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「IoTもウエアラブルも、たぶんネットと同じ」pixiv片桐孝憲氏が考える“良いサービス”の普遍的定義【特集:New Order】

タグ : IoT, Nest, pixiv, ウエアラブル, クリエイティブ, ネット業界, メイカームーブメント, 片桐孝憲 公開

 
ピクシブ株式会社 代表取締役社長
片桐孝憲氏
1982年静岡県生まれ。1000万(2014年3月末時点)ものユーザー数を誇るイラストコミュニケーションサービス『pixiv』生みの親。2005年にWebシステム開発会社を起業しており、『pixiv』はその後の2007年にリリース。インターネット上でクリエイターが作品を発表できる場として、国内外で熱狂的な支持を得ている

2007年にスタートし、ネットとクリエイターの融合という点でパイオニア的存在となった、イラストコミュニケーションサービスの『pixiv』。

それまでは本や雑誌といった“閉じた世界”で表現されていたクリエイティブ物を、ネット上のプラットフォームで誰もが世に広められるように敷居を下げたことで、万人がクリエイティブ・スターになれるチャンスを得られるようになった。

1000万という国内では屈指のユーザー数を誇るサービスを育ててきた代表の片桐孝憲氏は、IoT(モノのインターネット)という新たなキーワードが注目され始めている中、リアルとネットが今まで以上に融合していく世の時流をどう見ているのか。

「融合」の先にある世界を聞く。

「実は今、オフィス空調のIoTサービスを真剣に考えています」

―― 今は、モノとネットが融合することで新しい価値観が生まれようとしている時代です。クリエイターとネットの関係を変えた片桐さんは、これからネットの世界がどう変わっていくとお考えですか?

いきなり難しい話題ですね。どうなるんだろうなぁ、僕も分からない(笑)。

ただ、IoTについては、最近ちょっと思うところがあって。実は今、オフィスの空調に関するIoTサービスを作ってみたいなと真剣に考えているんですよ。自動で室内の温度を一定に保てるような装置。欲しくないですか!?

ピクシブにインターンに来てくれる学生たちにも、「ネットを使ってオフィスの温度を常に快適なものにするにはどうすればいいと思う?」なんて話しながら、一緒に考えている最中です。

pixivは色鮮やかなオフィスとなっているが、これも片桐氏が「職場空間の居心地の良さ」にこだわっているため

―― ピクシブさんが空調管理をやり出したら、ものすごく意外ですね。いつからそう考えるように?

真剣に考え始めたのはつい2、3カ月くらい前。それまでは、最近のIoTやウエアラブルのトレンドには、超が付くほど懐疑的でした。

だって、今、話題になっているモノにいきなり飛びつくのって、怖くないですか? また裏切られたら嫌だ(笑)。

―― 「また裏切られる」とは?

もともと僕はガジェットが大好きで、昔はいろんなモノを買い漁っていたんです。うちのオフィスにも、アメリカで生まれた“執事ロボット”が置いてありますよ。100万円ちょっとも出して買ったんです。

でもそのロボット、いちいち動く音がうるさくって、社員にはものすごく不評だった(笑)。ほかのガジェットも、物珍しさから買ってはみるものの、不便だったり生活に不必要なプロダクトが多くて、結局使わなくなる。だから、ここ数年は、ちょっとしたガジェット不信になっていたんですよ。

今ではみんなが当たり前に持つようになったスマホですら、僕の場合iPhoneだけを持つようになったのは5sから。それまではガラケーとiPhone、両方を使っていました。

iPhoneが初めて出た時、「タッチパネル搭載、3G回線でネットもできて便利になる」ってみんなが言ってましたけど、「絶対ウソだ!」、「便利なはずがない」と思ってましたもん(笑)。特に初期のiPhoneは動作が重かったし、ネット環境も今ほど整ってなかったから、Webの閲覧スピードも遅かったですしね。

ウエアラブルコンピュータにしても、例えば 『Google Glass』 もちょっとだけ試してみましたけど、5年後くらいにならないと、まともに使われないんじゃないかなと思っています。

―― そんな「裏切られ続けた歴史」があるのに、なぜオフィス空調のIoTには興味を持つように?

