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マイクロソフトがWindowsを本気で再創造したいなら、もう分社化した方がいい【連載:中島聡③】

タグ : iPhone, UI, UX, Windows, スティーブ・ジョブズ, ビジョン, ビル・ゲイツ, マイクロソフト, 中島聡, 業界有名人 公開

 
中島聡の「端境期を生きる技術屋たちへ」

UIEvolution Founder
中島 聡

Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めた世界的エンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフトの日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフト本社へ。2000年に同社を退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes』といったiOSアプリを開発している。シアトル在住。個人ブログはコチラ

こんにちは、中島です。今回は、わたしの古巣マイクロソフトの話をしますね。

From comedy_nose

スタートメニューの廃止や、アプリによる新しい操作スタイルなど、「完全刷新」と言える変貌を遂げたWindows 8

マイクロソフトで目下注目を集めているのは、やはり今秋に控えた『Windows 8』のリリースでしょう。インターフェースをガラリと変え、それに伴ってマルチデバイス戦略に本腰を入れるなど、興味深く動向をウォッチしています。

新しいインターフェース(これまで「Metroスタイル」と呼ばれていたもの)への移行の是非について、よく人に意見を求められますが、わたしの答えは「正しい決断だと思う」です。

Windows Phone 8やSurfaceを投入して、アップルやグーグルとモバイルマーケットで勝負していくには、従来のWindowsインターフェースを全面刷新してコンバチビリティーモードを残しておくという道が、唯一残された正しい選択だったと思います。

Windowsの「新しいインターフェース」生みの親で、Windows Phone関連の発表では必ずフィーチャーされるJoe Belfiore氏

Windowsの「新しいインターフェース」生みの親であるJoe Belfiore氏は、新製品発表会などにも登壇する有名技術者

個人的な話ですが、現在のWindows Mobileの開発トップで、Windows Phone 7以降のプロダクト開発を主導してきたJoe Belfiore(@joebelfiore)は、わたしの友人なんです。

彼がPCのWindowsチームからMobileチームに精鋭を連れてきて、彼らが作ったMetroスタイルがWindows 8にも採用された。

OSのコアもWindows CEからNTに移行され、初めてWindows 8のデモを見た時は、「よくここまでやったな」と驚きました。これをきっかけに、マイクロソフトが復権するのを切に願っています。

ただ、客観的に評価するなら、今回の刷新でやっとアップルに追いつく土台ができあがった、といったところでしょうね。アップルがiPhoneをリリースしてから、もう5年も経っているでしょう? 決断が遅過ぎたという声があるのも致し方ない。

マイクロソフトは、かなり前から「組織が大きくなり過ぎて決断が遅くなり、開発も後手を踏む」という悪循環に陥っていた。わたしは2000年代からずっと言い続けているのですが、マイクロソフトはもう、BtoB向けとコンシューマー向けとに分社化すべきなんです。社内でも、似たような議論が何度かあったと聞いています。

では、なぜこのタイミングで分社化を考えるべきなのか。その理由を、Windows 8の重要な開発テーマだった「UI/UX改善」を切り口に説明していきましょう。

UI改善に正解はない。ならば何を「OKライン」にするか?

プロダクトやアプリケーションのインターフェースを設計・開発する時、作り手にとって最終的な到達点になるのは、「誰も説明しなくてもユーザーは何をすれば良いかが分かる」という状態です。

PCのインターフェースは、Macが誕生してWindows 95が世に出てから、さまざまな”実験”が行われ、PC上での最適解らしいものが定義されてきました。「クリックできるアイコンはちょっと出っ張っている」、「リンクにマウスオンすると下線が出る」などは、すでに多くのユーザーにとっての常識となっています。

でも、スマートフォンやタブレットのようなタッチデバイスでは、まだ最適解がない状態です。画面をスワイプするとどう動くのか、アイコンを一回タップするとどうなるのか、iPhoneとAndroidを比較しても微妙に違いますよね。それぞれのアプリによっても、解が異なっている。

中島氏の

中島氏の”新作”となるiPhoneアプリ『neu.Tutor』(※画像クリックでiTunesストアに飛びます)

そんな中で、「誰も説明しなくてもユーザーは何をすれば良いかが分かる」状態を作るのはとても難しいです。わたしが今春から開発を続けてきた教育アプリ『neu.Tutor』でも、UI開発ではデザイナーと試行錯誤を重ねてきました。

『neu.Tutor』では課題が書かれたカードを動かしながら学習していくスタイルを採用したのですが、スワイプ/タップすると次にどんな展開になるのか、できる限り分かりやすくするために知恵を絞りました。

