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コブクロ新曲MVの制作秘話を聞きにいったら、油とインクにまみれたMacbookがそこにはあった

タグ : 1→10, コブクロ, ミュージックビデオ, メディアアート, 奇跡, 音楽 公開

 

大きな反響を呼んだSXSW 2015でのPerfumeのパフォーマンスしかり、音楽の世界にさまざまな形でテクノロジーが持ち込まれる例が増えている。

今回紹介するのも、その一例。黒田俊介氏、小渕健太郎氏の2人からなる人気アーティスト、コブクロの最新シングル『奇跡』のミュージックビデオ(MV)に関する話題だ。

まずは以下の動画を見てほしい。

力強く熱唱する2人のバックで、歌の盛り上がりに合わせるように、赤と青に光る粒子が次々と放射されているのが分かるだろうか。実はこの粒子、MV撮影時に測定した2人の心拍を、リアルタイムでスクリーンに投影したものだという。

MV(制作:電通+キラメキ)の冒頭にも登場する仰々しい装置やアプリケーションを制作したのは、インタラクティブスタジオ「ワン・トゥー・テン・デザイン(以下、1→10)」の開発チーム。広告代理店からの「歌に込められた熱量を伝えたい」というリクエストを受けて、それをどのように表現するかというアイデア出しに始まり、開発、撮影時のテクニカルディレクションまでを担当した。

その仕組みを簡単に説明するなら、次のようなものになる。

撮影で使用された水滴発射装置

撮影で使用された水滴発射装置

まず、2人の体に装着した医療用の電極パッドで心拍を測定、それを無線でPCに送信する。PCには独自に開発した水滴発射装置がつながっており、心拍のリズムに合わせて、黒田氏のものは青、小渕氏のものは赤の水滴がそれぞれ発射される。

この水滴が油で満たされた水槽の中を進む様子を撮影し、それを演奏する2人の後ろに設置されたスクリーンにリアルタイムで映し出すというものだ。

プロジェクトは代理店からの発注を受けてから3週間という短期間で進められた。「水滴を用いて心拍を表現する」という方向性が決まり、開発に着手できたのは撮影のわずか10日前。

普段からデジタルサイネージやイベントプロモーションなどの仕事でタイトなスケジュールを経験してきた開発チームにとっても、かつてないスピード感だったという。

しかも、撮影は本番の1度きりで、リハーサルの機会はなし。この難しいミッションを、1→10の開発陣はどのようにして乗り切ったのか。

その裏側を聞いていくと、浮かび上がったポイントは2つ。一つは、先端テクノロジーとはおよそかけ離れた「泥臭い」試行錯誤、もう一つは、幾重にも仕込まれた用意周到な「保険」にあった。

「新しさ」「温かさ」を両立したアナログなアイテム

坪倉氏が提案したソレノイドバルブの活用が「新しさ」と「温かさ」の両立の決め手になった

坪倉氏が提案したソレノイドバルブの活用が「新しさ」と「温かさ」の両立の決め手になった

リアルタイム計測した心拍データを活用して歌に込められた「熱量」を伝えるという方向性はすんなり決まったが、問題はその先にあった。

すべてをデジタルな手法で表現しようとすると、心臓の鼓動を想起させるような「温かさ」は失われてしまう。一方で無数の照明を心拍に合わせて光らせるといった方法はやり尽くされていて「新しさ」がない。

この「温かさ」と「新しさ」をいかに両立するかというのが、開発チームに課せられた最初の難題だった。

不規則に揺らめく水の動きを利用するというアイデアはいかにして生まれたのか。提案したテクニカルディレクターの坪倉輝明氏の念頭には、アイデアを形にする上でカギとなった一つのアイテムの存在があった。

「今回の水滴発射装置では、発射部分の制御にソレノイドバルブと呼ばれる電気信号で開閉する弁を使っています。タンクに充填された赤と青のインクは、コブクロの2人の心拍が発する電気信号によって弁が開閉することで、水槽へと発射される仕組みになっています」(坪倉氏)

日ごろからメディアアーティストとしても活動しているという坪倉氏。デジタル、アナログの区別なく新しい表現方法を探る中で、ソレノイドバルブの可能性に注目し、ひそかに実験を重ねていたことが、今回のプロジェクトで陽の目を見る形となった。

ただしこのソレノイドバルブ、本来は工場のラインなどで使われるものゆえ、一般には市販されていない。

今回は2人分合わせて32個のバルブが必要だったが、業者に注文しても在庫がなく、入手は困難を極めた。でき上がった装置に使われているバルブのサイズが不揃いであることは、タイトなスケジュールの中で素材をかき集めた苦労を物語っている。

最適な油を求めた科学実験の日々

最新テクノロジーも駆使する映像のスペシャリスト赤川氏だが、今回の働きはむしろ「油担当」

最新テクノロジーも駆使する映像のスペシャリスト赤川氏だが、今回の働きはむしろ「油担当」

最終的な「絵作り」を担当したのは、プライベートでもVJなどの活動を行っている映像のスペシャリスト、赤川純一氏だ。

MVの撮影監督と密にコミュニケーションを取りながら行う細かな調整は、作品のクオリティを決める重要なポイント。ただし、今回に限って一番の苦労は別の部分にあったという。

