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「月に人が行くために、民間の尖った技術が必要」JAXAかぐや2研究リーダーが語る、宇宙開発のジレンマと希望

タグ : JAXA, かぐや2, はやぶさ2, 宇宙開発 公開

 

2014年は宇宙開発に関する話題が豊富だ。アメリカでは、イーロン・マスクがCEOを務めるスペースXが4月に再利用ロケットの打ち上げと洋上着水を成功。日本では、若田光一宇宙飛行士がISS初の日本人船長としての役目を終え、無事地球に帰還するという、すばらしいニュースがあった。

自国の宇宙開発にフォーカスを当てると、『はやぶさ』の感動的な帰還から4年を経て、11月30日には、その後継機である『はやぶさ2』の打ち上げが控えている。

はやぶさによる小惑星の探査においては、世界的な評価も高い日本。一方で、月の探査については遅れを取っているのも事実。この分野では、中国は探査機『嫦娥五号試験機』が38年ぶりに月の周回軌道を経て、地球への帰還を成功させるなど、世界をリードしている。

日本の宇宙開発、特に月面探査は今、どのような局面を迎えているのか? そして、アメリカのように民間による参入余地はあるのか?

JAXAの月・惑星探査プログラムグループの要の1人として、宇宙開発の最前線に関わり続ける橋本樹明氏に聞いた。

宇宙開発が市民権を得たからこそのジレンマ

JAXAは2003年に、宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)が統合され作られた

橋本氏は、制御工学を専攻し、1990年に宇宙科学研究所に入所後は天文観測の衛星の制御系などを担当。

はやぶさの開発に携わるとともに、2000年ごろから月面への着陸技術の開発を始め、現在は『SELENE-2』(かぐやの後継機)の研究リーダーと宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系の研究主幹を兼任、という経歴の持ち主である。

長年、日本の宇宙開発に関わってきた橋本氏だが、最近は開発環境にある変化が起きていると語る。

「はやぶさやかぐやの開発時は、研究者が主導となり、ボトムアップ形式でどのような研究、技術開発を行えばいいかを決定していました。しかし、今は政府による事業への指導が細かく入るようになり、当時ほど主導権を握れなくなっています」

こうした環境の変化は、直接、現在、日本の宇宙開発が抱える課題にもつながる。その課題について、「どこの企業も、同じ悩みを抱えていると思いますが」という前置きでこう話す。

「宇宙開発で今、一番難しいのは予算の獲得。現場と、予算権を持つ側が必要だと思う技術にズレがあり、なかなか思うような開発ができません。その差を修正するために資料を作り、会議を開き……といったことに現場レベルの研究員までも時間を取られ、本来の業務である開発に集中できないのは事実です」

一方、こうした議論が起こるのは、宇宙開発に興味を持つ人が増えた結果でもあると分析する橋本氏。だからこその、ジレンマはあるようだ。

「一般の人にも宇宙開発が分かりやすくなり、議論がしやすくなった結果でもあります。先ほど述べた、研究者主導の時代は、言い換えれば宇宙開発は専門家に任せておけ、という姿勢の表れでもありましたから。その分、説得に掛かる時間は増えたのですが。さらに前進するためには、必要なことなのかもしれませんね」

従業員50人の会社が『はやぶさ』に貢献

予算獲得の難しさは日本だけではない。

アメリカのNASAも自らの開発費だけでは間に合わないため、積極的に民間企業の支援を行い、その結果が冒頭に説明したスペースX社の成功にもつながっている。

Googleが主催する、民間による月面無人探査を競う『Google Lunar X Prize』に参加中のHAKUTO

日本でも、ハクトやなつのロケット団など、民間企業ながら宇宙開発に挑戦する事例も出てきている。しかし、依然としてハードルが高いのも事実だ。

「スペースX社の事例は、莫大な資産を持っているからこそできること。日本の大企業でも宇宙開発への参入余地がある企業は少ないし、新しく一歩踏み出すには相当な時間が掛かるはず。じゃあ誰にもチャンスがないかと言えば、そうでもない。尖った技術を持っている機動力のある中小企業や、スタートアップならチャンスはあります」

事実、はやぶさの開発においては、民間企業の技術力に大きく頼ったという。そうした企業には従業員が50人程の中小企業も含まれた。

「ターゲットマーカーの反射シートをお願いした八欧産業は、従業員50人の企業です。優れた技術を持つ企業を、はやぶさの開発スタッフは全国行脚をして探しました。これからも民間企業の優れた技術を積極的に取り入れるつもりです」

はやぶさの開発に携わった民間企業は、ほとんどの企業はハードウエア系の企業だ。ソフトウエア系の民間企業には参入の余地はないのか、聞いてみた。

「今は、宇宙ステーションにもインターネットがあって、タブレット端末なども普通に使えるんです。宇宙ステーションに限って言えば、地球の環境に近付いてきている。地球のソフトウエア開発の知識を、宇宙で活かせる場合も出てくるはず。まだ先かもしれませんが、今後はソフトウエア的な観点も大切になってくるでしょうね」

ホットな宇宙開発関連技術は、画像認識とロボット

では、どういった技術が今後の宇宙開発に必要になってくるのだろうか? 日本の宇宙開発における、ネクストステップを橋本氏はこう語る。

積極的な宇宙開発を行うスペースX。9月にボーイングとともにNASAから『宇宙タクシー』の開発を受注した

「まずは、月面への着陸ミッションが第一目標。着陸技術については、現在画像認識による地形判断技術を開発中です。岩や影をマッチングして、着陸できる地形かどうか判断する技術。これは、デジカメの顔認証技術の延長線上にあるものです」

実は、かぐやの1号機の際にも着陸ミッションを想定していたらしいが、ただ単に着陸するだけでは価値がないと、先送りになった過去がある。SELENE-2では、この経験から着陸後のミッションに関しても計画している。

「着陸が成功したら、次は探査。探査用のロボットについては、さまざまな議論が行われています。一時期は2足歩行がいいと言われていましたが、月面上での運用を考えるとローバーの方が圧倒的に使いやすい。2010年ころから、東京工業大学の広瀬茂雄先生が、変形ロボットを提案しています。この分野でも、民間の方の発想などが活かされる可能性はありますね」

長期探査を計画しているために、110℃にもなる月面の過酷な環境に耐えられる、冷却装置なども必要になってくるという。

最後に、月の探査には、2つの大きな意義があると橋本氏。

「1つは、地球の成り立ちについて知ることができる科学的な意義。月は、地球に巨大隕石がぶつかり、分離してできた、ジャイアントインパクト説があります。もし、それが本当だとすると、地球の隣にずっといて、同じ隕石が衝突している可能性がある。もし、生命の起源が隕石に付着した微生物から由来しているとしたら、その痕跡が見つかるかもしれない。原始の地球を知ることができる重要な科学的ターゲットなんです」

2つ目の意義は、日本だけでなく、世界が協同して目標の1つに挙げている、火星への有人探査に関わる。

「火星への有人探査を目指す場合、月面基地が重要になってきます。例えば、火星までにかかると言われている2年間、宇宙空間にいた場合の放射線の影響などの実験の場として。また、飛行士の一時的な滞在場所や燃料補給の場所としても使用できる。そのために、まずは、月を徹底的に調べる必要があるのです」

民間企業であっても、宇宙開発への参入余地は残されている。宇宙に少しでも興味のある人は、自分でも何かできるかもしれない、という視点で宇宙開発を見てみると、意外なチャンスが転がっているかもしれない。

取材・文/長瀬光弘(東京ピストル




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