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元『ぐるなび』のエンジニア起業家が語る、若手が「フルスタック」を目指すべきじゃない理由

タグ : INTHEFOREST, ぐるなび, キャリア, ビッグデータ, フルスタックエンジニア 公開

 

SEやWebサービス開発者の理想の姿として、フロント~バックエンド開発からインフラ構築まで一通りこなすことのできる「フルスタックエンジニア」が脚光を集めている。米国IT企業の求人で使われ出したこの言葉は、近年の日本でバズワード化。その実現可能性をめぐって、さまざまな議論が繰り広げられるようになった。

そんな中、主にデータベース/ビッグデータ解析基盤の開発とコンサルティングを提供するITベンチャーINTHEFORESTで代表取締役社長を務めている冨田和孝氏は、「若いエンジニアがフルスタックエンジニアを目指すのはお勧めできない」と語る。

その理由は、自身の過去の経験から、「地獄を見る思いをするから」だと言う。

「とんでもない修羅場」でもつぶれないことがフルスタックへの道!?

冨田氏は、2000年を前後して起こったITバブル期に、ある受託開発会社でシステム開発案件に携わった後、2005年からグルメ情報検索サイト『ぐるなび』に移ってWebシステムDBAとして活躍。その後アーリーステージのベンチャー勤務を経て、2009年に起業したエンジニア社長だ。

10名弱の小規模な組織で経営者兼エンジニアとして仕事をする冨田氏は、文字通り「フルスタック」な存在である。

データベース構築やCassandraの導入コンサルティングをメインにしつつも、JavaScriptでグラフィカルな画面開発をするような案件やFuelPHPでのミドルウエア構築、OpenStackを使ったクラウド基盤構築etc……と幅広い内容の案件をこなしてきた。

なぜここまで守備範囲が広くなったのかといえば、最初に勤めた受託開発企業で「とんでもない経験をしてきたから」だと言う。

「私は文系出身で、エンジニアとしての基礎がまったくない状態でこの業界に入りました。なのに、配属2週間後にPerlでのアプリ開発案件を任されたり、書いたこともないC言語でバッチファイルを作らされたりと、ロクな教育も受けないまま『とにかくやれ』と言われながら新人時代を過ごしました」

失敗をしたら、即会社に損害を与えてしまうような「修羅場体験」(冨田氏)を数多く経験することで、いつの間にか技術領域を問わず開発できるようになっていった冨田氏。

「詳細は控えますが、孫請けの立場ながら発注元とのトラブル解決を任されたり、障害発生時にグループリーダーが行方不明になったりと、過酷な現場ばかり担当してきました。当時、そこで生き残れるのは『10人に1人』と言われていましたから、そんな環境でなければフルスタックになれないのなら、若手は目指すべきじゃないと断言できるんです」

ブラック企業の象徴のような職場だったわけだが、二次請け、孫請けの開発現場では今も似たようなシチュエーションがあるだろう。冨田氏はこういった現状を少しでも変えるべく、INTHEFORESTを起業した。

「エンジニアは労働時間ではなく技術と成果物で評価されるべきだし、同じアプリケーションを作る場合は2時間で作る人より10分で作る人の方が優秀なはずです。そういう違いをしっかり評価できる会社を作りたかったんです」

冨田氏が考える「案件を着実にこなしながら成長していく人の条件」

日本で『Cassandra Conference in Tokyo 2012』を開催するなど、Cassandraの専門家として知られる冨田氏

他にも、INTHEFORESTでは社員の意思を尊重して受託案件を獲得してくるなど、エンジニア第一の経営方針を貫いている。最近は、iPhoneアプリの企画・開発に携わりたいという女性エンジニアの意思を汲んで、主力事業であるデータベース領域以外にフロントエンドの開発案件を引っ張ってきたりもしている。

ただし、冨田氏がこういった受注を決める際には、担当エンジニアの資質も見ていると言う。自身の体験から、案件を着実にこなしながら成長していくエンジニアの条件として2つのポイントを重んじているからだ。

1つは負けず嫌いであること。もう1つは、知的探求心を持って開発に取り組める人かどうかだそう。

「エンジニアとして成長していくには、まず何かしらの領域をとことん深めることが大事。私がフルスタックを目指さなくてもいいと断言するのは、その前に特定領域を究めるべきだと考えているからです」

冨田氏はぐるなびでDBAをやるようになって以来、データベースエンジニアとしての技量と知識では誰にも負けたくないというモチベーションで仕事をしてきた。それでも、「技術の世界には絶対に勝てないと思わされるような天才がいるものだ」と振り返る。彼の場合、学生時代から知っている年下の“師匠”に、何度も「こんな魔法使いには勝てない」と思わされたそうだ。

「そういうエンジニアを見てなお、負けたくないと思える気持ちがなければ、成長ってできないと思うんですね」

そして、特定の領域を究めようとすればするほど、他の技術領域やビジネス要件にも興味を持つようになっていくと話す。

「例えば本気でフロントエンドの開発をやっている人なら、『そもそもなぜアプリが動くのか?』、『より良いパフォーマンスを出すにはサーバサイドについても知らなければならない』などと考えるようになるはずです。その繰り返しでしか知識は増えないと思っているので、若いうちからフルスタックを目指すより、特定分野にのめり込むことの方が大切だと考えています」

ビジネスロジックを理解することも生き残りへの道になる

エンジニアの生きる道は、「自分の軸を決めること」以外にもう一つの要素が大切だと力説する

「これは私自身の反省でもあるんですが、フロントからバックエンドまで、しかもかなりの経験があると説明しても、発注側の方々は『じゃあ君はどの領域でどんな業務ができるの?』となってしまうものなんです(笑)。何でも屋というのは、『何もできない人』になってしまうリスクもあるということです」

冨田氏が、なぜ特定領域を究めることを重要視しているのかが理解できる言葉だ。その上で、INTHEFORESTでは若手エンジニアがアーティストのように開発にのめり込むことのできる環境づくりをしていきたいと話す。

「ただ、開発がアートに近い側面を持っている以上、システムやサービスをきちんと機能させるには自分の専門外の人たちとも意思疎通ができるようにならなければダメだとも考えています。経営者がエンジニアリングをマスターするのは無理でも、エンジニアがビジネスや経営を覚えるのは可能ですから。当社の社員には、技術的な要素を組織やサービスに浸透させるにはビジネスロジックも理解しなければならないと常に説いています」

これは、クライアントと共にサービス企画からやっていけるエンジニアが増えれば、「どんな内容の案件が来ても対応できるようになる」(冨田氏)という経験則があっての発言だろう。

エンジニア1人1人が万能になる必要はないが、組織としては技術面からビジネスまで多様な強みを持つエンジニアを育成していく必要があるというのが、「フルスタック」にまつわる議論の答えのようだ。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/小林 正




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