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EdTech界の異端『アオイゼミ』が描く、教育格差是正までのシナリオ【連載:NEOジェネ!】

タグ : EdTech, アオイゼミ, 伊井済史, 吉田麗央, 教育, 田中優, 石井貴基 公開

 
世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回話を聞いたのは、インターネットで学習塾サービスを展開する『アオイゼミ』。近年注目が高まる「教育✕IT」サービス」だが、彼らは何を強みとし、何を目指しているのか? その戦略と今後の展開をひも解いてみよう。
(左から)システム開発チーム WEBリーダー 伊井済史氏
代表取締役 塾長 石井貴基氏
システム開発チーム iOSリーダー 吉田麗央氏
システム開発チーム Androidリーダー 田中優氏

「ITを使った教育ビジネスが熱い」

インターネットが基本的なインフラとして普及して以来、幾度となく聞いてきた感があるそんな言葉が今、着実に現実味を帯びてきている。

ベネッセコーポレーションやリクルートホールディングスなど、以前から教育事業を展開してきた企業の多くは、2011年から2012年にかけて、オンラインで講義を受けることができるサービス展開をスタート。

2013年12月16日には、ソーシャルゲームのプラットフォーマー大手のDeNAが通信教育アプリの『アプリゼミ』をリリースし、2014年4月からは、同アプリの都内公立小学校1校における1年生の教材としての本格導入が決まった。

ほかにも、学研ホールディングスが2014年1月に教科書出版の学校図書と組んで、電子教科書の共同開発に向けたシステムの整備を始めたり、2013年9月5日には、教科書12会社と日立ソリューションズが結束して、国内初の次世代デジタル教科書の共通プラットフォーム開発に取り組む団体『CoNETS』を発足したりと、教育とITをめぐる話題には事欠かない。

こうした状況を踏まえ、野村総合研究所では、2012年730億円だったITを使った教育ビジネスの市場規模が、20年後には3222億円にふくらむと試算しているという(日本経済新聞 2014/2/22速報より)。

そんな名だたる大手企業が「教育✕IT」事業に参戦する“EdTech戦国時代”において、主力メンバー10名ほどの小チームで、オンライン学習塾サービスを展開し、奮闘しているスタートアップがある。2012年6月にサービスローンチした『アオイゼミ』だ。

「みんなと楽しく、ネットで勉強」をコンセプトに、中学生向けの学習コンテンツを配信する同サービス。毎週月曜日から木曜日に配信されるライブストリーミング授業は、iOS、Android、PC画面から無料で受講することが可能なほか、有料会員になれば授業動画のアーカイブも見放題だ。

2013年12月27日には、日本ベンチャーキャピタル、および個人投資家1名を割当先とする総額4000万円の第三者割当増資を実施。さらなるサービスの拡充に弾みをつける、EdTech企業の要注目株である。

アイデアの出発点:フリーミアムのネット塾なら大手の牙城を崩せる

きっかけは、「一般家庭における教育費用負担の重さ」を痛感したことだった。

異業種から、アイデアひとつで上京し、起業したという石井氏

「実はわたしの前職は生命保険会社のファイナンシャルプランナー。いろんな家庭の家計の相談にのる中、『子どもを塾や予備校に通わせるのが大変だ』という切実な声をよく聞いていたんです」(石井貴基氏)

そうした教育を取り巻く状況を変えなければならないと感じた石井氏。同様の思いを持つ生命保険会社の営業仲間たちと話す中で、現在の『アオイゼミ』に通じる、「インターネットを使った安価な教育サービス」のアイデアは生まれた。

「アイデアができたら、いても立ってもいられなくなり、営業仲間2人共々会社を辞め、2012年2月に札幌から東京に上京してきました。コネもなければお金もない。本当にアイデアしかない状態でしたね(笑)」(石井氏)

しかも、石井氏を含め上京してきた3人は皆、開発経験ゼロ。当時は「ベンチャーキャピタル」、「スタートアップ」という言葉が何を意味するのかさえ知らなかったという。

「ただ、わたしたちには勝算があった。今までリアルで塾事業を行ってきた大手教育企業がインターネットを活用した教育事業を始めようとしても、フリーミアムモデルでネット塾を始めれば、自社の主力商品である既存塾の生徒とカニバってしまいます。でも、最初からフリーミアムを念頭に作るのであれば、そんな心配は無用。その点に自信があったからこそ、東京まで挑戦に来たんです」(石井氏)

開発のポイント:ストレスなくやりとりできる直感的なUIとスピード

まずは構想ありきでスタートした『アオイゼミ』の開発。開発者がいなかったため、当初は外部のeラーニング業者に発注していたものの、早々に自社開発にシフトチェンジした。

「eラーニングはコミュニケーションサービスではない」と感じたのがその理由だ。

「本来、学習とコミュニケーションは相性が良いもの。先生が一方的に話す授業なんて眠いだけですよね。生徒がオンラインの授業を見ながら質問し、それに対して先生が答えるだけで、コミュニケーションが生まれるし、生徒の承認欲求も満たされる。そんな『ラジオのハガキ』のようなインタラクティブな仕組みは、eラーニングベースでは難しかったんです」(石井氏)

