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『Google Glass』わたしならこう売る~ウエアラブル・コンピュータが超えるべき壁【連載:中島聡】

タグ : Apple, Google, Google Glass, ウエアラブル, 中島聡 公開

 
中島聡の「端境期を生きる技術屋たちへ」

UIEvolution Founder
中島 聡

Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めたエンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフトへ。2000年に退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes+』、教育アプリ『neu.Tutor』といったiOSアプリを開発する。シアトル在住。個人ブログはコチラ

今回は、早期試用プログラムで実機を手にする人も出てきた『Google Glass』について書きましょう。

Nakajima-10-GoogleGlass

From Steve Jurvetson
トップのサーゲイ・ブリン自身がGoogle Glass着用で公の場に出る機会も増えているが…

今年5月の『Google I/O』を前後して、情報が続けざまに出たことで、いろんな反応がメディアやSNSを賑わせています。わたしも先日、日経新聞で「スマホの先の新市場を創出するウエアラブルコンピューター」という記事を書きましたが、今後ウエアラブルなデバイスが「まだ存在しない新しい市場」を創っていく中で、Google Glassはその象徴として期待を集めていくはずです。

ただ、今のところ反応は二極化しています。

アメリカでは、主にエンジニアやIT業界関係者で「すごいデバイスだ」と賞賛している人がいる反面、社会からはすごく嫌がっている声も聞こえてきます。Google Glassへの批評でよくあるように、やはり盗撮などプライバシー面での不安が拭えないからでしょう。

わたしの住むシアトルでも、つい先日、あるコーヒーショップが「Google Glassをかけた人の来店拒否」を発表していました。

「進化圧」をうまく使うAppleと、“研究者”っぽいGoogle

Nakajima-10-GoogleGlass-02

From Adam Dachis
その斬新さゆえ、注目度は非常に高いGoogle Glass。世間から寄せられる不安をどう解消していくか?

日本ではあまり知られていませんが、アメリカの携帯電話のほとんどは、カメラ撮影の時にシャッター音が鳴りません。この例からも分かるように、プライバシー問題には寛容なんです。にもかかわらず、Google Glassには拒否反応が出ている。

その理由は、Google Glassが「進化圧」で出てきたテクノロジーではないからでしょう。

進化圧で出てきたテクノロジーの最近の代表例はiPhoneです。スマートフォンという名前の通り、「携帯電話が進化したモノ」として売り出されたので、世の中がすぐに受け入れた。

iPhoneが優れたデバイスであることに疑いの余地はありませんが、見方によっては、すでに存在していたマーケットで「目先を変えた製品」を出しただけなんです。Appleはこのやり方がうまいというか、タイミングが非常に良い。

一方のGoogle Galssは、前述のように、まだ存在しない新しい市場を創り出すような製品です。いつの時代も、人はこれまでまったく存在していなかったモノに対して、恐れや不安を抱きます。ウォシュレットなんかがまさにそうでした。

今でこそ、日本のトイレには当たり前のようにウォシュレットが付いていますが、誕生当初は「水回りで電気を使うのは危ない」などと否定的な意見がたくさんありました。そこから、徐々にユーザーの不安を解消しながら、生活スタイルを変えるものとして広まっていったのです。

このように、画期的なモノを生み出したイノベーターは、予想される拒否反応への対処法や普及法まで開発しなければなりません。が、Appleと比べて“研究者”っぽいGoogleは、消費者向けのマーケティングがあまり上手ではないんですね。

それに最近の彼らは、Androidの成功で、何でもかんでも「オープンにすればサードパーティが動いてくれる」と考えている節がある。Google Glassに関しては、その誕生の経緯から、得意のオープン戦略が通じないんじゃないかと思います。

デザインがいかにもギーク向けだと揶揄されているのも、彼ら自身で改善しなければならないポイントです。

では、どうすればGoogle Glassが一般社会に普及していくのか。もしもわたしがGoogleの社員だったらと仮定して、売り方を考えてみました。

病院、警察…はじめにバーティカルマーケットへ売り込むメリット

surgery-image

From Army Medicine
ウエアラブル・コンピュータは手術に最適なデバイス!?