例えば、カードをスワイプした時に「ちょっとだけ止まってから」動いた方が効果的なのか、「すらっと」動いた方が良いのか、カードを上下にスワイプするとどうなるのかを「指でなぞるジェスチャー」を表示しながら説明したら印象が変わるかetc.を、30人くらいを対象にしたユーザービリティーテストをしながら詰めていったんですね。

つい先日も、デザイナーから

「画面を上にスクロールすると下から新しいカードが出てくると直感で分かるように、最上段にあるバーの下に2ドットくらいの影をつけて『カードが食い込んで入っていく感じ』を出したい」

と提案されて、デザインとアプリの挙動を微調整しました。何度も発生するこういった手戻りのせいで、すでに3度もApp Storeの審査を通っていたのに、9月になってやっとリリースに漕ぎ着けました。

インターフェースの改善にここまで労力を割いたのは、わたしを含め全員が、ユーザビリティーを高める魔法は存在しないということを理解しているからです。前述のように、スマホ/タブレット向けアプリの世界にはまだまだ正解がないので、作っては直し、使ってもらってまた直す、を繰り返すしかありません。

じゃあどこまでこだわればOKなのか? 「これでOK」というラインを決めるのは何になるのか?

「納期」や「上司の気分」だなどと思った人は、ちょっとサラリーマン病かもしれません。突き詰めていくと、会社のビジョンや、自分たちで決めた事業ミッションになるのです。

MSとアップルの首位交代は、ビジョンの”賞味期限切れ”が原因

From Joi スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツともに頑固者として知られるが、その鉄の意志でビジョンを貫く姿勢が世界的プロダクトを生んだ

From Joi ジョブズ、ゲイツ共に頑固者として知られ、鉄の意志でビジョンを貫く姿勢が世界的プロダクトを生んだが……

会社のビジョンやミッションというのは、そこで生み出されるプロダクトに必ず反映されます。もしそうなっていなければ、「間違った開発」だということです。

iPhoneを例にすると、Androidケータイと比べて機能面ではさほど変わらないのに(個人的には)使いやすさが格段に良い(と思う)のは、アップル独自のビジョンがあったから。もっと言えば、iPhoneの秀逸なインターフェースは、スティーブ・ジョブズのビジョンから来る「異常なダメ出し」の産物です。

一方、多くのAndroid端末にはそういった執着が感じられず、スクロールのなめらかさやタップした時のフィードバック感など、細かい部分を自然に感じられるかどうかの差が、如実に出ているように思います。

だから、今回のWindows 8のように過去をほとんど捨ててインターフェースを刷新するような時は、開発陣がその良しあしをジャッジする意味でも、ビジョンから掲げ直す必要が出てくるのです。マイクロソフトが本気でWindowsのユーザー体験を変えたいのなら、分社化してBtoB向け、コンシューマー向けそれぞれにビジョンを再設定する方が自然なんです。

ビル・ゲイツが「すべての家庭のすべての机の上に PC を」というビジョンを掲げ、マイクロソフトを創業した1975年から、Windowsの本質的な開発思想はずっと変わってきませんでした。

そして、このビジョンがほぼ達成された2000年代を境に、Windows事業は飛躍的に伸びることなく成長がストップしています。

かたやアップルは、1990年代の経営不振からジョブズが出戻ったのを機に復活し、今年とうとう史上最高の時価総額企業になりました(なお、アップルが記録更新するまでの史上最高企業は、1999年のマイクロソフトです)。

この事実を見れば、開発におけるビジョンの大切さや、必要とあらば古いビジョンを捨てて再定義するべき理由がお分かりになるでしょう。

ちなみに、開発の判断基準になるビジョンが変わらないまま、表面上だけ言い換えたものにしたり、ミッションだけをこねくり回して無理やり作り変えられたプロダクトは、かなりの確率で中途半端なデキになります。

UI面では本質的な変更がなかったのに、やたらと3D化した結果、処理が重くなってユーザーの反感を買ったWindows Vistaなどは、典型的な失敗例でしょう。

掲げるビジョンは、定義が広すぎても、狭すぎてもダメ。あいまいだと開発の拠りどころになりませんし、「新しいソーシャルサービスを作る」といったような小さなビジョンではすぐに”賞味期限切れ”を起こしてしまいます。

今後10年、20年くらい経っても通用しそうなビジョンや、クリアするのは難しいけど実現できたらすごくイイよねと思えるミッションが、あなたの会社や所属部門にあるかどうか。開発に携わるサービスやプロダクトをいじる前に、ぜひ考えてみてください。

撮影/竹井俊晴(中島氏のみ)




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