ちょっと前に、Googleが『Nest』を買収したってニュースがあったじゃないですか。あれを見た時、最初は「また意味の分からんガジェットが出た」って感じだったんですけど、よくよく考えると、僕も

「職場の空調って夏は寒過ぎるし、冬は暑過ぎるのはナゼなんだ!?」

「これだけ技術が発達した時代に、何で寒いとか暑いとかで悩まなきゃいけないんだ!?」

って思ってたなーと気付きまして。だったら、Nestみたいなデバイスをネットにつないで、データを溜めて学習させて、室内温度を管理すればいいんじゃんって思ったんですよ。

良いIoTサービスとは、身近な問題を解決できるもの

Googleの買収で一躍有名になった、温度調節機などのスマートホーム製品を手掛けるNest

―― 身近な課題を解決するという点に、興味を持ったんですね。

そうですね。Nestを知って、自分のいる環境のおかしさに改めて気付いたっていうか。肩こりを知ったせいで、肩こりになるみたいな。室温を一定に保つ仕組み、っていう概念が、そもそもなかった。

それにここ最近、僕の中では職場環境を良くする方法を考えるのがマイブームでして。どうすればよくなるのか? って悩みは、ずっと持っていました。それもあって、身近なところでまだまだ解決すべき問題はいっぱいあるんだと気付いたんです。

―― 片桐さんの中で、「作りたい」と思えるようなIoTサービスと、「いらない」と思ってしまうガジェットやサービスの差はどこに?

簡単な話で、身の回りの生活で必要か、必要じゃないかだと思います。

よく、「新しい技術を使って今までにないガジェットを作りました」って出てくるけど、自分の生活に必要なかったら、結局使われないんですよ。逆に、身近な問題を解決するために存在しているものは、自然と必要になってくるし、多くの人が使ってくれるでしょうからね。

pixiv成長の理由は、「6年半泥臭く改善を続けられた」から

―― なるほど。では、2007年にpixivを立ち上げた時は、多くの人に使ってもらえる確信があったのですか?

規模という意味では、大きくなるとは思っていましたね。ただ、最初に想定していたユーザー数は、2000人とかそういうレベルの話だったんです。

それが、立ち上げて間もなく「ピクシブたんを描こう」っていう企画がユーザーから自然発生的に出てきたのを見て、面白いし、「これはもっと大きなサービスになるんじゃないか」と確信を持ちました。

―― ネットのサービスで「大きくなる」のに必要なことは何だとお考えですか?

pixiv運営の経験から、「ネットサービスという商売」におけるシンプルな成功法則を語る

2つの指標があって、1つは単純にユーザー数です。

ネットのサービスはユーザー数がいればいるほど、収益化のチャンスが広がる。逆に言うと、ユーザー数が少ないと、どんなに面白くっても商売としてはどうにもならないんです。

もう1つの指標は、そのサービスによって問題が解決される人が増えるということ。pixivは、今まで本とか雑誌などに限定されていた絵描きさんたちの作品発表の場所を、ネット上にオープン化することで、注目を集めるチャンスを増やしました。

出版社やゲーム会社など、さまざまな企業とタイアップしたイラストコンテストなどの取り組みの甲斐もあって、pixivは今やクリエイターが1日でスターになれるプラットフォームになっています。

ユーザー数の増加と問題解決。pixivはこの2つを兼ね備えたサービスだったので、「必ず大きくなる」と思ったんです。

―― とはいえ、両方とも、実現するのは口で言うほど簡単ではないことです。

そうですね。自分で言うのも何ですが、もともとpixivはプロダクト自体よくできていたし、ネーミングも良かった。ただ、人気に火が点くかどうかは偶然性もあって。

よく、成功したサービスの創り手のことを「先見の明があった」なんて話す人がいますけど、あれってほとんど嘘ですよ(笑)。商売をしていく上で、先見性なんてなくていい。未来がどうなっていくかなんて、みんなが考えている通りだと思うんですよ。「モバイルインターネットが来る」ってことだって、2000年代からみんながそう思ってたわけじゃないですか。

だからpixivは、タイミングに恵まれていたという点が大きいんじゃないかと思っています(笑)。

2007年、pixivが生まれた当時は、「ネットを創作の場にするユーザーが増え始めた黎明期だった」と話す

pixivを出す10日前の2007年8月に『初音ミク』が発売されて、『ニコニコ動画』がその年末から翌年にかけてバズり始めていた。ネットで自分の作品を出すという気運そのものが高まった良い時期だったんです。pixivも、上手くその流れに乗ることができました。

ただ、一度火が点いてから、その火を絶やさないようにするのは本当に大変でした。ネット上での人気って、リアルな場の商売よりもずっと旬が短いですから、もう、文字通り必死でしたよ。

サービスが人気になる機会は、お金をつぎ込んでも舞い込んでくるものじゃない。だから、偶然チャンスをつかんだ後は、地道なクオリティアップ、改善、グロースハックをそれこそ必死に繰り返しました。今のpixivがあるのは、それを6年半続けたからこそなんです。

