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音楽の危機を救うのはネットか?リアルか?業界の異端児3人が立ち上げた地方創生プロジェクト『ONE+NATION』【特集:音楽とITと私】

タグ : ONE+NATION, オープンイノベーション, ストリーミング, 音楽 公開

 
音楽とエンターテインメントによる地方創生プロジェクト「ONE+NATION」

音楽とエンターテインメントによる地方創生プロジェクト『ONE+NATION

avexグループ在籍時に音楽イベント『a-nation』をプロデュースしてきたフェスのプロ、阿部元博氏。電通ISIDでオープンイノベーション研究所を立ち上げ、ITを活用した社会変革に取り組んできた渡邊信彦氏。バークリー音楽院出身の元プロギタリストであり、外資系コンサルティング会社の役員でもあるという異色の経歴を持つ松永エリック・匡史氏。

異なる立場から「音楽とIT」に関わってきた3人がこの夏、『ONE+NATION』という新たな音楽プロジェクトを立ち上げた。

コンセプトは、「音楽とエンターテインメントで日本を串刺しに」。各地で『ONE+NATION』という共通のブランドを冠したフェスを開催することで、地方創生につなげる狙いという。

定額配信ストリーミングサービスの相次ぐ誕生などで、音楽業界はまた新たな局面を迎えようとしている。音楽とその周りで働く人たちが置かれている現状を指して、「危機」と見る向きもある。

「業界の異端児」を自称する3人はこうした状況をどう見ており、そこにどのような新たな価値を生み出そうというのか。

「音楽が楽しくない」時代

「ONE+NATION」を立ち上げた3人。左から渡邊信彦氏、阿部元博氏、松永エリック・匡史氏

『ONE+NATION』を立ち上げた3人。左から渡邊信彦氏、阿部元博氏、松永エリック・匡史氏

『ONE+NATION』の構想が持ち上がったのは、今年3月。『Startup Weekend Tokyo MUSIC』というイベントでパネリストを務めた3人は、その控え室で音楽談義に花を咲かせ、すぐに意気投合したという。

異なる立場からではあるが、それぞれ長く音楽と関わってきた3人には、ある共通したスタンスがあった。

「業界の現状を憂う問題意識なんて大それたものではありません。3人に通じていたのは、本当に音楽エンターテインメントが好きだってことです」(渡邊氏)

そう聞くと、音楽業界に身を置く者なら誰もが当てはまりそうなものだが、必ずしもそうとは言えないのが現状と渡邊氏は言う。

「たくさんの人が音楽ビジネスの変革を提唱していますが、その多くが儲かるか儲からないかというビジネスモデルのことしか考えていない。だから最近の音楽はなんだかつまらないし、ワクワクしないのだと思います。コンテンツによってビジネスモデルは変わるのに、コンテンツ自体についての話が全く出てこない。リスナーのことを考えたら、もっと『音楽はこう楽しむべき』という議論があってもいいのではないでしょうか」

音楽が楽しくなくなった理由の一つとして、松永氏は「テクノロジーの進化によって音楽を表現する障壁が下がったことが、音楽を『手軽に目立つための手段』にしてしまった」可能性を指摘する。

「ステージに上がるレベルになるまで時間が掛かる楽器のプレーヤーは減って、『とりあえず回してます』レベルのニワカDJが増えた。これは、テクノロジーによって誰もが簡単にある程度以上のDJプレイができるようになったからでしょう。そういった人たちはきっと、音楽が好きなのではなくて、単に目立ちたいからDJをやっているのだと思います。

もちろん一方では、テクノロジーが、センスや努力を兼ね備えた本物のDJのレベルをどんどん進化させているという側面もあるのですが、人前に出るために真剣に努力を重ねている楽器のプレーヤーからすれば、こうしたニワカDJたちに神聖なステージを荒らされている気がしてしまうでしょうね」

YouTubeなどで音楽がタダ同然で聞けるようになったことや、「いいね!」の数で自己承認欲求を満たすSNSへの依存など、インターネットの普及によって劇的に変わった環境が、若者を「手っ取り早く目立ちたい」という方向に駆り立てているのではないか、と3人は分析する。

