ける。2011年7月より現職

未知の領域は課題だらけだが、それをやることが楽しい

―― 昆虫にマイクロプロセッサを装着してコントロールするという分野は、学問的にはどのように分類されるのでしょうか。また、佐藤さんはずっとこの分野を研究されてきたのでしょうか。

私が研究している分野を一言で表現するのは難しいかもしれません。というのも、昆虫学、電気化学、電子工学などを交えた研究だからです。

私は、昆虫学も電子工学も専門ではありませんでした。もともとの専門は化学です。学部、大学院ともに早稲田大学の応用化学科・応用物理化学研究室で本間敬之教授のもとで研究を行いました。

当時は、金属を付着させるメッキ技術や金属を溶かす腐食技術を使って薄い膜や細長い穴を作製する加工方法を研究していました。

修士課程の時に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と早稲田大学が実施していた、人工衛星搭載用の小型のX線画像素子の共同研究プロジェクトに携わっていました。メッキ技術で小さな画像素子を作っていましたね。

この経験を通して、小さなものを作ることへの関心が強まったことを覚えています。

これがきっかけとなり、博士過程では化学分野の研究テーマを持ちながら、当時お世話になっていた庄子習一先生がけん引されていたMicro Electro Mechanical Systems(MEMS、微小電気機械システム、マイクロマシン)という研究分野への関心が強まり、庄子先生の研究室にも出入りするようにもなりました。

MEMSへの関心は弱まることはなく、博士課程後(ポスドク)のキャリアとしてもっぱらMEMS分野のポジション探しをしました。

そんな中、本間先生から「Hybrid Insect MEMS」という研究プロジェクトのポスドク募集告知を紹介されたのです。このプロジェクトは、昆虫の飛行を電子制御するシステムを開発するという、SFのようなものでした。

このとき、「なんて突飛なプロジェクトなんだ」と興味津々で、すぐに志願書を送りました。この時志願書を出した先が、その後の恩師となる当時ミシガン大学のMichael M. Maharbiz教授でした。

自身の研究室で“昆虫ドローン”の研究に取り組むことになったいきさつを話す佐藤氏

―― ミシガン大学でのポスドク生活はどのようなものだったのしょうか。

ミシガン大学へは2007年1月から赴任しましたが、早々に難題を突き付けられました。それは、同じ年の10月までに、昆虫を飛び立たせる条件を見つけ出すというものでした。

「それまで成功例のないことを10カ月でか……」と思ったのを覚えています。結果を出さなければ研究費は切られて日本に帰らないといけないことになりますから。

ただ、誰も成し遂げたことのないことに挑戦するのは、楽しみでもありますね。今だからこそ笑って振り返られることではありますが(笑)。

最初にぶち当たった壁は、昆虫学を専門に学んだことがなく、昆虫の解剖方法が分からなかったということです。この研究は、昆虫の神経系に電気信号を送り、筋肉を刺激して、飛行を制御するというものなので、昆虫の神経系や筋肉に関する知識が必須です。

また、私がいたミシガン州は、厳寒の冬の真っ最中で昆虫がほとんどいない状況でした。そんな中、Maharbiz教授から、「ペットショップでトカゲの餌として入手できるゴミムシダマシという昆虫を飛ばしてみろ」という課題を与えられました。

これでいろいろと実験できると意気揚々臨んだものの、大きな問題が見つかりました。ゴミムシダマシは飛ばない昆虫なのです。途方に暮れたこともありましたね。

悲観するなと自分を戒め、まずはゴミムシダマシを相棒に昆虫の神経・筋肉の構造を理解しようとしました。が、解剖の仕方が分からない。そして、研究室にも周りにも昆虫専門家がいない。

もしかしたらミシガン大学のどこかにいたかも知れませんね、しかし、手取り足取り教わるほど英語も達者でない。10月までの残り時間を考えると、自分の英語の上達を待つよりも、まずは昆虫の解剖を学ぼうと、赴任早々ながら2週間の休暇をもらい、日本に一時舞い戻り、昆虫学の第一人者の方々の教えを請いました。

事情をお話しし東京大学の神埼亮平教授や長崎大学の岡田二郎教授が大変親切に迎え入れて下さり、昆虫の飛行実験や神経・筋肉の解剖方法について多くを教えて頂きました。感謝に絶えません。

修業の後、ミシガン大学に戻り、さて、次は……飛ばすための虫がいない。飛べないゴミムシダマシ、彼らを飛べるように導くか、彼らの突然変異を待つか、他の昆虫を探し当てるか。

けれど、厳寒の冬のミシガンで飛ぶほど元気な昆虫を見つけることは至難のことでしょう。昆虫図鑑を読みまわす私に、とある学生が、一言、「自分の故郷アーカンソー州では夏になるとflower beetleがブンブン飛んでるよ」と!