結論から言うと、Google Glassが市民権を得るまでの助走として、まずバーティカルマーケット(一定の業種に特化した市場)に売り込むでしょう。

例えば病院。医師が手術中に患者のカルテや血圧などをGoogle Glassで見られるようになれば、便利だと思うんです。音声で操作できる点も、両手がふさがった状態で手術を行うのに適したデバイスですよね。

または警察。アメリカでは、行き過ぎた捜査をしていないと証明するため、警官に巡回中のビデオカメラ携帯を義務付ける動きがありますが、Google Glassであれば「携帯」する必要がなくなります。それに、逃走犯を追っているような時でも音声で警察のデータベースにアクセスできるので、仕事を楽にするでしょう。

こうして特定のニーズがはっきりと見込めるマーケットで試用してもらいながら、技術面・意匠面で改良を重ねていき、徐々に汎用デバイスへと進化させていくのです。

今では当たり前のように一般家庭に普及しているPCも、物書きや書類作成の専用機器だったワープロを“経由”して、社会に広まっていった。そう考えると、Google Glassもいったんバーティカルマーケットにおける専用機器と位置付け、そこから進化させたモノを一般向けにリリースした方が、スムーズに展開できると思います。

今すぐ市場参入すべき家電メーカーと、待ちの姿勢を貫くだろうApple

Fitbit Flex

ワイアレス活動量計の『Fitbit Flex』は、日本でも今夏以降に提供される予定

このようなステップで新市場を開拓していくのを前提とするなら、スマートフォン市場で惨敗を喫した日本の家電メーカーも、ウエアラブル・コンピュータの開発で再起できる。

日本のメーカーの研究所は、ウエアラブル・コンピュータの開発に必要なセンシングや光学、画像処理といった要素技術を高いレベルで持っているので、実益性を追求した製品開発ができるはずです。

それに日本は、昔からバーティカルマーケット向けの製品開発をするのが得意。医療機器をイメージしてもらうと分かりやすいのですが、医師や専門病院の特殊なニーズを深掘りし、高性能で世界的に競争力のある製品を作っています。

Googleや海外メーカーは、特定のニーズを持つ人たちとタッグを組んでモノづくりを進めるようなことをあまりやらないので、勝機は十分あると思うのです。

このやり方だと、携帯電話と同様にガラパゴス化してしまうと懸念する人もいるでしょうが、バーティカルマーケット向けであればそれも問題ではありません。「まず使いこなしてもらう」のを最初に超えるべき壁とするなら、GoogleのようにオープンAPIを作って汎用性を高めること以上に、特定のニーズに応えることの方が先決です。

特にヘルスケア分野は、『Nike+FuelBand』や『Fitbit Flex』などリストバンド型デバイスの登場で、すでに市場が形成されつつある。進化圧によって新しいウエアラブル・コンピュータが出てくるには、良いタイミングです。例えば「万歩計が進化したデバイス」として売り込めば、ご高齢の方々も含めて世代を問わずすぐに広まりそうじゃないですか。日本メーカーの一念発起を願っています。

最後に、iPhone/iPadによってスマートデバイス市場を作ったAppleが、ウエアラブル・コンピュータ市場にいつ出てくるのかを予想して終わりにしましょう。

先日のD11カンファレンスでCEOのティム・クックがウエアラブル・コンピュータへの関心を公言したり、腕時計型デバイス『iWatch』の噂がちらほら出ていますが、わたしは当面参入してこないと見ています。社内では間違いなく研究を進めているでしょうが、製品が出るのは少し先になるでしょう。

MacやiPodの例を見ても、彼らはいつも、機が熟すのを「待つ」タイプですから。




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