つまり『ONE+NATION』は、こうした現状を乗り越えて、再び「音楽が楽しい」と思える時代を取り戻すための仕掛けとして立ち上がったというわけだ。

「ストリーミングは新人アーティストに恩恵をもたらさない」

「ストリーミングは新人アーティストに恩恵をもたらさない」と主張する松永氏

「ストリーミングは新人アーティストに恩恵をもたらさない」と主張する松永氏

「音楽を楽しいものにしたい」。こうした思いからスタートしてあらためて業界の現状を眺めた時に、自然と向き合うことになったのが、定額配信ストリーミングサービスの相次ぐ誕生だった。

「定額配信は、すでに売れている大物アーティストにとってはいいサービスだと思います。初期こそ配信料で儲けようという発想だったためにうまくいきませんでしたが、配信をプロモーションであると考えれば、その効果は絶大です」(松永氏)

松永氏が例として挙げたのは、英国のヘヴィメタルバンド、アイアン・メイデンの成功だ。

アイアン・メイデンの楽曲はかねてより、南米で頻繁に違法DLされているということがデータとして表れており、問題視されていた。こうした状況を前にした場合、違法DLの防止策を打つというのがそれまでの常識的対応だった。

だが、アイアン・メイデンは違った。違法視聴で上がった知名度を逆に利用して、南米で重点的にツアーを行ったのだ。その結果、巨額の広告費を投じることなく、大きな成功を収めることができた。

しかし一方で、「定額配信はこうしたひと握りの大物のためのものであって、無名の新人アーティストには何の恩恵ももたらさない」と松永氏は指摘する。

「『Apple Music』などを実際に使ってみると分かるのですが、アルゴリズムでレコメンドされるのはすでに誰もがその名を知る大物アーティストの曲ばかり。無名の新人の曲と出会うことなど、ほとんどありません」

天文学的に膨大な楽曲数はストリーミングの売りの一つだが、現実には「多様性」は実現できていないと松永氏は言い、「可能性があるとすればむしろ、『Lumit』のような権利に縛られないインディーズの曲を集めた配信サービスの方ではないか」と主張する。

インターネット以前から長くアーティストをバックアップする立場だった阿部氏は、テレビの音楽番組からも「多様性」が失われていることを憂う。

90年代にavexのPRを行っていた阿部氏は「あのころの方が音楽に多様性があって楽しかった」

阿部氏は再びパフォーマンスそのものの質が問われる時代が来たと持論を展開する

「自分がavexのPRをやっていた90年代は、次から次へと新しいスターが生まれる時代でした。超大物とされる音楽番組のレギュラークラスであっても、後から後からやってくるので、常に気が抜けなかった。それが今となっては、音楽番組やCDの売り上げ上位の顔ぶれは常に同じアーティストの持ち回りで、他が入る余地はどこにもありません」

ネットサービスからもテレビからも「多様性」が失われているのが現状だとすると、名前のない新人アーティストが浮上する道は、もはやどこにも残されていないのだろうか。

そうではない。「だからこそ、ライブやフェスといったリアルな場が重要になる」というのが、3人の出した答えだ。

「インターネットサービスでは、アーティストは誰かに紹介してもらえない限り、音楽ファンの前に現れませんが、ライブ、特にフェスは違います。アーティスト自ら、ファンの前に出て行ける。ストリートだと通行人に邪魔者扱いされることもあるでしょうが、フェスに来ているお客さんは心を開いてくれていて、まだ見ぬアーティストを受け入れる態勢ができているんです」(阿部氏)

そこで何でもいいから爪痕を残すことだ。そうすれば、わずかながらも検索して、曲を聴いて、ファンになってもらえる可能性が生じてくる。「再び、パフォーマンスそのものの質が問われる時代が来ている」と阿部氏は言う。

オープンイノベーションだからできること

すでに世は、空前のフェスブームだ。「フジロック」、「サマソニ」といった全国級の大イベントのみならず、年間を通して、日本各地で無数のフェスが開催されている。

だが、こうしたフェスの大半は現状、地方活性化につながるような大きなパワーに成り得ていない。その原因は主に、「つながり」の欠如にあると渡邊氏は言う。

「各地に乱立するフェスの現状は、地方創生の活動が抱える課題とそっくり」と渡邊氏は言う

「各地に乱立するフェスの現状は、地方創生の活動が抱える課題とそっくり」と渡邊氏は言う

「すぐ隣の自治体でほとんど同じ趣旨のフェスが開催されているといったことがあるように、情報不足ゆえに、土地土地のリソースを十分に活かせていないのです。これではいかに助成金を投じたとしても、地方を担うようなイベントやアーティストが育つことは難しいでしょう」(渡邊氏)