Flower beetleはカナブンです。日本人に馴染みのある緑色のカナブンの兄弟が、米国にも生息していることを知りました。幼いころ、人気者のカブトムシ、ノコギリクワガタに押されて脇役ですらなかったカナブン。この時、私の中で、今最も会いたい昆虫に躍り出ました。

さて、どうやってカナブンを入手するか。調べると、米国ではカナブンは農作物を食い荒らす害虫として農園で忌嫌われているとか。そこで、オンラインのガーデンニング・フォーラムに入会し、「カナブン1匹5ドルで買います」と投稿したのです。

が、「こんな害虫を5ドルで買うなんて、詐欺に違いない。みんな騙されるな」といったコメントが乱立し、炎上しました。そこで丁寧に熱心に事情を説明し、害虫被害に困っている農園の方々からカナブンを譲ってもらう約束を取り付けました。

初めてこのアメリカ産カナブンと出会った時のことは忘れません。段ボール箱から聞こえてくる「早く開けろ、早く出せ」と言わんばかりに飛んでいるカナブン達の羽音を聞いたとき、ゴミムシダマシとお別れの時がきたと悟りました。

解剖実験、飛行実験の手法、そして飛ぶ気満々の昆虫カナブン。研究環境は整いました。カナブンは、子供の時の昆虫採集を通じてある程度生態を把握していたことも、その後の研究に役立ったと思います。

「超領域」での試行錯誤の末、意外な発見が相次いだ

研究のことになると話が止まらなくなる

―― 研究を進めて行く中、どのような発見があったのですか?

まず、研究の大テーマである「どうやって飛ばすのか」という課題を解決したことが印象に残っています。目の神経を刺激すると飛び立つということを見出しました。

ある時、カナブンが飛行している最中に研究室の照明を消すと、カナブンが墜落したのです。そして照明をつけると、またその照明に向かって飛び立つのです。音でも匂いでもなく光がカナブンの「飛ぶ気」に作用していることを明示していますね。

そして、視覚神経を刺激すれば飛び立つのでは、という仮説を立て、実験したところ、見事にうまく行きました。

こうして、飛行を開始させる方法が分かりました。そして、飛行中のコントロールをどのようにするのか、特に左右の旋回をどのように行うのか、という課題に取り組みました。

試行錯誤をする中で、面白い発見がありました。カナブン・カブトムシ(甲虫)の翅の筋肉は10対ほどありますが、その中で「Wing Folding Muscle」と呼ばれるものがあります。その名が示す通り、翅を折り畳むための筋肉で、発見された18世紀以来ずっと折り畳み機能だけをもっていると考えられてきました。けれど、この研究の中で、この筋肉は、飛行中の旋回に使われているということが分かったのです。

昆虫の筋肉を分析している時に、Wing Folding Muscleを見て、折りたたむためだけにしてはやけに発達しているな、と疑問に思ったことがきっかけとなり、この発見につながりました。

飛行を制御するという研究の目的にも見合う発見だったので、これを発見した時の喜びは今でも忘れません。

そして幸運だったのは、研究対象がカナブンやカブトムシという甲虫だったことです。甲虫は自分の体重の30%の重さの荷物を載せて飛ぶことのできる力を持っています。そして、我々のカナブンは3グラムのものを載せて飛ぶことができ、飛行制御用マイクロプロセッサ(約1.3グラム)は難なく載せることができます。

佐藤氏の働きかけでNTU内に特別設置された昆虫の飛行試験場

当時は私が所属していたミシガン大学のほか、コーネル大学、MITもこのテーマに取り組んでいました。コーネル大学、MITともに蛾を飛ばそうと研究を行っていました。ただ、蛾は非力で、マイクロプロセッサを載せることが難しかったようです。

―― 今後はどのように研究を進める計画ですか。

現在飛行をある程度まで制御できるようになりましたが、急旋回やホバリングなどはまだ実現が難しいですね。この課題を解決するために、制御方法をオープンループコントロールからフィードバックコントロールにシフトする研究を行っています。

オープンループコントロールでは、昆虫の飛行経路に無関係に電気刺激が行われます。昆虫が直線飛行しているのか、それともすでに左右どちらかに旋回中なのか、現在の飛行状況を加味せずに闇雲に電気刺激を行うために、精度の高い制御を達成することはできません。

これに対し、フィードバックコントロールでは、昆虫の飛行位置、速度、加速度を検知して、その情報を加味した電気刺激を行います。例えば、直線飛行しているなら中程度の刺激、実験者の意図と同じ方向に旋回しているならば刺激はしない、真逆の方向に旋回しているなら強い刺激をする、という具合です。

強い刺激を与えるにしても、電気信号が強すぎると筋肉を損傷するので、微妙なバランスが必要になります。これが今後の研究課題です。

基本的には、昆虫が自由に飛んでいるところに「ちょっとした指示」を与え、望む方向に誘導するだけなので、昆虫自身は自由に動けます。

―― 化学、昆虫学、電気化学、電子工学の知識を動員して可能となった昆虫ドローン。一つの領域にとどまらず、超領域で知識・技術を繋ぎ合わせることがイノベーションにつながった一つの例ではないでしょうか。今後の展開にも目が離せません。本日はありがとうございました。

※佐藤氏の研究をより詳細に知るための参考文献と映像:[文献]Sato, Hirotaka et al. Current Biology , Volume 25 , Issue 6 , 798 – 803,

取材・文・撮影/細谷 元(Noriyuki Oka Singapore) 記事中のYouTube出典/UC Berkeley Campus Lifeチャンネル




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