これってたぶん、IoTのサービスが流行るか、廃れるかも同じだと思うんですよね。時流から考えれば、IoTもウエアラブルも、絶対に流行りますよ。スマホだって、最初は懐疑的な人が多かったし、僕自身もそうだったのに、今ではみんなが使っているわけですし。

とはいえ、バージョン1.0を出して終わりではなく、長い期間をかけてバージョンアップし続けられるモノじゃないと、普通の人が使うレベルには達しないと思います。

儲からなくても、やりたくなくても、人気のあることならやり続けられる

―― その「必死に努力する」ことこそが困難なことで、多くの創り手がつまづくところかと思います。なぜ片桐さんはpixivの運営を6年以上続けることができたのですか?

一番大きい理由は、pixivが人気のあるサービスだったってこと。よく、「売れなくても自分がやりたいことをやる」って考えのクリエイターがいますけど、僕はそういうのに興味がないし、信じられない。

人間、多くの場合は「自分がやりたいことじゃなくても、人気があって、人にやって欲しいと言われることならやれる」ってモチベーションの方が強いんじゃないかと。

もちろん、人気のあることと、儲かることは違います。そこを吐き違えている人も中にはいます。それでも、僕としては「人気があっても儲からない」なら、何とか頑張れる。

だから、pixivではリリース直後からそれなりの反響があったというのが大事だったというか。

それから、ユーザーの気持ちが分かることも大きかったですね。僕はもともとデザイナーだったので、クリエイターの持っている承認欲求なり、やりたいことは、だいたい理解できました。だからユーザーにコミットできる。

サービスを改善し続けるモチベーションは、「好きだから」という単純な動機だけでは保てない

――人気があるもの、出そうなものを作るという考え方や、ユーザーの気持ちが分かるという点は、オフィス空調のIoTサービス話にも通じますね。

そう言われてみればそうですね。「必要とされる=人気がある」ですから。

今騒がれているメガネ型ガジェットとか指輪型ガジェットは、今のところ問題解決の幅が狭そうだし、人気もマニア受けっぽいから、僕は興味が湧かないのかも。

それに、すごいプロダクトを技術的に「作ることができる」ようになっても、結局はpixivと一緒で改善し続けないと良いプロダクトにはならないと思うんです。それには創り手自身がすぐ飽きるようじゃダメで、アイデア勝負で一発だけ出したって、良いモノにはならない。

ウエアラブルカメラの『GoPro』だってそうですよね。あれって、いろんな使い方をするユーザーが出てきて、その反響を受けながらすごいスピードで改善していくことで、良い製品になっていった。

だから、IoTもデバイスもネットも、良いサービスの本質っていうのは変わらないんだと思いますよ。

―― IoTの時代になっても、良いモノづくりのやり方は変わらないと。最後に、今年~2016年くらいまでの近未来で、ネットを利用したサービスがどう変わっていくかについて聞かせてください。

まず、PCは使われなくなるでしょうね。一般の人はタブレットとスマホ、PCは業務用コンピュータという棲み分けになっていくと思いますよ。

pixivも、今はPC用の開発からタブレットへのシフトを行っている最中です。PCのUIをスマホに落としこむのは無理があるけど、タブレットになら流用できる部分が多い。いずれにせよ、今後デザインはまた大きく変わっていきます。

それから、PCでは一部のファン受けでとどまっている、『drawr』というサービスを復活させようと思っています。これを作った2008年当時は、“手書きのイラスト版Twitter”を目指してローンチしたんですけど、超人気サービスにはならなかったんですね。

でも、タブレットならば「描く」という行為のハードルがPCブラウザより下がるので、再びdrawrが脚光を浴びるだろうと。今はいろいろと仕込んでます。

―― 敷居が下がることで、できることが増え、何が人気かも変わってくるということですね。

敷居が下がる、ホントそうですね。今騒がれているIoTやメイカームーブメントも、「敷居が下がった」だけなのかもしれないですね。

さっき僕が話した「PCがタブレットに置き換わる」なんて予想と同じで、誰だって分かることなんですよ。僕に先見性があるとかじゃなく、みんなが分かってる。今までも、ソーシャルが来るだの、モバイルの時代が来るだのって、みんな言ってたじゃないですか。

だから僕らは、これからIoTやウエアラブルの時代がやって来ても、ただ流行に乗っかるんじゃなくて、流行の中でキチンと差別化された「良いサービス」を作ることに注力していきたいなと思っています。

そのカギになるのは、ユーザーにコミットして、人気のあるサービスを作り、継続する。これに尽きますよ。

取材・文/長瀬光弘(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴

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