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黎明期の終わり―これからのアプリマーケットは「語れる技術屋」だけが生き残る【連載:中島聡②】

タグ : Android, Windows, アップル, アプリ, ビジネス, 中島聡, 教育, 業界有名人, 開発 公開

 
中島聡の「端境期を生きる技術屋たちへ」

UIEvolution Founder
中島 聡

Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めた世界的エンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフトの日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフト本社へ。2000年に同社を退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes』といったiOSアプリを開発している。シアトル在住。個人ブログはコチラ

こんにちは、中島です。連載の第2回は、アプリマーケットの端境期についてお話ししたいと思います。

このテーマについて考えるきっかけとなったのは、「アプリの終わりの始まり」という記事でした。記事の筆者である小川敦さんは、2012年2月27日から開催されていたMobile World Congress 2012で、コンサルティング会社frogのScott Jenson氏によるプレゼンテーションを聴いて共感し、同氏の論旨に沿いながらアプリマーケットの今後を展望しています。

そこで提示されたのが、「アプリの海」という問題点。以下は、記事からの引用です。

ユーザーはアプリをウィンドウショッピングし、見つけ、試用し、ダウンロード/インストールし、利用し、アップデートし、最後はアンインストールするという管理作業に膨大な時間的・経済的コストを費やしている。
(中略)
現行のアプリ・システムはまだ何とか維持できている状態だが、今後、アプリの数が2倍、3倍、さらには10倍に増えればもはやサステナブルではない。

このように「アプリの海」の問題は現在進行形で深刻化している。

AppStoreのように世界にアプリを流通できるマーケットが「商売」を変えたが、それも今はレッドオーシャンに

App Storeのような世界にアプリを流通できるマーケットが「商売のあり方」を変えたが、現在はレッドオーシャンに

ここで指摘されている問題は、わたしも同感です。現在のアプリマーケットは、ユーザーの選択肢があまりに増え過ぎて、何が本当に良いアプリなのか分かりにくくなっているでしょう? それに、「アプリの海」問題は、開発する側にとってもコスト回収を難しくしています。

アップルのApp Storeだけでなく、Google PlayやWindows Phoneなどのマーケットに対応していこうとすれば、各デバイスへの対応まできっちり行わなければなりません。特にAndroidアプリの開発は、デバイスごとにテストしなければならない手間を考えると、ビジネスとして成立させるのが非常に難しい。

これは日本でもシリコンバレーでも、世界中で同じ状況です。つまり、世界のアプリマーケットは、アプリ単体の開発で「アイデアと腕一つで誰でも大儲けできる」という黎明期が終わり、これからは成熟期に入っていくのです。

では、アプリ開発者は、この成熟期をどう生きていけば良いのでしょうか。

技術だけで革新は起きない。潮目をつかむため「妄想」を語れ

記事内で、Jenson氏と小川さんは「これからの主流は『ジャスト・イン・タイム』のインタラクションになる」と予測していますが、わたしはこの示唆にとても共感しました。要するに「その場限りで使えるアプリ」への期待は、スマートフォンの普及やジオ系技術の進歩などとあいまって、もはや時代の趨勢だと思っています

例えばディズニーランドの案内図。遊びに行った時にだけ自動的にアプリが作動し、案内図やお得な情報を示してくれたら、とても便利ですよね。また、ある商業施設のレストラン街に行った時、各レストランのメニューを提示してくれるアプリが自動的に起動すれば、いちいちお店を見て回る労力を省けるでしょう。

ジャスト・イン・アプリの構想を90年代から持ち続け、パテントも持っている中島氏

ジャスト・イン・タイムアプリの構想を90年代から持ち続け、関連パテントも取得している中島氏

実は、わたしはこのようなジャスト・イン・タイム構想を、マイクロソフトにいた1998年ごろから考え始めて、社内で提案していました。仕組みはこうです。

例えばメールでパワーポイントの資料を添付した場合、受け取る人のPCにMicrosoft Officeがインストールされていなければ見ることができませんよね。閲覧専用のビューアーを無料で配布する、という方法もありますが、汎用的ではありません。

そこでわたしが提案したのは、ドキュメント自身にインテリジェントを持たせて、アプリケーションなしでもユーザーとのやり取りができてしまうというアーキテクチャです。

この考え方は、技術者には評判が良かったものの、実際のプロジェクトとして承認されることはありませんでした。ソフトウエア販売で利益を得続けるというマイクロソフトのビジネス構造を、根底から覆すものだったからです。

ただ、それについて恨み節を言うつもりはありませんし、当時のマイクロソフトが判断を誤ったとも思っていません。技術というのは、外部環境、つまりインフラやデバイス、マーケットが整わないと、どんなに先進的なものでも普及しないからです。