「一番手を掛けたのは、水槽に満たす油です。装置から発射される水は油との比重の差を利用して進んでいくのですが、使う油の種類によって比重や粘度が違うため、水の動きも変わってきます。そのため、撮影までの1週間は最適な水の動きを求めて油と向き合う科学実験の日々でしたね」(赤川氏)

比重が大きすぎると水滴のスピードが出ない。水滴同士の距離が近づき過ぎると、前の水滴の影響を受けてまっすぐ進まない……。朝から晩まで油と向き合い、オフィスの床は黒ずみ、愛用するMacbookも当たり前のように油まみれになっていった。

「菜種油、サラダ油、灯油……さまざまな種類の油を試しました。中には調達するのに苦労したケースもあり、透明さを追求してネットでマッサージオイルを注文した結果、ECのオススメ欄には『使い捨てブリーフ60枚セット』が表示されるように。それでも撮影の日までに間に合わないというので、今度は御徒町のマッサージ店で会員カードを作って、週4で通ったりもしました」

一発勝負の本番で最高の作品を生み出すためには、デジタルな調整の前に、こうした泥臭い、いや油臭い試行錯誤が不可欠だった。

あまりに実験を重ねた結果、撮影前日になってプラスチックのノズルが広がってしまい、使いものにならなくなるという非常事態も。夜を徹して3Dプリンタで製造し直すことで、何とか危機を乗り切った。

1回きりの本番を成功させるための3段階の備え

徳井氏が「電子工作」した心拍測定装置。一発勝負の撮影がうまくいくよう、いくつもの工夫が施されている

徳井氏が「電子工作」した心拍測定装置。一発勝負の撮影がうまくいくよう、いくつもの工夫が施されている

ただ、こうした素材選びや試行錯誤の努力も、一発勝負の本番が失敗に終われば、すべてが水泡に帰してしまう。心拍測定装置の制作を担当した徳井太郎氏は、

【1】なるべく確実性の高い方法を選ぶ
【2】柔軟性を持たせておく
【3】それでもうまくいかなかった時の「保険」を用意する

の3つの方法で本番を成功に導いた。

「心拍は当初、手首に装着したリストバンドから測定する予定でしたが、激しく動くと正確に測定できない可能性があるし、演奏の邪魔になるという懸念もありました。そこで確実性を重視して、医療用の電極パッドを体に付けてもらう方法に変えました」(徳井氏)

このリストバンドは心拍の強さ、リズムに合わせて光る仕様にもなっている。しかしスタジオに入れるのは撮影前日であり、撮影環境で最適な色は直前まで分からず、監督からは土壇場になってリクエストがある可能性もある。

そのため、つまみを回すことで簡単に色合いを調節できる、柔軟性を持たせた設計で臨んだ。

「でも、僕らがそれ以上に恐れていたのは、コブクロの2人が演奏に慣れてしまっていて、心拍が想定していたようには上がらないという事態です。最初は高ぶっていたとしても、テイク数を重ねれば、次第に落ち着いてしまうことも考えられます」(徳井氏)

そうした事態に備えた「保険」として、バンドの光り具合や水滴の発射ペースは、PCから遠隔でも調節できるようにしてあった。ある意味、「ズル」が可能な状態にしておいたわけだ。

しかし、こうした懸念は結果として杞憂に終わる。今回のプロジェクトのプロデューサーを務めた小林壮氏は、撮影の様子を次のように振り返る。

「MVの撮影では通常、1曲通してちゃんと歌わないケースも少なくありません。ですが今回、コブクロの2人は開発チームの努力に報いるように、ファーストテイクからライブ並みの大音量で歌ってくれて、心拍は期待通りに上がりました。開発チームのみんなにとっては、そのことが何より嬉しかったみたいですね」

消費されない作品を生み出す技術との向き合い方

今回のプロジェクトを担当した開発チーム。左から徳井氏、坪倉氏、小林氏、赤川氏

今回のプロジェクトを担当した開発チーム。左から徳井氏、坪倉氏、小林氏、赤川氏

1→10の開発チームは、イベントプロモーション用のアプリ開発やソフトバンクのロボット『Pepper』の開発にも携わるなど、得意分野の異なるスペシャリストが高い技術を持ち寄る技術者集団だ。ただ、彼らに今回のプロジェクトの肝を振り返ってもらうと、エピソードとして返ってくるのはどれもアナログで泥臭いものだった。

ここに、モノづくりやサービスづくりの一つのポイントが隠されているように映る。坪倉氏は言う。

「僕が興味があるのは、昔から多くの人が楽しんでいるアナログな体験を、技術を使って、まだ誰も体験したことのない領域までどう拡張するかということ。もちろん自分は技術が大好きな人間ですが、それはあくまで手段であって、デジタルかアナログかというのは問題ではありません」

実現したい未来が先にあり、それを現実のものとするための手段として、アナログ、デジタルの別なくテクノロジーを駆使する。そうした技術との向き合い方に、赤川氏も同意する。

「ただ単に新しい技術を使ったということだけだと、時代についていくことだけが価値になってしまい、あっという間に消費されてしまう。テクノロジーの流れを追うことは大事ですが、作品の力強さはそれとは別に追っていかなければならないものだと思っています」

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴




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