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誰とでも音楽を”共創”できる画期的アプリ『nana』誕生秘話~素敵な偶然とTechな必然 【連載:NEOジェネ!】

タグ : iPhone, nana, NEOジェネ!, コワーキング, スタートアップ, ソーシャル, 起業, 音楽 公開

 
世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、前回登場のFULLERにオススメされたnana musicの2人。「歌で世界とつながる」というコンセプトのiPhoneアプリ『nana』をリリースしたばかりの彼らは、奇妙な偶然の末にチームを組むことになり、次世代のエンターテインメント・サービスを生み出した。その偶然と、「クラウドありき」で「DB構成を工夫できる技術的な余地」がある今だから実現可能だった開発のプロセスに迫る。
nana music, Inc.
(左)CEO Founder 文原明臣氏
(右)Server Engineer 辻川隆志氏

見知らぬ者同士がネットを通じて1つの曲を作り上げていく。そんな、”音楽をコラボレートする”喜びを手軽に体験させてくれるのが、2012年8月21日にリリースされたばかりのiPhoneアプリ『nana』だ。

『nana』が数ある音楽アプリの中でもユニークなのは、ネット環境とiPhoneさえあれば、音楽経験がなくても楽しめる点。このビデオを観てもらえれば分かるように、『nana』を使うにあたっては楽器演奏やDTMソフトの経験は不問。歌いたいという気持ち(たとえ鼻歌であっても!)さえあれば、音楽で世界とつながることができるのだ。

使い方の一例を挙げよう。まず『nana』を立ち上げ、フォローしているユーザーのタイムラインから、魅力的な音源を見つける。次にその音源を再生しながら、歌や演奏を録音。気に入ったテイクが録れた段階で再びサーバにアップロードすると、あなたの手が加わった音源がほかのユーザーにも共有されることになる。

『nana』の画像イメージ。利用シーンの一例として、(左から)①Profileページを作り、②他のユーザーがUPする音源を探し、③音源を聞いてみて、④自分も音源を「重ね録音」する、ということができる

『nana』の画像イメージ。利用シーンの一例として、(左から)①Profileページを作り、②他のユーザーがUPする音源を探し、③音源を聞いてみて、④自分も音源を「重ね録音」する、ということができる

共有後、誰かが、あなたのアップした音源とコラボしたものを新しい音源としてアップするかもしれないし、一人で重ね録りして作り上げた音源に思いもよらないアレンジが加えられ、目からウロコが落ちるような体験をするかも知れない。そうした予測不可能な意外性も『nana』の持つ魅力の一つだといえる。

2010年1月12日、中央アメリカの西インド諸島のハイチ共和国をマグニチュード7.0の大地震が襲った。約31万人もの死者を出したハイチの復興を支援するため、翌2月に80名を超える大物ミュージシャンや俳優が集結。ある曲がレコーディングされた。

『We Are The World 25 for Haiti』のオフィシャルYoutubeムービーはコチラ

『We Are The World 25 for Haiti』のオフィシャルYoutubeムービーはコチラ(画像をクリックすると見れます)

その曲とは、ご存知の方も多いであろう『We Are The World 25 for Haiti』。1985年にアフリカ支援を目的としたチャリティーソング『We Are The World』をリメイクしたこの曲の収益は、その後のハイチ復興支援に大いに役立てられることになる。

このプロジェクトは、1985年の『We Are~』にはなかった、あるユニークな試みが行われたことでも話題となった。それは、プロジェクトの主宰したクインシー・ジョーンズやライオネル・リッチーらが、Youtubeコミュニティーに対して『Youtube Edition』の制作を呼びかけたのだ。

この呼びかけに応じたのは、カナダのシンガーLisa Lavie。彼女が中心となってYoutubeで活躍するシンガー57人を選び、それぞれが思い思いの場で『We Are The World』を唄う姿をビデオ撮影。それを1カ所に集めて再編集し、Youtubeで公開(『Youtube Edition』の動画はコチラ)したところ、たちまち200万回を超える再生回数を記録(現在は500万回を突破)。世界各国から賞賛のコメントが寄せられることになる。

『nana』を発案した文原明臣氏も、神戸でこのビデオの存在を知って「鳥肌が立つような感動を覚えた」そうだ。

「自分も同じように世界中の人と歌ってみたい」。そう感じた文原氏は、何とか自分の力で実現できないか、その方法を模索していた時、iPhoneを見て『nana』の構想を閃めいた。

「とはいえ、文原の話を聞いた時はどんな風に作ればいいのか見当もつきませんでしたね」

詳細は後述するが、辻川氏が文原氏と出会った経緯はとてもユニーク

詳細は後述するが、辻川氏が文原氏と出会った経緯はとてもユニーク

そう話すのは、文原氏の閃きから3カ月後にあたる2011年5月、たまたま出会った辻川隆志氏だ。文原氏に『nana』のアイデアを聞き、後にバックエンド側の開発を担うことになる。

