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ホンダF1復帰決定で期待するのは、「強いHonda」の復活以上に「強い現場」の復活だ【連載:世良耕太】

タグ : F1, エンジン, ホンダ, マクラーレン 公開

 
F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー5』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

F1復帰を前提にホンダの狙いを読んだのが2カ月前のことだったが(下記リンク参照)、ついに正式発表された。5月19日、本田技研工業は“緊急記者会見”を開き、かつての僚友マクラーレンとのジョイントプロジェクトとして、2015年からF1に参戦すると発表した。

 「ホンダF1復帰」の狙いについての過去記事と、過去の参戦歴はコチラ

ホンダはエンジンおよびエネルギー回生システムを開発・製造・供給する一方、マクラーレンは車体の開発・製造およびチーム運営を担当する。

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From Honda
2015年からの“再タッグ”を発表したマクラーレンのウィットマーシュCEO(写真左)とホンダの伊東孝紳社長(写真右)

2000年~2008年の第3期F1参戦では、ホンダはエンジンの開発だけでなく、車体開発やチーム運営にまで手を広げた。だが、「満足のいく結果を得られないまま、やむを得ず撤退に踏み切った」(伊東孝紳・本田技研工業代表取締役社長)経緯がある。

ホンダとしては、エンジンの開発に強みを持っていることは自負していた。だから、次のステップとして車体開発領域の技術を強くしようとした。自動車を開発・製造するメーカーとしては当然の欲求だったろう(ホンダを自動車メーカーとはあえて呼ばない。バイクや耕運機、家庭用コージェネユニットに加え、ビジネスジェットも開発・製造しているので)。

非常にポジティブな行動ではあったが、F1グランプリという戦場で全体をマネジメントするのは予想以上に大変で、満足のいく結果に結び付けることはできなかった。

結果が伴わなかっただけで「劣った技術」と評するのは軽率だ

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撮影:世良耕太
復帰会見と合わせて公開されていた、ホンダ歴代のF1カー

ホンダが考える「結果」とは「勝利」である。それも1回や2回ではなく、常勝を求めている。「ホンダは創業以来、レースに参戦し、勝利することで成長してきた企業です」と、伊東社長は明言する。勝ち続けることが重要なのだ。

マクラーレンとはかつて、1988年から1992年までパートナーを組んだ。この間、80戦に参戦し、ポールポジション53回、優勝44回を記録。コンストラクターズチャンピオンを4回獲得した。アイルトン・セナとアラン・プロストを擁した1988年は、16戦15勝の圧倒的な強さでシーズンを制した。

ホンダが2015年からの参戦でイメージする「勝利」とは、第2期F1参戦活動で見せた、圧倒的な強さで手に入れる「勝利」である。

だが、ここで疑問が湧く。チームを勝利に導く技術は優秀には違いないが、勝利に結び付かなかった技術は、結果が伴わなかっただけで「劣った技術」と評価してしまっていいのだろうかと。

レースは水ものだ。技術は優れていても、オペレーションや不可抗力によって勝利を逃すこともある。結果的に2位に終わろうとも、1位を目指して開発した技術や、その技術を開発するに至るまでのプロセスは、会社やエンジニアの血となり肉となって、のちの開発に生きるのではないか。

投じたエネルギーは決して無駄にはならないはずだ。

失敗と言われた「第3期参戦」の裏で進んでいた、エンジン性能の向上

それでも、レースに出るからには勝たなければならないのである。それが、ホンダという会社の風土なのだろう。2年前になるが、第3期参戦でエンジン開発に携わったエンジニアは、参戦活動を総括してこう言った。

「2000年から2008年まで、ホンダは第3期F1に参戦しましたが、1勝153敗という結果でした。(わたしたちは)F1エンジンに求められる価値を高めて進化させましたが、残念ながら冷徹な結果です」

153敗が我慢ならないのだ。

付け加えておくが、この間、ホンダはエンジンの性能を飛躍的に向上させている。1995年のエンジンを基準にすれば、2005年のエンジンは同じ重量ならば出力を2倍出すことができたし、出力が同じならば、重量は半分で済ませることができた。

もっと付け加えると、第2期参戦(1983年~1992年)終盤の3.5L・V10エンジンの重量は160kg前後だったが、3L・V10を開発していた第3期の終盤は88.6kgまで軽量化されていた。

2.4L・V8に切り替わった2006年以降は最低重量を95kgとする規定がレギュレーションに盛り込まれたため、軽量化に歯止めがかかった。だが、規則による縛りがなかったとしたら、「78kgで作れただろう」と、くだんのエンジニアは説明した。「これがF1エンジンの進化のスピード」なのだと。

その進化のスピードを第4期参戦では、直噴ターボエンジンと、運動エネルギー回生システムおよび熱エネルギー回生システムの2種のハイブリッドシステムに求めることになる。

若い技術者が「最後は執念」の世界で学ぶことのメリット

技術を進化させる際に重要なのは、人の真似ではなく、独自技術で取り組むことだと、くだんのエンジニアは力説する。その彼は、自らの経験から、F1参戦の要諦を次のようにまとめた。

・ 先んずることで優位に
・ 技術者としてやりたいことを実現させる
・ 見聞きした技術はそのまま使わない(真理を理解し、独自に消化しないと使えない)
・ 最後は執念

伊東社長は記者会見でこんなことを言った。

「F1の新たな技術の方向性とホンダが目指す開発の方向性が合致していく中で、将来のホンダを担う若い技術者からも“F1に挑戦したい”という声が挙がるようになってきました。

世界中の自動車メーカーが熾烈な競争を繰り広げる中、ホンダが勝ち残っていくためには、これからも卓越した技術進化を続けていかなければなりません。そのためには若い技術者が自らの技術を世界で試し、磨く場が必要です。今のF1はそれを実現するのに最適な場であると考えました」

honda_senna

From Honda
圧倒的な強さを誇った「セナ時代」の再来を望むF1ファンも多いが、今回のホンダ復帰を異なる視点で見ると…

かつての実績を頼りにベテランや中堅が「F1に行こうぜ」と熱くなったところで、若手が面倒くさそうな態度をしていては意味がない。第2期参戦のころは会社自体が若かったこともあり、全社一丸の活気にあふれていたという。

各部署の優秀なエンジニアは本人や上司に有無を言わせることなく、F1に引っ張られていった。それを許すムードが社内にあった。

会社として成熟したころに参戦した第3期は、業務の一環という意識でF1プロジェクトに携わった若手もいたようだ。業務の一環だから、勝ち負けに感情が左右されることはない。負けて悔しがるよりもむしろ、早く平穏な業務に戻れることを希望した。

それが成熟した企業と21世紀の若手エンジニア像かと思いきや、「勝ち残るためにF1に挑戦したい」と申し出る若手がいるのだという。ひらめきでも理詰めでもなく、「最後は執念」が必要な世界に自ら飛び込もうとしているのだ。ホンダのパワー、恐るべし、であり、楽しみである。




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