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NASAの火星探査、実現のカギは社内営業!?~宇宙開発のスーパー技術者集団で働く小野雅裕氏に聞く「普遍の仕事術」

タグ : NASA, マーズ2020, 小野雅裕 公開

 

太陽系を脱出し、宇宙の旅を続ける探査機『ボイジャー』や、火星を走るローバー『キュリオシティ』。太陽系すべての惑星に探査機を送り、未知なる宇宙を開拓し続けるのがNASAジェット推進研究所、通称JPLだ。

前人未到の宇宙を開拓するJPLの特徴は、技術のプロ集団であること。例えば火星ローバー着陸の際はエアバッグでローバーを包んで上空からバウンドさせたり、クレーンで吊り下げたりと、斬新な技術を駆使し世界を驚かせる。

そんな宇宙ファン憧れの的、JPLで格闘する日本人エンジニアがいる。彼の名は小野雅裕氏。東京大学、マサチューセッツ工科大学などを経て2013年5月からJPLへ。現在は2020年打ち上げ予定のNASA火星探査計画『マーズ2020』の一員として働いている。

一見華やかなキャリアを歩んでいるように思えるが、その実、地道な「社内営業」によって仕事を獲得していったという。小野氏がどのようにして『マーズ2020』に参加したのか、そして今後のゴールや、最前線の現場で見えてきた宇宙開発事情についてSkypeで取材を行った。

「ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たる」精神でつかんだ『マーズ2020』の仕事

本題に入る前に「職場としてのJPL」について説明をしておこう。

小野氏の専門は宇宙機の人工知能や制御分野で、属しているのは「ロボティクス」部。だが、ただ待っていても仕事はこない職場だ。JPLにはさまざまなプロジェクトがあり、メンバーに入るには「社内就職活動」を行わなければならない。どのプロジェクトにも雇われなければ給料が支払われず、辞めざるを得なくなるという厳しい世界だ。

“社内就活”の結果、小野氏は現在3つの仕事を行っている。

2012年に火星に着陸して現在までさまざまなデータを送る無人探査機『キュリオシティ』のイメージ画像(提供:NASA)

「3つの仕事で自分の時間の50%、25%、25%を使っています。50%を占めるのは『マーズ2020』。現在活躍中の『キュリオシティ』の後継機で、火星のどこに着陸させるか検討中です。科学者が着陸させたい場所が何十か所もあって、決定には2つの観点がある。科学的な価値と、技術的に安全か否かです。僕は後者について解析を行っています」

小野氏の仕事は、ローバーが着陸地から探査場所に安全に到着するための経路設計だ。

「例えば地上でドライブに行く時、事前にカーナビで経路や所要時間を調べますよね。それと同じでどの経路をとれば安全に着くか、時間はどれくらいかというルート設計のアルゴリズム(計算手法)を開発しています。それによって着陸候補地ごとに、ローバーの設計寿命の間にどのくらい科学探査ができるか算出でき、着陸地を選ぶ情報になります」

『マーズ2020』はビッグプロジェクトで全体の人数は多いが、着陸地評価チームは4~5人。入社直後に、どのようにこんな重要な職を得たのだろうか?

小野氏は“種まき”から始めたという。

「JPLには研究開発の予算があります。まずは、数百万円の小さい資金を獲得して数人のチームを率いて数か月間、自動化技術について頑張って結果を出しました。その結果をもって火星プログラムの元締めや、プロジェクトマネジャーたちにプレゼン行脚をしたんです。

結局、テクノロジーは人で動くんです。自分がどんな技術を開発しているかを周囲の人間に知ってもらうのが大事だから、いっぱい種をまく。例えばこの探査は科学的な価値が高いが、実現には僕の技術が必要だとか技術の価値を伝える。会った人の半分は興味を持たず、半分は『面白いね』と言いながら何も起こらない。でも、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるんです(笑)」

鉄砲が当たったのは、種まきを始めたしばらく後。『マーズ2020』プロジェクトから小野氏の所属部に、火星着陸地の選定業務の依頼があり、小野氏に白羽の矢が立ったのだ。

先進的なはずのJPLで「奇妙奇天烈」と否定される!?