辻川氏は、モバイルコンテンツの開発経験や、データセンターの運用経験があるベテランエンジニア。「動き出せば2カ月もあれば形になるだろう」と軽く考えていたが、内実はそれほど甘くはなかったと話す。

「開発初期のころは、わたしも、フロントを担当する永島(次朗氏)もまだ、前職に在籍中だったんですね。『nana』の開発やミーティングは、毎晩帰宅してから。土日以外、直接会える機会はほとんどなかったので、互い意思疎通に思いのほか時間がかかってしまいました」(辻川氏)

実際に開発に要した期間は、約半年にも及んだという。どれを取っても「ないない尽くし」の開発だったが、当初から普通にリレーショナルなデータベースを組んでしまうと、かなり重い処理を強いられることは想定できた。

そのため、なるべくデータベースに負荷をかけぬよう、NoSQLのMongoDBやmemcachedを採用し、サーバにはAmazonのクラウド環境であるAWSを選択。スピードや冗長性、そしてアベイラビリティーの確保を目指した。

むろん、音楽配信系の勉強会などにもたびたび足を運び、知識の吸収にも努めたという。

「『nana』は、コミュニティーの誰かがプログラムを追加すると派生バージョンが次々と生まれる『GitHub』のような仕組み。当初計画していた7月末のリリースには間に合いませんでしたが、8月前半までには開発をほぼまとめることができました」(辻川氏)

元レーサーが、Twitterでの「銭湯探し」が縁で技術屋と出会うまで

文原氏は神戸高専・機械工学科の出身で、在校中の19歳から5年間、F4クラスのレースに参戦していたという異色な経歴の持ち主。

「いつかはF1へ」

そんな夢を抱いてのレース活動だったが、2009年の夏、資金難に見舞われその夢が絶たれる。ハイチ地震支援のチャリティー映像をYoutubeで見つけ、『nana』のアイデアを思いついたのは、そんな挫折を経験した半年後のことだった。

「実はレーサーを志す前から温めていた夢がもう一つあったんです。それはシンガーになること。ずっとアメリカのジャズバーに出演しながら生計を立てるような暮しにあこがれていました。いつか自分もそんなシンガーになりたいと思って、学生時代からずっと独学で歌を学んでいたんです」(文原氏)

その夢が期せずしてIT分野での起業に結び付き、レーサーを断念した彼のその後の運命を切り開くことになる。

「SFアニメも好きで、テクノロジーが実現する未来に魅力を感じていました。とはいえ、すぐにこの分野で起業しようと思っていたわけではなかったんです」(文原氏)

それでも、前述の『We Are~for Haiti』を見た瞬間、『nana』の企画を閃いた。シンガーになりたかった夢とITへの期待が、無意識のうちに影響していたのかもしれない。

まだ20代の文原氏に対し、辻川氏はすでに40代。この年齢差コンビが誕生したきっかけは?

まだ20代の文原氏に対し、辻川氏はすでに40代。この年齢差コンビが誕生したきっかけは?

「自分が欲しいから作りたい」。そんな思いで『nana』のアイデアを形にすべく走り出してはみたものの、文原氏自身には開発経験はない。突破口となったのは、偶然の出会いを好機に変える、引きの良さだった。

「池袋にある銭湯を探してます」

2011年のゴールンウィーク直前、当時別の会社に勤めていた辻川氏の目に、そんな内容のTweetが飛び込んできた。つぶやいたのは文原氏。この時文原氏は、『nana』の開発準備のため上京していたのだが、都内の状況に疎かったためTwitterのフォロワーに助けを求めたのだ。

当時の辻川氏と文原氏は面識もなく、Twitterを介して互いにフォローし合うだけの関係。辻川氏は軽い気持ちで「foursquareで探してみたら?」とメンションを送ったところ、文原氏からお礼とともに「音楽アプリを作るために上京している」という返信が届く。

偶然にも音楽アプリに興味を持っていた辻川氏は、文原氏の話に興味を惹かれ、東京滞在中に一度文原氏と会う約束をする。

最優先したのは「完成形を作るより、まずプロダクトを出すこと」

会って話を聞くと、「みんなで唄え」て「音を重ねられる」音楽アプリが作りたいという文原氏の言葉に、正直戸惑いを覚えたという。辻川氏自身が思い描いていた音楽アプリとは、似ても似つかないものだったからだ。

説明と疑問の払拭に要した時間はおよそ4時間。ただの情報交換のつもりで会った辻川氏にとって、初顔合わせがこんなに長引くとは予想していなかったが、一方で文原氏の熱意に共感を覚えたのは確かだった。