『ONE+NATION』が「日本を串刺しにする」と謳っているのは、まさにこの問題への回答だ。

共通のブランドを冠したフェスを各地で連続的に開催することで、例えばネットでの検索性を高めるなどして知名度を上げることができる。十分にその名が浸透すれば、ゆくゆくは『ONE+NATION』というブランドを求める人々が日本中を旅するといった現象もあり得なくはないだろう。

さらに『ONE+NATION』では、フェスの開催と並行して、アーティストやライブハウスといった音楽関連情報から、特産品、伝統的な祭り、飲食店といった観光資源まで、各地のリソースを蓄積したデータベースの構築を行う方針という。

フェスを訪れる人には音楽だけでは終わらない「体験」を、地元の人々には自ら継続して活動するための「情報」を残そうというわけだ。

「多くの地方創生の取り組みがそうであるように、高額な助成金を使って東京から大物アーティストを呼ぶという手法では、1回切りの打ち上げ花火で終わってしまって、後には何も残らない。地元を巻き込む形でやって初めて、お金もノウハウも地方に落ちていくんです」(渡邊氏)

こうして作り上げる地元のコミュニティはしかし、「密度の濃いものでなければ意味がない」(松永氏)。データベースに残す情報は「量」以上に「質」を求めるし、フェスの出演アーティストについては、あらゆる世代のニーズに応える「多様性」にこだわりたいともしている。

「これまでのフェスは、関係する会社組織同士の利害により、大物アーティストに集客を頼らざるを得なかったり、逆に大物を呼ぶために同じ事務所の質の低いアーティストを出演させなければならなかったりといったことが起こっていました。それが多様性を失わせ、結果として業界をシュリンクさせる一因になっていた。

しかし僕らには何のしがらみもありません。音楽を愛する者同士が、個人でつながっているだけです。そして関わっている誰もが違う得意分野を持っている。それはまさに、オープンイノベーション。点と点でつながっているからこそできることがあると思っているんです」(松永氏)

エンジニアとアーティストは似ている?

アーティストにして戦略コンサルタントという異色の経歴を持つ松永氏。過去には実は、大手SIerでSEとして働いていた時期もあるという。

「当時のエンジニアの働き方というのは一般的に、要件定義に従ってウオーターフォールで……というものでした。それが仕事を、そして出来上がるものをつまらなくさせていたように思います。エンジニアは本来、他の人にはできないことができる人たち。自分で良いと思うものを作った方が、きっと良いものが出来上がるはずです。顧客の言いなりになるのではなく、もっと自己主張した方がいいのではないか。当時からずっとそう感じていました」(松永氏)

「音楽を取り巻く人の生き方にも、同じことが言える」と阿部氏が同調する。

「先日、12年前にメジャーデビューを経験し、一度は引退したものの、どうしても歌への思いが捨てられないという30代後半の女性が売り込みに来ました。僕のところに来る前に行ったレコード会社からは、年齢を理由に『ミュージカルはどう?』と薦められたそうです。

だから僕は聞きました。『あなたは歌仕事がしたいだけなの?それともシンガーになりたいの?』って。制約の中でやっていても、面白いものは生まれない。何歳になったって、思うように生きればいいのではないでしょうか」

日本を串刺しにする『ONE+NATION』の取り組みは、これまでの音楽業界が縛られてきた、あらゆる「制約」を取り払う試みと言い換えることができるだろう。

「最終的にどういう価値を生み出すことになるのかは、僕らにもまだ分からない」と松永氏は言う。

「だって僕らが追求しようとしているのは、『みんな』が音楽を楽しむためにはどうしたらいいか、ということだから。かつてウオーターフォール一辺倒だったエンジニアの世界で、今ではアジャイルの開発手法が浸透してきているように、僕らも走りながら『みんな』の声に耳を傾け、そのあり方を変えていくことになるでしょう」(松永氏)

まずは年内に1、2回の開催を目指し、来年夏からの本格開催につなげていく考えという。

取材・文/鈴木陸夫(編集部) 写真提供/ONE+NATION




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