残りの25%ずつは、将来を見据えたプロジェクト。一つはレジリエント(Resilient)な宇宙船のシステム開発。分かりやすくいえば、想定外な出来事に臨機応変に対応するシステムだ。

例えば小惑星探査機『はやぶさ』が危機に遭遇しても、技術者が当初のプランと違う方法を駆使して目的を達成したように、トラブル時も探査機が自ら最適解を見出し、目的を達成するようにする。通信に時間が掛かる遠い宇宙を飛行する探査機には必要な技術だ。

もう一つは、ぶっ飛んだアイデアを元にした開発だ。

テーマは「彗星ヒッチハイカー」。車をヒッチハイクするように彗星をヒッチハイクし、宇宙を旅するというのだ。これはSFと現実の境界のようなアイデアを公募し、選ばれた人に10万ドルを与え実現可能性を調査させるNASAのプログラム。小野氏は数十倍の倍率を突破し、研究費を勝ち取る(詳しくはこちら)。

1958年からNASAの宇宙開発計画に携わるJPLは、土星探査機『カッシーニ』、火星探査機『オポチュニティ』などを生み出したトップクラスの技術集団だ

小野氏は「彗星ヒッチハイカー」の代表研究者として、彗星や軌道工学などの専門家にチームに参加してもらい、実際に研究を引っ張るにあたりマネジメントの苦労に直面した。

「優秀な人にチームに入ってもらい、彼らに10%の時間を使ってもらうには、その人が他のプロジェクトに割いている時間から10%を引いてもらわないといけない。良い人を使うにも競争がある。まず、『この仕事はやる価値がある』と思ってもらう必要があるんです」

意外なことに、先進的なアイデアを歓迎すると思われがちなJPLでも小野氏のアイデアは時に奇妙奇天烈に思われ、頭から否定する人もいたそうだ。

「やっぱりみんな5年後に火星に飛ぶプロジェクトをやっている方が楽しい。僕のアイデアを話すと『ないでしょ~』とか、『やって意味があるの?』という反応でした」

最初はうまく研究が進まなかった。

「でも、批判に耳を傾けすぎては何もできない。人は気分で動くものだから、話し方を工夫してポジティブな気持ちにさせ、『やってみよう』と思わせる。人材も紹介してもらって、非常に良い仕事をしてくれるようになりました」

こうして彗星ヒッチハイカーは「フェーズ1」を終え、小野氏はより具体的な検討を行う「フェーズ2」の予算獲得に挑む。

カフカの小説『城』のごとく

小野氏の究極のゴールは「誰も行ったことのない宇宙に物を送り、誰も見たことのない景色を見ること」。その実現には、宇宙ロボットをもっと賢くすることが必須と考える。

「現在の火星ローバーは、ほとんどの場合、地球上のオペレーションチームが『50メートル進んで右に25度回り……』など詳細に与える指示にしたがって動きます。しかし地球からの指示を待たずに、ローバーがより自律的に判断できるようにすれば、探査できる範囲が広がるし、効率も安全性も上がる。

地上ではすでに自動運転で何百キロも走っているから、火星でできないはずはない。もちろん火星では故障してもJAFは来ないですが(笑)。故障した時点でローバーは死んでしまうから、テストを重ねて絶対大丈夫と実証する必要がある。だから地上の技術が宇宙で使われるのは10年以上後になるのです」

大きな目標を掲げ、飛び込んだJPL。実際に仕事をして見えてきた現実について「カフカの小説『城』の主人公の状況に似ている」と表現する。

「目の前に城が見えるのに、どんなに歩いてもたどり着かない。JPLでは面白いプロジェクトはいっぱいあるし、やりたいアイデアもいっぱいある。でも、実現までの道のりが長いのを実感しています」

なぜ、道のりは長くなるのか? その背景には2つの考え方がある。

「探査を広げるため、新しい技術を生み出そうとしているのは間違いありません。でも開発の現場は違う。目先のミッションは絶対に成功させる必要がある。そのためには新技術を取り入れてリスクを取るより、すでに実証された技術を使いたい。どちらの考え方も正しくて、常にせめぎ合っています」

では、火星ローバー『キュリオシティ』の着陸で新技術の吊り下げ方式が使われたのはなぜなのか?

「JPLは目的を先に決めて、使う技術を最適化するトップダウン方式を採ります。『キュリオシティ』の着陸で新技術が使われたのは、過去最大のローバーを着陸させるための最適解と判断されたからです」

目的を達成するための最適解となる技術――ここに新しい技術を使ってもらうための道筋があると、小野氏は見ているようだ。

道のりは遠いが、「JPLの泳ぎ方が分かり面白くなってきた」と笑う小野氏。宇宙探査の限界を自分の手で押し広げて、新しいことを知りたい。まずは『マーズ2020』でローバーを自ら開発したアルゴリズムで走らせ、信頼と実績を得ることが『城』への第一歩となるだろう。

取材・文/林 公代 写真/本人提供




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