『nana』の未来に希望を感じた辻川氏は、協力を約束。しかし、本格的な開発に入るまでにはそれから約半年もの時間を要した。

この間、人材集めや資金集めに奔走していた文原氏は、シリコンバレーにも足を伸ばして人脈を築くなど精力的に活動。それが功を奏し、2011年7月から11月にかけて、出資を買って出てくれる複数のエンジェル投資家や、インタラクションデザインを担当する藤木穣氏、iOSエンジニアの永島次朗氏の協力を得ることに成功する。

異なる経歴の面々による「コワーク」の場所となったPAX CoworkingのHP。藤木氏(右端に後ろ姿が見える)との出会いもここだった

開発陣の「コワーク」の場所となったPAX CoworkingのHP。藤木氏(右端に後ろ姿が見える)との出会いもここだった

会社登記は米国デラウェア州のため、開発は東京・経堂にあるコワーキングスペース「PAX Coworking」が拠点。2012年に入り、いよいよ開発が本格化していった。

チーム全体では、「まずプロダクトを出すこと」を最優先に開発を進めたという。

『nana』は前例のないアプリだが、サービスの概要を説明すればたいていの人には面白がってもらえ、夢も感じてもらえる。そこで、「どれだけのユーザーに需要があるのか?」、「本当に収益を生めるのか?」というビジネス面での厳しい問いには、実際にプロダクトを出して答えるしかないと考えたのだ。

「本当はもっと機能を盛り込みたいという気持ちもありましたし、まだまだ洗練させるべき部分が残っているのは確かです。でも、スタートラインに立たなくては『nana』のやりたいことを知ってもらうことはできません。ですから最低限必要の機能以外、すべて削って完成させることを優先させました」(文原氏)

最初のバージョンを『Openβ』と称しているのは、そんな意味合いも込められている。

「ひとまずリリースにこぎつけたことで、『nana』の存在を世間に示すことができて良かったと思っています。でも、まだまだ技術的に高めていかなければならない部分は少なくありません。それに海外でリリースした時、どれぐらいスケールするか、トラフィックを考えると怖くもあり、楽しみでもあるというのが正直な気持ちです。もちろん組織として、資金やリソースでも越えなければいけないヤマは今まで以上に高いと思っています」(辻川氏)

目指すは課金モデルの構築と、お金より価値ある「場所」の創造

『nana』のファーストバージョンが出た今、すでに彼らは次のフェーズに向け歩みを進めている。

「近い将来、クロスプラットホーム化を実現するための準備や、iPhoneの小さな画面では難しい編集作業を簡単に実現できるWebサービスの開発を進めています。また、すでに手元にある音源をアップロードしたり、より高音質で録音できる仕組みも検討中です」(文原氏)

ビジネス面を担当する文原氏も、実は高専出身。旋盤やNCフライスなどをやっていた

ビジネス面を担当する文原氏も、高専在学中は旋盤やNCフライスなどをやっていた

こうしたオプションサービスの多くは、今後有料サービスとして提供する予定だ。ほかにも、オリジナル音源やエフェクト機能の販売、機能制限の解除など、課金モデルのアイデアはすでに複数あり、有名ミュージシャンや企業とのタイアップも企画中だという。

夢ばかりでなく、ビジネスモデルの開発にも余念はない。しかし、最終的にはもっと大きな目標に向かって事業を進めたいと2人は話す。

「Youtubeからはジャスティン・ビーバーのようなスターが生まれたり、ニコ生からも歌い手や踊り手で有名になった人がニコニコ超会議に出て人気を集めたりしました。やはり、表現にかかわるサービスを提供する以上、バーチャルな世界で閉じているのはもったいない。ですからわたしたちも、いつか『nana』のユーザーに現実のお客さんを前に歌や演奏を披露できるような場を提供したいと思ってるんです」(文原氏)

登場するのは必ずしも『nana』から生まれた大スターでなくても構わない。『nana』を通じて初めて音楽の楽しさを知った、ごく普通のユーザーが、『サンデー・アーチスト』としてお客さんの前で唄う喜びを体験してもらえたら――そんなイメージを日夜膨らませている。

《音楽をもっと身近に、音楽で世界と遊ぼう》

これが『nana』のコンセプトだ。今回ローンチしたファーストバージョンのリリースによって、このコンセプトに共鳴し、機能を余すところなく使い込んでくれる100人のエバンジェリストを誕生させることが当面の目標になると文原氏は考えている。

「そこから、10万、100万、1000万と、フォロワーの輪を拡げていきたいですね」(文原氏)

世界の共通言語である「音楽」をテーマにしたアプリは、はたして日本発の新たなムーブメントを生み出せるか。『nana』の未来に期待したい。

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴

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