このインタラクティブ性を左右するのが、リアルタイム性とUIだ。

「ブラウザやスマホ画面でいかにタイムラグなく視聴できるか、見ながらコメントを送ったり、授業用テキストを見返したりすることにストレスを感じないか。そういった点を日々改善しています」(吉田麗央氏)

例えば、『アオイゼミ』でよく使われている機能の一つに「スタンプ機能」がある。コメント欄下には「できた!」、「わかった!」、「かんぺき!」、「わかんない~」と書かれたイラストがあり、それを選択すればコメント欄に表示される仕組みだ。

非常にシンプルな機能だが、コメント入力の手間が省ける分、よりリアルタイムでのやりとりが可能になり、イラストがあるとないとでは講師と生徒の間、生徒同士の間のコミュニケーション密度が段違いに変化する。

「UIに関していえば、勉強結果を示すグラフの出方、動画からテキストへの切り替わり方など、見ているだけでちょっと楽しいような動き—よく社内では『手触り感』、『ニュッと感』と表現していますが—を重視しています。説明なしで使い方を知ってもらうには、興味をもって触ってもらうのが一番。そのためには、触るのが楽しいUIが不可欠なんです」(石井氏)

また同サービスでは、動画配信環境もすべて自社内で用意している。

未知の技術に対しても、積極的に吸収する姿勢を見せる田中氏

「動画配信用のサーバには、AWSを使っています。最初はUstを利用してたんですが、UstはAndroidに対応しておらず……。Androidアプリの開発に伴い、イチからライブ配信を勉強してAWSにサーバ環境を構築しました。あれはハードだった(笑)」(田中優氏)

「僕は主にクライアントサイドを担当しているので、見た目も動きも、ユーザーが使っていて楽しいものにしたいですね。あと、個人的に開発で心掛けているのが『拡張性』。開発していると、突然石井さんからムチャぶりされることがよくあるので、どんな要望がきても対応できるよう、先々の変更を想定した拡張性をテーブル設計時に盛り込んでいます。

これって意外と、スタートアップに携わるエンジニアに大事な心掛けかもしれません。同じようなトップが多そうなので(笑)」(伊井済史氏)

Webスタートアップに競合ナシ。むしろ既存の塾に革新を

冒頭で紹介したような大手企業がEdTech事業に参入しているのと平行して、スタートアップに関しても、「教育✕IT」を軸に展開するサービスが増えてきている。

日本発でいえば、大学生が受験科目を教えてくれる『manavee』や、社会人向けに教育コンテンツを提供する『schoo』などが有名だが、そういったEdTech系スタートアップとはどのような形で差別化を図るのだろうか?

「そもそもターゲットが違うんですが、それ以前に目指しているところがまったく違うので、もともと競合しないんです。ほかのサービスはみんな、各ジャンルにおけるプラットフォーマーになることを目論んでいる。だから、自分たちでシステムは作っても、コンテンツそのものは開発していないんですよ」(石井氏)

『manavee』にせよ『schoo』にせよ、コンテンツの「プロデュース」は行っており、それを「コンテンツ開発」と呼ぶこともできるだろう。

しかし、コンテンツ内容は講師自身に委ねられているところが大きい。対して『アオイゼミ』は、授業で使用するテキストからカリキュラムまで、すべて自社によるオリジナルであり、講師も自社で雇用している専属だ。

「わたしたちのミッションは、生徒の成績を上げること。そのバリューを第一に考えた時、システムとコンテンツが確実に連動している必要があります。例えば、四択の問題(コンテンツ)が必要な場合、それをシステム側で実装しておかなくてはならない。大変ですが、やるだけの意味はあります」(石井氏)

マネタイズに関しても、両者を取り巻く状況はかなり異なるようだ。

『manavee』の場合、NPOという形をとっており、コンテンツ視聴は完全に無料で、諸経費は運営者の手持ち資金でまかなわれている。『schoo』は『アオイゼミ』同様、フリーミアムなモデルで有料会員を募っているものの、一人あたり525円/月と価格が低い。

一方、『アオイゼミ』は一人あたり5000円/月(2014年2月現在の価格。受講教科数や視聴可能メディア数によって変動あり)、と、Webサービスにしてはかなり強気な料金設定だ。

「月5000円という料金は、Webサービスにしては高いかもしれません。しかし、その価格でリアルな塾と同様のサービスを受けられるのであれば破格の安値。既存の塾では1度授業を受ければそれきりですが、アオイゼミでは配信されたライブ授業が授業動画として 残るため、いつでも繰り返し反復学習をすることができます。アオイゼミにはすでに3学年分の授業動画がそろっていますので、中学範囲の全単元 の予習や復習が可能です。その点を考えると、既存の学習塾事業者たちにとって、わたしたちの存在はきっと脅威と映るでしょう」(石井氏)

日本のEdTech界を代表するサービスになるべく、日々サービスを成長させている開発チーム

現在β版である生徒用SNSの正式リリースや、アプリの大幅アップデート、親用のアプリのリリースなど、近日中に大きくサービス内容を向上させる予定だという『アオイゼミ』。彼らが目指すのは、「地方と都市、所得格差による教育の格差を是正」(石井氏)だ。

既存のサービスを塗り替えるこうしたサービスこそ、真の意味でのイノベーションを起こす可能性を秘めているのだろう。

取材・文/桜井祐(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴

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