新しい技術には、機が熟すタイミングが必ずあります。そして、そのタイミングを考えると、既存のアプリマーケットの終わりは、ジャスト・イン・タイムアプリが普及し始める絶好機なわけです。

では、こうした新しい流れを先取りし、具現化していく開発者になるには、何が必要なのか。わたしが皆さんにお薦めするのは、「妄想を語れ」ということです。

「スタバのマンガ喫茶化」構想に見る、成熟期の仕組みづくり

「アプリの終わりの始まり」を読んだ時に思い出したのは、わたしが数年前から妄想していた「オンデマンドアプリ」の発想です。具体的には 、「スタバのマンガ喫茶化」と考えてもらっても良いと思います。

スターバックスに行くと起動するスマートフォン用メタアプリを作り、各店舗にはそのアプリにデータとしてマンガ閲覧アプリとか、クーポンアプリなどを送るシステムを用意しておく。で、スターバックスにコーヒーを買いに行くと、お店にいる間だけマンガが読み放題になったり、値引きポイントがたまるようにして、来店率を上げるのです。

中島氏が「妄想」で生み出したジャスト・イン・アプリを使えば、スターバックスの楽しみ方も倍増!?

中島氏が「妄想の中」で生み出したオンデマンドアプリを使えば、スターバックスの楽しみ方も倍増!?

現実的には来店客の回転率の問題や、システム構築費用など、いろいろ検討しなければならなりませんが、これが実現できたらたくさんの人が利用したがると思いませんか?

こうやって妄想を膨らませて、「われながら面白い構想だ!!」なんて自画自賛していたわけですが(笑)、当然ながらわたし一人の努力だけでは実現できません。仮にわたしがメタアプリを開発したところで、先ほどお話したシステムしかり、マーケティングの観点からこの取り組みが有益なのかなど、ビジネスサイドの人たちと協力して仕組み全体を作り上げなければなりません。

これが、黎明期から成熟期に入るアプリマーケットで、開発者に問われる視点だと思うのです。つまり、アプリ開発者にもマーケティング、ビジネス的な発想が求められるようになる。生粋のエンジニアにありがちな「良いモノさえ作れば売れる」という考えは、もう通用しなくなると思っています。

とはいえ、わたしを含め、アプリ開発者が一人でビジネスのエコシステム全体を作り上げるのは不可能に近い。そこで、うまく仕組み化してくれそうなビジネスサイドの人を探したり、社内外でそういう人との出会いを引き寄せるために、半分くらいまで開発した後に「妄想を語る」必要が出てきます。

浮かんだ妄想をソシアルなネット上で披露すれば、もしかして優秀なマーケッターや起業家の目に留まるかもしれません。そして、今度はそのマーケッターの要望を技術面で見直せば、具体的な仕組みづくりのきっかけが得られるかもしれない。こうして、アプリ単体では生み出せない、新しい価値を構築していくんです。

もし、わたしがここで語った「スタバのマンガ喫茶化」に賛同してくれるビジネスパーソンがいたら、ぜひ声をかけてほしいです(笑)。

マーケットが変容しても「良いプロダクト」を作り続ける条件

最後に、この仕組みづくりにエンジニアもかかわるべき理由を、ちょうど今わたしが開発を進めている教育アプリを例にしてお話しましょう。

スマートフォンアプリを使って勉強をしてもらうには、アプリそのものの利便性も大切ですが、「勉強をついつい続けてしまうような仕掛け」も大切です。一度ダウンロードしてみたけれど、数回使って利用しなくなる、というアプリはごまんとありますからね。

わたし自身、この「使い続けるための仕掛け」をどう構築するかで、いろいろと悩んでいる最中です。そして、この命題を技術者だけで解決するのは、前述の通りなかなか難しいでしょう。UIであったり設問の出し方だったり、技術以外の部分で検討しなければならないことがたくさんあるからです。

わたしの場合は、このアプリ開発には教育者である羽根拓也さんという仲間がいるので、羽根さんに仕掛けづくりの相談をすると、「わたしがユーザーなら、そばについて応援してくれるサポーターが欲しいかも」などと、何気なくヒントをくれる。そうやって得た気付きを開発面からとらえ直すと、「学習内容をFacebookにポストするような機能があれば応援者が増えるかもな」というように、さらに妄想が広がるわけです。

アプリであろうがWebサービスであろうが、開発で最も重要なのは「何を作るのか?」を決めること。ここがあやふやだと、でき上がったモノも中途半端になりますからね。その意思決めの段階で、企画と技術の両面から仕様を固めていくのが、良いプロダクトづくりの必須条件になります。

だからこそ、エンジニアが「語る」ことの大切は、これからもっと際立ってくるのです。

撮影/竹井俊晴(人物のみ)




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